日本急性血液浄化学会雑誌
Online ISSN : 2434-219X
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9 巻, 2 号
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特別寄稿
  • 酒井 清孝
    2018 年 9 巻 2 号 p. 71-91
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2022/01/18
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    生体拡散装置(Vividiffusion Apparatus)は,拡散によって動物血液から透析液へ溶質を移動させることができる。ヒルジンを用いて血液の凝固を防ぎ,コロジオンチューブを通して動物の血液を体外に循環させる。分子量の小さい物質は拡散により除去されるが,タンパク質などの大きい分子量の物質はコロジオン膜を透過しない。Kolff WJがKolff Kidney(Rotating Drum Kidney)を作ろうとしたとき,運良く優れた透析膜(セロファン)と,信頼性が高く無毒な抗凝固薬(ヘパリン)が入手できた。臨床用途に十分な性能を有するKolff Kidneyを開発するためには,セロファンチューブ膜に閉じ込めた少量の薄層血液を,閉鎖系で広い膜表面に循環させる必要がある。さらに,Kolff Kidneyにおいて,血液および透析液は十分に混合した状態で流れるようにしなければならない。臨床使用に耐えるKolff Kidneyが,オランダのエンジニアBerk H Th Jと協力して,1942年に開発された。Kolff Kidney,Kolff-Brigham Kidney,Orange Juice Kidney,Tank Kidneyについて,この特別寄稿で概説する。

総説
  • 三浦 健一郎, 服部 元史
    2018 年 9 巻 2 号 p. 92-98
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2022/01/18
    ジャーナル フリー

    小児の敗血症管理に関する国際的なガイドラインにはSurviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)2012やAmerican College of Critical Care Medicine(ACCM)のガイドライン(2014年)などがあり,本邦からはJ-SSCG 2016が刊行されている。本稿では,これらをもとに,小児敗血症,敗血症性ショックに対する輸液による初期蘇生,血液浄化療法の適応について概説する。小児領域では敗血症,敗血症性ショックの定義が明確ではなく,この分野におけるエビデンスも乏しいため,各ガイドラインにおけるステートメントはほとんどが弱い推奨または推奨なしとなっている。今後,まず小児における臓器障害の評価システムの構築と検証によって敗血症の定義を明確化することが必要であり,それに基づいた知見の集積が望まれる。

  • 大久保 淳, 倉島 直樹, 山本 裕子, 山本 素希, 前田 卓馬, 宮本 聡子, 板垣 紋子, 瀬島 啓史, 岡戸 丈和
    2018 年 9 巻 2 号 p. 99-104
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2022/01/18
    ジャーナル フリー

    急性血液浄化療法としてのアフェレシス療法は,スティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死症そして抗糸球体基底膜病における治療としても幅広く施行されている。例えば,肺胞出血を伴う抗糸球体基底膜病に対してアフェレシス療法を施行する場合には,凝固因子を補充するため置換液に新鮮凍結血漿を用いた単純血漿交換法が施行されることが多い。しかし大量の新鮮凍結血漿の使用が必要であり,アレルギーを含むさまざまな合併症のリスクも高くなる。近年,置換液にアルブミン溶液を用いても凝固因子を保持することが可能であり,かつ免疫グロブリンG以下の分子量の病因物質を効率よく除去することが可能である選択的血漿交換法が注目されている。本稿では,スティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死症そして抗糸球体基底膜病に対する選択的血漿交換法について概説する。

原著
  • 芝田 正道, 小川 哲也, 小林 利道, 庄古 知久
    2018 年 9 巻 2 号 p. 105-110
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2022/01/18
    ジャーナル フリー

    敗血症・敗血症性ショックに対しAN69ST膜を使用した持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration:CHDF)施行群と非施行群について臨床効果を比較する。2015年6月1日より2017年11月30日までの間に東京女子医科大学東医療センター救命救急科にて敗血症・敗血症性ショックと診断された56名(AN69ST膜群38名,非施行群18名)。CHDFは全例AN69ST膜を使用し,エンドトキシン吸着療法は施行していない。AN69ST膜群では入室時および72hr後の平均血圧(中央値)が66(IQR:58–82),92(IQR:82–108)mmHgに対し非施行群では60(IQR:55–72),87(IQR:81–102)mmHgと両群とも上昇していたが両群間において差はなかった。同様に脈拍やPaO2/FIO2 ratio,血中乳酸値,catecholamine index,尿量,輸液量についても差はなかった。今後は症例数を重ね生命予後を含めた検討が必要である。

  • 髙橋 良光, 山本 卓, 風間 順一郎, 成田 一衛, 追手 巍
    2018 年 9 巻 2 号 p. 111-115
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2022/01/18
    ジャーナル フリー

    バスキュラーアクセスカテーテル(カテーテル)は,さまざまな問題点を改善するために改良が重ねられている。例えば,カテーテルの抵抗を減少させるために径を太くしたり,血栓形成によるトラブルに対して抗血栓性薬剤をコーティングして改善している。以前,われわれは治療中にカテーテルが血管壁を吸引するトラブルを起こすことに対して,カテーテルを回転することが有効であることを報告した。今回,われわれはカテーテルの構造の違いが対処手技の有効性に影響をあたえるか検討した。対象とするカテーテルは,5種類である。各カテーテルの脱血孔に血管壁を吸引させ,最も改善したのは,脱血孔の開口面が広く立体的な開口面を有しているカテーテルであった。その一方で,最も改善しなかったカテーテルは,脱血孔がシンプルな構造のカテーテルであった。本結果は,カテーテルの構造の違いが血管壁吸引の改善に影響することを示唆する。

