ミャンマー北部カチン州からクズウコン科の新属 Myanmaranthus Nob.Tanaka, Suksathan & K.Armstr. およびそのタイプ種M. roseiflorus Nob.Tanaka & K.Armstr. を記載した.アジアの他属との類縁関係について形態を主として,葉緑体および核DNA の塩基配列に基づく系統解析から推定した.Myanmaranthus属は,最も近縁と考えられるPhrynium 属から,無茎で根出葉のみから成 ること,根茎から出る,花がまばらにつく円錐花序をもつこと,interphylls と小苞を欠くこと,花序の苞が桃赤色の花1 個のみを抱くことなどで区別される.同属を含むアジアのクズウコン科の属検索表も与えた.本種はこれまでのところ,基準産地からしか知られていない.
インド産Jurinea属(キク科アザミ連)の再検討に当たり,Jurinea属の下に置かれるべき4種 Aplotaxis albescens DC.,A. auriculata DC.,Saussurea chenopodiifolia Klatt とS. decurrens Hemsl. のレクトタイプ指定を行った.
インド産イネ科植物のうちで,Poa tremula Stapf は P. tremula Lam.の後続同名となるため,新名P. stapfiana Borが,また変種P. tremula Stapf var. micranthera Stapf には新組合せPoa stapfiana Bor var. micranthera (Stapf.) Borが提案されている.本論文は,このPoa tremula Stapf とP. tremula var. micranthera Stapfについてレクトタイ プを指定した.
ベンケイソウ科マンネングサ属メノマンネングサSedum japonicum Siebold ex Miq. は4 亜種と1 変種からなり,東アジアに広く分布するとされていた (Ohba 2001).先行研究の分子系統解析および形態比較から,九州南部から琉球列島にかけて分布するコゴメマンネングサS. japonicum subsp. uniflorum H.Ohbaと小笠原諸島特産のムニンタイトゴメS. japonicum subsp. boninense (Yamam. ex Tuyama) H.Ohba は,いずれもメノマンネングサの種内分類群として扱うべきではないことが示唆された.そのため,それぞれ独立種としてS. uniflorum Hook. & Arn. およびS. boninense Yamam. ex Tuyama の学名が適用されていたが (Ito et al. 2020),S. uniflorum Hook. & Arn. は非合法名(後続同名)であり,使用することはできない.そこで本研究ではIto et al. (2020)でS. uniflorumの唯一の異名とされているS. sasakii Hayata が正名となりうるかどうか検証した.その結果,S. sasakii は,S. japonicum subsp. oryzifolium (Makino) H.Ohbaの異名であることが判明し,コゴメマンネングサの正名となるべき学名が存在しないことがわかった.そこで本報告では,S. uniflorum Hook. & Arn.の置換名として,Sedum ryukyuense Takuro Ito を提唱した.
地衣生菌の一種 Spirographa pyramidalis (Etayo) Flakus, Etayo & Miadl.(スピログラファ科) が,広島県で採集されたウメノキゴケ科地衣類の Menegazzia terebrata (センシゴケ)の標本から確認された.本種の分生子果は宿主地衣体に埋没し,褐色で直径70–90 µm.分生子果壁は黄褐色の異形菌糸組織で構成される.分生子形成細胞や分生子柄は透明で不明瞭.分生子は透明で四面体, 内部に油滴があり,長辺と短辺は (3.9–)4.3–4.9(–5.2) × (2.6–)2.9–3.5(–4.1) µm であった.Spirographa 属は強い宿主特異性があるとされており,S. pyramidalis は南米で同じウメノキゴケ科のHypotrachyna(ゴンゲンゴケ属)とRemototrachyna に寄生することが知られていたが,日本産は異なる宿主であった.
国内において北海道の道央と道東の数ヶ所から記録されていたヌマカタウロコゴケMylia anomala(Hook.) Gray(カタウロコゴケ 科)を群馬県尾瀬ヶ原で確認した.本種はミズゴケ湿原や泥炭地に生育することが知られているが,尾瀬ヶ原においてもミズゴケ類の上に生育していた.国内産のカタウロコゴケ属には本種の他,カタウロコゴケ,イボカタウロコゴケ,ナメリカタウロコゴケの3 種があるが,ヌマカタウロコゴケは葉細胞表面が平滑であることと円形の葉と先端に無性芽をつける卵形~披針形の葉の二形の葉を持つことなどの特徴で区別される.
