日本急性血液浄化学会雑誌
Online ISSN : 2434-219X
Print ISSN : 2185-1085
2 巻, 2 号
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総説
  • 平澤 博之
    2011 年 2 巻 2 号 p. 143-151
    発行日: 2011/12/01
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    筆者は2009年に「Severe Sepsis/Septic Shockの病態生理と急性血液浄化法によるその制御」と題する特別講演を本学会学術集会で行い,その内容を総説として本誌に発表した。その後2010年に再び本学会学術集会で「敗血症の病態生理up-to-date」と題する特別企画講演を行った。後者は前者の補遺版である。本総説は後者の内容を総説としてまとめたものである。今回新たに取り上げたトピックは病態生理に関しては,pattern recognition receptorsの新しい展開,cell deathの形式のひとつとしてのautophagyに対する解釈,経過中に新たに発症する感染症の病態生理として重要であるimmunoparalysis,自律神経系とcytokineによる炎症反応の間を繋ぐinflammatory reflexなどである。また治療に関して今回新たに言及したのは,敗血症性ショックに対する循環管理のエンドポイントとしてのlactate clearance の有用性,PMX-DHPによる治療成績に関するさらなる疑義や,敗血症の長期予後が不良であるがゆえのそれを改善する対策の必要性などである。昨年本誌に掲載された総説と同時に読んで頂き,少しでも参考になれば幸いである。

  • 海津 嘉蔵, 稲田 良郁, 阿部 雅紀, 有村 敏明, 今泉 均, 片山 浩, 金子 岩和, 小林 修三, 志賀 英敏, 織田 成人
    2011 年 2 巻 2 号 p. 152-158
    発行日: 2011/12/01
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    近年,わが国において急性血液浄化法は急速に普及してきた。しかし,全国調査がないため,現状は不明であった。日本急性血液浄化学会サーベイ委員会は2005年の全国調査を実施した。対象施設において2005年1年間に9,795例11,623の血液浄化法が実施されていた。CRRT(CHDF/CHF/HD)が65.9%を占めていた。また,適応疾患は,急性腎不全,敗血症および多臓器不全が多い事がわかった。第2回の調査では,さらに,信頼性の向上を目指し,200床以上かつICUを有する病院に限り調査を実施した。2009年で2,010例2,561の血液浄化法であった。CRRTは53.0%であった。適応疾患は,敗血症,急性腎不全,多臓器不全の順であった。生存率が最も悪いのは多臓器不全で,敗血症,急性電解質異常,重症急性膵炎,急性肝不全の順であった。今回の調査で,多臓器不全と敗血症の予後が悪く,今後の検討課題として注目された。

  • 阿部 信二
    2011 年 2 巻 2 号 p. 159-164
    発行日: 2011/12/01
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    特発性肺線維症の急性増悪を含む,急性肺障害の病理所見はびまん性肺胞傷害(diffuse alveolar damage:DAD)であるが,このDADの予後は極めて不良であり,有効な治療法は確立していない。ポリミキシンB固定化線維カラムを用いた血液浄化療法(Direct hemoperfusion with polymyxin B-immobilized fiber column:PMX-DHP)は元来,血中のエンドトキシン除去のために開発され,エンドトキシン血症に対する治療法として用いられてきた。最近の臨床研究からDADに対するPMX-DHPの有用性が報告されている。われわれは間質性肺炎の急性増悪においてPMXカラムに吸着された細胞が主に好中球であり,HLA-DR,CD14,CD62L,CD114などを高頻度に発現していることを報告した。またPMXカラム洗浄液中に活性化metalloproteinase(MMP)-9が検出され,PMX-DHPにより血清MMP-9値の有意な低下を認めた。さらに血清high mobility group box-1(HMGB-1)値は特発性肺線維症の急性増悪時には上昇するが,PMX-DHPにより有意な減少を認め,PMXカラム洗浄液中にもHMGB-1が検出されたことを示してきた。以上のことからDADに対するPMX-DHPの有用性が示唆された。

