周産期学シンポジウム抄録集
Online ISSN : 2759-033X
Print ISSN : 1342-0526
第16回
選択された号の論文の23件中1~23を表示しています
はじめに
  • 中村 肇
    p. 3
    発行日: 1998年
    公開日: 2024/07/29
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     第16回日本周産期学会は,平成10年1月23日,24日に神戸市の神戸新聞松方ホール,ハーバーランドニューオータニで開催されました。あの阪神淡路大震災から丸3年が経ち,復興途上にある神戸に全国から先生方をお招きできたことは無上の喜びでした。シンポジウムの前夜には,黄疸研究の良き仲間である米国Stanford大学小児科教授のStevenson博士に「Visualizing infection and gene expression in living animals」というタイトルで特別講演をお願いしました。生体で光を発する物質(luciferase)を用いて病原体や特定の遺伝子をラベルして,感染症の進展や種々の病態,治療の経過を視覚的に観察しようとする極めてユニークな研究で,わが国ではこの種の研究は未だなく大変興味深く拝聴しました。

     24日には「周産期の炎症とその周辺」をテーマとして,午前と午後の2部に分けて行われました。午前の部では西田朗・豊田長康両先生の座長で「周産期の細胞障害」と題して,虚血や低酸素がもたらす体細胞および中枢神経細胞障害の発生とその過程におけるフリーラジカルの関与,新生児の感染とスーパー抗原について討論されました。特に脳性麻痺の主な原因である脳室周囲白質軟化症(PVL)の臍帯圧迫や急性脱血による動物実験モデルの報告は,これまで未知であった新生児のPVLの発症機序の解明や予防法の確立に明るい見通しを与えてくれました。

     午後の部では,佐川典正・小口弘毅両先生の座長で「子宮内感染と早産」と題して早産の発生と感染・炎症との関連,絨毛膜羊膜炎と児の病態などについて活発に討論されました。これら2つのシンポジウムを通して,周産期にみられる種々の病態を炎症という側面から解明しようとしている最近の周産期医学の進歩・動向について認識を深めることができました。

     震災後に建設されたこの松方ホールのロビーからは,からりと晴れ上がった冬空のもと遠く大阪湾の対岸まで見通せるパノラマは,シンポジウムでの興奮を静める爽やかな清涼剤となり,参加された約400人の先生方には気持ち良く学会を満喫して頂けたものと思います。

     最後に,この本シンポジウムを企画・立案して頂きました常任幹事の先生方,座長・シンポジストの先生方をはじめ,学会運営のためにご協力を賜った諸氏に心より感謝を申し上げます。

シンポジウム A:周産期の細胞障害
  • 豊田 長康
    p. 8
    発行日: 1998年
    公開日: 2024/07/29
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     このシンポジウムでは,周産期の細胞障害を取り上げる。周産期における胎児・新生児の細胞障害に基づく疾患には,たとえばcerebral palsy(CP)をはじめとする中枢神経系の非可逆的障害,呼吸障害,壊死性腸炎など,非常に重要な疾患が含まれる。最近,細胞障害の機序として,スーパーオキシドやNOなどのフリーラジカルの関与,そして免疫系の関与が重要であることが次第に明らかとなってきている。分娩は生理的に起こる一種の虚血—再灌流であると考えられるが,周産期の細胞障害には,この虚血—再灌流による細胞障害を適用できる場合が多いと考えられる。特にCPを生じる病変として注目されているperiventricular leucomalacia(PVL:脳室周囲白質軟化)が,虚血—再灌流による細胞障害として位置づけられるのかどうか,非常に興味がもたれる。そして,このような周産期の細胞障害の病態生理の解明によって,現在の周産期医学のおそらく最大のテーマであるところの,非可逆性中枢神経障害を予防できる道が開けるのかどうか,大きな期待が寄せられているところである。

