周産期学シンポジウム抄録集
Online ISSN : 2759-033X
Print ISSN : 1342-0526
第21回
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
序文
  • 中林 正雄
    p. 5
    発行日: 2003年
    公開日: 2024/07/29
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     第21回日本周産期学会が2003年1月に東京プリンスホテルで開催された。シンポジウムのテーマは「21世紀の周産期医療システム:問題点と展望」である。

     周産期医療のシステム化は国民的課題であり,厚生労働省も推進しているが,地域によっては整備が遅れている。東京都や大阪府のような大都市においては,周産期センターを中心としたピラミッドモデルが確立されつつあるが,それでもNICUの病床不足や,産科医師不足のため緊急時の対応が困難なことがある。一方,地方においては周産期に関する医師不足は一層深刻な問題であり,さらに搬送に長時間を要するなどの問題が提起され,地域の特性に合わせた周産期医療システムの確立が急務であることが示された。

     周産期医療システムの確立のためには,施設間のスムーズな情報交換と医療水準の標準化が必要であり,そのためには電子カルテの導入など周産期医療のIT化が今後の重要な課題であることが提案された。

     このような討論から,周産期医療は個人の臨床医の必死の努力によって支えられている部分も多いが,医療のシステム化などの社会的支援がなければ実現不可能なことの多い分野であると切実に感じられた。

     周産期医療の今後の展望を明るいものとするためには,周産期医療に関わる臨床医,医療施設,医療施設への人的資源の供給に関与する医育機関,そして行政が密接に連携し,新しい周産期医療システムの確立のために粘り強い努力をすることが必要であると思われた。本学会の開催が今後の周産期医療発展に役立つことを願っている。

シンポジウム午前の部
  • 末原 則幸, 松本 雅彦, 椋棒 正昌, 今井 史郎, 辻本 大治, 大崎 尚
    p. 13-18
    発行日: 2003年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     わが国は少産少子の時代を迎え,誰もが安心して出産育児ができる社会が期待されている。厚生労働省では平成8年度より「安心して出産できる社会」を目指して,各都道府県に設置される総合周産期医療センターの運営と各地域の周産期医療システムの整備という,行政施策と健康保険面での新しい取り組みが開始された。

     平成14年度末までに全国19都府県に総合周産期医療センターが設置され地域周産期医療システムが整備されている。平成12年に発表された新エンジェルプランでは,平成16年度までに全ての都道府県に総合周産期医療センターを運営し,地域周産期医療システムを整備するという目標を掲げられている。

     大阪における周産期医療システムは,昭和40年代に行われた新生児死亡・妊産婦死亡の実態調査に始まりを見ることができる。昭和52年には在阪7病院から構成される新生児診療相互援助システム(Neonatal Mutal Co-operative System NMCS)がスタートした。昭和62年には病診連携と産婦人科救急対応を目指した産婦人科診療相互援助システム(Obstetrical Gynecological Co-operative System OGCS)が発足した。大阪府医師会は昭和55年に新生児医療推進委員会を,平成元年に産科救急推進委員会を発足させ,大阪府における周産期医療問題解決のために試案作りを開始した。産科救急推進委員会では大阪産婦人科医会の協力を得て平成元年から4年まで,産科救急実態調壺を実施し,産科救急の実態を知ることとともに,情報のネットワークの必要性が議論された。OGCS受け入れ病院の整備,情報システムの整備,研修会の開催,産科救急マニュアルの刊行などが行われた(図1)。

     厚生労働省のいう地域周産期医療システムの整備と総合周産期母子医療センターに関しては,平成11年度に周産期医療問題検討協議会が設置され,平成13年度には大阪府立母子保健総合医療センターと大阪市立総合医療センター(整備され次第指定)の2施設が総合周産期母子医療センターに指定され,システム化がスタートした。

  • 金 太章
    p. 19-24
    発行日: 2003年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     昨今,全国的にNICU病床の不足が問題視されている。そのようななかで,1996年に当時の厚生省児童家庭局が「周産期医療対策整備事業の実施について」の通達を出し,「周産期医療対策事業実施要綱」を制定した。そして2004年度までに全都道府県に周産期医療体制が整備されることとなった。

