日本腎臓病薬物療法学会誌
Online ISSN : 2189-8014
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最新号
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総説
  • 早川 兼司, 小林 豊, 近藤 悠希, 磯野 哲一郎, 井上 彰夫, 津下 遥香, 藤山 信弘, 増田 展利, 森住 誠, 矢羽羽 雅行, ...
    2025 年14 巻2 号 p. 171-184
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/03
    ジャーナル 認証あり

    安全で有効な薬物療法を提供するためには、腎機能に応じた適切な処方監査が重要であり、腎機能を簡便に把握できるツールとしてCKDシールが活用されている。日本腎臓病薬物療法学会CKDシール普及推進ワーキンググループによる調査では、62の地域でCKDシールを確認した。運用規模は都道府県全域で展開されるものから単一施設で実施されるものまで多岐にわたっていた。地方公共団体、医師会、薬剤師会など多数の組織が運用に関与しており、CKDシールは単なるツールではなく、事業としての位置付けが妥当と考えられる。

    多くの地域で薬剤師による医薬品の適正使用をCKDシールの主目的にしていたが、かかりつけ医との情報共有や患者の行動変容を目的にする地域も存在した。貼付基準のeGFRは早期介入や医療資源の効率的配分など運用地域の目的に応じて設定された可能性があり、段階的な貼り替え形式やeGFR を記入する形式も確認された。貼付者は医師と薬剤師が中心職種だったが、看護師や保健師、歯科医師、地方公共団体の職員が貼付者の地域も見られた。さらに、貼付者を腎専門医や病院薬剤師に限定して正確性を重視する地域や普及促進のため運用開始後に貼付者の職種を拡大した地域が確認された。デザイン面では、情報共有者に応じた盤面記載事項の工夫が見られ、CKD患者に直接的なメッセージを記載する地域も存在した。

    CKDシールの課題として、普及が進まず地域内で貼付枚数に局地的な偏りが生じていることや、複数のCKDシールが同一地域もしくは近隣地域にあることがあげられた。また、CKDシールの先行地域からは、CKDシールを契機とした疑義照会の増加や薬剤性腎障害による入院の減少などの報告があった。一方で、透析導入者数の減少やeGFRスロープの改善などハードエンドポイントの報告は確認できず、今後の成果報告が望まれる。

原著
  • 大東 真理子, 浦嶋 和也, 山本 和宏, 林 八恵子, 浦田 元樹, 西口 工司, 辻本 雅之
    2025 年14 巻2 号 p. 185-196
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/03
    ジャーナル 認証あり

    末期CKD患者が腎代替療法の選択肢を理解・納得して選択することは重要となっているが、95%が血液透析を選択している現状がある。一方、血液透析患者の増加に対して、各学協会が認定制度を立ち上げている。しかしながら、これらの認定資格取得の有無が、腎代替療法の選択への適切な関わりに違いをもたらすかが明確でない。そこで、これらの違いを明らかにするために、腎移植についての意識・知識を認定資格の有無により比較した。

    2020年12月1日~2023年8月23日に関西腎と薬剤研究会の会員に登録した607名を対象とした。腎代替療法に関する意識及び腎代替療法の選択に必要な腎移植に関する知識を確認した後、短時間の動画にて固定観念の危険性や腎移植に関する知識の必要性を確認し、再度意識調査を実施した。

    認定資格を有する薬剤師は、有さない薬剤師と比較して、移植後の妊娠・出産、ドナー条件、血液型不適合に関して理解度が有意に高かった。一方で、服薬指導時において「透析にならないように」という言葉の使用、腎代替療法選択に必要なドナーの保険・献腎登録の優先提供意思表示の知識、臓器提供意思表示率は、両群間で有意差を認めなかった。認定資格を有さない薬剤師は、動画視聴により有意に学習の必要性の認識が高まり、腎代替療法は血液透析という固定観念は減少した。認定資格を有する薬剤師は、動画視聴後において、「透析にならないように」という言葉を今後使用しないという意志が、認定資格を有さない薬剤師よりも有意に低かった。

    認定資格を有さない薬剤師は、短時間の動画視聴が有効であった。対するに、認定資格を有する薬剤師は、知識・職務として腎代替療法の選択について理解を有しているものの、「選択に正しくかかわる」ことに関して、十分に意識できていない可能性が伺えた。

  • 持田 知志, 平島 麻由美, 山口 利夫, 齊藤 幹央
    2025 年14 巻2 号 p. 197-205
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/03
    ジャーナル 認証あり

    SGLT2阻害薬は、糖尿病や慢性腎臓病のみならず心不全治療に必要不可欠な薬剤となっており、その処方数は増加の一途を辿っている。一方、SGLT2阻害薬は、投与初期においてinitial dipが誘発されることが知られており、複数の関連学会から注意喚起がなされている。しかし、その詳細は未だ不明瞭な点が多い。そこで、心不全患者におけるSGLT2阻害薬のinitial dip誘発に関連するリスク因子について多角的な視点で検討し解析を試みた。対象は、2020年12月1日から2023年9月30日までの期間(2年10か月間)に、当院よりSGLT2阻害薬(DAPAもしくはEMPA)が投与開始となった心不全患者とし、電子カルテを用いて後方視的に調査した。解析対象は184名であり、initial dipによるeGFR変化率(%)に関連するリスク因子の検討においてeGFR(β:0.317,p< 0.001)およびループ利尿薬(β:-0.227,p= 0.001)に有意差を認めた。本研究より、心不全患者におけるSGLT2阻害薬のinitial dipは、eGFRおよびループ利尿薬がその変化率に対する独立したリスク因子である可能性が示唆された。心不全患者は腎機能低下例とループ利尿薬の使用例が多いことから、SGLT2阻害薬のinitial dipは、より高度に発生することが推測されるため、実臨床では薬剤師による副作用マネジメトが重要であり、SGLT2阻害薬の長期的な有用性を担保するための薬学的アプローチが求められると考えられた。