     今回の演題は大きく3つのグループに分けることができると思われる。第一のグループは,虚血—再灌流による細胞障害の機序に関する演題である。まず,西田先生には虚血—再灌流による細胞障害の概要について,座長の立場から総説的にご解説いただく。田中先生には虚血—再灌流と活性酸素および免疫系の関与,村松先生,長田先生には虚血—再灌流とNOの関与を中心にご発表いただく。

     第二のグループは,丸茂,大湯,奥山,湯原の4先生のご演題で,大動物を実験モデルとして,胎児における低酸素虚血負荷が中枢神経障害を惹起するかどうかを検討されたご発表である。特にPVLの発生を虚血—再灌流実験系によって再現できるかどうかは,たいへん関心がもたれる。

     第三のグループは周産期における免疫系の特異性に関するご発表である。虚血—再灌流による細胞障害には免疫系が深く関っているが,これを周産期にあてはめようとする場合には,周産期の免疫系の特異性を考慮しておく必要がある。高橋先生にはsuperantigenによる新生児疾患,山田先生には好中球減少性細菌感染症についてご発表いただき,周産期の免疫系の特異性の一端をご教示いただく。

  • 西田 朗
    p. 9-15
    発行日: 1998年
    公開日: 2024/07/29
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     古来から日本においては,安産を願い,戌の日から腹帯を巻く慣習が残っている。犬のような四足歩行する動物に比べ,ヒトは二足歩行をするため骨盤の前後径が短くなり,かつ恥骨結合を今以上広げることができない構造になっている。そのうえ,ヒト胎児の頭は非常に大きくなっているため,恥骨結合をかなり無理しないと胎児は産道を通過することができない。したがって,ヒトの出生時(経腟分娩)には他の動物に比べ非常に負荷がかかっており,程度の差はあれ虚血再灌流の病態を呈しているものと考えられる。

     本稿においては,まず『酸素が欠乏するとなぜ細胞障害が生じるのか?』という側面から周産期における細胞障害,特に低酸素性虚血性脳症についてその概要を述べ,次に,虚血再灌流障害では,その二次的組織障害において好中球が重要な役割を担っていることから『ヒトの出生時における好中球機能および接着蛋白などの変化』および,『低酸素性虚血性脳障害の実験モデルとして,脳の虚血再灌流実験および無呼吸発作実験(新生ブタ)における好中球のスーパーオキシドアニオン(O2-)産生能,およびin situにおけるO2-産生を中心に検討を加え,仮死に対する治療法の可能性を述べる。

  • 田中 守, 宮崎 豊彦, 石本 人士, 宮越 敬, 谷垣 伸治, 藤井 義広, 名取 道也, 吉村 泰典
    p. 17-23
    発行日: 1998年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     子宮内胎児発育遅延(以下IUGR:Intrauterine growth retardationと略す)症例での胎盤および胎盤床の病理組織学的検討では,梗塞像などの虚血性変化がしばしば認められ,また,梗塞の状況および螺旋動脈の異常とIUGRの程度には密接な関係があるとされている1)。さらに,同一の胎盤においても種々の虚血性病変が認められることから,胎盤の部位によって障害の発生の程度や時期が異なることが指摘されている2~4)。したがって,IUGRの発生あるいは進展の過程で,胎盤の小葉において虚血,引き続いて再灌流が発生していることが推測される。

     虚血性心疾患,脳虚血などにおいて虚血後,再灌流されることによる組織障害は,治療可能な病態として注目を集めている 5,6)。この虚血再灌流障害の発生機序では,フリーラジカルが病態形成のうえで重要な役割を果たしていることが明らかとなってきた7, 8)。また,IUGRと共通の病因病態が推察されている妊娠中毒症において,血中や胎盤中の過酸化脂質が増加していることが報告されており,フリーラジカルの発症機序への関与が強く示唆されている9)

