日本重症心身障害学会誌
Online ISSN : 2433-7307
Print ISSN : 1343-1439
41 巻, 2 号
選択された号の論文の281件中101~150を表示しています
一般演題
  • 森下 純子, 中村 全宏, 泉川 仁美, 吉野 綾, 藤田 晴子, 弘中 祥司
    2016 年41 巻2 号 p. 238
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 心身障害児(者)はう蝕罹患率が高く、しかも重篤なう蝕を有するものが多いと言われることがある。しかし実際には、健常者と比較してう蝕に罹患しやすい特性を持っているわけではなく、大差はない。それは日常の口腔清掃に問題となることが多いからと思われる。口腔清掃指導上問題となる点は、歯磨き習慣の有無、うがいの可否や食習慣などがあげられる。これらの問題を解決できないと歯科疾患に罹患する確率が高くなる。 そこで今回、乳酸菌抗菌ペプチドを含有した歯磨剤(オーラル・ピース®、以下、OP)を重症心身障害児(者)の口腔清掃に使用したので、その概要を報告する。 対象と方法 今回の歯磨剤OPの使用による口腔清掃指導の対象は、嚥下機能には問題がなく、うがいのできない重症心身障害児(者)とした。口腔内状況、食事状況、家族環境などをまとめ、この歯磨剤の受け入れ状況やプラーク付着状況で効果を評価した。 結果と考察 この歯磨剤OPを使用した後の結果では明らかな改善傾向はみられなかったが、使用後う歯が増加することはなかった。 医薬部外品歯磨剤の基本成分には、清掃剤、発泡剤、潤滑剤や香味剤以外に消毒効果の高い薬用成分やフッ化物が含まれている。そのため、うがいや吐き出しができない心身障害児(者)には使用できない。飲み込み可能な歯磨剤もあるが、成分から判断してなかなか導入を勧められなかった。しかし、OPは食品から生成した成分を使用していて十分な殺菌効果もあり、嚥下しても安全な歯磨剤として、口腔清掃に有用な製品と考えられた。 結語 飲み込んでも安全な歯磨剤を使用して効果が確認できた。今回の使用では明らかな導入前後の違いは認められなかったが、さらに対象者を拡大して、安全性と効果について検討する予定である。今後これらの効果についての評価として唾液流出量の測定法や詳細な細菌学的検索など加え有用性を検討したい。
  • 上田 博臣, 福田 八重美, 杉本 裕子, 高木 陽子
    2016 年41 巻2 号 p. 238
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 食道経由経腸栄養用チューブ(以下、EDチューブ)が計画外抜去されると誤嚥のリスクや透視下で再挿入しなければならず身体的負担が大きい。今回、EDチューブを安全に管理することを目的に5年間のインシデント報告から計画外抜去に至る要因を振り返ったので報告する。 対象 調査期間中にEDチューブを留置している患者25人のうち、当センター入院中にEDチューブを計画外抜去した1〜18歳までの重症心身障害児(以下、重症児) 研究方法 2010年4月〜2015年3月のEDチューブに関するインシデント報告46件のうち35件の計画外抜去のインシデント報告から要因を抽出する。 結果 計画外抜去につながる「分泌物、発汗が多い」「NPPV・ハイフローセラピー」「手指が動く」「体動が激しい」の4つの要因を抽出した。 考察 重症児の中には、筋緊張が強く嚥下が上手くできないことで口腔内に唾液や「分泌物が多い」状態となり口腔や鼻腔から溢れていることが多くEDチューブを固定するテープが剥がれやい状況にある。また、中枢性の低換気や上気道の閉塞により「NPPV・ハイフローセラピー」による治療が必要となり、NPPVのマスク内は加温加湿されており固定のテープが剥がれやすい状況にある。そして、気道閉塞などの不快な状況や心理的ストレスの増強により筋緊張を増強させ「分泌物、発汗が多い」状況を招きEDチューブを固定するテープが剥がれやすい状況を招いたと考えられる。入院に伴う環境の変化や、重症児にとって日常のケアに慣れていないスタッフに起因する心理的ストレスが児の筋緊張を強め「体動が激しい」「手指が動く」状態を引き起こし、EDチューブを引っ掛けて抜去にいたることも考えられる。 まとめ 筋緊張の強いアテトーゼ型脳性麻痺児や、環境や人の変化などに敏感で心理的ストレスを受けやすい重症児は、計画外抜去にいたる要因が複数該当しており計画外抜去を繰り返していた。
  • 仁宮 真紀, 秋山 才美, 箕輪 輝
    2016 年41 巻2 号 p. 239
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児(以下、子ども)に関わる看護師は、子どもの意思や身体状態のサインの読み取りに困難を感じていることが指摘されている。そこで、重症心身障害児病棟において季節ごとの行事をテーマとした余暇活動を実施し、子どもとの関わりを通しての看護師の気づきを明らかにすることを目的とした。 方法 研究デザインは質的記述的研究とした。重症心身障害児病棟勤務3年未満の看護師を対象とし、2016年3月〜4月に研究者が作成したインタビューガイドを用いて、一人につき約30分のインタビューを実施した。得られたデータから逐語録を作成し、類似性のある文脈毎に分類した。 倫理的配慮 研究の目的と方法を説明し、個人情報の保護と匿名化、研究参加と途中辞退の自由、個人評価には全く関係しないこと等を口頭および文章で説明し承諾を得た。所属施設の倫理審査委員会の承認を受け実施した。 結果 研究参加者は7名の看護師であり、分析の結果、6つのカテゴリーが抽出された。 1.子どもなりの表現方法を新たに発見し、今後の関わり方法を模索する、2.いつもとは違う環境や雰囲気を感じてもらう工夫を行う、3.子どもが育つ場のあり方を再考する、4.在宅で生活している子どもと家族の生活を想像する、5.子どもの表現をスタッフ間で共有することの重要性を感じる、6.安全に余暇活動ができる方法を模索する。 考察 看護師は余暇活動援助において、子どもの表情や意思の表出を細かに注意深く捉えようとしていた。そして、捉えた反応をスタッフ同士で言語化してその場で伝えあい、その反応を共に確認し合うことの重要性を感じていた。この気づきは、子どもに対する対象理解を深めることや、スタッフ間のコミュニケーションの向上にもつながっていた。余暇活動援助は子どもの発達を促す援助であると同時に、重い障害がある子どもに関わる看護師の教育という視点からも重要であると考える。
  • −経過記録に焦点をあてての一考察−
    黒木 美登里, 柿原 富美
    2016 年41 巻2 号 p. 239
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    目的 A施設の看護記録は、NANDA-I看護診断と考案した「ウエルネス型看護診断」を活用し、問題思考型の記載を行っている。しかし近年では、利用者の高齢化や加齢に伴う身体的変化が増加しており、重症心身障害児(者)(以下、重症児)の特徴からどのような情報を残し伝えていくべきなのか疑問が生じてきた。そこで今回、経過記録に焦点をあて現状を分析し、重症児にとって望ましい看護記録の示唆を得たので報告する。 結果 A施設に従事する看護師13名で、グループインタビューを行った。その結果、<利用者に適した看護診断名選択困難><記録による情報共有困難><利用者の言語的表現が困難なことによるアセスメント困難><毎日変化のない記録><看護師の記録に対する疑問や迷い><利用者に適した看護診断活用><利用者の喜怒哀楽を捉える記録><有効なフローシートの活用>の8つのカテゴリーとそれに伴うサブカテゴリーに分類された。 考察 利用者の状態変化に伴う記録の読みにくさや重要な情報が見逃されやすいことは、経過記録に、医療と生活に関わる内容が混在していることが要因と考えられる。また、利用者の表情や動作をどのように捉え、判断し記録に残すのか、客観的な情報を記録することの難しさを感じている。そのため、利用者のありのままを表現できる記録は、利用者の『いつも』の状態を把握できること『いつもと様子が違う』という利用者の些細な変化を捉えることにつながるのではないかと考える。さらに、『いつも』の積み重ねが客観的データとなり、利用者理解にもつながると考える。 結論 1.現状の記録からは、8つのカテゴリーに分類された。2.重症児にとって望ましい記録とは、医療と生活記録の混在がなく、利用者の状態、変化を継続的に追える記録。利用者の些細な反応や動作を捉え、利用者のありのままを表現し、家族を含めた記録。フローシートの有効活用が求められる。
  • 近藤 正子, 杉原 康子, 脇 暁子, 船戸 正久
    2016 年41 巻2 号 p. 240
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 大阪発達総合療育センターフェニックスが創設されて10年目となる。2〜3年前から亡くなられる方もおられ、ACP(アドバンス・ケア・プラン)を立案するようになった。昨年までに看取りとなった方の反省から準備や対応等がスムーズに行われていなかったこと、在宅移行支援においてもACPを立案したこともあり、統一した書式の必要性を感じ作成に至った経過を報告する。 経過 平成27年4月に心理士、MSW、グリーフケアアドバイザーの3人で「グリーフケア会議」と命名し発足する。月に1回会議を繰り返し、家族への病状説明からACP立案、ご家族の要望、スタッフの準備、後日に分けた確認表、さらに1周忌までの対応などを検討した。確認表を看護部の主任会でも検討し、その後から会議のメンバーに主任会の代表が参加した。確認表からフェイスシート(基本情報)、ACP、ACP確認表、カンファレンス記録と必要な書式を作成した。この書式を病棟で試行し意見を聞きながら、医師や看護部に会議を通して「事前ケアプラン〜安心して日々を過ごすために〜」を周知した。その後は医師、病棟看護師等をメンバーに加え月に1回会議を開催している。 まとめ 統一した書式の使用をきっかけに、ACPや看取りはその方の人生の一部であることを実感し、寄り添い、ご家族とも一緒に考えるときを大切にできたらと考える。今後は、これまでに作成したACPや看取りケースについてもまとめていきたい。
  • 守友 弘美, 大森 啓充, 岡 美樹, 岡原 寿子
    2016 年41 巻2 号 p. 240
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))は全国で約38,000人いるといわれている。国立医療学会の報告によると、がん死亡率は年々増加している。重症児においても例外ではなく、高齢化に伴い、がんは今後重要な問題になると予測されるという報告がある。がん治療における終末期の疼痛緩和には麻薬投与を選択される場合が多いが、公法人立の重症心身障害施設は125施設ある中で、薬剤師が常勤でない施設も多く、国立病院機構では麻薬管理が十分に行われる体制にある。このような状況において、重症心身障害者の50代女性で、右乳房の腫瘤に気づき、針生検にて乳がんと診断されホルモンレセプターが陽性にて患者本人の負担を考慮し、ご家族とも相談しホルモン療法を開始した。その後、胸筋温存乳房切除術を行ったが、2年後には多発肝転移、多発骨転移、多発リンパ節転移、多発皮膚転移を認めた。疼痛緩和のために麻薬を使用する時期を、医師とともに検討し、薬の効果については薬剤師と治療を進めていった。家族は遠方で、なかなか面会に来ることができなかった。私たちは、成年後見人を介して再三にわたり疼痛緩和について患者家族と意思確認を行っていった。残念ながら麻薬使用して1カ月後に永眠された。今回の症例は、疼痛緩和の目的で麻薬投与の試用期間を見きわめながら、治療していく経過の中で、家族の意思を尊重する関わりの大切さと、身取りに際して、遠方の家族の心理的支援の必要性を学ぶことができた。また成年後見人を介してご家族の希望と患者本人の負担を軽減するため、医師を中心に他病院とも連携しながら患者家族の気持ちに寄り添い疼痛緩和を進めていった。この経過において重症児の緩和ケアに関する多くの学びがあったので報告する。
  • −医療ケアチームで考える事前ケアプラン−
    益子 由美, 友野 博子, 梶原 綾, 井ノ上 智世
    2016 年41 巻2 号 p. 241
