はじめに
近年の周産期医療の進歩にも関わらず,cerebral palsyをはじめとする脳障害の発生頻度は必ずしも滅少していない。とりわけ早産出生児の脳障害発生が問題となっている。最近では,出生後の児にみられる脳障害のかなりの部分が分娩前の妊娠中に原因を有すると考えられるようになってきた。
周生期に発生する脳障害の原因のひとつとして,反復低酸素虚血負荷が考えられている。Clappら1)は,羊胎仔の間欠的反復臍帯圧迫により,脳白質に障害を生じることを示した。著者らは,出生直後の新生児にみられる胎内発症PVL(periventricular leukomalacia)においては,臍帯圧迫によって生じる胎児心拍数の変動一過性徐脈の頻発が関与する可能を報告した2)。
脳に虚血負荷が加わる際に,単一の負荷は短時間で神経細胞に対して非致死的であっても,それが繰り返し加えられた際には,刺激が蓄積されて障害を生じる場合がある(蓄積効果)3)。一方で,最初の低酸素虚血負荷により,heat shock protein産生など内因性の変化が起こり,その結果反復虚血に対して抵抗性を示す場合がある(虚血耐性)3)。また,連続低酸素虚血と反復低酸素虚血では,発生する脳障害部位が異なることも報告されている。このように,反復低酸素虚血負荷と脳障害の関連性について成績が異なるのは,多くは実験条件の相違によるが,一面では反復負荷による脳障害の機序が多様であることを示している。
近年,虚血性脳障害発生において一酸化窒素(nitric oxide;NO)の関与を指摘する報告が数多くみられる4)。NOにはneuroprotectiveとneurodestructiveの両面性があるとされ5, 6),その機序や意義に関してもさまざまな意見がある。神経細胞障害の機序としては,NOそのものよりもNOとsuperoxide anion(O2-)が反応して生じるperoxynitrite(ONOO-)という毒性の強いラジカルの関与が考えられている。反復低酸素虚血負荷は,虚血—再灌流を繰り返すという観点でみると,NOやO2-を発生しやすい状況にあり,その脳障害発生にNOが関与する可能性が考えられる。
したがって本研究では,反復低酸素虚血負荷が未熟脳に与える影響を知ることを目的とした。脳の発達段階がヒトの在胎32-34週から満期に相当する生後7日の新生仔ラットを対象に,低酸素性虚血性脳障害モデルを用い,以下のプロトコールにより反復負荷実験を行った。第1には,分娩時の臍帯圧迫などによって繰り返し生じる短時間の間欠負荷を想定し,10分間負荷,10分間間欠を数回反復して行い,脳の組織学的評価とNO産生の程度を連続負荷群と比較した。そして第2には,羊水過少や臍帯過捻転を背景としてsporadicに生じる反復負荷を想定して,90分間低酸素虚血負荷を数時間から数十時間間隔で2回行い,脳障害発生とiNOS(inducible nitric oxide synthase)との関連を検討した。
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