     そこで本稿では,子宮胎盤循環の一過性虚血再灌流障害の胎仔および子宮胎盤循環に与える影響とフリーラジカルの関係および微小循環系での白血球の役割について概説する。

  • 村松 幹司, 山田 恭聖, 戸苅 創
    p. 25-29
    発行日: 1998年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     図1は低酸素—虚血実験ラットモデルでの神経細胞障害部位(大脳皮質)の病理写真である。免疫組織化学法によってグリア細胞を抗体染色しており,損傷のひどい部位の周辺にまばらに陽性細胞を認める。強拡大で観察すると典型的なグリア細胞が観察できる(図1-A)。また同様に別の抗体を用いると,同じ領域にマクロファージも観察することができる(図1-B)。これらは低酸素・虚血による神経細胞障害に炎症性細胞が何らかの形で関与することを示唆している1)

     低酸素・虚血といった侵襲が脳に起こるとエネルギー代謝やカルシウムの流入など神経細胞に直接に作用する変化が起こる。と同時にサイトカイン産生を促し,グリアやマクロファージなど炎症性細胞の活性化が行われる。特に脳の中ではマクロファージやマイクログリアなどが活性化し,一酸化窒素(以下NO)を産生するinducible NO synthase(以下iNOS)が誘導され,生成されたNOはパーオキシナイトライトなどのfree radicalとなり,二次的な細胞障害を引き起こすとされている2)(図2)。

     今回われわれは低酸素性虚血性脳症の幼若ラットモデルにて中枢神経系,特に大脳皮質での神経細胞障害における炎症性細胞とNOとの関係をiNOSを指標に実験的に検討したので報告する。

  • 長田 直樹, 池野 慎治, 高橋 弘幸, 伊藤 隆志, 寺川 直樹, 佐治 眞理
    p. 31-35
    発行日: 1998年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     近年の周産期医療の進歩にも関わらず,cerebral palsyをはじめとする脳障害の発生頻度は必ずしも滅少していない。とりわけ早産出生児の脳障害発生が問題となっている。最近では,出生後の児にみられる脳障害のかなりの部分が分娩前の妊娠中に原因を有すると考えられるようになってきた。

     周生期に発生する脳障害の原因のひとつとして,反復低酸素虚血負荷が考えられている。Clappら1)は,羊胎仔の間欠的反復臍帯圧迫により,脳白質に障害を生じることを示した。著者らは,出生直後の新生児にみられる胎内発症PVL(periventricular leukomalacia)においては,臍帯圧迫によって生じる胎児心拍数の変動一過性徐脈の頻発が関与する可能を報告した2)

     脳に虚血負荷が加わる際に,単一の負荷は短時間で神経細胞に対して非致死的であっても,それが繰り返し加えられた際には,刺激が蓄積されて障害を生じる場合がある(蓄積効果)3)。一方で,最初の低酸素虚血負荷により,heat shock protein産生など内因性の変化が起こり,その結果反復虚血に対して抵抗性を示す場合がある(虚血耐性)3)。また,連続低酸素虚血と反復低酸素虚血では,発生する脳障害部位が異なることも報告されている。このように,反復低酸素虚血負荷と脳障害の関連性について成績が異なるのは,多くは実験条件の相違によるが,一面では反復負荷による脳障害の機序が多様であることを示している。

     近年,虚血性脳障害発生において一酸化窒素(nitric oxide;NO)の関与を指摘する報告が数多くみられる4)。NOにはneuroprotectiveとneurodestructiveの両面性があるとされ5, 6),その機序や意義に関してもさまざまな意見がある。神経細胞障害の機序としては,NOそのものよりもNOとsuperoxide anion(O2-)が反応して生じるperoxynitrite(ONOO-)という毒性の強いラジカルの関与が考えられている。反復低酸素虚血負荷は,虚血—再灌流を繰り返すという観点でみると,NOやO2-を発生しやすい状況にあり,その脳障害発生にNOが関与する可能性が考えられる。