  • 平和 伸仁
    2011 年 2 巻 2 号 p. 165-174
    発行日: 2011/12/01
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    AKIは,近年出現してきた概念であり,急性腎不全よりもより広範な腎臓の障害を包括する症候群として理解する必要がある。軽度な腎機能の低下が,患者の生命予後に大きな影響を与える事が明らかになり,2002年,Acute Dialysis Quality Initiative(ADQI)コンセンサス・カンファレンスにおいて,急性腎不全の新しい定義が提唱された。この定義では,血清クレアチニン(Cr),GFR,時間尿量という簡便なパラメーターを用いることにより診断し,RIFLE分類という5つのステージに分類することをも提唱した。一方,2005年にAcute Kidney Injury Network(AKIN)が,急性腎不全を形態的かつ機能的な腎障害ととらえ,新しくacute kidney injury(AKI)という名称と概念を提唱した。AKIN分類では,RIFLE分類を改変し,血清Cr 0.3mg/dLの上昇を有意な変動と考えAKIの診断に取り入れた。また,48時間以内のCr値の変化により診断すること,AKIを3つのステージに分類する事とし,単純に診断・分類することを提唱した。血清クレアチンの変動に重点を置いて診断されるため,さまざまな有用性とともに問題点もある。AKIの定義についてその意義,問題点,AKIN Summit Workshopの経過などを含めて報告する。

  • 土井 研人
    2011 年 2 巻 2 号 p. 175-181
    発行日: 2011/12/01
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    急性腎障害(acute kidney injury:AKI)はICUにおける多臓器不全のなかでも生命予後を規定する重篤な臓器障害であり,その早期診断は極めて重要である。しかし,数十年にわたり血清クレアチニンおよび尿量といった感度および時間的変動に乏しいマーカーにAKI診断が依存している現状がある。ICUにおけるAKIでは,主に尿細管上皮細胞障害がその病態形成に関与しており,上皮細胞障害を鋭敏かつ早期に検出できる新規AKIバイオマーカーの開発が国際的に盛んとなっている。今回,われわれは混合型ICU症例におけるAKI診断および死亡予測に対して,尿L-FABP,NGAL,IL-18,NAG,アルブミンの有用性を検討した。新規AKIバイオマーカーが臨床応用に耐えうるかどうかについては,AKI診断のみならず血液浄化療法の開始や死亡率などの重症度・予後予測が可能であるかを検証する必要がある。

原著
  • 布村 仁亮, 泉 維昌
    2011 年 2 巻 2 号 p. 182-186
    発行日: 2011/12/01
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    小児の集中治療においても急性血液浄化療法が必要不可欠な治療法となり,当院でも2007年より急性血液浄化療法施行例が増加し,プライミングや回路交換等で臨床工学技士が対応している。これまでの急性血液浄化療法における臨床工学技士の役割と他部署(医師および看護師)との連携について検討した。集中治療室(ICU)に勤務する看護師に対し,急性血液浄化療法に対する理解度・積極性のアンケート調査を行った結果「経験してみたいが,理解していない事が多いから不安である」という意見が多く聞かれたため,勉強会の開催頻度を増やすなどして,急性血液浄化療法と関わる機会を多くすることで看護師の不安を軽減できればと考える。医師とは積極的に協議を行い,看護師に対しては急性血液浄化療法の各論を丁寧に教える姿勢で緊密な連携を取り,より良い信頼関係の構築に努めることが,患者・保護者の不安の軽減にもつながる理想の連携像になると考える。