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    重症心身障がい児(者)施設である当施設の現在の長期入所者は63名である。病棟は入所者にとっての生活の場であり、入所者はいずれ終末期を迎える。当病棟においては、ほとんどの入所者は家族の面会があり、病状の変化があれば医師はその都度家族に説明を行い、家族とスタッフで治療や生活に関して相談し、家族の希望を尊重しながら関わっている。2013年の入所者の突然死を機に、入所者への起こりうる危機的状況への医療介入の是非や範囲に関して、家族の気持ちや希望を医療者側が事前に把握しておく必要性への意識が高まった。現在、必要度の高い入所者から、家族と医療ケアチームが入所者の最善について話し合い、事前ケアプラン(以下、ACP)を立案している。しかし、入所者の中には、親が他界している、高齢により認知機能が低下している、親以外の家族や親類と疎遠である、などの理由により家族に判断を求めることが難しい状況も少なくない。厚生労働省は、「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」内で、人生の最終段階における医療およびケアの方針の決定手続きにおいて、患者の意思の確認ができない場合、家族がいない場合、および家族が判断を医療・ケアチームにゆだねる場合には、患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とする、と明記している。しかし、実際には、話し合いのタイミングがわからない、家族の参加や希望がない中で、話し合った内容についての後ろ盾がなく、決定事項に対してスタッフの中に迷いがあるなど、入所者にとっての最善を、いつどのように評価するかが難しいという現状である。今回、医療ケアチームで、本人の最善の利益について多面的に話し合い、ACPを作成した事例を経験したので報告する。
  • 雨宮 馨, 高嵜 瑞貴, 小沢 浩, 冨田 直, 宮田 章子
    2016 年41 巻2 号 p. 241
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 医療依存度の高い重症心身障害者の急変は十分に予測されるものであるが、事前に対応を検討なしに急変した場合、予期せず医療依存度が上がった状態で在宅療養に移行し、対応に苦慮するケースが多い。今回、急変時の事前の対応決定を行い、自宅で穏やかに過ごすことを目標に在宅支援体制を整えたことで、状態安定につながった重症児の一例を報告する。 症例 11歳男児 脳性麻痺 嚥下障害 難治性てんかん(大島分類1):在胎23週、経膣分娩で出生し、大脳全体の著明な萎縮を認め、慢性肺疾患、難治性てんかんが合併した。在宅移行後は呼吸器感染の入院が頻回であった。5歳時単純気管切開・胃瘻造設を行い、6歳でケトン食療法を導入した。誤嚥が減り入院回数は減少するも、呼吸器感染時は重篤であった。7歳時に家族と今後の急変時の対応について、・人工呼吸器装着せず、急性呼吸不全の際は酸素やモルヒネ使用による呼吸緩和を中心に行うこと・心肺停止時は蘇生を行わず、穏やかな看取りを目指すことを決めた。内容を記した書面は、複数の関係医療機関に送り、協力を依頼した。8歳時に重症肺炎で急性呼吸不全に陥ったが、小児専門病院にてモルヒネを用いた呼吸緩和を行い、呼吸器を装着せず改善した。その後は訪問診療・訪問薬局を導入し、新たなショートステイ先を確保した。同時に心身の不調を抱える母の診療を行った。体調が安定し、1年間入院なく自宅で家族と過ごせた。 考察 死に直面した際は本人に侵襲的なことを減らし、家族と穏やかに過ごしてもらうケアを具体的に事前のケアプランとしたことで、在宅で安定して過ごすために何が必要かを家族と話し合いながら、在宅支援体制を整えることができた。急変時は主治医が不在な状況であったが、入院先で事前の書面に基づきケアプランが行われ、児が生存したことで、家族が児の生きる力を感じられ、その後の家族の在宅介護を継続する力につながったと考える。
  • −急性重症呼吸不全に対するモルヒネの効果−
    冨田 直, 生田 陽二, 三山 佐保子, 雨宮 馨
    2016 年41 巻2 号 p. 242
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに オピオイドは非癌患者の呼吸困難に対しても効果があるとされる。今回、呼吸苦緩和および呼吸負荷軽減の治療の両方の目的でモルヒネを使用し、治療困難な肺炎から回復した症例を経験したので報告する。 症例 症例は8歳男児。原病は脳性麻痺・慢性肺疾患。在胎23週出生体重572gの超低出生体重児と脳室内出血による後遺症で大島分類1の重症心身障害児となった。1歳1カ月で新生児病棟退院後、呼吸不全を伴う下気道炎を繰り返し5歳時に単純気管切開を施行されている。その後、主治医と家族で急変時の対応について話し合い、人工呼吸器装着はしない方針となった。今回RSV感染による最重度の呼吸不全を伴う肺炎を発症し入院。事前の決定事項を家族に再度確認の上、方針に従いステロイド投与、RTXレスピレーター、肺理学療法、持続吸入等最大限の治療を行った。しかし、低酸素血症の進行を認め、治療継続による回復は困難と判断。入院4日目にICUに入室し、集中治療科の協力を得て治療と緩和両方の目的でモルヒネ持続点滴(0.4mg/kg/day)を開始した。病状はその後も進行し開始3日目にはSaO2のベースが40-60%台となり尿量も低下したが、それ以上の悪化はない状態が3日間持続。その後、ゆっくりと呼吸状態が改善、開始8日目にはモルヒネ減量開始でき、9日目に中止。入院71日で退院した。 考察 呼吸困難に対するオピオイドの効果は苦痛緩和以外に呼吸数低下による呼吸仕事量低下、肺血管抵抗低下による心負荷軽減などがある。RSV肺炎に対しては特異的な治療がなく、対症療法を行い回復を待つことになる。今回の症例ではモルヒネが直接最重度の肺炎を治療したわけではないが、呼吸困難による負担を軽減することで回復を助ける役割をしたと考えている。 結語 急性の呼吸困難時、オピオイドの使用は呼吸苦をとるだけでなく回復を支える治療的な効果を得られる可能性がある
  • 田邉 良, 内田 智子, 石井 光子, 水流 正人, 小川 智美, 北村 千里
    2016 年41 巻2 号 p. 242
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障がい児(者)(以下、重症児者)は呼吸障害を認めることが多く、呼吸状態を良好に保つことは重症児者のQOLに直結する。さらに重症児者では経年的に呼吸障害が進行しやすいため、日頃からの中長期的視点に立った呼吸ケアが重要となる。昨今、医療の進歩に伴い超重症児を含む重症児者が増加しており、当センターでも現在、侵襲的、非侵襲的人工呼吸器を合わせて多い日には30人以上の呼吸器患者を診ている。短期入所も多く受け入れており、扱う医療デバイスが多く、新規医療デバイスへの精通も課題となっている。また、当センターは計4病棟で構成されており、ケアの均一化も求められている。そこで、呼吸ケアや医療管理の質の向上と効率化を目的として小児科医、各病棟看護師、外来看護師、理学療法士、臨床工学士、病棟介護福祉士の多職種で構成する呼吸ケアワーキンググループ(呼吸ケアサポートチーム)を2013年に立ち上げ、活動している。活動内容と今後の課題を合わせ報告する。 活動内容 1.定例会議を毎月開催し、利用者の呼吸障害を報告(肺炎による点滴加療例や、呼吸障害進行例のまとめ)。 2.症例検討会、ベッドサイド検討会の実施(効果的で安全な治療、姿勢ケア、排痰法を多職種で検討)。 3.呼吸に関わる学習会の企画(病態や手技、医療デバイスなど)。その他に、年一回のケース会議前のEtCO2測定ルーチン化、人工呼吸器チェック表の簡略化と統一化、理学療法士による呼吸リハとしてのバギング指導スキルの習得、呼吸状態チェックシートの作成、病棟での看護師・介護福祉士による安全で効率的な腹臥位保持スケジュールの作成を行った。 今後の課題 多職種による活動のメリットを生かして、症例検討等を通じて中長期的視点に基づいた呼吸障害へのより効果的なアプローチを行っていきたい。さらに外来や短期入所チームとも連携を取り、短期入所者の呼吸障害へのアプローチも検討していきたい。
  • −看護師の立場から−
    水流 正人, 田邉 良, 石井 光子, 北村 千里, 小川 智美
    2016 年41 巻2 号 p. 243
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに A施設の医療型障害児者入所施設部門は、132床、4病棟で構成されている。呼吸器装着者は約30名、経年的に入所者の呼吸状態も悪化しており、看護師が多職種と連携し、効果的な呼吸ケアを行っていくことが求められるようになった。 呼吸ケアの向上を目的として医師・理学療法士・看護師・臨床工学技士・介護福祉士・保育士で構成する呼吸ケアワーキンググループ(呼吸サポートチーム)を立ち上げ2013年から活動している。看護師の立場からの各病棟間での情報の共有化や、ケアの均一化を推進してきた。これらの活動の中から、呼吸器チェックリストの見直しと多職種との連携による腹臥位のスケジュール化について報告する。 活動内容 1)呼吸器チェックリストの見直し 各棟で使用していた呼吸器チェックリストは、確認する項目やレイアウト等が異なっており、チェックリストの簡素化、統一化が課題となっていた。そのためワーキングメンバーが各棟の意見を聞き、臨床工学技士と協力して書式の修正と基準を作成した。使用に際しては説明会を行い、「以前使用していたものより使いやすくなった」「病棟間で統一し基準化して良かった」などの意見が聞かれた。 2)多職種との連携による腹臥位のスケジュール化 人工呼吸器装着者や変形の強い方などは、腹臥位ドレナージを行う際に複数の介助者が必要となり、看護師だけでは安全で効率的に腹臥位を行うことが困難であった。そのため多職種と情報を共有し、利用者個々の日常生活を見直した。その結果、看護師・理学療法士・介護福祉士・保育士が利用者のベッドサイドに集合し、腹臥位ドレナージを行うという一連の流れをスケジュール化することができた。 考察 多職種が連携し利用者個々の日常生活にあわせた肺ケアを検討しスケジュール化することや、安全に呼吸器を使用するためのチェックリストの修正や基準化は、利用者の安全やスタッフの質の維持にもつながると考える。
  • 大塚 太志郎
    2016 年41 巻2 号 p. 243
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに H26年度人工呼吸器関連肺炎(以下、VAP)を繰り返し発症した人工呼吸器装着重症心身障害児(者)2名に対し、VAP発症の軽減を目指し、口腔ケアの強化とスクイージングに取り組んだ。 方法 摂食嚥下認定看護師、呼吸療法資格看護師、理学療法士に指導を受け、スタッフ全員が対象に応じた口腔ケアとスクイージングの手技を統一した。 結果 研究開始から7カ月の期間にA氏は2回、B氏は3回VAPを発症した。A氏は研究開始1カ月以内にVAPを繰り返したので、呼吸認定看護師に相談し、背側荷重側肺へアプローチするようスクイージングの方法を変更した。以降VAPの発症はなかった。B氏は特に副鼻腔炎で気切周囲より悪臭が強かったが、口腔ケアを強化したことで臭いや口腔内の乾燥が軽減した。スクイージングの方法は写真で提示し統一を図った。B氏は取り組み開始3カ月間、VAPの発症はなかった。しかし、4カ月目に入りVAPを繰り返すようになった。そのため、口腔ケアとスクイージングの継続とともに、カフアシスト®を取り入れてスムーズな排痰を促し、VAPの予防に努めた。 考察 定期的に口腔ケアとスクイージングを実践することで、VAPは軽減できると期待していた。しかし身体的特徴が異なる重症心身障害児にとっては効果が得られにくかった。患者の個々に合わせたスクイージングの方法を切り替えたことで、A氏は明らかな効果が得られた。基礎疾患に副鼻腔炎があるB氏にとって歯ブラシによる口腔ケアが効果的であったと思われたが、研究期間中期以降B氏はVAPを繰り返ししたため、B氏は現状の排痰介助だけではVAP予防には不十分であった。 まとめ 多様な要因で引き起こされるVAPに対して口腔ケアの充実と個別的なスクイージングの介入は重要である。また、身体的特徴が異なる患者は、実践の評価を行いながら、より効果的な方法を検討していく必要があることがわかった。
  • 益山 龍雄, 岩崎 裕治, 加我 牧子
    2016 年41 巻2 号 p. 244
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに Rett症候群は、特徴的な手の常同運動を呈し、主に女児に発症する神経発達障害である。症状は年齢依存性に変化し、急速な発達退行の後に回復期や安定期が存在する。成人期には、動きが減り、四肢の廃用性萎縮、関節拘縮を認め、痙縮、固縮、ジストニアなどが著明になる。現時点では、まだ根本治療はないが、生命予後を改善するものとして、これまで側彎予防や胃瘻による栄養改善などが報告されている。今回、夜間非侵襲的陽圧換気療法(夜間NPPV)の導入により、全身状態が改善した2例を経験したので報告する。 症例1 19歳女性 2歳で伝い歩き、以降退行。発語なし。3歳よりてんかん発作を認めた。14歳時に急性肺炎2回、16歳時にも2回急性肺炎から呼吸不全を来した。夜間NPPV導入、胃瘻造設を行った。NPPV開始後、状態安定し入院なく経過している。 症例2 33歳女性 3歳で座位、以降退行。発語なし。2歳半でてんかん発作を認めた。18歳より経管栄養併用、23歳時に胃瘻造設。25歳から感染を契機として急性呼吸不全を繰り返しNPPVによる治療を繰り返すようになった。28歳より在宅夜間NPPV開始した。設定の調節後、全身状態良好となり入院なく経過している。 考察 今回、経験した2例は、頻回の呼吸器感染、呼吸不全を繰り返した。入院治療時には、気管内挿管後に抜管困難となることを避けるために、急性期の治療としてNPPVを行い状態が改善したが、退院後、症状の改善と悪化を繰り返した。そのため、在宅での夜間NPPVを開始したところ状態が改善した。Rett症候群は、関節拘縮などにより、しだいに胸郭の動きが乏しくなるため、呼吸器感染症を繰り返す場合や呼吸不全を来すようになった場合には、NPPVを導入することが、気管切開せずに呼吸状態を改善でき、生命予後を改善するために有用である。