     したがって本研究では,反復低酸素虚血負荷が未熟脳に与える影響を知ることを目的とした。脳の発達段階がヒトの在胎32-34週から満期に相当する生後7日の新生仔ラットを対象に,低酸素性虚血性脳障害モデルを用い,以下のプロトコールにより反復負荷実験を行った。第1には,分娩時の臍帯圧迫などによって繰り返し生じる短時間の間欠負荷を想定し,10分間負荷,10分間間欠を数回反復して行い,脳の組織学的評価とNO産生の程度を連続負荷群と比較した。そして第2には,羊水過少や臍帯過捻転を背景としてsporadicに生じる反復負荷を想定して,90分間低酸素虚血負荷を数時間から数十時間間隔で2回行い,脳障害発生とiNOS(inducible nitric oxide synthase)との関連を検討した。

  • ①病態生理学的検討
    丸茂 元三, 上妻 志郎, 濱井 葉子, 町田 芳哉, 小林 浩一, 梁 栄治, 海野 信也, 馬場 一憲, 岡井 崇, 大湯 淳功, 小沢 ...
    p. 37-41
    発行日: 1998年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     近年,脳性麻痺の原因としてPVLの重要性が指摘され,PVLの発生機序を明らかにし,その予防策を確立することは極めて重要な臨床上の課題となっている。われわれはPVLの発生要因として臍帯圧迫が重要であるとの報告に注目し,臍帯圧迫の胎児循環系および活性酸素の発生に及ぼす影響について検討し,臍帯圧迫による胎仔脳障害発生のメカニズムを解明することを目的として本研究を行った。

  • ②病理組織学的検討
    大湯 淳功, 高嶋 幸男, 中嶋 一行, 高坂 新一, 丸茂 元三, 上妻 志郎, 岡井 崇, 武谷 雄二
    p. 43-48
    発行日: 1998年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     新生児期によく認められる白質周囲軟化症や脳室内出血は,脳性麻痺などの神経学的後遺症を残す場合が多い。したがってこれらを予防し,健やかな児の発達を導くことは周産期医療の大きなテーマである。疫学的にみて脳室内出血は,周産期管理の進歩に伴って減少してきているが,脳室周囲白質軟化症の発生率はあまり変わらず,低出生体重児の生存率が増加してきていることを考えあわせると大きな問題である。

     脳室周囲白質軟化症の原因は未熟な脳の循環障害であると考えられており,胎内ですでに発症している症例があるが,発症機転やその予防法はいまだに明らかではない1)。今回われわれは妊娠羊を用い,臍帯圧迫により胎児仮死のモデルを作成し生理学的な検討を行うとともに,胎児脳を病理学的に検討し,胎児脳障害の発生メカニズムを検討した。

  • 奥山 和彦, 松田 直, 長 和俊, 根岸 広明, 星 信彦, 松本 憲則, 古林 与志安, 藤本 征一郎
    p. 49-54
    発行日: 1998年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     脳室周囲白質軟化(PVL)は未熟児における脳性麻痺の主たる責任病変であり,その成因の解明と予防法の確立は,周産期医学の臨床上最も重要な課題の一つである。

     PVL発症の背景として,その発症部位が深部の動脈境界領域であること,その時期の脳血流量調節が血圧依存性であり,また神経膠細胞の分化・髄鞘形成が活発になる時期であることの重要性が指摘されている1)。これらの背景因子に何らかの要因が加わり,深部白質の血流が低下してPVLを生じると推測される。これまで,胎児の全身性低血圧が本質的な発症因子として示唆されているが,いまだ明確な証明はなされていない1)

     われわれはヒツジ胎仔を用いた慢性実験系において,胎仔に急性脱血による全身性低血圧を負荷することにより,その中枢神経系(CNS)に臨床的PVLに類似する病変を得たので報告する。

  • 湯原 千治, 伊藤 茂, 落合 圭子, 薄井 直樹, 中村 靖, 吉田 幸洋, 三橋 直樹, 桑原 慶紀, 有井 直人, 高嶋 幸男
    p. 55-59
    発行日: 1998年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     近年,極小未熟児の生命予後の改善は著しいが,脳性麻痺(cerebral palsy:CP)の発症は依然として高く,周産期医療の重要な課題となっている。未熟児に発症するCPの原因の70%は脳室周囲白質軟化症(periventricular leukomalacia:PVL)であるとされており1), PVLの発症予防は重要である。PVLは虚血性脳障害とされており,その原因としては,未熟児の脳血管構築および脳血流の自動調節能の未熟性のほか,脳血流を低下させるような分娩時仮死や呼吸窮迫症候群,無呼吸発作,感染症,人工喚気による低二酸化炭素血症などがあげられている。