第21回日本急性血液浄化学会学術集会Best Presentation Award(BPA)受賞論文
原著
  • 平山 陽, 織田 成人, 貞広 智仁, 仲村 将高, 渡邉 栄三, 立石 順久, 服部 憲幸, 瀬戸口 大典, 高橋 和香, 高井 信幸, ...
    2011 年 2 巻 2 号 p. 187-193
    発行日: 2011/12/01
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    【はじめに】ヘパリングラフトAN69ST膜hemofilter(oXiris®)は,従来のAN69ST膜に表面処理剤のポリエチレンイミンの付着量を増加させ,さらにヘパリンをプレコーティングした新しいhemofilterである。抗血栓性に優れるのみならず,ヘパリンと特異的に結合するHMGB1(high mobility group box 1 protein)の除去効果も期待される。今回,oXiris®のHMGB1除去能をin vitroで検討した。【方法】豚血液を用い,LPSを持続投与し,inflammatory mediatorの産生を持続的に惹起した。そして本血液を用い,oXiris®(膜面積1.5m2)をhemofilterとして使用した持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration:CHDF)を施行した。CHDFの施行条件は血液流量(Qb)=80mL/min,濾過流量(Qf)=300mL/h,透析液流量(Qd)=1,000mL/hとした。そして開始時,30分後,1,3,6,12,18,24時間後にhemofilterの流入側,流出側で血液を採取,また濾液の採取も行い,おのおののHMGB1濃度を測定した。併せて,HMGB1のクリアランス(CL)およびsieving coefficient(SC)を経時的に算出した。【結果】oXiris®のHMGB1CLは開始30分後30.0±9.9(mL/min),1時間後23.5±9.5,3時間後34.6±5.4,6時間後24.5±14.8,12時間後26.9±14.7,18時間後13.3±11.0,24時間後11.8±1.2であった。また,HMGB-1 SCは開始30分後0.003,1時間後0.003,3時間後0.006,6時間後0.003,12時間後0.002,18時間後0.001,24時間後0.002であった。【考察】oXiris®によるHMGB1の除去は膜表面にプレコーティングされたヘパリンへの結合および膜のバルク層での吸着により行われていると考えられる。本検討によりoXiris®にはHMGB1の持続的な除去能がある事が確認され,その除去は吸着原理主体であると考えられた。

原著
  • 林 啓介, 村上 幸司, 上田 貴美子, 千田 茂樹, 志賀 美子, 林 裕樹, 早川 昌弘
    2011 年 2 巻 2 号 p. 194-197
    発行日: 2011/12/01
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    循環血液量の少ない新生児や乳児等に体外循環を用いた血液浄化療法を施行する場合,希釈率等の理由から一般的に血液製剤を充填している。この準備段階で,どの程度の血液製剤を使用するか,そして血液製剤使用に伴う低pHと高K等の補正にどの程度事前透析すべきか苦慮することがある。今回,血液製剤充填後に事前透析として体外循環回路のみを再循環させながら事前透析させ,血液製剤充填量に対するHb値,Alb値,事前透析量に対する電解質値,そして,体外循環施行開始前後のHb値とAlb値を予測する自動計算表をMicrosoft Excelにて試作した。この自動計算表を基に無尿のためCHDFを施行した体重約3kgの患児に対して10回の測定を行い比較した。濃厚赤血球製剤のHb値やK値は固定した推定値とし,回路内液は濃度を均一と仮定し算出したが,差を生じること無く使用することができた。このため,より安全な血液浄化療法を施行する上で,自動計算表は有用であると示唆された。

  • 宮坂 武寛, 尾崎 逸美, 奥田 幸寛, 田渕 晃成
    2011 年 2 巻 2 号 p. 198-201
    発行日: 2011/12/01
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration:CHDF)で用いられる持続緩徐式血液濾過器(hemofilter)として東レ株式会社にて新たにヘモフィールSHG(以下SHG)が開発された。このhemofilterは既存のヘモフィールSH(以下SH)に比べ,中空糸内側の血液の流れがよりスムーズになるよう設計された膜構造となっている。本研究では,牛血液を用い,同じ血液を2つに分け,SHGとSHのlifetimeや溶質除去特性に関する透析濾過実験を行った。血液側入口圧はSHGとSHともに経時的に徐々に上昇したが,両hemofilterの経時変化には大きな差はみられなかった。各hemofilterの尿素クリアランスは実験開始後20分時点には有意差がなかったが,hemofilter交換の目安となる血液側入口圧250mmHg時点ではSHGの方が有意に大きかった。SHGとSHではSHGで溶質除去能のlifetimeがより長くなることが示唆された。

