日本急性血液浄化学会雑誌
Online ISSN : 2434-219X
Print ISSN : 2185-1085
11 巻, 1 号
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特別報告
  • 塚本 達雄, 宮田 真紀子, 平田 憲子, 細井 信幸, 松村 由美, 秋葉 隆
    2020 年11 巻1 号 p. 3-8
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

    2011年に発生した血液浄化器取り違えによる患者死亡事例を受けて,血漿分離器血漿ポートをスリップイン方式(ISO8637)からルアーロック方式(ISO80369-7)への変更を血漿分離器と血液ろ過器用血液回路の誤接続再発防止対策として産官学にて取り組んだ。この転換のため旧型血漿分離器と新型血液回路接続のための中間コネクタの限定的使用も認められた(2020年8月末販売終了)。新型血漿分離器は2019年9月から販売開始,旧型血漿分離器および血液回路は2020年2月で販売終了となった。本プロジェクトは厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課の指導下で関連学会とMTJAPAN血液浄化部会が協力して進められた。2020年1月中央社会保険医療協議会で安定供給の観点から償還価格が見直され3月に改定価格が告示された。これは産官学で取り組んだ安全対策への評価として今後の製品開発にも重要な視点と考えられる。

総説
  • 森山 和広, 山下 千鶴, 西田 修
    2020 年11 巻1 号 p. 09-16
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

    最近まで,エンドトキシン(lipopolysaccharide:LPS)ショックは,LPSが細胞表面のToll様受容体(Toll-like receptor(TLR))-4に認識されることから始まると信じられてきた。しかし,2013年に細胞内カスパーゼが,TLR4非依存的なLPSセンサーとして発見されたことにより,現在ではエンドトキシンショックは,細胞内LPSが引き起こす,細胞内カスパーゼを介したパイロトーシス(細胞死)に伴う病態であると理解されている。また。最近,血中LPSが肺血管内皮細胞へ直接取り込まれパイロトーシスを起こすという肺障害機序も提唱されている。これらの研究は,血中からLPSを除去することの意義を再考させるきっかけになるかもしれない。一方で,ポリミキシンB固定化繊維カラム(PMX)研究のEUPHRATES studyにおいても,血中LPSの直接定量法は採用されておらず,LPSの除去効果は不明なままである。エンドトキシン除去療法の評価は,LPS高値の対象患者に対して,最適な施行方法で,正しい主要評価項目を設定して評価すべきである。

  • 岩田 恭宜, 中出 祐介, 和田 隆志
    2020 年11 巻1 号 p. 17-21
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

    近年,腸内細菌叢とその代謝産物が,生体の恒常性維持に関連し,細菌叢の破綻が種々疾患の発症・進展に関与していることが明らかとなっている。近年,腸内細菌叢の代謝産物としてD-アミノ酸が注目されている。これまでの分析技術では分離・同定し得なかったL-およびD-アミノ酸を,高精度かつ網羅的に定量評価することが可能となった。この結果,L体およびD体は,体内動態,生体への機能を異にすることが明らかとなっている。一方で,急性腎障害における腸内細菌叢およびD-アミノ酸の意義は明らかではない。そこで我々は,急性腎臓病において,腸内細菌叢とD-アミノ酸がその病態に関与していると仮説を立て検討を行った。その結果,D-セリンが腎保護作用をもち,かつその血中濃度が腎機能を反映することを見出した。D-セリンが新規治療およびバイオマーカーとなる可能性が示された。今後検討を重ねることによって,臨床応用を目指したいと考えている。

  • 加藤 明彦
    2020 年11 巻1 号 p. 22-28
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

    急性腎障害(acute kidney injury:AKI)における代謝の特徴は,血糖値の上昇と体タンパクの異化亢進である。そのため,AKI患者の栄養療法は基礎エネルギー必要量の80%(20〜30kcal/kg/日)以下まで抑えて,タンパク質を1.2g/kg体重/日以上に増やすことが必須である。持続的腎代替療法施行(continuous renal replacement therapy:CRRT)中の電解質異常はAKIの進展,併存症,死亡の危険因子であるため,定期的に血清カリウム,リンとマグネシウムをチェックする必要がある。さらに,CRRT施行中に排液から水溶性ビタミンや微量元素が容易に喪失するため,CRRT施行患者ではこれらのモニタリングも重要である。

  • ―循環作動薬―
    谷口 巧
    2020 年11 巻1 号 p. 29-32
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

    敗血症をはじめ様々な原因で引き起こされたショック状態においてアドレナリンやノルアドレナリンといった循環作動薬の投与は必須であり,病態と薬剤の種類により微量から大量まで様々な量で投与しなければならない。その重症患者の中には慢性腎不全により血液透析を行っていたり,また急性腎障害や慢性腎障害の急性増悪を生じ,血液浄化を余儀なくされる患者も存在する。重篤な腎障害,透析患者において循環作動薬を使用する際には,1)薬物動態を把握しておくこと,2)可能な限り肝代謝性薬物を選択すること,3)やむを得ず腎代謝性薬物を使用する際には投与量の調整を行い,定期的な血中濃度と心電図検査を行うことが必要である。