     今日の新生児医療の進歩により出生後発症のPVLは予防されつつあるが,新生児の剖検例や出生直後の超音波検査などで,分娩時すでにPVLを認める例があることが判明し,母体内における何らかの傷害によって,出生前にPVLが発症する可能性があることが明らかとなった。

     したがって,この出生前に発症するPVLの予防は,未熟児におけるCPの減少に大きく貢献するものと考えられ,その発生機序の解明と原因の究明が急務となっている。

  • 高橋 尚人
    p. 61-70
    発行日: 1998年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     新生児領域では,スーパー抗原は耳慣れない用語と思われる。その一番の理由はスーパー抗原によると確認されている疾患がほとんどないからである。その点産婦人科領域では,細菌性スーパー抗原であるtoxic shock syndrome toxin-1(TSST-1)によるtoxic shock syndrome(TSS)が有名であり,比較的なじみがあると思われる。しかし,1994年の新生児学会でわれわれが報告した新生児の原因不明の発疹症1, 2)の原因がこのTSST-1によることが確認され3),新生児領域でも今後スーパー抗原は重要なテーマになっていくと思われる。スーパー抗原の詳細については,いくつかの優れた総説が提出されているので参照されたい4-6)

  • 山田 俊彦, 野渡 正彦, 樋浦 好, 松本 真紀, 三須 陽子, 渡辺 智子, 佐藤 雅彦, 蒲原 孝, 小口 弘毅, 荻野 純代, 中村 ...
    p. 71-75
    発行日: 1998年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     近年小児領域のさまざまな好中球減少症に対し外因性granulocyte colony-stimulating factor(以下G-CSF)の有用性が報告されている1, 2)。しかし,新生児細菌感染症に伴う好中球減少症に対する外因性G-CSFの効果に関する報告は少ない3, 4)。この新生児細菌感染症に伴う好中球減少症の理由は十分解明されておらず,Christensenら5)は新生児骨髄での好中球のstrange poolが少ないためと報告し,Schiblerら6)は新生児はG-CSFの産生能力が未熟であるためと報告している。

     今回,われわれは好中球減少性新生児細菌感染症例において,外因性G-CSFを投与した際の血中G-CSF濃度と好中球数の変化を調べその治療法および病態生理を検討することを目的とした。

  • 豊田 長康
    p. 76-77
    発行日: 1998年
    公開日: 2024/07/29
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     まず,最初のテーマは虚血—再灌流における細胞障害の機序についてであるが,西田先生には,虚血—再灌流に伴う好中球障害ついて,座長の立場からご解説いただいた。田中先生は,妊娠ラットの片側子宮胎盤循環を30分間虚血する実験的IUGRモデルを用い,虚血後低灌流が起こること,それには活性酸素および白血球が関与していることを示された。村松先生は,新生仔ラット総頸動脈結紮後低酸素負荷を行う実験系において,脳内免疫細胞で誘導されるiNOSに対して,その阻害剤の投与により脳損傷が軽減され低酸素性虚血性脳障害がNOを介した炎症性変化によることを示唆された。長田先生は新生仔ラット頸動脈結紮後の低酸素負荷の時間と繰り返しの影響を検討され,低酸素負荷の時間が長いほど,また,間欠負荷群は連続負荷群よりも高度な障害をきたすことを明らかにされた。その際NOの発生およびiNOSmRNA発現が,障害の程度と相関することから低酸素性虚血性脳障害におけるNOの関与を示唆された。

