複合構造の分野における技術の体系化や今後の技術の発展に寄与する課題を系統的に挙げる「展望論文」に対して,ふさわしいテーマを絞り込んだ結果,論文タイトルとしては『法“構造”工学/臨床“構造”工学』をキーワードと定め,これまでの10数年の思いをまとめることとした.生活の質向上に向けて整備されてきた膨大な量の社会基盤施設のストックに対して,設計・製作・架設・維持管理において,「技術の質保証・持続性」,「事故(災害)調査」,「新技術の受容性とリスク」等を考えると,土木構造を専門とする研究者・実務者のみならず行政の専門家あるいは法曹実務家との協働作業,すなわち『法工学』が重要となってきている.本展望論文が,専門分野の横断的な新分野として展開のきっかけとなれば幸いである.
FRPシート接着工法などの接着型FRP補強材を用いた既設コンクリート部材の補修・補強に関する研究開発は,1990年代から盛んになり,近年では,橋梁上・下部工やトンネル覆工など各種のコンクリート部材に広く利用されるようになった.FRPは,建設材料としては比較的新しい材料であり,有効に活用するためには材料,構造両面でのさらなる研究開発が必要である.本論文では,接着型FRP補強材によるコンクリート部材の補強として広く利用されている曲げ補強を中心に,FRP材料,FRPの成形法,コンクリートへの接着方法や補強した部材の性能評価について研究開発の経緯を概説する.最後にFRP接着によるコンクリート部材の補強の重要な課題である付着特性の改善について最近の研究成果を示すとともに今後の展望について述べる.
本研究では,腐食した鋼橋における取替または補強部材として開発したハイブリッドFRP引抜成形山形材の圧縮耐荷力特性を明らかにすることを目的として,対象山形材の圧縮耐荷力実験および圧縮耐荷力解析を実施し,弱軸回りまたは強軸回り回転自由の境界条件のもと,対象山形材の局部座屈および全体座屈性状を把握し,圧縮耐荷力の基礎データを取得した.全体座屈が支配する長柱領域において,強軸回り回転自由の条件では,強軸回りの曲げとねじれが連成する曲げねじれ座屈モードとなり,弱軸回り回転自由の条件では,弱軸回り曲げの全体座屈となった.短柱領域では,どちらの境界条件でも局部座屈が圧縮強度を支配した.それらの結果から,対象山形材の耐荷力曲線は,局部座屈強度と弱軸回りの全体座屈強度をもとに作成できる可能性が明らかとなった.
本研究は,海洋構造物に関して真空含浸工法(VaRTM)の成形技術を適用して,CFRPを腐食・減肉した鋼部材に接着し,性能回復を図る工法の開発を目指したものである.補剛材の溶接接合部近傍に台形状の断面欠損を有する,板厚10mmの銅部材に対して,CFRPの配置がその曲げ耐力の回復に及ぼす影響を解析的,実験的に検討した.試験は,3点曲げ載荷とし,曲げ治具に設置した試験体の補剛材上部をつかみ,荷重を載荷した.隅角部へ樹脂をすりつける曲率半径,CFRPの剛性をパラメータとして検討した.その結果,CFRPが曲げ引張状態になる場合,隅角部へ樹脂の曲率半径を大きくすること,炭素繊維シートの積層数を増加することで,断面欠損のない試験体の最大荷重まで回復することがわかった.
複合構造の代表的な部材であるコンクリート充填鋼管を対象に,設計,施工,維持管理,および研究開発等について,その歴史から最新の事例までを取りまとめた.この種の構造物の設計・施工関係技術者や研究開発者に有益な情報を提供することを目的としている.鉄道構造物,道路構造物および建築物への適用事例を整理し,土木と建築における規基準に基づく試算や比較・考察を行った.供用されているコンクリート充填鋼管部材の維持管理の実態を示した.国内外の新たな適用事例や研究段階の技術を紹介している.最後に,土木学会複合構造標準示方書等に示されている非線形有限要素解析の構成則等を用いた試算を行い,非線形有限要素解析の活用方法について整理した.