  • 澤田 真理子, 吉崎 加奈子, 渡部 晋一
    2020 年11 巻1 号 p. 33-40
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

    新生児・小児にとって,急性血液浄化療法(blood purification therapy:BPT)・急性腎障害(acute kidney injury:AKI)後の人生は長く,合併症を抑止し健全な人生を送ることは重要である。急性BPT・AKI後,腎機能が低下した場合,慢性腎臓病管理を要する。新生児では,AKI後早期の腎機能低下の検出率は低く,血圧の上昇や微量アルブミン尿,推定糸球体濾過量の低下などを指標とし,新生児期から若年成人期までのフォローアップを要する。また,成長・発達,身体的・精神的な健康状態,社会適応などの包括的な評価を,経時的かつ多面的に行う。必要時,発達支援・療育医療・薬物療法,就学・就労支援などを行う。成長ホルモン低下症や甲状腺機能低下症を合併した場合,ホルモン補充療法などの治療を行う。急性BPT・AKI後,小児専門各科と連携して全人的なフォロー及び支持療法を要する。長期的に介入が必要な症例は,成人科への移行医療を進めていくべきである。

  • 石川 健, 西見 早映子, 松本 敦, 小山 耕太郎
    2020 年11 巻1 号 p. 41-48
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

    体外循環による腎代替療法(RRT)の機器整備については新生児でも普及が進んでいるが,成人を対象とした汎用RRT機器を新生児に適用するため様々な問題を抱える。新生児RRTでは,バスキュラーアクセスの確保が難しく,容易に血液流量(QB)を増加することができない。しかし,急速な溶質除去を望む場合,内頸静脈へ太いカテーテルを挿入し十分なQBを確保し,血液透析か血液濾過透析を選択する。一方,安全面を考慮する場合,回路寿命が長い持続血液透析が望ましい。また,循環血液量に対しRRT回路の体外循環容量が過大で血液充填(blood priming)が必須だが,使用する濃厚赤血球の性状是正が必要で,輸血関連合併症の懸念もある。欧州では新生児RRT装置が開発・臨床応用され予後の改善が期待されている。本邦では超低容量の新生児用RRT機器は開発されているが,未だ,実用化には至っておらず,今後の発展が望まれる。

第30回日本急性血液浄化学会学術集会Best Presentation Award(BPA)受賞論文
原著
  • 系統的レビュー
    小丸 陽平, 松浦 亮, 濵㟢 敬文, 南学 正臣, 土井 研人
    2020 年11 巻1 号 p. 49-54
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

    【背景】世界各地から報告される急性腎障害(AKI)の発生率と死亡率は非常に多様である。本研究はAKIの発生率と死亡率の関連を検討することを目的とした。【方法】2004〜2018年の期間で網羅的に文献を検索し,AKIの発生率と死亡率および死亡におけるAKIの寄与危険割合の関連を検討した。【結果】287コホートが対象となった。成人では,集団のAKI発生率が高くなるに従って,AKI群の死亡率は緩やかに上昇した(β=0.12,P=0.03)が,AKIの死亡における寄与危険割合は逆に低下した(β=−0.43,P<0.001)。成人ICUコホートのサブ解析では,AKI発生率が高くなるに従ってAKI群の死亡率が低下した(β=−0.25,P<0.001)。【結論】AKIの発生率が高い成人コホートでは,高い診断率や経験値の高いチームによる管理などによってAKI症例の予後が改善している可能性が示唆された。

原著
  • AN69ST・PMMA・PS膜の比較
    道越 淳一, 松本 重清, 宮脇 宏, 森田 真, 丹生 治司, 萩原 聡, 瀬尾 勝弘, 北野 敬明
    2020 年11 巻1 号 p. 55-60
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

    持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration:CHDF)に使用される血液濾過器はpolysulfone(PS)膜,polymethylmethacrylate(PMMA)膜,acrylonitrile(AN69ST)膜など数種類あり,それぞれ特徴的な構造を持ち吸着および濾過特性に違いがあると報告されている。そこで,CHDF施行中の濾液中および施行後の血液濾過器に吸着したタンパクに着目し,吸着および濾過特性について検討した。敗血症,敗血症性ショックにてCHDFを施行した患者を対象とし,CHDF施行中の濾液を採取,また施行後の中空糸を取り出し,濾液中および膜に吸着したタンパクを測定した。その結果,幅広い等電点のタンパクに吸着特性を示した膜がAN69ST膜,高分子量のタンパクに吸着特性を示した膜がPMMA膜であった。PS膜は濾過性能が高く,10kDa程度のタンパクで濾過特性を認めた。これらの相違点は血液濾過器の構造やタンパク結合様式および陰性荷電の違いも関与している可能性が考えられ,血液濾過器における抗炎症効果の機序を解明する上で重要な手法となるかもしれない。