     臨床的には虚血による細胞障害と再灌流による細胞障害を区別することは困難であるが,この両者を分けて考えておくことは大切と思われる。なぜならば,虚血による細胞障害は治療することが不可能であっても,再灌流による細胞障害は防ぐことが可能かもしれないからである。田中先生のIUGRの実験系は,虚血—再灌流によって血管内皮が障害されて虚血後低灌流を生じ,それが長期間持続することによってIUGRが発生すると考えられ,虚血後低灌流の影臀,すなわち再灌流障害をみるのによい実験系であると考えられる。

シンポジウム B:子宮内感染と早産
  • 佐川 典正, 小口 弘毅
    p. 80-83
    発行日: 1998年
    公開日: 2024/07/29
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     頸管熟化や陣痛発来は,生理的炎症反応として理解されるが,妊娠末期の正期産であっても,これらのうち複数のサイトカインが関与していると考えられている。また,胎児側でも各臓器の正常な発育や機能分化の調節にサイトカインが関与している。したがって,子宮内感染に際しては,頸管,絨毛膜,羊膜,胎盤,羊水中,臍帯などに炎症が生じ多くのサイトカインが産生される状態となるので,早産や胎児臓器の機能異常の発生にこれらのサイトカインが関与する可能性が推測される。

     このシンポジウムでは,子宮内感染によって母体および胎児に生じる病態をサイトカインを共通のkey wordとして討論していきたい。多種類のサイトカインが取り上げられるので,理解の一助として,最初にこのシンポジウムで取り上げられるサイトカインを中心に,サイトカインの種類と受容体機構の特徴を概説する。

  • 金山 尚裕, 寺尾 俊彦
    p. 85-94
    発行日: 1998年
    公開日: 2024/07/29
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     要約

     分娩は非常に巧妙にプログラムされた生理的炎症反応と位置づけされる。この生理的炎症を作動させる因子が炎症性サイトカインである。分娩の進行には頸管熟化と子宮収縮の2つが必須である。頸管熟化においてはインターロイキン-8(IL-8)が中心的サイトカインである。子宮収縮についてはIL-8による脱落膜の活性化,それによって発生するIL-1, TNFのプロスタグランディンの産生機構が重要である。これらの発現はホルモン,物理的因子,羊水などにより複雑に調節されている。分娩周辺期ではすべての調節因子がサイトカイン誘導に働く。

  • ―子宮頸部熟化現象は炎症反応に酷似している―
    平野 秀人, 小原 幹隆, 小川 正樹, 椿 洋光, 津田 晃, 真田 広行, 細谷 直子, 田中 俊誠, 宮内 聡, 浅利 晃, 吉田 裕 ...
    p. 95-100
    発行日: 1998年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     子宮頸部熟化現象の本態は,コラーゲンとグリコサミノグリカンを中心とする細胞外マトリックスの変化である。これまで子宮頸部熟化の機序については,コラーゲンに関する研究のほうが先行していた。グリコサミノグリカンについては測定法自体が比較的最近確立したばかりで,まして子宮頸部熟化時に果たす役割についてなど,不明な点がかなり多い。

     これまで,分娩時の熟化した子宮頸部組織中において,ヒアルロン酸をはじめとして数種類のグリコサミノグリカンが増加することが知られていた1, 2)。そしてその主な機能としての保水性により,組織の軟化に関与しているものと考えられていた。

     一方,分子生物学が飛躍的な進歩を遂げる以前から,Liggins3)が報告したように,子宮頸部熟化現象は炎症性反応に酷似しているといわれていた。すなわち,子宮頸部の熟化時には,組織において著明な浮腫,血管拡張,血管新生,炎症細胞の遊走といった炎症性の変化が認められる(図1)。また,図2に示すように炎症性サイトカインがさまぎまな機序において子宮頸部熟化に関与していることも明らかになってきている。

     われわれは,子宮頸部熟化において,ともすれば脇役的なグリコサミノグリカン,そのなかでもヒアルロン酸に焦点を当て,妊娠・分娩時における変化を明らかにすること,さらに炎症との関連を明らかにすることを目的として研究を行った。