  • 池田 梓, 辻 恵, 井合 瑞江
    2016 年41 巻2 号 p. 244
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    背景 小児神経筋疾患の呼吸不全に対するNPPV(non-invasive positive pressure ventilation)は推奨されており、また小児の急性呼吸不全に対するNPPVの使用も近年広まりつつある。在宅NPPVにおいても小児領域での使用経験が蓄積されてきているが、国内でのまとまった報告は少ない。 方法 2001年から2015年までの間に当院において在宅呼吸器を導入した症例について、診療録をもとに後方視的に検討した。 結果 NPPVは2002年より導入されており、対象症例は53例であった。導入年齢(中央値)は、12歳であり、TPPV(tracheostomy positive pressure ventilation)と比較して年長での導入が多く、年齢分布は乳幼児期と学童期にピークがある2峰性であった。基礎疾患は、神経筋疾患19例、先天異常12例、代謝・変性疾患8例、周産期障害6例、急性疾患後遺症2例、難治てんかん2例、蘇生後脳症1例、その他3例であった。導入契機は、急性呼吸不全の治療からの移行が35例、計画導入が18例であった。ほとんどが夜間のみの使用であり、導入前後でpCO2の改善や入院回数の減少がみられた。転帰は、継続60%、中止6%、気管切開+TPPV 13%、死亡17%であった。神経筋疾患では、継続が73%と多く、気管切開+TPPVが5%と少ない傾向があった。先天異常と代謝・変性疾患では継続率が低かった(それぞれ58%、50%)。 考察 神経筋疾患は在宅NPPVの継続率が高いことが確認された。一方で、その他の疾患を基礎にもつ重症心身障害児においても在宅NPPVは継続可能であり、慢性呼吸不全の管理方法として選択肢となりうる。
  • 雨宮 馨, 黒川 洋明, 阿部 恵, 藤岡 由香, 野村 芳子, 積田 綾子, 中村 由紀子, 小沢 浩, 宮田 章子
    2016 年41 巻2 号 p. 245
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに ハイフローセラピー(以下、HFT)は、非侵襲的換気療法の選択肢の一つである。非侵襲的陽圧換気療法に比べ、利用者への侵襲や違和感が少なく導入しやすい。小児科領域でも使用されているが、慢性の呼吸障害を有する重症心身障害児者(以下、重症児者)への使用報告はない。今回、重症児者に在宅HFTを行い、呼吸状態が改善したため報告する。 対象 当センター外来通院している重症児者4例[脳性麻痺3例(アテトーゼ型2例、痙直型1例)、奇形症候群1例、年齢4〜38歳]。全例で年1〜2回、肺炎での入院があり、嚥下障害による経管栄養、座位でのむせ込みがみられ、吸引を必要としていた。2例は夜間の低換気があった。 方法 チェスト社のVivo30をCPAP設定圧8〜12H2Oで使用、1例は酸素投与を併用した。3例は夜間装着し、成人アテトーゼ1例は覚醒後1時間のみ装着した。 結果 夜間装着3例は朝に口腔から分泌物排出が観察された。また導入前のSpO2低下に改善がみられ、日中の活気も改善した。全例で分泌物、吸引回数の減少がみられ、1例は吸引が不要となった。慢性的な二酸化炭素値上昇を認めた2例は、値の低下がみられた。HFT導入後、半年間で4例中2例は入院がなく、1例は肺炎で入院するが、HFTを継続し、短期間で回復した。1例は数カ月安定していたが、肺炎罹患後、喉頭気管分離術の選択に至った。 考察 HFTの効果として、陽圧効果、呼吸仕事量軽減、死腔の洗い出し効果、肺胞換気の増大、加温加湿による気道分泌除去効果などがあげられている。重症児者に効果があった要因として、主に軽度の陽圧と加温加湿による気道分泌除去の効果が考えられる。また、HFTは鼻カニューラ装着のみで加温加湿された気流は冷風に比べ快適なものとなっており、感覚過敏がある重症児者でも受け入れが可能であった。装着が楽である点は家族が治療を継続できた要因として大きい。今後、HFTは重症児者の呼吸障害へ選択肢として検討する必要がある。
  • 白石 弘樹, 二村 眞秀, 山田 正人, 中村 有里
    2016 年41 巻2 号 p. 245
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は40代女性。当施設に入所中、歯科治療のため他病院にて入院治療中症全身麻酔により急性無気肺を発症し、24時間マスクによる人工呼吸器管理が必要となり、当施設に再び帰院となった。しかし、マスクによる人工呼吸器に対して拒否傾向が強く、経鼻酸素に変更した。しかしCO2ナルコーシスとなり、再び他病院へ入院となる。再度マスクによる人工呼吸器管理になるが拒否傾向が強く、途中からネーザルハイフローによる呼吸管理となった。しかし、PCO2は再度上昇し始めた。これに対し、陽・陰圧体外式人工呼吸器のcontinuous negativeを-20cm/H2Oを5分間とcontrol modeの-21cm/H2O・INS-20cm/H2O・ENT+6cm/H2O・I:E比1:4を1時間の二つのmodeを朝夕の2回行うことでPCO2の改善が得られた。しかし、まだ、ネーザルハイフローの換気では少し不十分と考え、再びマスクによる人工呼吸器を装着したところ拒否傾向は見られなかった。PCO2は少しずつ低下したが、マスクによる人工呼吸器と陽・陰圧体外式人工呼吸器のフィッテイングが少しあっておらず息苦しそうな感じが見られたため、マスクによる人工呼吸器のライズタイムを2から1へ変更したところ、さらにPCO2の改善が得られた。現在では、2時間程度マスクによる人工呼吸器の離脱が行え、日中はネーザルハイフローで、夜間はマスクによる人工呼吸器管理にて落ち着いている。
  • 豊野 美幸, 沢石 由記夫
    2016 年41 巻2 号 p. 246
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児(者)では、胃瘻造設後に胃食道逆流症(GERD)を合併する例や、脊柱側彎症や胸郭変形により、胃から十二指腸への排泄が悪くなる例がある。胃瘻栄養管理が困難な5例に経胃瘻的空腸チューブ(PEG-J)による栄養管理を行ったので報告する。 症例1 8歳、男児。脳性麻痺。生後より経鼻経管栄養管理を施行していたが、嘔吐が多く8歳になっても体重8.6kgと体重増加不良あり。pHモニターでGERD 18.5%、腹部CTで上腸管膜動脈症候群を認めたため、胃瘻造設+PEG-J挿入し栄養管理を行い体重増加した。 症例2 11歳、男児。広範なPVLによる脳性麻痺、てんかん。経鼻経管栄養を施行していたが体重増加不良。腹部CTで脊柱の前彎変形により脊柱と胸骨に十二指腸移行部がはさまれ胃からの排泄不良。胃瘻造設+PEG-J挿入を行った。 症例3 12歳、男児。常位胎盤早期剥離、重症仮死で出生。脳性麻痺、てんかん。経鼻経管栄養管理を行っていたが徐々に注入に時間がかかるようになった。pHモニターでGERD 12%、上部消化管造影で十二指腸水平部の通過遅延あり。胃瘻造設+PEG-J挿入を行った。 症例4 16歳、男児。多嚢胞性脳軟化症による脳性麻痺。14歳時に誤嚥性肺炎で呼吸不全となり、気管切開+喉頭気管分離術施行。食道裂孔ヘルニアあり、経鼻EDチューブによる空腸栄養を行った。EDチューブの交換困難のため、15歳時胃瘻造設+PEG-J挿入施行。 症例5 32歳、女性。Rett症候群、四肢麻痺、重度精神遅滞。26歳時、敗血症で入院した際、気管切開、胃瘻造設施行。29歳時、喉頭全摘出術を行ったが、術後頻回嘔吐、胃からの排泄不良あり、PEG-J挿入を行った。 考察 側彎や胸郭変形の進行、脊柱と腸管の位置関係により胃からの排泄不良を来しており、胃瘻造設前の腹部造影CTや上部消化管造影検査による十分な評価が重要である。重症心身障害児(者)において、PEG-Jは有用な栄養管理法である。
  • −多変量logistic回帰分析によるシスタチンC高値予測モデルの作成−
    泉 明佳, 郷田 直子, 平石 操, 花田 華名子
    2016 年41 巻2 号 p. 246
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    目的 重症心身障害児者(重症児者)の腎機能評価では、これまでにも血清シスタチンC(Cys-C)、血清β2ミクログロブリン(B2M)の有用性が報告されている。しかし、重症児者全例に対してCys-CやB2Mの測定を行う必要性は低いと思われ、詳細な腎機能評価が必要な症例のスクリーニングが望まれる。そこで、患者背景と一般的な血液検査項目からCys-C高値を対象とする予測モデルを検討した。 対象・方法 対象は2015年4月から11月に旭川児童院入所中でCys-Cを測定した327例とし、234例を教師群としてStepwise法(変数増加法)にて説明変数の選択と予測モデルの作成を行った。予測モデルの内的妥当性の検証はReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線の作成、曲線下面積(AUC)の算出を行い、外的妥当性の検証は93例を検証群として予測式の検証を行った。 結果 対象者327例中、Cys-C高値例は52例(15.9%)であった。予測モデルは性別、アルブミン、尿素窒素、クレアチニン、運動機能の程度(寝たきり)から作成した予測式が最適となり、内的妥当性の評価ではAUC:0.87、外的妥当性の評価においても検証群のAUCは0.93であった。また、教師群における感度・特異度分析では、予測式より計算される陽性確率のcut off値を0.22とした場合では、感度77.3%、特異度81.6%であった。 考察 今回作成した予測モデルの内容では、使用する説明変数は臨床的に腎機能を反映すると考えられ、モデルの妥当性が示された。予測モデルの評価では、内的妥当性はROC曲線、AUCともに良好であり、外的妥当性では検証群においてもAUCの差は見られないことから、重症児者に対して広く適応可能なモデルであると考えられる。また、感度・特異度も臨床的な実用性を満たしていると考えられる。 結語 重症児者に対する日常検査項目を利用した予測モデルの利用はより正確な腎機能評価が必要な症例のスクリーニングとして有用性が高いと考える。
  • 杉森 光子, 明城 和子, 伊東 妙子
    2016 年41 巻2 号 p. 247
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害者のがん検診は容易でないが、積極的に大腸ファイバースコピー(以下、CF)を行うことにより大腸がんと診断された症例を経験したので報告する。 症例1 男性。大島分類1。栄養は胃瘻からの注入。64歳5カ月イレウスで外科受診した際S状結腸癌と診断、S状結腸切除術を受けた。術後のCFで上行〜下行結腸に多発性ポリープを認め、そのうちの1つは半周性で出血を伴っていたため、3カ月後右半結腸切除術を受け、上行結腸癌と診断された。Stage2だが脈管侵襲があるため化学療法(UFT内服)を開始したが、尿路感染・気道感染の反復、嘔吐のため中止した。術後1年5カ月のCTで右肺S4に転移がみられ徐々に増大しているが、本人のQOLを考慮して治療は行わず経過観察中。現在術後3年5カ月。 症例2 女性。大島分類1。ペースト食経口。水分は経鼻胃管から注入。便秘のため、下剤の内服と浣腸を行っていたが、浣腸しても排便がみられないことが多くなった。便ヒトヘモグロビン陽性のため、57歳4カ月時CFを行い、上行結腸癌と診断、右半結腸切除術を受けた。Stage2だが脈管侵襲があるため化学療法を開始したが、嘔吐と腹部膨満で栄養が入らず中止した。術後3年再発を認めない。 症例3 女性。大島分類1。栄養は腸瘻からの注入。血便のため56歳11カ月時CFを行い、多発性ポリープ(良性)。6カ月後のCFで多発性ポリープ、うち1個に粘膜内癌がみられた。定期的(半年〜1年)にCFを行いながら経過観察中。3例とも診断時のCEA、CA19-9は、正常範囲内だった。 考案 重症心身障害者でも他医療機関と連携して積極的に大腸ファイバースコピーを行うことが、大腸がんの診断にとって重要である。スクリーニングに便ヒトヘモグロビンは有用であったが、腫瘍マーカーは有用でなかった。誤嚥や神経因性膀胱などにより感染症が潜在することが多く、化学療法は困難だった。