症例報告
  • 渡辺 裕輔, 杉山 圭, 塚本 功, 高平 修二, 根本 学, 岡田 浩一
    2020 年11 巻1 号 p. 61-63
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

    劇症型溶血性連鎖球菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome:STSS)は,急性腎障害(acute kidney injury:AKI)を含む多臓器不全が急速に進行する,致死率が高い病態であり,近年その報告数が増加している。当院ではこれまでにSTSS 症例5例を経験したが,全例がAKI,敗血症性ショック,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)を合併していた。5症例中4症例に対して血液浄化療法が導入されたが,治療により腎機能は回復し血液浄化療法を離脱可能となり,最終的に生存退院に至ることができた。一方,心肺停止状態で救急搬送され,血液浄化療法の導入に至らず救命し得なかった1症例も経験した。病態の進行が極めて急速であり,早期に適切な治療を開始できるかが予後を分けると推測された。

  • 石淵 絹人, 金子 真以, 丹羽 弘喜, 深澤 洋敬, 古谷 隆一
    2020 年11 巻1 号 p. 64-67
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

    87歳男性。体動困難を主訴に当院へ救急搬送となった。迅速抗原検査でA型インフルエンザと診断され,精査加療目的で入院となった。第2病日の血液検査で血清CK値は7,542U/Lから96,700U/Lへ,Cr値は1.07mg/dLから2.5mg/dLへと上昇しており横紋筋融解症による急性腎障害と考えられた。MRI検査では体幹や大腿筋に脂肪抑制T2強調画像で高信号域が認められ,筋力低下部位と合致していたため横紋筋融解症による体動困難であったと考えられた。その後乏尿となり,第4病日にはCr値6.8mg/dLまで上昇したため血液透析を開始した。第25病日頃から尿量は増加傾向となり,体動困難は徐々に軽快した。第32病日に血液透析から離脱し,その後も腎機能障害は改善し第50病日に退院となった。インフルエンザウィルス感染症に横紋筋融解症が合併することが知られているが,血液透析を要するほど重症の急性腎障害を生じることはまれである。文献的考察を加えて報告する。

第30回日本急性血液浄化学会学術集会Best Presentation Award(BPA)受賞論文
技術・工夫
  • 西村 優一, 本田 陽平, 阿部 結美, 田代 嗣晴, 木村 康宏, 藤本 潤一, 西澤 英雄
    2020 年11 巻1 号 p. 68-72
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

    AN69ST膜はメシル酸ナファモスタット(NM)を吸着することが報告されており,その対策として当院ではV側にもNMを分注する2Way法を採用している。当院の2Way法プロトコルは,1本の膜で22時間以上の施行を目標とした場合,達成率は94%と良好であったが,NM時間投与量は41.0±9.7mg/hrと他の膜と比して多かった。膜前後でACTは延長していなかったが,目標未達成となった症例の凝固箇所はすべてVチャンバーであり,膜には凝固がみられなかった。以上より,AN69ST膜は抗凝固能に優れた膜であると推察し,A側NMを大幅減量した新プロトコルの作成を試みた。新プロトコルの目標達成率は95%であり,従来のプロトコルと比較して回路凝固を増加させずNM時間投与量を18.5±2.4mg/hrと55%減量可能であった。

技術・工夫
  • 巽 博臣, 数馬 聡, 黒田 浩光, 赤塚 正幸, 鈴木 信太郎, 菊池 謙一郎, 相坂 和貴子, 後藤 祐也, 中村 勇輝, 中野 皓太, ...
    2020 年11 巻1 号 p. 73-76
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

    【背景】救命が見込めない病態に陥った場合,CRRT継続が死までの時間を延長させ,必ずしも患者・家族の意思や希望に沿った治療とならないことがある。CRRT終了に関して検討した。【方法】ICUに7日以上在室したCRRT施行例のうち,死亡退室症例に関して,CRRT終了のタイミング,終了から死亡までの時間などを検討した。【結果】死亡症例65例のうち,死亡前にCRRTを早期終了した症例は17例(26%)で,病態についての多職種カンファレンス後に家族へ説明し,同意を得た上でCRRTを終了した。終了から死亡までの時間は201分(中央値)であった。【考察とまとめ】人工呼吸器や補助循環装置とは異なり,CRRT終了によって即座に患者が死に至ることは少ない。しかし,病態の悪化をCRRTで制御している場合,CRRT終了が死までの時間を規定する可能性は否めない。終末期と判断した場合,救命できない可能性を早い段階で提示し,家族が十分に納得する時間が取れるよう配慮するべきと考えられた。

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