  • 谷 昭博, 吉田 耕太郎, 今井 雅夫, 田口 雅之, 荒井 忠士, 前原 大介, 金井 雄二, 新井 努, 川口 美和, 斎藤 克, 庄田 ...
    p. 101-109
    発行日: 1998年
    公開日: 2024/07/29
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     緒言

     早産・前期破水の発生の一因として絨毛羊膜炎の関与が指摘されてきた。腟内細菌の上行性感染により脱落膜中のマクロファージを代表とする免疫担当細胞が活性化するとさまざまなサイトカインがネットワークを形成しながら放出される。IL-1β, TNFαによるプロスタグランジン誘導作用やIL-8による頸管熟化作用は早産を誘導する。またサイトカインによる組織炎症反応は,卵膜の脆弱化をきたし,細菌,マクロファージなどの羊水腔への移行を可能とする一方,前期破水を発生させるとされる。このような状況下での早産・前期破水の問題点は,児の未熟性を改善させるため子宮収縮抑制剤を投与し待機策をとるため,速やかに分娩に至る正期産とは異なり,絨毛羊膜炎がはじめに存在しない場合でも,子宮口開大が存在すれば腟内細菌と子宮内組織の接触が起き,時間経過とともに羊水感染をきたし,細菌感染が胎児に波及する恐れがある点と,免疫能も未熟な早産胎児は易感染性であり容易に敗血症,髄膜炎に移行する点である。そのため臨床的にはどのタイミングで胎児を娩出させるかが最も重要な課題となる。

     そこで今回羊水中サイトカイン濃度を測定し,子宮内感染を予知可能かどうか,羊水中の抗菌関連物質としてリゾチーム濃度とリン酸・亜鉛比を検討し,子宮内感染との関連を検討した。

  • 齋藤 裕, 大槻 克文, 依田 暁, 矢内原 巧
    p. 111-114
    発行日: 1998年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     近年,早産の原因として,子宮内感染により誘発された各種サイトカインが子宮頸管開大,陣痛発来を引き起こすと考えられている1)。これは早く分娩を終了させて感染に対処するという母体の生体防御反応のひとつと考えられる。また早産前期破水をきたし出生した児は,それ以外の原因で分娩に至った児に比べ,肺の成熟が促進しているなど,母児ともに何らかの子宮内環境の変化に対応している可能性を推察させる。

     ラクトフェリンはヒト乳汁中に発見された約80Kdのトランスフェリンファミリーに属する鉄結合蛋白で,抗菌作用,抗炎症作用などの多彩な生理作用を有することが知られており,LFは乳汁以外にも白血球,唾液,頸管粘液,羊水などにその存在が報告されている2~4)。LFは腸上皮に強く発現しており,母乳栄養の乳児は人工栄養児に比べ腸内感染が少ないことから,LFは母乳からの鉄輸送とともに,乳児の感染予防に関与していることが推察されている。しかしながら,周産期におけるLFの動態やその意義については不明であることから,今回,子宮内感染におけるLFの動態を検討し,母児のLFを介した防御機構について考察した。

  • 嶋田 優美, 遠藤 晃彦, 湊 通嘉, 高田 昌亮, 高橋 滋, 原田 研介, 早川 智
    p. 115-122
    発行日: 1998年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     周産期医療技術の進歩により未熟児,とくに極低出生体重児の救命率は著しく向上してきたが,新生児,とくに未熟児の免疫能は未熟であり,易感染性に起因する感染症の高発症率と重症化ならびに後障害の発症は,依然,重大な問題として残されている。

     IgMは胎生20週時にはすでに産生されるが,IgG, IgAはほとんど産生されないことが知られている1)。新生児は,抗原曝露の機会のない胎内環境では免疫グロブリンを産生する必要性はないと思われるが,胎内で抗原に曝露する場合や出生時には外来抗原への免疫学的適応を強いられる。

     近年,感染症とサイトカインの関連性が注目され,周産期の分野においても研究が進んでいる2, 3)