  • 山本 健司, 藤原 健一, 家納 有美子
    2016 年41 巻2 号 p. 247
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    目的 夜間覚醒中に問題行為(啼泣、自傷、大声)のある患者に対し音楽による睡眠の効果を明らかにする 方法 対象:夜間覚醒中に問題行為のある患者5名 方法:小林弘幸著『ぐっすり眠るためのCDブック』付録のCD音楽を、ベッドサイドにて音量31〜35dBで消灯時間21時〜翌朝7時まで流す。 期間:1)音楽なし 平成27年11月24日〜12月7日の14日間 2)音楽あり 平成27年12月25日〜平成28年1月7日の14日間 評価:睡眠時間、中途覚醒の回数、問題行為の回数、眠剤使用の回数 結果 睡眠時間に変化がなかったのは患者aとbであった、患者aは睡眠時間、中途覚醒の回数、問題行為の回数に変化はなかったが、眠剤の使用回数が減少した。患者bは中途覚醒が増加し、問題行為も増加した。患者cとdは中途覚醒は増加したが、再入眠までの問題が短縮され睡眠時間が増加した。患者eは睡眠時間が減少し、中途覚醒と問題行為も顕著に増加した。 考察 患者aは、啼泣の持続により緊張・チアノーゼ出現するため眠剤を使用していたが、音楽導入後、眠剤の使用回数が減少した。また、患者cとdは、再入眠までの時間が短縮され睡眠時間が増加している。これは音楽により副交感神経が優位となりリラックスできたためと考える。患者bとeは、中途覚醒と問題行為が増加しており、音楽が刺激となって睡眠に悪影響が出たと考える。遠城寺式発達検査の言語理解は10カ月ごろから始まる。音楽により何らかの効果が見られた3名は、患者aは1歳〜1歳2カ月、患者cは2歳〜2歳3カ月、dは10〜11カ月で、言語理解が10カ月以上であった。それに対し患者bは5〜6カ月、患者eは4〜5カ月で、音楽が楽しい刺激となり睡眠の妨げられたと考える。 結論 睡眠を促す音楽は、遠城寺式発達検査の言語理解が10カ月以上の重症心身障がい児(者)に効果がある。
  • 高井 理人, 工藤 裕子, 中村 光一, 八若 保孝, 土畠 智幸
    2016 年41 巻2 号 p. 248
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    緒言 重症心身障害児者(以下、重症児者)では合併症としての誤嚥性肺炎がしばしば問題となる。また、口腔内細菌が起炎菌となることが知られており、口腔ケアの重要性が周知されてきた。今回、在宅重症児者の唾液中細菌数を調査し、細菌数に影響を与える因子について検討したので報告する。 方法 当院患者のうち、訪問歯科診療を受けている在宅重症児者30名(1歳〜40歳、平均年齢13.7±9.7歳)を対象とし、調査期間は平成27年11月から平成28年1月までの3カ月間とした。調査は居宅訪問中(10時〜16時)に行い、舌下部に滅菌綿棒を10秒間浸して唾液を採取し、卓上細菌数測定装置(パナソニックヘルスケア社製)を用いて唾液中細菌数を測定した。また、全身状態(経管栄養、気管切開、人工呼吸器、唾液嚥下の有無)、口腔内状況(歯石、舌苔、齲蝕の有無)について調査し、それぞれの項目と唾液中細菌数との関連を統計学的に検討した。 結果 唾液中細菌数と有意な正の関連を示した項目は、気管切開「有」(p=0.027)、唾液嚥下「無」(p=0.010)、舌苔「有」(p=0.028)であった。 考察 唾液嚥下を認めない者の口腔内は、嚥下反射の低下により口腔内に唾液が長時間貯留するため口腔内細菌が増殖しやすい環境であると考えられる。また、気管切開の影響により嚥下運動が困難になっている可能性がある。舌苔の付着が多い者は、舌の運動性が低いため自浄作用が低下していると考えられ、口腔機能の低下が唾液中細菌数に影響を与えていると思われた。 結語 在宅重症児者において、嚥下機能や口腔機能が低下していると唾液中細菌数が多い。今後、この結果をもとに重症児者に対する誤嚥性肺炎の予防方法について検討する必要がある。
  • −VF検査からみる咽頭期の障害と移動機能・口腔発達の相関の検討−
    鈴木 まどか, 石橋 哲弥, 山田 誠, 山田 直人
    2016 年41 巻2 号 p. 248
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児者(以下、重症児者)の嚥下造影検査(以下、VF検査)についての先行研究は少ない。一方、重症児者の多くは先天的な影響から摂食・嚥下機能障害を呈することが多い。当園では平成22年〜27年の間にVF検査を17名に実施している。その結果から咽頭期の障害と移動機能および口腔機能発達の相関性を検討した。 対象 当園入所者14歳〜70歳(平均42.1歳)の17名(男性7名、女性10名)で、摂食嚥下評価を実施し食事形態や姿勢調整を行っている重症児者を対象とした。本研究は、対象者あるいは保護者へ文書で説明し同意を得た。 方法 対象を横地分類より寝返り不可9名、寝返り可1名、座位可7名の移動機能レベルに分類し、口腔機能発達評価を実施した。またVF検査では咽頭期の評価と食形態や姿勢の調整を行った。介入前後の咽頭期の障害の状態について、移動機能レベルと口腔機能発達段階の相関をR2.8.1にて算出した。 結果 介入前の咽頭期の障害では、移動機能レベルは0.28(p=0.26)で有意な相関が認められず、口腔機能発達段階は0.50(p=0.04)で中程度の相関が認められた。介入後では、寝返り可以上の重症児者3名に改善が認められた一方で3名とも口腔機能発達段階は離乳初期であった。このことから移動機能レベルは0.49(p=0.004)と中程度の相関が認められたが、口腔機能発達段階は0.17(p=0.50)と有意な相関が認められなかった。 考察 介入前では口腔機能発達段階に中程度の相関が認められたことから、口腔機能の発達の未熟さが成人へと発達した身体に対応しきれず、咽頭期の障害へとつながったことが考えられる。介入後では移動機能レベルに中程度の相関が認められ、口腔機能発達段階が未熟な移動機能レベル寝返り以上の重症児者は、代償的方法を実施した際に咽頭期の障害が改善につながりやすいことが示唆された。
  • 津島 久美, 子安 浩子, 柳沼 美穂, 荒木 暁子
    2016 年41 巻2 号 p. 249
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 早期療育の一環として親子入園があり、当センターに年間50組前後が入園する。入園前に病棟看護師が家族と面談し入園中の目標を設定・共有している。今回、経管栄養のみの児に家族が経口摂取を希望し、看護介入により経口摂取が可能となった重症心身障害児を経験したので報告する。 事例紹介 A児、1歳7カ月、CP、超重症児スコア29点、人工呼吸器20時間以上/日装着。児の発する合図や反応は不明瞭だが、母親は児のモニターの心拍数や酸素飽和度の変動、わずかな体動などで児の要求を察しケアしていた。身長-2SD、体重-3SD、NGチューブからミルク・スープ・ソリタ水で総熱量約380キロカロリー/日注入。鼻呼吸(−)、口唇閉鎖(−)、舌突出軽度、嚥下運動確認できず、口腔内乾燥(+)、口腔内・口唇周囲に過敏(+)。 看護の実際 まず、摂食のための口腔の準備状態を整えるために、口腔ケアや間接訓練を継続して実施した。次に、ミルクの他に離乳食前期の注入を開始し、総熱量を増やし体重増加と腸の離乳を図った。また、離乳食を提供するにあたりA児の大豆・小麦アレルギーに対して栄養科と相談し減感作療法を進めた。夜間に濃厚流動が導入されたため、母に休息をとってもらい睡眠・心拍のチェックを続けた。しかし、心拍の上昇が見られたため、注入速度・開始時間・姿勢を調整し、日中座位で安定した。呼吸リハとして、バギング行うことで一回換気量が増え、肺胞が広がり深い呼吸ができるようになった。習慣化された口腔ケア・間接訓練により、徐々に嚥下機能が向上し、唾液嚥下が可能となり、味覚や臭覚刺激への反応も確認できた。 考察・まとめ 親子入園では体調管理と集中訓練が行われ、これが相乗効果となり、口腔機能にも良い影響を及ぼしたと考える。経口摂取の経験が少ない重症心身障害児にも、早期から体調管理と摂食機能訓練を行うことで、経口摂取の可能性を導くことができる。
  • 松元 久美子, 上野 知香
    2016 年41 巻2 号 p. 249
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 当院は、平成25年より食事場面の観察による摂食機能障害が疑われる重症心身症児(者)に対して嚥下造影検査(以下、VF)を実施している。今回、6年間経管栄養に依存している患者に対し、母親の長年「食べさせたい」という思いを受け、多職種によるチームアプローチにより経口摂取が可能となった。 目的 摂食訓練を行い、摂食機能の再獲得を図る 介入前の患者の状態 40歳代 レノックス症候群 30歳代にてんかん重積発作後、経管栄養に依存するようになり、6年が経過。廃用症候群、口唇閉鎖不全、舌運動不良状態 NSTの介入 1)口腔ケアの充実にむけての取り組み 2)間接訓練内容の選択と指導 3)検査前の嚥下機能評価と直接訓練 4)VF実施 5)実施後の摂食支援 結果 食べる口づくりから準備が必要と考え、1日3回へ口腔ケア回数を増やした。間接訓練で首、肩、口唇、舌の運動を続けた結果、3週間ほどで口唇閉鎖が可能になり、舌の動きに変化が見られた。VFでは、ヨーグルトで口腔内から咽頭への送り込みがみられ誤嚥なく嚥下が確認できたためヨーグルト摂取することにした。食後の口腔ケアと姿勢保持等スタッフの指導を行い、統一した方法で継続し、発熱なく経過している。 考察 「食べる口づくり」を目指した結果、口腔に刺激を与え、唾液の分泌を促し、舌の動きが良くなり、口唇閉鎖が可能となった。口腔に刺激を与えることで脳の活性化につなげられたと考える。VF結果をもとに統一した手技の提供とチームで定期的な摂食嚥下機能評価を行いながら、摂食訓練を続けたことが摂食機能向上につながったと考える。これから食べる機能を引きだす食支援をしていきたい。
  • 小田 エリカ
    2016 年41 巻2 号 p. 250
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    目的 口唇閉鎖ができず舌の動きに障害があり、顔をあげて重力で嚥下する痙直型四肢麻痺患児の摂食時の体位の調整により、嚥下しやすさ、むせの低減に効果があるか検証する。 方法 研究期間:平成27年8月13日〜9月2日。 対象 11歳女児、超低出生体重児、脳室周囲白質軟化症、痙直型四肢麻痺。緊張すると後弓反張がみられ姿勢がくずれやすい。ミキサー食を摂取し舌による食塊送り込みが困難。看護師が食事介助した際の座位時の角度、食事中の状況についてフローシートに記録してもらい、その中から30度〜45度(以下、45度)で介助した際と、50〜60度(以下、60度)で介助した際の状態について比較し、食事中の機嫌、むせの回数はマンホイットニー検定、食物の口腔内貯留、緊張、鼻からの逆流、食べこぼしの有無についてはフィッシャー直接確率法を用い、p<0.05を有意と判定した。 倫理的配慮 院内倫理審査委員会の承認を得、研究の主旨について家族に文書で説明し、同意を得た。 結果 口腔内貯留有りは45度20%、60度66%(p=0.022)で、45度の方が口腔内貯留が有意に少なく、スムーズに嚥下していた。食事中むせの平均回数は45度3.8回、60度0.67回(p=0.003)、45度の方が優位にむせが多かった。鼻からの逆流ありは、45度20%、60度50%(p=0.039)で、60度の方が多く、食事中の機嫌、食べこぼし、緊張の有無については有意差がなかった。 考察 45度の方が口腔内の食物貯留が少なかったのは、患児は舌による送り込みができないため、重力で食物を嚥下しており、口腔から梨状窩までの食物の移動がスムーズになるためであるが、一度に流れ込む食塊の多さがむせにつながったと考える。鼻からの逆流が60度に多かったのは、鼻咽腔閉鎖ができないため、咽頭に貯留している時間が影響したと考える。 結語 舌による食塊の送り込みができない痙直型四肢麻痺患児の摂食時の体位は、45度の方が食物の口腔内貯留が少ないがむせやすい。
  • 和田 知美, 前田 美恵子, 向井 みゆき
    2016 年41 巻2 号 p. 250