ヤツガタケシノブCryptogramma stelleri(S.G.Gmel.) Prantl(イノモトソウ科)が北海道で初めて記録された.同種は,日高山脈北部二岐岳(日高町)において石灰岩壁基部で日陰となる湿った岩上に生育していた.
静岡県伊東市から本州新産となるアリモリソウCodonacanthus pauciflorus(キツネノマゴ科)を報告した.周辺の植物調査において過去の分布記録が無いことから,本種は比較的最近定着したものと考えられる.
セントウソウ属Chamaele Miq.(セリ科)をエゾボウフウ属Aegopodium L. に含めたZakharova et al. (2012) の説を採り,セントウソウの学名をAegopodium decumbens (Thunb.) Pimenov & Zakharovaに改めた.また,これまでに記録されているセントウソウの種内分類群の中からオオギバセントウソウとヒナセントウソウを独立の品種として認め,それぞれA. decumbens f. flabellifoliolatum(Y.Kimura) H.Ohashi & K.Ohashiとf. gracillimum(H.Wolff) H.Ohashi & K.Ohashi の新組み合わせを発表した.また,その他の種内分類群,ミヤマ,ヤクシマ,イブキの各セントウソウをセントウソウの異名とみなした.
ミズバショウ属の地下茎の構造はRosendahl (1911)によって詳しく調べられており,2葉継軸仮軸成長により形成されることが正しく観察されている.しかし,その観察は北米産のアメリカミズバショウLysichiton americanus Hultén & H.St.John に基づいており,アジア産のミズバショウL. camtschatcensis (L.) Schott とは異なる可能性がある.また,2 葉継軸の第1 葉(下位の葉)の腋芽の 動向については不明としている.そこで本研究では日本産のミズバショウについて,特に不明とされていた腋芽の成長を確かめ,その腋芽が成長する際にまず節間が長いストロンを形成し,その先に主根茎と同様の子根茎をつくることを明らかにした.主根茎は地下20–30 cm の泥中にあり,しかも太い根に密に覆われているので,ストロンにより子根茎を主根茎から離して持ち上げることにより,その葉が空中に出て光合成を行うことを助けているものと考えられる.
エゾヤママンテマ Silene harae Nakaiは,1931年に層雲峡で採集された標本に基づいて記載されたナデシコ科の多年草である(Nakai 1932a).しかし,タイプ標本が採集されて以降,新たな標本が採集されなかったこと,1960年代に外来種である可能性が指摘されたことなどから,近年の主要な文献には登場しない.筆者らは,2020年にタイプ産地とほぼ同じ場所でエゾヤママンテマを再発見した.エゾヤママンテマが生育していた場所は,人里離れた急峻な崖と狭い谷間にあり人的攪乱を受けておらず,周囲に外来種は見られなかった.したがって,エゾヤママンテマは帰化種ではなく在来種と考えられる.エゾヤママンテマは今のところ層雲峡のみに分布するが,壷型の萼筒をもつこと,ロゼット状の葉を付ける栄養シュートと繁殖シュートの二型性が見られること,古い葉柄の基部が鱗片状とならないことなどの形態的特徴 はトカチビランジ S. tokachiensis Kadota と類似して り,今後さらに分類学的検討が必要と考える.
大雪山系の忠別岳と朝陽山において北海道新産の広義タカネタチイチゴツナギ(イネ科)を確認した.特に忠別岳産標本は形態変異に富んでいたが,朝陽山産標本を含め,広義のPoa glauca に同定した.
タテヤマイワブキMicranthes nelsoniana (D.Don) Small var. tateyamensis (H.Ohba) S.Akiyama & H.Ohbaの染色体数は2n=99–104 と推定された.この数は,広義シベリアイワブキM. nelsoniana (D.Don) Small の中で最大であり,利尻山 (2n=50),大雪山 (2n=80) のチシマイワブキvar. reniformis (Ohwi) S.Akiyama & H.Ohbaの染色体数とも異なっていた.細胞学的な特異性に加え,タテヤマイワブキの個体数は少なく且つ減少していると推定されることから,保全のための現状調査が必要である.
ウコギ科のタラノキ属Araliaは東亜─北米型の分布パターンを示す植物として知られ,約65 種からなる.ネパールにはこれまで,A. cachemirica Decne. 1 種が報告されているのみであった.しかし,2020年に中部ネパールにおいてタラノキA. elata (Miq.) Seem. が得られた.これはネパールでの初めての記録となる.