タイ北東部のChangwat Bueng Kan から,ショウガ科の1 新種Caulokaempferia buengkanensis Picheans., Phokham & Wongsuwan を報告した.本稿では,この新種を記載・図示するとともに,タイ産のCaulokaempferia属全種との区別点をまとめた.
ショウガ科のGlobba 属は100 種超が知られており,熱帯アジアのモンスーン地域がその多様性の中心となっている.そのうちタイではこれまでに45 種が認められている.本稿では,新たにタイ北東部のSakhon Nakhon Province から1 新種,Globba sirirugsae Saensouk & P. Saensouk を記載した.本新種はG. barthei Gagnep. とG. bicolor Gagnep. に似るが,葉や花の形態などにより区別される.
サトイモ科テンナンショウ属の1 新亜種Arisaema barnesii C. E. C. Fisch. subsp. sheshanagae Sameer Patil をインド・カルナタカ州Kodagu distric(t 西ガーツ山脈)から記載した.本亜種は基本亜種subsp. barnesii から,仏炎苞が緑白色で,その開口部に掌状に5 裂する白斑があり,葉に銀色の毛があることで区別されるが,これまでに顧みることがなされなかった植物である.本種は南インドの熱帯山地林shola forest に沿って生え,絶滅危惧植物とみなされる.
著者のひとり山口は,2009 年に東京都羽村市の多摩川沿い崖下(35°46 ′ 19 ″ N 139°17 ′ 46 ″ E, alt. 138 m) において,シバヤナギとオノエヤナギとの交雑種と推定される低木を発見した.周辺はシバヤナギの群落地で,樹形や枝ぶりはシバヤナギによく似るが,成葉の表面主脈と側脈は凹入して裏面に細脈までが突出し,新葉は縁が裏側に強く巻きこむなど,オノエヤナギが持つ葉の特徴をよく示していた.2014 年に挿枝を採り以後八王子市の吉山雑種柳観察園で育成し,5 年後の2019 年には高さ4.5m の中低木となり多数の花序をつけた.樹形,葉や花の形質,胚珠数や木部に隆起条があるなど,本個体が示す多くの形質からシバヤナギとオノエヤナギとの交雑個体であると結論した.この雑種は杉本順一が静岡県植物誌(1984) に「Salix sachalinensis × japonica シバオノエヤナギ(新称)間種(シバヤナギ×オノエヤナギ)」として記録したものと多分同じと思われるが,雑種式だけで記載がない.また,山口(2016) と吉山・茂木(2019) も「シバオノエヤナギ」として記録している.そこで我々は東京産の標本をタイプとして学名と記載をつけ,ここに発表した.
カムチャツカナニワズDaphne kamtschatica Maxim.(ジンチョウゲ科)を北海道東部の斜里町で確認した.本種はロシアのカムチャツカ地方に固有とされていたので,これは日本新産の報告となり,北海道は本種の分布南限に当たる.カムチャツカナニワズは白い花をつけ,長い地下茎を伸ばして栄養繁殖することに特徴があり,落葉樹林の林床に生育していた.
香川県丸亀市で見つかった南方系の絶滅危惧種アカヒゲガヤHeteropogon contortus (L.) P. Beauv. ex Roem. & Schult. について,生育地の状況並びに種子発芽能力について報告する.本種は,多年生のイネ科植物で,これまで沖縄県にわずかに生育するのみとされ,同県の絶滅危惧IA 類(CR) にも指定されている.本種の香川県における産地は,丸亀市の城山中腹で,尾根にある開けた乾燥地にのみ生育していた.同地の土壌は風化の進んだ凝灰角礫岩であり,雨水の浸透性が悪いため,降雨後も直ちに乾燥し,土壌が形成され難い事から,植物の生育には厳しい地質である.生育環境が極めて特異で植生に乏しい場所であることや,ごく限られた出穂期以外は他種との識別が困難であることから,各地の植物相調査などでも見過ごされてきている可能性が否定できない.生物相の調査にあたっては,更なる注意が必要と思われる.また,発芽試験により,本種の種子は高い発芽能力を有し,発芽後一年以内に開花結実することも明らかとなった.
キョウチクトウ科サクララン属の1種,Hoya polyneura Hook. f. をネパールから初めて記録した.産地は中部のKathmandu Districtと東部のSankhuwa Sabha Districtである.サクララン属は350–400 種ほどが知られ,ネパールには本種を加えて合計8 種となる.