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児(者)は、摂食機能の発達が障害されていることが多い。そのため、食事は適切な姿勢を介助で行い、誤嚥や窒息などのリスクを防ぐことが必要である。今回、摂食姿勢を検討することで筋緊張を緩和でき、むせの軽減につながった事例を報告する。 事例紹介 A氏。50代男性。脳性麻痺(アテトーゼ型)。大島分類2。普段から筋緊張がみられる。座位時は頸部が後屈していることが多く、周囲の物音に過敏な反応をする。食事はリクライニングチェアに座位となり、後頸部にクッションを当て全介助している。食事中むせ込みが多い。 看護の実際 1.昼食時に摂食嚥下評価表を用いて摂食・嚥下状態を評価した結果、ポジショニングの改善の必要性が明らかとなった。 2.摂食嚥下認定看護師の助言、文献から姿勢を保持し、筋緊張を軽減できる摂食姿勢を検討した。1)頸部角度を顎下3〜4横指、体幹角度を60度とする。2)リクライニングチェア移乗後に枕と畳んだバスタオルを後頭部に使用し、頭と頸部が右側に傾くのを防ぐ。3)下肢の緊張を軽減するため、膝窩・足底にクッションを当てる。 3.ポジショニングの手順を作成し、スタッフ間で姿勢の統一を図った。 結果 実施前・後で筋緊張・頸部角度・むせの変化について評価した結果、食事中に1〜2回むせることがあったが、筋緊張をほとんど起こさず、頸部・体幹角度を保持した状態で食事することができた。 考察 頸部・体幹の角度設定やクッションを使用し下肢を安定させたことで、食事中に頸部・体幹のずれが少なくなり、姿勢保持できリラックスしていた。このことから、筋緊張の緩和とむせの軽減に効果的だったと考える。 まとめ 姿勢保持と摂食機能は関連性があり、重症心身障害児(者)の場合、脳性麻痺の分類・程度に応じて姿勢保持を調整し、個人にあった方法で行うことで食事中の筋緊張の緩和と、むせの軽減につながる。
  • 鈴木 清高
    2016 年41 巻2 号 p. 251
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 近年、カルニチン無添加経管栄養剤を摂取する重症心身障害児者における低カルニチン血症が指摘され、アイソカルジュニアなどのカルニチン添加栄養剤が推奨される。当院においても入所者40名中11名で同剤を導入したところ、3例で血清K低下を来したため報告する。 症例1 脳性麻痺の27歳男性。10歳時より人工呼吸器管理、経管栄養を実施。2015年4月よりメイバランスをアイソカルジュニア(800kcaL)摂取に変更。同年8月、血清K2.2mmoL/L。9月よりメイバランス摂取に戻したところ血清Kは3.6mmoL/Lと上昇。 症例2 低酸素性虚血性脳症の8歳女児。生直後より人工呼吸器管理、経管栄養を実施。2015年4月よりメイバランスをアイソカルジュニア(480kcaL)摂取に変更。適宜実施した輸液が終了した同年8月、血清K2.1mmoL/L。9月よりメイバランス摂取に戻したところ血清Kは3.2mmoL/Lと上昇。 症例3 低酸素性脳症の5歳男児。生後半月より人工呼吸器管理、経管栄養を実施。2016年2月よりエレンタールPをアイソカルジュニア(600kcaL)摂取に変更。利尿薬を漸減中止した同年4月、血清K3.1mmoL/L。同月よりメイバランス摂取としたところ血清Kは3.6mmoL/Lと上昇。 考察 アイソカルジュニアのK含有量は他の経管栄養剤の半分程度であり、これは日本人の食事摂取基準のK摂取目安と比べ少ないこと、また3例とも下痢嘔吐なく尿へのK喪失は認めていないことより、アイソカルジュニア摂取により血清K低下を来したと考えられた。2016年5月、同剤摂取時の電解質バランスの留意点に関する記載変更あり。ただ、人工呼吸器管理を行っていない他の重症心身障害児者8例(摂取量600〜1200kcaL/日)でも上記3例と同様にK摂取が減少したにもかかわらず、血清K低下はみられなかった。人工呼吸器管理例では、呼吸性アルカローシスがみられうる時間帯の存在を想定し、血清K低下がみられる可能性を考慮する必要があると考えられた。
  • −微量元素だけでなく電解質にも注意を−
    長澤 哲郎, 大越 優美, 福水 道郎, 西元 博子
    2016 年41 巻2 号 p. 251
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児(者)の栄養については、近年微量元素やカルニチン等に注目が集まっているが、経管栄養剤中のカリウム(K+)濃度が低いために低K+血症を来した症例を経験した。完全経管栄養の場合は電解質の総量にも注意する必要があると考え、経過を報告する。 症例 周産期障害による大島分類1の6歳女児。完全経管栄養を行っており、3歳前まではミルクのみ、その後ゆっくり経管栄養剤(アイソカルジュニア1.0®)に置換し、4歳時点で完全に交換された。その半年後に介護困難のため当センター長期入所となった。入所後も同じ栄養剤を続けていたところ、入所時に4.5mEq/lあった血清K+がしだいに低下し、6歳時に2.3 mEq/lまで低下した。もともと自律神経障害による頻脈が突発的にみられていたが、この頃1日中頻脈と緊張が続き心電図ではST低下も認めた。尿中K+濃度も低いため摂取不足が主な原因と考え、KClの補充を行ったところ、K+はすみやかに4.2mEq/lまで回復、心電図も正常化して全身状態も落ち着いた。現在経管栄養剤の見直しを行っている。 考察 K+の1日摂取量を計算すると約370mg=9.5mEqとなり、6−7歳の摂取目安量1,200mg=31mEqと比べて体重(17kg)を考慮してもかなり低かった。これは、アイソカルジュニア1.0®100ml当たりのK+量が55mg=1.4mEqと、他の経管栄養剤の約1/3であることが主な原因であった。入所後K+の値はゆっくり低下していたが、採血時の溶血のため見かけ上基準範囲に入ることも多く、K+に着目しないと低下傾向が把握しづらかった。さらに、アイソカルジュニア1.0®が小児専用であることから、入所時にカロリー計算など行ったが電解質量までは考慮していなかった。これらの要因が重なって医原性の低K+血症が生じたと考えられた。 結論 重症心身障害児(者)の経管栄養では、電解質総量にも配慮する必要がある。採血困難な場合では、特にK+値に対する注意が必要である。
  • 高木 真理子, 真野 ちひろ, 山本 晃子, 立岡 祐司, 本澤 志方, 太田 秀臣, 荒井 康裕, 益山 龍雄, 岩崎 裕治, 加我 牧子
    2016 年41 巻2 号 p. 252
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    目的 経管栄養依存状態にある重症心身障害児(者)のカルニチンはカルニチン添加栄養剤のみで足りるかを検討する。また、バルプロ酸(以下、VPA)内服の有無や血中VPA濃度によってカルニチン需要が高まるのかを検討する。 対象と方法 一日の摂取カロリーの半分以上にカルニチン無添加栄養剤であるCZ-Hiを使用している重症心身障害児(者)31例に対し、カルニチン添加栄養剤PRONAに変更しかつカルニチン製剤の投与を中止し、変更前後に血中カルニチンを含む生化学検査、尿検査を行った。またVPA内服群とVPA非内服群で比較し、VPA血中濃度との関連を調べた。 結果 対象者平均年齢25.3歳(8歳〜46歳)、大島分類は全員1であった。追跡期間1年の間に原疾患や合併疾患による死亡が2例、栄養剤変更での副作用と思われる症状で栄養剤の変更を要したのが2例であった。一年間追跡し得た27例のうち、介入前にカルニチン製剤を内服していたのは19例で、その用量は100〜1200mg/day、遊離カルニチン値は29.8〜56.5μmol/lであった。カルニチン製剤を内服していなかった8例では、介入前の遊離カルニチン値は5.1〜30μmol/lであった。VPA内服群は13例、VPA非内服群は14例であった。VPA投与量は12.1〜37.7mg/kg/dayで、血中VPA濃度は34〜93μg/mlであった。血中VPA濃度が高いほど、遊離カルニチン値は低くなる傾向が認められたが、介入6カ月後の遊離カルニチン値はVPA内服群は28.4〜58μmol/lで、VPA非内服群は28.8〜59.4μmol/lであり、有意差を認めなかった。 考察 カルニチン添加栄養剤のみでも、ほとんどの重症心身障害児(者)はカルニチン維持が可能である。VPA内服の有無にかかわらず、遊離カルニチン値が低めの症例は存在する。その要因について考察する。
  • 辻 恵, 池田 梓, 井合 瑞江
    2016 年41 巻2 号 p. 252
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    背景と目的 成長過程にある重症心身障害児は必要エネルギー量の増大から相対的に低栄養となりやすいため、病態を考慮した個々の栄養管理が必要である。当院では平成17年に栄養サポートチーム(NST)が発足、年々その活動を充実させている。現在、身長に対する標準体重(weight for height、%W/H)が70%未満の高度障害例を積極的介入の対象とし、また全例で必要摂取カロリーの計算と栄養摂取内容を検討し、情報の現場へのフィードバックをおこない適正な栄養を提供できるように配慮している。この研究の目的はNST導入後10年間の当施設入所者の栄養状態の変化について後方視的に検討し、NST介入の効果とその役割について検討することである。 対象と方法 対象は2006年と2015年における入所者それぞれ41名と32名に対してWaterlow分類の分布と栄養指標の変化について比較した。 結果 対象者の内訳は平均年齢13.8歳(2006)と16.7歳(2015)、すべて大島分類1-4の重症心身障害児(者)である。栄養摂取経路は2006年と2015年でそれぞれ経管栄養のみが32名(78%)と12名(37.5%)、経口摂取が3名(7.3%)と6名(18.8%)、経管栄養と経口摂取の併用が5名(12.2)と13名(40.6%)、経管とIVH併用が0名と1名(3.1%)、不明が1名(2.4%)と0名であった。NST導入前の2006年における高度栄養障害児は14/41(34.1%)であったのに対し2015年では8/32(25.0%)と低下を示した。また、%W/H<70%かつHeight for age<85%の割合が2006年で4/41(9.8%)であったのに対し2015年には1/32(3.1%)と減少していた。 結論 ハイリスク児へのNST介入により、高度栄養障害例の割合が減少したことが確認された。適切な栄養内容や摂取経路の方針決定に積極的にNSTが関わることで入所児の栄養状態を良好に維持し、褥瘡や感染症のリスク低下が期待される。
  • 五味 由貴, 中村 文香
    2016 年41 巻2 号 p. 253
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 栄養管理をする上での評価の1つとして体重測定や身長測定は定期的に実施する必要があるが、患者の身体的特徴が顕著なため方法が統一されておらず、当病棟では実施できていない。そこで、実用的に測定できる方法を検討したので報告する。 研究方法 1.当病棟の患者の変形を大きく5群(A氏:後弓反張様、B氏:腰部側弯、C氏:変形が少ない、D氏:胸部側弯、E氏:円背)に分類し5名の患者に2分法、4分法、腓骨長を3回ずつ測定。データを単純集計し、平均化して比較分析する。 2.測定後、看護師に所要時間、実用性についてアンケートを実施。 倫理的配慮 当院の倫理委員会より承認を得た。 結果 標準偏差で見ると、A氏B氏D氏は誤差の最小値が2分法、最大値が腓骨長。C氏は誤差の最小値が腓骨長、最大値が2分法であった。4分法は誤差の最小値最大値どちらにも該当しなかった。E氏は体動が激しく、測定結果の信憑性に欠けるため今回の研究データから除外とした。4分法の「所要時間」は平均「2分55.3秒」と最も時間を要し、アンケートでは「手技の簡便さ」において「難しい」との回答が半数あった。「実用的であるか」においては、「はい」33%、「どちらともいえない」50%であった。「どちらともいえない」の理由は「手技がわかりにくい」「患者によっては時間を要する」であった。 考察 標準偏差は2分法と腓骨長が3.7〜8.7とばらつきがあるのに対し、4分法は4.3〜5.4と安定している。4分法は測定部位の直線距離が短く、変形や側弯の影響を受けず測定できるためばらつきが少なかったと考える。今後、測定方法を周知し技術を獲得することで、一定の時間で測定できると思われることから、当病棟では4分法が実用的に使用できると考える。 結論 1.誤差の最小値最大値どちらにも該当しなかった方法は4分法である。 2.アンケートより当病棟では4分法が実用的であると言える。
  • 村橋 麻由美
    2016 年41 巻2 号 p. 253
