日本急性血液浄化学会雑誌
Online ISSN : 2434-219X
Print ISSN : 2185-1085
11 巻, 2 号
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総説
  • 千原 伸也, 巽 博臣, 升田 好樹
    2020 年 11 巻 2 号 p. 85-91
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2021/05/26
    ジャーナル フリー

    敗血症性の病態形成と関連するメディエーターにはサイトカインなどの大分子量物質が含まれる。したがって,敗血症性AKIに対しては大分子量物質のクリアランスに優れた持続的血液濾過(continuous hemofiltration:CHF)が適している。CHFには前希釈法と後希釈法がある。前希釈法は物質クリアランスの低下,後希釈法ではフィルター寿命の短縮や生体適合性が懸念される。臨床データおよび試験液を用いた水実験で,前希釈法は後希釈法と比べ,過剰な白血球や血小板の活性化を抑制するなど生体適合性に優れていた。一方,小〜中分子量物質に対するクリアランスは後希釈法が優れていたが,敗血症の病態と関連する大分子量物質のクリアランスは両希釈法で差はなかった。敗血症性AKIでは生体適合性や物質クリアランスの面からも前希釈CHFを選択すべきである。国内においては前希釈CHFを施行可能なコンソールの販売が開始されたことから,今後は,より病態に応じたCHFの施行法を確立していきたい。

  • 根木 茂雄, 大矢 昌樹, 重松 隆
    2020 年 11 巻 2 号 p. 92-97
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2021/05/26
    ジャーナル フリー

    急性腎障害(acute kidney injury:AKI)は入院患者,とくに集中治療室の重症患者における重大な病態の一つである。腎機能代替療法(renal replacement therapy:RRT)のめざましい進歩にもかかわらず,RRTを必要とするAKIの予後はいまだ不良である。そしてAKIに対する持続的腎機能代替療法(continuous renal replacement therapy:CRRT)において至適血液浄化量はいまだ不明である。いくつかの単施設での検討で高用量のCRRTが予後改善につながることが報告され,AKIに対して高用量なCRRTが望ましいと考えられていた。しかしながら,血液浄化量を多くしても予後改善にはつながらないことが二つの大規模無作為化比較試験により実証された。一方,わが国においては海外とは異なり低用量のCRRTが標準であるが,低用量のCRRTと世界標準CRRTとの検証はなされていない。本稿ではAKIに対するRRTに関して至適血液浄化量について概説する。

第30回日本急性血液浄化学会学術集会Best Presentation Award(BPA)受賞論文
原著
  • 石田 弘樹, 冨士野 秀之, 岩本 純香, 中川 宜明
    2020 年 11 巻 2 号 p. 98-102
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2021/05/26
    ジャーナル フリー

    血液浄化施行中の血液回路チャンバでの凝固は,チャンバ内部の血液の流動状態に大きく影響されるが,流動状態を可視化できる技術は確立されていない。本研究では,レーザドップライメージング技術を応用し,チャンバ内部の詳細な流動状態の可視化に成功した。検証実験では,血液の粘性を模擬したグリセリン溶液を用いて種々の流速での流速分布を計測し,比較対象としてウシ血液による凝固試験との比較を行った。回路流量とチャンバ内の平均流速および,せん断速度は比例関係にあった。また,低流量の条件において血液凝固が顕著に現れた。本手法を用いることでチャンバ内部の流動状態と凝固の関係を議論することが可能になると期待できる。

原著
  • 小林 威仁, 青柳 龍太郎, 齊藤 航平, 草野 武, 中谷 宣章, 友利 浩司, 飯田 慎一郎, 廣岡 伸隆, 内山 昌秋, 岡田 浩一, ...
    2020 年 11 巻 2 号 p. 103-112
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2021/05/26
    ジャーナル フリー