     今回未熟児,とくに極低出生体重児において,周産期ならびに新生児期の感染症の際,免疫グロブリンの産生にサイトカインがどのように関与しているか,また早産とサイトカインや免疫グロブリンの関連性について検討することを目的とした。

  • 北島 博之, 藤村 正哲, 中山 雅弘
    p. 125-133
    発行日: 1998年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     今回のテーマの『子宮内感染と早産』の中から,胎盤炎症の結果としてもたらされる慢性肺疾患の病態について,特にウイルソン・ミキティ症候群に関して,その胎盤所見,臍帯血中の種々の因子の測定結果,そして出生後の児から得られる各種の臨床的データを解析し,その病態にいたる過程を推論をしてみる。

  • 松田 直, 中島 健夫, 服部 司, 花谷 馨, 深沢 雄一郎, 小林 邦彦, 藤本 征一郎
    p. 135-140
    発行日: 1998年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     壊死性臍帯炎(necrotizing funisitis, NF)は,主として妊娠中期の子宮内において,臍帯血管の周囲に沿ってWharton's jelly内に円環状に生じる壊死性病変であり,同部位に一致してしばしば石灰沈着を認める亜急性もしくは慢性の強い炎症性病変である1)。NFと関連する病態として今までに,未熟性2~4),死産2, 3),反復する感染症2),small for gestational age3),壊死性腸炎3),先天梅毒4),2型単純ヘルペス感染5)が報告されているが一定の見解はなく,その臨床的意義はいまだ明確にされていない。

     近年,子宮内炎症は早産の原因としてのみならず,早産児の慢性肺疾患(chronic lung disease, CLD)発症に対する危険因子としても注目されており6~8),本邦ではNFを生じた早産児が出生後にWilson-Mikity症候群を発症する可能性が指摘されている9~11)。CLDの発症とその重症化は早産児の予後に重大な影響を与えているため,子宮内炎症による胎児肺損傷の発症機構を解明することは大変重要である。

     本研究においてわれわれはNFの臨床的特徴を解析し,NFが早産児におけるCLDの発症とその重症化に関連するかどうかを検討した。

  • 小口 弘毅, 佐川 典正
    p. 142-143
    発行日: 1998年
    公開日: 2024/07/29
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     周産期領域のさまぎまな病態において,サイトカインの役割が注目されている。感染症などの炎症過程のみならず,最近では分娩発来機構も炎症反応の一つとしてとらえ,その中でサイトカインが重要な役割を果たしていると考えられるようになっている。シンポジウムB「子宮内感染と早産」は必ずしも一つのテーマとしてくくれない内容となっているが,佐川先生の座長解説のように「サイトカインを介した母児の病態」として解釈すると,一つのテーマとして議論が可能となったと思われる。

特別講演
  • Christopher H. Contag, Pamela R. Contag, David A. Benaron, David K ...
    p. 146-155
    発行日: 1998年
    公開日: 2024/07/29
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     Real-time analyses of routes of infection, tissue colonization, gene expression and response to antibiotic therapy would reveal much about mechanisms of pathogenesis, tempo of disease progression and therapeutic interventions. We have developed a method by which light from tagged biological processes, labeled by expressing bioluminescent proteins(luciferase), can be used to noninvasively monitor the distribution of pathogens and gene expression in living laboratory mammals. In a mouse model of human typhoid fever, abortive Salmonella infections in mice could be distinguished from those that were persistent or progressive. The effect of antibiotic therapy on infection was observed within minutes of treatment and the response could be noninvasively followed over several hours, permitting rapid evaluation of pharmacokinetics and efficacy. Modifications of the technique also permit noninvasive monitoring of mammalian gene expression such that developmental regulation, host response to pathogens and in vivo delivery of therapeutic genes can be studied. This approach will facilitate development of novel therapeutic compounds and accelerate drug evaluation in animal models. The increased understanding gained by viewing the spatio-temporal distribution of pathogens in living animal models for human disease will likely have a significant impact on how we hreat infections in humans.

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