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 当病棟に入院の重症心身障がい児(者)は数十年に渡り入院生活を送っている。加齢に伴い活動の低下や基礎代謝の低下も進行していると考えられる。今回、実際に看護の現場で一部の患者について体重が増えているように感じるとの声があったことから、体重変動と患者の状態変化について調査した。 方法 入院患者のうち36名のカルテより過去7年間の体重の推移を1.調査期間の最初の体重と最後の体重を比較 2.過去7年間の最高値と最低値の抽出 3.最高値と最低値から平均値を算出 4.平均値と現在体重の比較 5.平均値と調査対象期間初期体重の比較を行った。 結果・考察 体重変化は増加・不変・減少・変動の4つの群に分けられた。体重増加していた患者は33%であった。経管栄養の患者では偏りはほとんど見られなかったが、当院で設定しているゼリー食(嚥下訓練食)を摂取している患者は導入時から100%体重増加していた。てんかん発作、異常発汗、筋緊張が強い患者では体力の消耗が激しく体重は減少すると考えていたが体重減少者は少なかった。気管切開、喉頭分離を行った患者に術後体重増加を認めた。体重が増加したことにより、脂肪がついて首の可動域狭小した患者、体重増加による負荷で骨折した患者、脂肪蓄積により、永久気切孔が狭窄・閉塞しかけた患者など、体重増加による身体影響は小さいものではなかった。 まとめ 体重増加の要因を様々な視点から複数考えたが、結果体重増加の要因は純粋にカロリーの過剰摂取であった。体重変動はてんかん発作や活動量で左右されず純粋に摂取カロリーのみに左右されていた。
  • 玉置 美香, 岡垣 晶子, 篠原 義文, 佐々木 公男
    2016 年41 巻2 号 p. 254
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 経口摂取可能な重症心身障害児者(以下、重症児者)には、栄養のバランスを考えた食事を提供しているが、経口摂取の困難な重症児者には、市販の経腸栄養剤を用いることが多い。当施設では、平成18年から調理済みの食事をミキサーにかけて胃瘻チューブより滴下注入可能な形状にした流動食(以下、新流動食)の開発を行い、経腸栄養を余儀なくされた利用者に対して提供を試みた。ここで、その経験と問題点を述べる。対象平成18年から新流動食を提供した利用者は29名(男性18名、女性11名)、年齢は2歳から75歳。平成28年3月現在で、新流動食を継続している利用者は16名、何らかの理由で中止になった利用者は13名であった。 結果・考察 新流動食を継続できている16名は、日常生活上大きな変化なく経過している。新流動食注入後、胃瘻漏れの改善がみられた利用者が2名、下痢が改善された利用者が1名いた。新流動食を中止した13名を検討すると、胃排泄遅延、腹部膨満、便秘等の消化器症状を原因とした利用者が6名、カロリー微調整が必要になり市販栄養剤に移行した利用者が1名、アレルギーと思われる発疹が1名、体重減少が1名、空腸栄養移行が1名、不明3名であった。中止の原因として消化器症状が最も多かったが、それには加齢や重症児者に特有な側弯症や胃食道逆流症の進行の影響等が考えられた。また、食材の種類(芋類等)によっては腸管内ガスが腹部膨満の原因になることも考えられた。 まとめ 平成18年以降約10年間の新流動食提供の経験を報告した。新流動食の栄養バランスは経口食に準ずるものであり、今後とも重症児者の食形態の一つとして重要と考えている。今後は、臨床症状に応じた注入方法・食物アレルギー検査などのチェックを行い、普及に努めたい。
  • 安田 寛二, 音部 好宏, 森岡 祐貴, 中島 務
    2016 年41 巻2 号 p. 254
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    重症心身障害の状態像をもつDravet症候群の双胎成人例を報告する。 病歴 32歳男性。周生期には特記すべきことなし。兄が生後6カ月時入浴中にけいれんを発症、弟が数カ月後の夜間睡眠中に兄と似たけいれんを起こし、2歳時にてんかん専門病院に入院し精査によって確定診断された。幼児期から兄の方が重積を起こす頻度は高かった。保育園と障害児通園施設に通い養護学校に就学した。二人とも幼児期、小学部時期までは多動で走り回っていたが、中学部時期から運動機能が低下し、兄は側彎を伴い、いずれも車椅子生活になった。15歳頃には知的にも退行して会話が困難となった。兄は29歳時にけいれんの頻度が増え誤嚥性肺炎を起こし、水分摂取不良のときに重積を起こしやすいため胃瘻を造設した。抗てんかん薬はCZP、VPAに30歳時にLEVを加え一定の効果がみられたが発語量は減った。最近の発作は数秒から数10秒の全身性けいれんで頻度は週3回程度、弟は30歳時に初めて重積を起こした。 現症 顔貌は正常で変質徴候はない。兄の方が全身の関節拘縮が強く腰椎側彎あり。弟の拘縮は軽度で側彎はなく物をつかんで投げることができる。二人とも寝返り、座位は不可で自発的に移動することがなく大転子部に褥瘡の痕跡がある。童謡を好み歌詞が断片的に出たり嫌なことには拒否や不快さをあらわす声が出たりするが意思疎通は困難である。兄は胃瘻造設したが経口摂取を主としている。日常生活動作は全介助。 検査所見 脳波について、兄は背景活動に徐波が目立つが二人ともてんかん性発作波は認めない。頭部MRIは酷似しており小脳上部、小脳脚の軽度の萎縮以外は所見に乏しい。 考察 これまでのDravet症候群の長期経過の報告に比して本例は心身障害の程度は重度と思われる。LEVは発作には有効で今のところ重積は抑制されている。一卵性双胎例の長期経過の報告は少なく本例の症状の差については検討課題である。
  • 齋藤 菜穂, 長澤 哲郎, 大越 優美, 永田 仁郎, 林 雅晴
    2016 年41 巻2 号 p. 255
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに Sturge-Weber症候群は脳軟膜血管腫、顔面三叉神経領域のポートワイン母斑(毛細血管奇形)、緑内障を三徴とする神経皮膚症候群で、てんかん、精神運動発達遅滞、運動障害を合併する。精神運動発達遅滞はてんかん発作の重症度、血管腫の範囲に比例する。73歳で死亡したSturge-Weber症候群の女性を経験したので剖検結果を含め報告する。 症例 家族歴に特記すべきことなし。妊娠中、分娩に異常なく、自宅にて出生。生下時から顔面に母斑があったが、発達は正常であった。5〜6歳頃からけいれん発作がみられ、知的・運動発達が退行し、10歳頃から独歩不能となった。20歳頃からけいれん発作が頻発し、歩行不能となり、言葉も少なく母斑も目立つようになった。22歳頃から血管腫による右眼裂の狭小化が見られた。27歳で当センターに入所。入所後フェニトイン内服を開始し、けいれん発作が減少、表情が明るくなり、良く笑い、手を動かすようになった。その後も血管腫による下口唇肥大は増加した。52歳から高コレステロール血症が出現。尿路感染や骨折を繰り返したが、本人の状態や血管腫にあまり変化はなかった。73歳、非けいれん性てんかん重積に肺炎とDICを併発した。感染、DICは改善傾向を示したが突然SpO2が低下し、治療に反応なく死亡した。 剖検結果 脳重量830g。右大脳萎縮、前頭極を除く大脳背側の脳軟膜・硬膜の血管腫と隣接する大脳皮質表層の粗鬆化・石灰化、右側頭極の新鮮な硬膜下出血が認められた。また、前頭葉・側頭葉白質、両側海馬終板、右扁桃体・視床、小脳歯状核門と下オリーブ核の線維性グリオーシス、小脳皮質の神経細胞脱落も認められた。 結語 73歳でDICに伴う硬膜下出血のため死亡した。高齢であり、合併症も多かったが、Sturge-Weber症候群に特徴的な脳病理結果であった。
  • 渡壁 太一, 松田 俊二, 矢野 義昭
    2016 年41 巻2 号 p. 255
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 当院では現在、重症心身障害者病棟が160床、P-NICUは12床を有している。当該病棟ではけいれん発作治療を目的としてフェノバルビタール製剤を使用しており、当院では散剤であるフェノバール散®、エリキシル剤であるフェノバールエリキシル®を採用している。エリキシル剤は甘味、芳香のある水薬で比較的服用しやすく、経管投与もしやすい。しかしエリキシル剤はエタノールを含有しており、フェノバールエリキシル®のアルコール度数は約6.5%と高値である。本研究では、フェノバールエリキシル®(以下、エリキシル剤)に含まれるアルコールが肝機能に及ぼす影響を調査した。 方法 エリキシル剤を使用中、または使用歴がある患者4名(2歳〜29歳)と、同年代の患者8名(5歳〜29歳)でGOT、GST、γ-GTP値を比較した。 結果 エリキシル剤投与群ではGOT、GST、γ-GTPの平均値がそれぞれ32.5 U/L、25.8 U/L、36.1U/Lであり非投与群では24.1U/L、21.4 U/L、23.6 U/Lと差が見られた。エリキシル剤投与群では全例にγ-GTPの上昇がみられた。またエリキシル剤投与群のうち2名はエリキシル剤投与中のγ-GTPが正常上限値以上であり、そのうち1例は投与中止後γ-GTPが正常範囲に戻っている。エリキシル剤以外の薬剤による肝機能への影響を見るためにエリキシル剤投与群が使用している薬剤のうち肝機能に影響を及ぼす可能性のある薬剤を抽出し、該当薬剤を使用している患者の肝機能を比較検討した結果、有意差は見られなかった。 考察 エリキシル剤は服用、投与しやすさから優れた剤形である。しかし今回の結果よりエリキシル剤投与群では非投与群と比べてGOT、GST、γ-GTPともに高くなる傾向がみられた。したがって、肝機能に問題のある患者や小児等に薬剤を選択する際にはエリキシル剤以外の剤形選択も考慮すべきである。本研究では対象患者の数が少ないため、今後も引き続き検討が必要である。
  • 永井 秀之, 岡本 侑子, 神谷 康隆, 寺田 直人
    2016 年41 巻2 号 p. 256
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 骨粗鬆症を合併しやすい重症心身障害児者に対して活性型Vit D製剤やビスホスホネート製剤を使用されるが、高Ca血症を経験する事はあまり多くない。今回、既製栄養剤への変更を契機に高Ca血症を来した症例を経験したので報告する。 症例 40歳台の大島分類1の女性。体重は25kgで痙性四肢麻痺と強度の側弯がある。骨粗鬆症のためアルファカルシドールを投与され、3年前からエルデカルシトールに変更している。これまで定期の検査などで血清Ca値の異常の指摘はない。これまで経口的食事摂取であったが、嚥下性肺炎の頻度が増えてきたこと、摂食中のむせがひどくなり摂取量も減少してきたため胃瘻造設(開腹的造設術)を受けた。手術翌日より既製栄養剤の注入が開始されて順調に経過していたが、術後12日に活気と笑顔の乏しさに気づかれ13日後に無表情な顔貌、追視の低下を認めた。排尿あり、嘔吐なし。血圧144/110mmHg、頻脈(105/分)、検血でCBC、肝機能に異常認めなかったが、高Na血症、高Ca血症、腎機能障害・脱水(Na 156mEq/L、Ca 16.6mg/dL、BUN 69.9mg/dL、Crea 1.1mg/dL)を認めた。高Ca血症による多尿と脱水、腎機能障害と考えて服用中のエルデカルシトールを中止し補液を施行したところ、数日で表情の改善を認め、2週間後にCa値が正常域に戻り、血圧や脈拍も徐々に改善していった。経過中PTH intactは正常値であった。Ca含有量は術前に約240mg/日、術後は480mg/日であった。Vit Dの服用と食事形態の変更によるCa摂取の増加が原因と考えられた。 考察 一般食から注入用栄養剤変更によるCa量の増加が誘因となったと考えられるが、Caの栄養摂取基準(幼児では400mg、成人では650mg)に満たない量であった。古くから指摘されていることであるが、活性型Vit D製剤の服用中は高Ca血症が生じる危険を改めて認識させられた。
  • 粟嶋 勇也, 栗原 まな, 有賀 賢典, 吉橋 学, 小萩沢 利孝, 飯野 千恵子
    2016 年41 巻2 号 p. 256