短報
  • 橋本 湖澄, 古久保 拓, 吉田 拓弥, 三宅 瑞穂, 小田 智子, 藤田 千佳, 和泉 智, 庄司 繁市, 山川 智之
    2025 年14 巻2 号 p. 207-213
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/03
    ジャーナル 認証あり

    透析患者は亜鉛欠乏に陥りやすい一方で、過剰な亜鉛補給による銅欠乏は貧血を含む血球減少の原因となる。今回、銅欠乏リスクの観点から、透析患者における適正な亜鉛投与量についての評価を行った。

    亜鉛補給を目的に酢酸亜鉛水和物(ノベルジン®錠)を新規に開始し、血清亜鉛および血清銅濃度の評価が可能であった血液透析患者10名を対象とし、治療開始後の血清亜鉛濃度および血清銅濃度を最長1年間調査した。

    酢酸亜鉛水和物の1日投与量は25 mgと50 mgが各5名であった。酢酸亜鉛水和物開始前後において血清亜鉛濃度は58[45 – 84]μg/dLから114 [46 – 155]μg/dLとなり、血清銅濃度は83[58 – 121]μg/dLから91[8 – 113]μg/dLとなった(N=10,中央値[最小値 – 最大値])。酢酸亜鉛の投与量別の評価では、血清亜鉛濃度は25 mg/日群で106.5[87.0 – 126.0]µg/dL,50 mg/日群で114.0[46.0 – 155.0]µg/dLとなった。酢酸亜鉛水和物開始1年以内に、25 mg/日群で1名、50 mg/日群で5名全例が投与を中止されていた。酢酸亜鉛開始後、血清銅濃度は25 mg/日群で103.0[91.0 – 113.0]µg/dL 、50 mg/日群で12.0[8.0 – 92.0]µg/dLとなり、血清銅濃度低下による投与の中止は、50 mg/日群で4名認めたが、25 mg/日群では認めなかった。50 mg/日群での血清銅濃度の低下は最短で投与開始から3カ月後に認められた。50 mg/日群のうち1名は、銅欠乏症と血球減少との関連が疑われたため9か月後に投与を中止され、その後改善した。

    以上、銅欠乏リスクの観点から透析患者に対し酢酸亜鉛水和物を50 mg/日以上で開始する場合は、少なくとも3カ月以内での血清銅濃度のモニターを要すると考えられた。また、25 mg/日によっても亜鉛補充効果は得られたため、低用量からの開始は合理的であると考えられる。

症例報告
  • 相楽 勇人, 藤原 崇史, 佐々木 勇人, 進藤 吉明, 田中 雄一
    2025 年14 巻2 号 p. 215-219
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/03
    ジャーナル 認証あり

    ベバシズマブ(BEV)やラムシルマブ(RAM)を代表とする血管新生阻害薬の代表的な有害事象として蛋白尿や血栓性微小血管症(TMA)がある。今回、RAMの最終投与から2週間後にBEVを投与し、重度の血小板減少を伴う全身性TMAを発症した症例を経験したため報告する。

    患者は50歳代女性。直腸癌術後肺転移再発に対してがん薬物療法を施行していた。前治療の血管新生阻害薬に起因した高血圧のため降圧薬を2剤服用していた。RAM最終投与日から2週間後の第1病日、BEV + FTD/TPI(トリフルリジン / チピラシル)療法を開始した。第15病日、BEV投与予定で来院時に数日前から下肢浮腫、腹部膨満感、体重増加(+5 kg)、高血圧を認めた。尿蛋白/クレアチニン比(UPCR)1.52 g/gCre,Plt 30,000/µLであることや、貧血、LDH高値、ハプトグロビン低値、末梢血の破砕赤血球出現などの微小血管性溶血性貧血(MAHA)の所見からBEVによる全身性TMAと診断され入院加療となった。BEVの投与中止や体液・降圧管理を行い、Scr上昇を伴うAKIは出現せず経過した。第28病日に血小板、UPCRなどは改善傾向となり、退院した。

    がん薬物療法中の血小板減少の鑑別として細胞障害性抗がん剤による骨髄抑制や発熱性好中球減少症に起因した敗血症性播種性血管内凝固症候群(DIC)などが挙げられるが、FTD/TPIによる重度の血小板減少は低頻度であることや、MAHAの所見からTMAの診断が可能であった。全身性TMAはネフローゼ症候群と同等の蛋白尿を呈しAKIの合併により重篤化することがある。被疑薬の早期中止によりAKIを回避することができた。

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