    【背景】血液透析療法を安全に施行するためには循環動態の安定が重要である。今回われわれは,遠隔での血圧ならびに脈拍の連続モニタリングシステムを開発した。【目的】本システムの有用性を検証する目的で,透析患者を対象としたvalidation studyを施行した。方法として腕時計型の小型モニター装置を使用して,透析患者の脈波を連続記録,脈波から血圧,心拍数を連続測定した。また,その測定結果はInternet of Things(IoT)システムを用いて自動サーバ保存した。【結果】血圧,脈拍の測定値は既存の医療器具での測定値と比較し妥当であり,従来の医療器具と同等の検出精度であった。また,測定結果はIoTシステムを用いてサーバ管理し,アラート発動が可能となった。【結語】脈波の連続測定による透析患者の循環動態把握は,透析患者に過度なストレスを与えず経時的にモニタリング,サーバ管理することが可能となった。さらにアラート発動するシステムを臨床現場に導入し,治療環境の充実・改善を図ることで透析患者の包括的な安全管理に繋がる。

  • 木村 竜希, 江間 信吾, 水口 智明, 中島 芳樹, 加藤 明彦
    2020 年 11 巻 2 号 p. 113-118
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2021/05/26
    ジャーナル フリー

    遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモジュリン製剤(recombinant thrombomodulin:rTM)を投与した持続的腎機能代替療法(continuous renal replacement therapy:CRRT)施行時における,CRRT回路内凝固の予測因子について検討した。2015年5月から2019年5月までに,当院でrTM投与下のCRRT(rTM-CRRT)を施行した43例を対象とした。早期の回路内凝固により回路交換を必要とした10例(凝固群)と定期回路交換にて施行した33例(非凝固群)に分類し,検討項目はAPACHEⅡ score,CRRT開始前のSOFA score,DIC score,血液検査データ(血算,生化学,凝固系),CRRT開始時脱血側ACTとした。多変量解析の結果,凝固系の可溶性フィブリン(SF)のみ有意差を認めた。CRRT開始前のSFは,rTM-CRRTにおける回路内凝固を予測し得る可能性がある。

  • ―久留米大学病院高度救命救急センターでの無抗凝固薬透析症例における検討―
    福田 理史, 牟田 隆則, 平湯 恒久, 吉田 智博, 山香 修, 深水 圭, 高須 修
    2020 年 11 巻 2 号 p. 119-123
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2021/05/26
    ジャーナル フリー

    集中治療を必要とする重症患者のうち,出血性合併症のハイリスク症例に対し,著者らの施設では2014年1月から無抗凝固薬透析を行ってきた。さらに,2018年10月以降は透析用カテーテルやエアートラップチャンバーなどのデバイスの変更も行った。今回,無抗凝固薬透析の完遂率に影響する因子,およびデバイス変更が完遂率に与えた影響を明らかにする目的で,後方視的検討を行った。27例70回の無抗凝固薬透析のうち,完遂できなかった症例では有意に頻回の脱血不良を認めた(P=0.002)。また,デバイス変更の前後で,完遂率は86.5%から100%に上昇していた。血液浄化回路の凝固回避につながるデバイスの工夫は,無抗凝固薬透析の完遂に寄与していることが示唆された。デバイスを工夫した無抗凝固薬透析は,出血性合併症のハイリスク症例に対する重要な治療選択肢になると考えられた。

短報
  • 田口 真奈, 井手 岳, 竹末 芳生, 猪川 和朗, 森川 則文, 西 信一
    2020 年 11 巻 2 号 p. 124-127
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2021/05/26
    ジャーナル フリー

    ダプトマイシン(daptomycin:DAP)はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌に使用される抗菌薬である。持続的腎機能代替療法(continuous renal replacement therapy:CRRT)施行中の用法用量は欧米では6〜8mg/kgを24〜48時間ごととされているが,本邦でのCRRT設定では異なった薬物動態が予測されるため,今回4症例の薬物動態を調べた。DAP投与量は隔日ごとに7.1(5.8〜8.1)mg/kg,CRRTの設定は持続的血液濾過透析2例,持続的血液透析2例であった。DAPの消失半減期(t1/2)は20.1(19.5〜20.6)h,薬物血中濃度−時間曲線下面積(area under the blood concentration time curve:AUC)は908(525〜1,281)mg・h/L,トラフ濃度(Cmin)は10.2(8.2〜10.5)mg/Lであった。t1/2は既報と比較し延長を認めた。推定最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration:MIC)でのAUC/MICは目標値に達し,Cminも安全域内であった。CRRT施行中は1回投与量を>6mg/kgとし,さらなる検討が必要と考えられた。