  • 松澤 圭吾, 渡邉 正太, 加藤 忠介, 五十嵐 利博, 湯澤 紘子, 木村 友則, 小口 萌, 近藤 乾伍, 貞広 智仁
    2018 年 9 巻 2 号 p. 116-120
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2022/01/18
    ジャーナル フリー

    AN69ST膜ヘモフィルターを用いた持続的血液濾過透析(CHDF)におけるメシル酸ナファモスタット(NM)投与部位および投与量の検討を行った。NMをヘモフィルターの前から投与した症例をA群,NMをヘモフィルターの前後で投与した症例をAV群として比較した。両群に共通して脱血側に対して送血側のACT値が延長せず,A群では回路凝固を認めた8回中6回,AV群では9回中6回,静脈側チャンバーの凝固を認めた。AV群と比較してA群では静脈側チャンバーの回路凝固による回路圧変化がより大きく認められた。A群とAV群で回路凝固に差がなかった理由としてAN69ST膜ヘモフィルターはNMを吸着するが,膜に対して一定の抗凝固効果を発揮する可能性がある。また,NMの後投与の増量は回路凝固を減少しうる可能性があるが,コストベネフィットを考慮した,さらなる検討が必要と考えられた。

症例報告
  • 神戸 幸司, 小田 佳史, 宮地 裕之, 細野 ひかる, 小栗 早智, 森 祐哉, 丸岡 由衣, 土井 麻由美, 黒川 大樹, 浦濱 善倫, ...
    2018 年 9 巻 2 号 p. 121-124
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2022/01/18
    ジャーナル フリー

    今回偶発性低体温に対して血液透析にて復温した3症例を経験した。症例は,70~80歳代の男性。重症度は,軽度から重篤であった。軽度症例に対して,体外復温法を施行しながら早期改善を目的として,血液透析にて2.0℃/hr上昇を目安に体内復温法を併用した。2時間目にて全身発汗,不整脈,意識消失などのショックを生じた。この症例を踏まえ最重症例では,急速な復温による心室細動惹起などのリスクを避けるため透析液温を34℃,血液流量80mL/minから開始し直腸温30℃,意識改善を目安に終了した。サーモグラフィーFLIR i3(フリアーシステムズ社)を用いて脱血・返血側回路温を測定し,的確に透析液温を変更しながら管理した。復温による副作用の予防に,復温速度と慎重な体温管理が必要と思われた。

  • 大久保 淳, 倉島 直樹, 山本 裕子, 山本 素希, 前田 卓馬, 宮本 聡子, 板垣 紋子, 瀬島 啓史, 岡戸 丈和
    2018 年 9 巻 2 号 p. 125-128
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2022/01/18
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    術後肝不全や多臓器不全で問題となる高ビリルビン(Bil)血症に対して,単純血漿交換療法やBil吸着法,plasma filtration with dialysis療法などが施行されているが,選択的血漿交換(SePE)に関する報告は少ない。今回高Bil血症を呈するTAFRO症候群の1例に対しエバキュアープラスEC-4Aを用いたSePEを施行した。このBilの除去率について検討したところ,総Bil,抱合型Bil,非抱合型Bilの篩係数(SC)の経時的変化は1,000~4,000mLの観察範囲では少なかった。治療中の平均SCは,総Bil 0.81±0.02,抱合型Bil 0.90±0.01,非抱合型Bil 0.49±0.06であり,総Bilの低下率は40%であった。凝固因子を保ちながらAlb置換で施行可能なSePEは,Bil除去の一つの選択肢になりうる可能性が示唆された。

  • 山香 修, 中村 篤雄, 福田 理史, 鍋田 雅和, 平湯 恒久, 萬木 真理子, 吉田 圭介, 内村 鴻一, 山下 典雄, 高須 修
    2018 年 9 巻 2 号 p. 129-132
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2022/01/18
    ジャーナル フリー

    【背景】救命センターにおいては,搬入時に受診歴や既往歴,基礎値の血清クレアチニン,尿量など不明な患者も多く,急性腎障害(AKI)や慢性腎障害(CKD)の診断に時間を要することが少なくない。そこで,当センターに搬入された敗血症性ショック症例に持続的血液濾過透析(CHDF)を導入した際の腎機能と生命予後を検討した。【方法】2014年1月から2016年3月に当センターに搬入され,CHDF導入時に敗血症性ショックであった40名の腎機能,生命予後を後ろ向きに検討した。【結果】年齢:70±16歳,APACHEⅡスコア:31点,28日生存率:85%,標準化生存率は3.4であった。70%にAKIを認めKDIGO基準の中央値は2であった。CKD症例も含めると敗血症性ショック患者の90%に腎障害が認められ,生存したAKI患者の4%が維持透析(HD)に移行した以外はAKIを離脱した。【結論】本症例群の70%にAKIを認めたが,良好な生命予後であった。

技術・工夫
  • 三住 拓誉
    2018 年 9 巻 2 号 p. 133-137
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2022/01/18
    ジャーナル フリー

    当院ICUでは年間1,500回以上の血液浄化療法を行っている。そのなかで,病態にあわせて抗凝固療法の投与量を調節することにより,回路凝固を防止するとともに出血などの合併症を減ずる努力をしている。また血液浄化用カテーテルの留置位置を工夫することにより,脱血不良のトラブルを予防している。血液浄化療法施行中は,治療のキードラッグとなる薬剤や安全域の狭い薬剤を投与する場合は頻繁に薬剤の血中濃度を測定し,治療効果が損なわれないようにしている。実際に血液浄化療法を施行する際には,医師,看護師,臨床工学技士の三者でその患者に対する情報共有を行い,施行開始時はその三者で血行動態が安定するまで観察を続けている。

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