  • 中村 元信, 花房 規男, 土井 研人, 根岸 康介, 矢作 直樹, 野入 英世, 藤田 敏郎
    2011 年 2 巻 2 号 p. 202-207
    発行日: 2011/12/01
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    急性腎傷害(AKI)に対し,持続的腎機能代替療法(CRRT)は重要な治療手段の一つである。CRRTを必要とした患者の中で,CRRTを離脱することができる患者と維持透析へ移行する患者がいることは知られているが,CRRTより離脱できるかどうかについて背景因子や要因について検討された報告は少ない。今回,CRRTから維持透析となる背景因子や要因について検討した。2007年1月から2009年3月までに当院ICUにてAKIに対しCRRTを施行され維持透析に導入された患者をcase群とし,case群と年齢および性別をマッチさせたCRRTから離脱した患者をcontrol群とした。維持透析への移行をアウトカムとし,両群のCRRT施行前の臨床所見,検査値などに対し検討を行った。BUN,収縮期血圧(SBP)はcase群で有意に高かったが,その他の項目では有意差は認めなかった。CRRT施行前のBUN,SBPが高い症例は離脱できない可能性が高いため,このような患者へはCRRTの導入時より維持透析を念頭に置きバスキュラーアクセス作成などについて検討する必要があると考えられる。

症例報告
  • 星野 太郎, 池田 信一郎, 杉山 浩二, 志村 吏左, 中村 太一
    2011 年 2 巻 2 号 p. 208-212
    発行日: 2011/12/01
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    甲状腺クリーゼは,甲状腺ホルモン作用過剰に対する生体の代償機構が破綻し,多臓器不全から生命の危機に瀕する病態であり,死亡率は20%を超える。産後は病院受診歴のない42歳女性。呼吸困難,全身性浮腫,腹部膨満にて当院に救急搬送された。来院時,頻脈,著明な発汗,眼球突出,甲状腺腫大,全身性浮腫,大量胸腹水,腹部膨隆を認め,TSH低値,FT3,FT4高値も認めたことから甲状腺クリーゼの診断で緊急入院。未治療のバセドウ病患者であった。全身管理,薬物治療を行うも入院翌日に心肺停止に陥った。蘇生後に二重膜濾過血漿交換と持続血液濾過透析も加えることでFT3,FT4は減少,心不全は一時改善を得た。しかし,経過中に十二指腸穿孔と腹腔内感染症,敗血症を併発。多臓器不全が進行し救命はし得なかったが,重症の甲状腺クリーゼに対し血漿交換療法を併用することで状態は一時改善したため,施行する意義はあったと考えられた。

  • 小堀 容史, 大岩 功治, 八木 秀樹, 益岡 啓子, 冨田 真, 神田 弘太郎, 海津 嘉蔵, 細川 緑, 宇都 栄作, 石原 有子, 高 ...
    2011 年 2 巻 2 号 p. 213-218
    発行日: 2011/12/01
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    80歳の男性。閉塞性動脈硬化症(ASO)に対して他院で下肢動脈バイパス術などが繰り返し行われてきたが,左下肢の疼痛,潰瘍,壊疽が急速に悪化してきたために当院を受診した。触診や血流評価検査から急性下肢虚血(ALI)と診断し,血管内治療(EVT)を行った。しかし,広範囲の虚血のために血行再建後の虚血再灌流障害(MNMS)の発症が予想された。このためMNMS発症予防のために術直後よりCHDF(continuous hemodiafiltration)を施行した。血行再建後は膝窩動脈以下の虚血肢の治癒不良と,下肢の強い疼痛のために下腿切断術を行うこととなったが,MNMSは発症することなく救命することができた。MNMSは,ひとたび発症すると重症化して治療が困難である。本症例のようなALIにおける広範囲の虚血や感染兆候を伴う場合,血行再建後の早期の血液浄化療法が全身状態の安定化や再灌流障害の予防に寄与し,救命につながる可能性があると考える。

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