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    目的 重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))における、骨代謝マーカーと骨折との関連について検討する。 対象・方法 2016年1月現在、当センター重症心身障害児(者)施設に長期入所中の30名のうち、すでに骨粗鬆症治療薬による加療中の1名を除いた29名(男:女19名:10名、年齢の中央値47歳)。対象利用者について、原疾患、骨折既往などの臨床情報と骨密度検査、骨代謝マーカーを含む血液尿検査などの検査結果を診療録より収集し、後方視的に検討した。 結果 原疾患は、脳性麻痺17名、後天性脳損傷4名、てんかん性脳症と知的障害が各2名、先天代謝異常や奇形症候群などが4名であった。寝たきり(座位不可)が21/29名(72%)であった。29名中8名に骨折の既往を認め、そのうち5/8名が閉経後女性であった。骨密度が若年比70%以下に低下している利用者の割合は、骨折既往のない群で高かった(既往無し60%、既往有り29%)。各骨代謝マーカー(骨型アルカリフォスファターゼ(BAP)、1型プロコラーゲン-N-プロペプチド(P1NP)、尿中1型コラーゲン架橋N-テロペプチド(NTx)、骨型酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ-5b(TRACP-5b)、低カルボキシル化オステオカルシン(ucOC)、ペントシジン)について、骨折既往の有無による差異を検討したところ、BAPは骨折既往無しの群で上昇している利用者の割合が高かったが、その他のマーカーでは骨折既往の有無で差異は認めなかった。また「骨吸収マーカーのTRACP-5bが上昇し、骨形成マーカーのBAPが基準値内である」ことと骨折既往の間には統計学的に有意な関連を認めた。(p<0.01) 考察 重症児(者)の骨折のリスクを評価するには、骨密度の高低だけで判断することは難しく、骨代謝マーカーを評価することの有用性が示された。ただし、今回の検討では、骨折既往有りの群で閉経後女性が多数を占めており、上記の関連が重症児(者)一般に当てはまるのかは今後の検討を要すると考える。
  • 大内山 涼子, 林田 真由美, 富 さなえ
    2016 年41 巻2 号 p. 257
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 呼吸器回路を外す行動(以下、外し)のある重症心身障害児A氏は、睡眠パターンが不規則であると感じることがあった。A氏は、中枢機能の障害のために通常のサーカディアンリズムをとりにくいことや、全盲でありメラトニンの作用がうまく機序しないことが睡眠障害の原因と考えられる。重症心身障害児(者)の睡眠障害に対する先行研究では、日中の関わりを充実させ覚醒を促すことで、夜間良眠できたことや睡眠−覚醒のアセスメントをすることでケアの方向性を見出せたという報告もある。夜間眠ることができれば外しも減少するのではと考え、研究に取り組んだ。 目的 睡眠パターンに影響を与える要因を明らかにする。 方法 対象:A氏 女性 学童 ダンディ・ウォーカー症候群 全盲 調査方法:(1)1時間に2回の観察による睡眠日誌の作成。(2)影響要因として、入浴等12項目を抽出し日誌に記載。(3)観察者は全看護師22名。プレテストにより記載判断の統一を図った。 調査期間:平成27年10月16日〜10月30日の14日間 分析方法:4つの睡眠指標を算出、要因と睡眠の相関を分析した。 用語の定義:「良眠」とは「夜間総睡眠時間が10時間以上確保できる」とし、「昼間」とは9時〜19時「夜間」とは19時〜翌朝9時までとした。 結果/考察 1.入浴・面会日はすべて良眠できた。何もない日は行事の日と比べ児に関わる時間が短く、刺激を受ける機会が少ないことや活動不足がある。そのため、夜間総睡眠時間が3時間ほど短く昼寝時間は1時間以上長かった。 2.規則的な生活により、身体症状や処置を必要とする時間帯がある程度一定しているため、身体要因の睡眠への影響は少なかった。 3.外しの総数116回。外しは入眠時に多いときや覚醒時に少ないときもあり、睡眠と外しに関連性があるといえなかった。 結論 1.入浴や面会がA氏にとって良眠することに良い影響を与えている。 2.何もない日は睡眠パターンが混乱しやすい。
  • 林 美和子
    2016 年41 巻2 号 p. 257
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児(者)の呼吸障害は胸郭の変形、気道狭窄などの起因に様々な合併症が加わり重篤化となりやすく、呼吸障害改善のために喉頭気管分離術を行い、有効な換気量が維持できず人工呼吸器装着となるケースが多い。呼吸器回路の固定は利用者により様々で安全性に欠けている。安定した回路固定が利用者の安楽な呼吸につながり、安全で安楽な療育環境を提供できると考え呼吸器利用者に固定具を作成し検証した。 目的 人工呼吸器使用中の利用者に回路固定具を使用し苦痛を緩和し、呼吸状態が安定する。 対象・方法 2015年8月〜11月末に胸郭変形、側弯、気管支狭窄があり喉頭気管分離術を受け、人工呼吸器使用の3事例(1事例はカニューレフリーでマスクを気管口に装着)呼吸器回路の固定具を作成し、使用前後の呼吸状態、呼吸器換気量、リーク量を測定し職員にアンケートを行った。 結果 固定具は体幹の固定バンド、3カ所をとめる固定具の2パターン作成した。固定具使用前後の呼吸器の換気量、リーク量、呼吸状態に変化はなかった。カニューレフリーではマスクのずれが生じていたが、固定具使用で気道閉塞が防止でき、マスク固定のバンドの圧迫が緩和でき睡眠の質が向上した。回路の重みでカニューレが引っ張られる苦痛、喘鳴を緩和することが出来た。 考察 呼吸器回路の固定具は個々の利用者の動きに合わせ作成し使用することで、回路の引っ張りによるカニューレ抜去防止と、苦痛緩和につながり管理上使用しやすいことがわかった。また呼吸器を装着したまま体位変換おむつ交換など日常生活を送ることで持続した換気量を得ることができた。今後呼吸器利用者個々にあった固定具を提供することで安楽な呼吸と安全な日常生活を提供することができる。
  • 吉澤 佳代子
    2016 年41 巻2 号 p. 258
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 気管カニューレの事故抜去は身体への影響が大きいため、A病院では事故抜去予防に努めている。しかし、インシデントアクシデントレポートによる報告は断続的にみられた。抜去の要因として持参する手づくり紐が『長かった』『伸びる』『ほどけやすかった』等が挙げられていた。今回は入院中の安全確保のために、市販のカニューレホルダー使用に統一したので、その経過を報告する。 方法 1.5月から専任リスクマネジャーが提案し、医療安全対策推進委員会メンバーの医師と協議し委員会で承諾を得た後、6月患者様へのお知らせを掲示した。 2.入院時病棟にて職員が説明し、次回入院時からの持参をお願いし、また、売店にカニューレホルダーの販売を開始した。 結果 入院時に職員より説明し、次回利用時からの持参をお願いした。また、院内売店で購入可能なことを案内した。今まで事故抜去の発生していない患者の家族から、6月下旬、7月上旬に「ご意見・ご要望」が投函され、院として回答を作成し掲示した。回答内容は今回の決定に至る経緯(事故抜去現状、その原因、様々な物品への対応の難しさ)と操作方法統一への理解の説明文とした。病棟においては職員からの説明に加え看護師長も対応した。専任リスクマネジャーが直接面談した件数は2件であった。 家族からの意見はマジックテープでの皮膚トラブルの心配、コストの問題であった。入院中の安全確保については、理解する発言が見られた。意見については保護布を作成し皮膚トラブルに努め、販売者へ要望を申し入れた。入院・短期入所患者の市販のカニューレホルダー使用率は100%になった。 まとめ 専任リスクマジネジャーや病棟単位ではなく、院全体として取り組むことでカニューレホルダー使用の統一を図ることができたと考える。
  • 中川 恵子, 松林 美子, 益山 龍雄
    2016 年41 巻2 号 p. 258
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 昨年度、われわれは、自発呼吸があり気管切開をもつ入所者5名について、気道の加湿状況を調査した。その結果、リークの多い場合ほど気道の湿度に変動が大きく、湿度も低くなっていた。湿度を最適に維持するためには、カニューレ周囲からリークする分も含めた加湿が必要であると考えた。今回は、普段使用頻度の高い人工鼻、トラキオマスク、人工鼻+トラキオマスク使用時の湿度を測定し、3項目の湿度を比較した。 対象と方法 対象:自発呼吸があり気管切開(喉頭気管分離術後)をもつ入所者3名方法:マフィープラスを用いて、人工鼻、トラキオマスク、人工鼻+トラキオマスク使用時の湿度を測定した。 結果 1.3名ともトラキオマスク使用時の湿度が有意に低かった。 2.リーク率の高かった2名は、3方法すべてにおいて有意差があり、人工鼻+トラキオマスクで最も高い値になった。リーク率の高い対象者ほど、人工鼻+トラキオマスク使用時にマフィープラスの結露防止機能は作動しにくかった。 3.リーク量が少なくリーク率が測定不能であった1名は、人工鼻と人工鼻+トラキオマスクに有意差が認められなかった。 考察 1.トラキオマスクはカニューレ周囲を覆えることから、死腔を利用しリークを含めた加湿が可能ではないかと推測していたが、3名ともトラキオマスク使用時の湿度が有意に低い結果となり、人工鼻のフィルター機能がないため湿度を維持することができなかったと考えられる。 2.リークの多い場合には、人工鼻だけでなくトラキオマスクも同時に使用すると、気道の湿度は高い値を維持しやすい。その要因として、人工鼻とトラキオマスクの2重構造によって、カニューレ内もしくは人工鼻内に結露が起きにくい環境ができ、結露に伴う温度低下が少なく、より高い湿度の維持につながったと考える。 3.リークが少ない場合は、人工鼻の使用のみで、気道の湿度は維持できる。
  • 原田 彩乃, 下 真美, 平良 恵美子
    2016 年41 巻2 号 p. 259
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに A氏は気管切開をされており、A氏の表情や指の動きだけでは要望を理解できない場面があった。そこでどうすればA氏が自分の欲求や思いを伝えやすくなり、私たちもA氏のニードを理解しやすくなるのかを考え、コミュニケーションツールの検討に取り組んだ。 目的 気管切開をしている患者にとって適切なコミュニケーションツールは何かを明らかにする。 方法 研究期間:平成27年5月から平成28年2月 対象:A氏 30歳代 男性  現病歴:脳性麻痺 方法:1)文字理解度レベル検査の実施 2)使用頻度の高いジェスチャーを優先しジェスチャー表を作成 3)B病棟に配属されて1年未満の看護師と保育士計6名にジェスチャー表活用の前後でアンケート実施 4)ジェスチャー表使用前後のA氏の感想を聴取 5)意思伝達操作機の試行 結果 文字の理解度はひらがな2文字まで理解可能であった。アンケート対象者はA氏のジェスチャーを一度で理解することは難しいが、1カ月間ジェスチャー表を使用した結果「ジェスチャー表を使用してA氏の伝えたいことが理解できた」と全員からアンケートの回答があった。A氏からも新しいジェスチャーの表出が見られ、四肢の緊張こわばりなどの身体的症状が減少した。意思伝達装置の試行結果として、ひらがなの文字(50音)の認識は確認できたが、操作については誤動作が多かった。 考察 ジェスチャー表を活用することでA氏との会話の内容の幅が広がり、A氏のコミュニケーションのニードが充足することにつながると考える。 結論 ジェスチャー表を活用することでA氏の伝えたいことが理解できるようになり、円滑なコミュニケーションが図れたことから、ジェスチャー表はA氏に適したコミュニケーションツールであることがわかった。
  • 山田 亜佑美, 清水 誓也, 今井 京子
    2016 年41 巻2 号 p. 259
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児(者)病棟の患者は、一日の大半を病棟内で過ごすことが多い。看護師は散歩や緊張緩和のマッサージ、絵本の読み聞かせなどを実施している。しかし、感情表現の可能な患者は泣いたり叫んだりときには痛みを問うと腰痛や頸部の痛みを訴えることがある。この状態はストレス発散やリラックスができない状態なのではないかと思われた。そこで肌に優しく触れるタクティール・ケアを行うことにより、リラクゼーション効果が期待できるのではないかと考えた。実施した結果、呼吸数や脈拍数の減少、一時的な筋緊張の緩和が見られたため、報告する。 目的 タクティール・ケアを患者の手に行い、主観的・客観的指標によりリラクゼーション効果をもたらすか検証する。 方法 1.研究期間 2015年10月〜2016年3月 2.対象 同意が得られた患者40名 3.方法 1)1人の患者に対し14日間、手のタクティール・ケアを片手10分ずつ実施。2)実施前後の脈拍数・呼吸数・血圧・フェイススケールを測定し、平均を比較する。また、MASスケール(10/40名)・評定尺度法(5/40名)も用いる。 結果 実施前後の値を比較し、呼吸数60%、脈拍58%、血圧(収縮期)60%、血圧(拡張期)70%低下した。フェイススケールは50%の人に快の表情がみられた。MASスケールは10名中4名の患者は筋緊張が1段階低下した。また、評定尺度法では「また明日もやってほしい」との返答があった。 考察 ケア実施中は呼吸数、脈拍数、血圧は減少し表情の変化が見られたことから、リラクゼーション効果があったと考えられる。感情を言葉や文字で表すことが困難な患者でも筋緊張の評価と評定尺度法を合わせて用いることでタクティール・ケアは重症心身障害児(者)にも有効であったと確認できた。 結論 重症心身障害児(者)にもタクティール・ケアはリラクゼーション効果があった。
