実験社会心理学研究
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44 巻, 2 号
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原著論文
  • 高口 央, 坂田 桐子, 黒川 正流
    2005 年 44 巻 2 号 p. 83-97
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/18
    ジャーナル フリー
    本研究では,企業組織において調査を実施し,職場集団内の2名のリーダーによるリーダーシップ機能の分担を吟味するとともに,リーダーが複数存在することと,所属従業員のモラール,帰属意識,およびストレスとの関連を検討した。日常業務に関わる複雑さの認知,集団サイズ,また支社の部署数を状況の複雑性として取り上げた。各集団の2人のリーダーのうち,1人は職制上の管理者(係長,もしくは班長),もう1人は各部署に一名配置されている組合委員とした。有効回答者数8,758名のうち,管理職,組合委員,および出向者を除外した788部署の5,670名(男性4,793名,女性805名,不明72名)を分析対象とした。分担の形態を吟味した結果,管理監督者のみが統合型であるよりも管理監督者と組合委員の2人がともに統合型である部署が多く存在することが確認できた。効果性について,2名がともに統合型である部署が,管理監督者のみが統合型である単独統合型と同等以上の成果を得ていることが示唆された。加えて,状況の複雑性が高い場合に,複数リーダーの有効性が示された。
  • 松﨑 友世, 本間 道子
    2005 年 44 巻 2 号 p. 98-108
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/18
    ジャーナル フリー
    本研究では社会的アイデンティティ理論から,地位の低い集団がネガティブな社会的アイデンティティ(SI)におかれた状況で,ポジティブなSIを獲得しようと試みる方略である社会的創造の新しい次元比較方略に注目し,低地位集団のSIの変容を検討した。今回,低地位集団に関連する次元を加え,低地位集団のネガティブなSIがポジティブなSIに変化するか,他の次元との比較により検討を行った。実験では集団地位,比較次元を独立変数,課題の内集団・外集団評価差を従属変数とした。その結果,低地位集団は高地位有利次元群で外集団ひいき,中立次元群では両集団評価に差はなく,低地位有利次元群では内集団を外集団よりも高く評価したが統計的に有意ではなかった。ただ低地位有利次元群と中立次元群間で差が認められ,低地位有利次元群で内集団評価がもっとも高くSIがポジティブ方向を示していた。一方,高地位集団では,高地位有利次元群,中立次元群において内集団ひいきを示し従来の知見と一致する結果を示した。低地位有利次元群において,両集団評価に差はみられなかった。本研究では,得られた知見を社会的アイデンティティ理論から仮説に基づいて検討した。
  • 坂田 桐子, 藤本 光平, 高口 央
    2005 年 44 巻 2 号 p. 109-121
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/18
    ジャーナル フリー
    本研究では,リーダーの影響力の「強さ」と「範囲」に及ぼす集団プロトタイプ性の効果について検討した。仮説は次の通りである。(1)集団同一視の高い参加者群において,集団プロトタイプ性の高いリーダーの方が低いリーダーより承認されるであろう。(2)高プロトタイプ・リーダーの影響力が,ある外集団との比較による脱個人化された社会的魅力に由来することを考慮すると,高プロトタイプ・リーダーが低プロトタイプ・リーダーの影響力を上回るのは,その外集団と関連する課題に従事する場合だけであろう。ただし,外集団関連課題における高プロトタイプ・リーダーの影響力は,たとえフォロワーの意向に沿わない指示であっても応諾させるほど強いであろう。
    実験参加者124名に他集団との対立状況を描いたシナリオを呈示し,質問紙への回答を求めた。その結果,直接的な応諾度指標ではなく,間接的な応諾度指標について,仮説は概ね支持された。本研究の結果の一部は,社会的アイデンティティ理論や自己カテゴリー化理論の視座からの予測とは必ずしも一致しないものであった。最後に,本研究の知見の解釈,本研究の限界,および今後の課題について考察した。
  • 東村 知子
    2005 年 44 巻 2 号 p. 122-144
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/18
    ジャーナル フリー