技術・工夫
  • ─当院ICUでの取り組みについて─
    鈴木 美和, 大矢 広美, 石原 靖乃
    2020 年 11 巻 2 号 p. 128-132
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2021/05/26
    ジャーナル フリー

    【目的】血液浄化療法を行う患者に対し,当院ICU看護師が行っている看護ケアを調査し,看護の実際と課題を明らかにする。【対象と方法】当院のICU看護師40名を対象に血液浄化療法施行患者に対して行っている「身体・精神・社会的ケア」についてアンケート調査を行った。【結果】身体的ケアは機器管理・安静に伴う身体的リスク要因の削減・疼痛コントロールなど身体的負担軽減に努めていた。精神的ケアは苦痛・不快の緩和に努め,迅速なアラーム対応,患者の好む気分転換療法を取り入れていた。社会的ケアは,他病棟への情報提供や家族の支援体制の把握を行ってはいるが,退院後の生活に直結する取り組みに至っていない。退院支援につながる取り組みが今後課題であると抽出された。【結語】ICUで血液浄化療法を行う患者に対し,社会的背景や生活習慣,家族のサポートなどの情報を十分に把握することが重要である。そしてICU入室中に限らずICU退室以降の生活支援体制を配慮して早期介入することが今後の課題である。

  • 長末 鉄平, 江間 信吾, 水口 智明, 中島 芳樹, 加藤 明彦
    2020 年 11 巻 2 号 p. 133-137
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2021/05/26
    ジャーナル フリー

    血液浄化療法による体外循環では,外気温により自然冷却されるため返血温は低下する。血液浄化装置は,これを予防するためにさまざまな加温法を有している。しかし,各種装置による加温法,設定条件の違いが返血温に与える影響については明らかではない。今回,ACH-Σ(以下Σ):流入液加温型とプリズマフレックス(以下PF):血液回路加温型の2種類の血液浄化装置を使用し,加温法と設定条件の違いによる返血温への影響について検討した。実験は25℃の外気温とし,37℃に加温された水をそれぞれの血液ポンプで循環させた。血液流量,補充液流量,透析液流量をそれぞれ変化させた時の返血温を測定した。室温25℃の透析液,補充液流量を増加させると,これらが直接血液に流入するPFで返血温度の低下が大きかった。また血液流量のみ変化させた条件では,血液流量の増大とともに両装置において返血温は上昇した。外気との接触時間短縮による影響と考えられたが,PFでは返血回路を直接加温するため,低血液流量での温度低下は軽度であった。各血液浄化装置の加温方法を理解することにより,持続的血液濾過透析設定条件変更による軽度低体温のリスクを軽減できる可能性が示唆された。

  • 濱田 悠佑, 森澤 健一郎, 吉田 徹, 五十嵐 義浩, 清水 徹, 井上 莊一郎, 平 泰彦, 藤谷 茂樹
    2020 年 11 巻 2 号 p. 138-142
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2021/05/26
    ジャーナル フリー

    【背景】2018年に本邦で販売開始されたバクスター社製プリズマフレックス®では回路内凝固を軽減させることが期待されている。【方法】東レ・メディカル社製TR-55X®(TR群)とプリズマフレックス®(P群)とで,回路内凝固への影響を後方視的に比較検討した。【結果】予期せぬ回路交換の頻度はP群の方が有意に高い結果となった(p=0.003)。回路交換の原因としては返血圧上昇がTR群で有意に多かった(p=0.003)。返血圧上昇,入口圧のみ上昇以外の「その他の原因」はP群でのみで4件認めた。【結語】血液濾過器での血液凝固や操作手順の逸脱による予期せぬ回路交換がP群では多く,今後血液濾過器の改良や操作の習熟により成績が向上していく可能性が考えられた。

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