  • 小林 真美, 高城 朋巳, 高木 園美
    2016 年41 巻2 号 p. 260
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    目的 日常的に筋緊張が強く、呼吸障害のある重症心身障害児(以下、障害児)に対し、呼吸障害の改善に腹臥位が効果的であることや、筋緊張に対し心理的要因への対応が効果を検証した成人期の先行研究はあった。しかし、乳幼児に対し検証した先行文献はなかった。そこで、乳幼児期の障害児に対して、腹臥位訓練前にタッチを行い、呼吸に与える影響について調査した。 研究方法 1)対象 Aちゃん 4歳 2)研究期間 H28年4月〜6月 3)方法(1)腹臥位訓練前に看護師が、対象の児を膝の上にゆっくりと腹臥位にする。10分間腹臥位をとり、声かけや背中をさする・撫ぜるなどのタッチングを行いながら、股関節の伸展や弓状背屈等の筋緊張が軽減してきたことを確認し腹臥位装置に移動する。30分間腹臥位となる。腹臥位前後に、脈拍・SpO2・上気道の狭窄音・上気道の痰の貯留音・流涎の量・筋緊張の程度・睡眠・覚醒・看護師の気づいたことを実際に観察し記録し得られたデータを検討する。(2)看護師から得た調査用紙の内容分析。 倫理的配慮 患者の家族に口頭および文章で、研究の目的・方法,個人情報の保護、研究撤回の自由意思について説明し同意を得た。倫理委員会の承認を得た。 結果 腹臥位訓練前後の脈拍数は、開始前後に相関があった。上気道の狭窄音,上気道の痰の貯留音は軽減傾向を示した。腹臥位直後の激しく反り返る筋緊張は、タッチング後に軽減した。また、腹臥位中の笑顔や午睡が見られた。 考察 これまでの研究では、成人期の重症心身障害者に対し腹臥位訓練やタッチの効果が認められていた。今回、乳幼児期の障害児に対し行った、腹臥位訓練前の抱っこやタッチは、対象がリラックスすることで筋緊張の軽減となり、呼吸障害の改善の相互作用があると考える。
  • −シュガースクラブの効果について−
    若原 由起子, 白川 奈都紀, 原田 伴子
    2016 年41 巻2 号 p. 260
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児(者)には様々な皮膚トラブルを抱える患者が多い。A病棟も、何らかの皮膚トラブルを抱えており、軟膏処置を施行しても脱落や掻傷が生じている。シュガースクラブ(以下、スクラブ)は新生児を対象にした先行研究において、保湿効果があり皮脂量増加によるバリア機能効果が明らかにされており、スクラブを用いてスキンケアを行うことにより、皮膚の脱落や掻傷が改善されるのではないかと考えた。スクラブを用いた結果、皮膚トラブルが改善された。 研究目的 重症心身障害児(者)の皮膚トラブル改善に向け、シュガースクラブの効果を明らかにする。 用語の定義 シュガースクラブ:甜菜から抽出された天然素材の植物油をコーティングしたスキンケアアイテム。 研究方法 1.研究期間:6月〜11月2.研究対象:皮膚トラブルがある患者15名3.研究方法:実験研究4.データの収集方法スクラブを用いない状態で、水分値・油分PH・弾力値を入浴後30分、1日目・2日目を測定し、スクラブを1カ月間使用後に同様に測定する。5.データの分析方法1)水分値、油分、弾力性の比較(対応のあるt検定で有意差を検定する)2)pHを基準値と比較3)写真による単純比較6.倫理的配慮家族に、研究目的、内容、研究以外に公開しないこと、個人が特定されないように配慮することを説明し同意を得た。 結果 水分・油分の計測結果は、すべての部位でスクラブ後の値が使用前の値を上回り、ほぼ有意差を得られる結果となった。患者の多くに見られていた皮膚の乾燥は、軽減または消失された。 考察 水分・油分量が増加したことは、皮膚のバリア機能の維持に有効であることが示唆された。しかし、水分・皮脂量の値は十分とは言えない患者がいたことは、保湿剤等のスキンケアを併用していくことが必要であると考える。 結論 シュガースクラブは重症心身障害児(者)の皮膚トラブルの改善に効果的であった。
  • 岡田 麻未, 松下 智子
    2016 年41 巻2 号 p. 261
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    研究目的 用手微振動により腸蠕動を促すことで自然排便がみられる 研究方法 1.対象:当病棟入院患者40名のうち、腹臥位・側臥位が保持でき、強い筋緊張がなく、浣腸を実施している患者3名 2.方法 1)当病棟看護師27名、療養介助員7名を対象に、用手微振動の目的、方法、効果について、勉強会とデモンストレーション実施。 2)用手微振動の実施:体位は側臥位および腹臥位とし、大腿筋中央、大腿筋下端、大転子部、腰椎4〜5番周辺の4カ所に1日1分間実施 3)実施前後で1分間、蠕動回数の測定。5回以上増加を「増加」、0〜4回増加は「変化なし」、実施前より減少した場合は「減少」として評価した。 3.期間:平成27年8月6日〜平成27年10月31日 4.倫理的配慮:本研究の目的、内容、方法について患者へ説明し同意を得た。 結果・考察 A氏は用手微振動前後で腸蠕動回数の増加が77%、自然排便回数が2.0回/月から4.3回/月に増加し、1回あたりの排便量も125g/月から139g/月へ増加した。また、実施中に排ガスが多くみられた。 B氏は腸蠕動回数の増加30%、自然排便回数は0回/月から2.0回/月へ増加。 C氏は腸蠕動回数の増加41%、自然排便回数は7回/月から9回/月へ増加した。どちらも、用手微振動を4日以上連続し実施した後に自然排便がみられた。 3名の事例から、微振動後、腸蠕動回数の増加と自然排便の回数の増加に関しては、微振動により拘縮した筋肉がリラックスすることで副交感神経優位な状態となり、その結果、腸蠕動が促進され自然排便を促す効果があったのではないかと考える。また用手微振動の実施率に関して、8月は16〜50%、9月は50〜60%、10月は63〜86%と徐々に増加している。このことから、継続して実施していくことが用手微振動の有効性につながると考える。 結論 用手微振動を継続して行うこと、腸蠕動回数の増加や自然排便の増加につながる。
  • −重症心身障害児(者)病棟におけるてんかん発作観察表作成の試み−
    萩原 美香, 清水 春美, 林 由加子, 本間 富美子
    2016 年41 巻2 号 p. 261
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    目的 重症心身障害児(者)病棟では約80%がてんかんを併発し薬物療法でコントロールしている。てんかん発作は前触れなく突然起こること、重症心身障害児(者)は自分に起きている症状や体調の変化を言葉で伝えられないことから、てんかん発作の判別は特に難しく、対応する看護師も困惑する。そのため、看護師が患者に起きていることを早期に気付くことができず、てんかん発作の発見が遅れ、患者の苦痛を捉えられない場面もある。そこで看護師が同じ視点で観察し共通認識を図るツールはないか検討し、てんかん発作の観察表の作成を試みたので報告する。  方法 重症心身障害児(者)のてんかん発作の症状を観察ポイントとして記号を割り当て観察表に記入し、誰もが共有しやすい観察表を作成した。対象患者は発作の判別が難しい3名とした。 結果 共通認識を図るツールを活用し、てんかん発作の頻度や種類、発作時間、発作が起きやすい時間帯、発作周期を把握しやすくなった。その結果、継続した観察が可能となり、発作を早期に発見できるようになった。さらに看護師はてんかん発作時に適切な対処が可能となり、患者の苦痛緩和につながった。また抗てんかん薬の増量や変更したときの変化から有効性を判断することに役立ち、薬剤調整時の重要な情報源となった。 考察 自分に起きている状態を言葉で表現することが難しい重症心身障害児(者)だからこそ、看護師がいち早くてんかん発作に気付き対処する必要がある。看護師はてんかん発作観察表の作成から、重症心身障害児(者)の表情やサインをてんかん発作と結びつけ観察し、症状を共通理解することができた。さらにてんかん発作のコントロールが図れたことから、日常生活の充実にもつながったと評価できる。今後はてんかん発作観察表を重症心身障害児(者)に関わる他職種と共有していくことが課題である。
  • −A施設における骨折−
    河村 亜美, 入江 純子, 小池 智恵美, 澤田 夢可, 粟嶋 勇也
    2016 年41 巻2 号 p. 262
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障がい児者(以下、重症児者)は骨折を来しやすいことが知られている。A施設においても、長期利用者の50%が骨密度70%以下の者であり、80%以下の者を含めると利用者の90%に骨密度の低下がみられる。また利用者の高齢化・身体機能の低下のため医療依存度が増していることから骨折のリスクが高い状況にあることが伺える。今回、A施設の骨折事例やその受傷背景を調査、考察し、骨折予防に取り組んでいくにあたっての課題を明らかにする。 対象と方法 2006年〜2015年までにA施設に長期入所された利用者のうち、入所中に骨折を認めた12名(男6名、女6名)。研究対象者の入所中のカルテより、受傷年齢、ADL状況、受傷部位、受傷原因、骨密度などの臨床情報を収集し検討した。 結果 22件の骨折を認めた。受傷年齢は20歳代2件、30歳代4件、40歳代6件、50歳代8件、60歳代2件であった。ADL状況は、寝たきり13件(59.1%)、寝返り可7件(31.8%)、這行可2件(9.1%)、歩行可0件(0%)であった。受傷部位は、大腿9件(40.9%)、手指6件(27.3%)、上腕2件(9.1%)、足2件(9.1%)、膝2件(9.1%)、肩1件(4.5%)であった。受傷原因は、介助中によるもの3件(13.6%)、利用者の動きによるもの3件(13.6%)、原因不明16件(72.7%)であった。 まとめ ADL状況が寝たきりの利用者の骨折が50%以上を占め、その多くは大腿骨骨折であった。一方、寝返りなど自力移動可能な利用者については、手指の骨折が多く見られた。また、受傷原因が不明なものが70%以上見られた。これらの傾向は、横井ら(2016)が報告している重症児者の骨折に関する全国調査の結果と同様であった。重症児者は痛みを訴えられないため発見が遅れやすいことに加えて、易骨折性のために日常的な介助の中で介助者が気付かない間に骨折を来している可能性があると考えた。このような重症児者の骨折の特徴を介助者の中で理解を深め、骨折予防を念頭に置いたケアを提供していくことが課題である。
  • −重症心身障害児(者)における生理学的指標の比較から−
    佐藤 美穂, 田村 留美子, 貝谷 由佳
    2016 年41 巻2 号 p. 262
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))にとって姿勢保持は重要とされている。腹臥位療法はリラクゼーション効果が期待された体位である。重症児(者)は自ら安楽を表現できないため、生理学的指標と唾液アミラーゼ活性(以下、アミラーゼ)の変動からリラクゼーションの有効性を検証したいと考えた。 目的 重症児(者)に対する、腹臥位によるリラクゼーションの効果を明らかにする。 方法 自力で体位変換ができない患者3名を対象とし、それぞれに合わせた腹臥位姿勢を決定。腹臥位を30分実施し、腹臥位前後と腹臥位中の生理学的指標、アミラーゼの測定、患者の観察を15回実施。 結果 視線がきょろきょろする、物を注視する、呼びかけに目が合う、表情が明るくなる、笑う、好きな仕草を行おうとするなどが見られた。3氏に共通して背臥位と腹臥位では、比較内容すべてにおいてp<0.05で有意に数値の上昇があった。 考察 腹臥位では心拍数、アミラーゼが低下しリラクゼーション効果が得られるのではないかと考え研究に臨んだが、有意に上昇する結果となった。これは交感神経が優位となり、ストレス状態であったと考えられる。ストレスには、生態的に有益な快ストレスと不利益な不快ストレスの2種類があり、自律神経には交感神経と副交感神経の日内変動によりバランスをとっている。腹臥位中に自分で動こうとする動作や注視行動が増加し、アミラーゼの上昇が認められた。このことは、対象者の覚醒レベルが向上したことと関係があると考えられた。今回の研究ではリラクゼーション効果を得た結果とはならなかった。しかし、患者の様々な様子や反応から腹臥位が不快なストレスであったとは考えられない。 結論 心拍数とアミラーゼから、腹臥位でリラクゼーション効果が得られたとは言いがたい。腹臥位は覚醒レベルを向上させる効果があることが示唆された。
feedback
Top