    本研究では,就学前障害児の通園施設において,卒園児の親が自らの語る「物語」を通して,通園児の親を支援するという試みを行った。具体的には,かつて施設に在籍した子どもの母親のメッセージを,現在通園している親に伝えることによって通園児の親に対して心理的な支援を行い,世代を超えた親同士のネットワークを作り出すことを目指した。第1部では,この試みを行った背景として,長期にわたるフィールドワークをもとに,障害児をもつ親の抱える問題を通園開始から卒園まで時間軸に沿って詳述し,施設における支援の意義と課題を明らかにした。第2部では,やまだ(2000a)のライフストーリー論にもとづいて筆者が行った具体的な試みについて考察した。その際,物語の「内容」に着目するのではなく,語られた物語と「物語る―聴く」という相互行為が,語り手である卒園児の親と聞き手である通園児の親,および両者の関係性に対してもつ意義に焦点をあてて分析を行った。その結果,語られた物語が,語り手と聞き手の間での行き来を通して,両者にとって自らを映し出す「鏡」のような役割を果たしていること,そのように他者を通して自らの姿を見つめることが,親が障害のあるわが子をしっかりと受けとめ,自信をもって育てていくために必要なプロセスであることを見出した。さらに,通園施設におけるこうした試みを,障害児を育てる親のネットワークづくりのプロセスとして位置づけた。
資料論文
  • 池田 浩, 古川 久敬
    2005 年 44 巻 2 号 p. 145-156
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/18
    ジャーナル フリー
    本研究では,リーダー行動に関わる自信を検討した。リーダーの自信を「リーダーとして必要とされる役割行動を確実に実行できると考える度合い」と定義し,それを測定するための測度を開発した。企業組織の管理者170名から得られた回答をもとに因子分析を施した結果,「他者との関係性領域」に関する自信因子(“メンバーの育成支援”,“メンバーとの関係構築”,“組織内外からの支援取り付け”)と「課題遂行領域」に関する自信因子(“メンバーへの権限委譲”,“問題対処行動”,“職場内での目標設定”,“革新行動”)の合計7因子が確認された。また,これらの各因子は十分な信頼性と適切な基準関連妥当性を持つことが明らかになった。最後に,高い自信を有するリーダーのマネジメント志向性について検討した。
  • 谷口 弘一, 浦 光博
    2005 年 44 巻 2 号 p. 157-164
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/18
    ジャーナル フリー
    本研究は,親子関係の内的ワーキングモデルと友人関係に対する認知が友人関係におけるサポート授受に及ぼす影響について縦断的に検討を行った。242名の高校生が調査に参加し,親の養育態度,親子関係と友人関係の特質,並びに友人関係におけるサポート授受を測定する尺度に回答した。親の養育態度と親子関係の特質が親子関係の内的ワーキングモデルの指標として,友人関係の特質が友人関係に対する認知の指標としてそれぞれ用いられた。調査は,1学期と3学期の2回に渡って実施された。共分散構造分析の結果,関係の初期段階では,親子関係の内的ワーキングモデルと友人関係に対する認知の両方が,友人とのサポート授受に対して直接的な影響を与えていた。一方,関係が長期的になった段階では,親子関係の内的ワーキングモデルの直接的影響は消失し,友人関係に対する認知のみが友人とのサポート授受に直接的な影響を与えていた。
展望論文
  • 脇本 竜太郎
    2005 年 44 巻 2 号 p. 165-179
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/18
    ジャーナル フリー
    人間の社会的行動は,自尊心への欲求から説明されることが多かった。しかしながら,その自尊心への欲求自体が,“なぜ”人間にとって重要なのかは実証的に検討されてこなかった。この“なぜ自尊心の欲求が重要なのか”という問に存在脅威(死の不可避性の認識に基づく脅威)の緩衝という観点から答え,人間の社会的行動を包括的に説明する枠組みたるべくして登場したのが存在脅威管理理論である。本稿では,まず存在脅威管理理論の概要について紹介する。次に,既存の研究を概観し,存在脅威管理理論がもたらした成果と,個々の社会的行動の実証的検討における課題について述べる。最後に,近年報告されている存在脅威管理方略の差異に関する知見を紹介し,そのような文化内・文化間差を存在脅威管理理論がいかに捉え,組み込んでいくべきかについて展望を述べる。
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