     大阪ではNMCS(Neonatal Mutual Co-operative System, 新生児診療相互援助システム)が新生児搬送を担ってきた。NMCSは1977年に発足したが,当時,6施設の小児科医により新生児を受け入れる病床を確保することを討議して始まったボランチア活動であった。その後,大阪市,大阪府ならびに大阪府医師会の援助を受け,さらに1987年にはOGCS(Obstetric & Gynecological Co-operative System, 産婦人科診療相互援助システム)が発足されて周産期医療システムの発展に至った1, 2)

     したがって,大阪の周産期医療体制はすでに先行している形であるが,国の実施要綱とを勘案してより充実化させることが重要である。そこで,大阪での現状を知る目的で,最近の新生児搬送の動向について解析し,NICU病床の状況や今後の周産期医療体制の課題などを検討する。

  • 大谷 嘉明
    p. 25-28
    発行日: 2003年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     児の生命予後・長期予後に大きく関係する早産,特に呼吸管理を必要とする可能性の高い妊娠34週未満の早産を,いかに予防するかは,地域の周産期医療の一翼を担うわれわれ産婦人科診療所にとっても重要な課題である。

     平成7年12月の開院当初より,3つの地域中核病院(総合周産期母子医療センター1カ所,地域周産期母子医療センター2ヵ所)を「受入れ病院」とした,オープンシステム・セミオープンシステムによる周産期医療を行ってきた当院の現況について,絨毛膜羊膜炎対策による早産予防戦略を中心として報告する。

  • 久保 隆彦, 太田 明, 菊地 正晃, 鈴木 康之, 早坂 篤, 福井 秀樹, 山本 初実, 吉永 宗義, 谷口 文章, 盆野 元紀
    p. 29-39
    発行日: 2003年
    公開日: 2024/07/29
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     緒言

     わが国の周産期医療成績は世界でも際立った好成績をあげている。これは主に新生児医療成績であり,妊産婦死亡に関してはいまだ大きな問題を抱えている。新生児医療の向上は未熟児,ハイリスク新生児の病態が明らかとなり,新しい管理方法が普及してきただけではなく,従来から確立されてきた新生児搬送の地域化によるところが大きい。しかし,この新生児医療の地域化もわが国のNICUを作り上げてきた第一世代,第二世代医師達のボランティアベースの献身的努力に依存していたことが現状である。さらに,厚生労働省の展開する総合母子医療センターを中心とした周産期医療システムの展開は10数ヵ所で稼動しているものの,当初の人口100万人に1ヵ所という構想からは程遠い。これは,必要な産科,新生児科の医師数基準が厳しいこと,都市型では対応できない地域型に基準がそぐわないこと,すでに実績をあげており総合母子医療センターにふさわしい施設が国立であるためだけで認定されないなどの問題が考えられる。

     わが国の病院群には,大学病院,都道府県市立病院,赤十字病院などのほかに国立病院・国立療養所がある。今回,この国立病院・国立療養所で周産期医療に携わる施設に対して周産期搬送についての全国調査を行ったので,その成績を踏まえわが国の周産期医療体制について言及する。

  • 海野 信也, 田村 正徳
    p. 41-49
    発行日: 2003年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに-長野県の周産期医療

     長野県は都道府県の中で4番目に面積の広い山岳県である。冬季オリンピック開催を契機に高速道路の整備が進み,交通事情は相当に改善したが,天候によっては救急搬送に相当の時間がかかる場合がある。人口は約218万人であり,年間分娩数は約21,000件である。乳児死亡率,新生児死亡率,早期新生児死亡率,周産期死亡率はいずれも全国平均よりも低値を示しているが,妊産婦死亡率は全国平均をかなり上回っている(1996~2000年で全国41位)(表1)。

     長野県で出生する児の出生体重の分布の年次推移を表2に示す。1998年以降超低出生体重児,極低出生体重児の出生数が増加しつつある。また低出生体重児の全出生児に占める割合は1995年の6.52%から2000年の8.36%へと単調増加を示している。このような変化は図1に示すわが国全体の低出生体重児の出生の増加と一致しているものと思われ,NICUを含む新生児医療の必要性の増加を示していると考えられる。

     長野県では周産期医療システムを構築するにあたって,1993年に開設された県立こども病院に新生児科が設置され,そこに県全体のNICUの50%が集中していたこと,すでに新生児専用救急車を用いた新生児搬送システムが稼働していたことなどが考慮された。その結果,母体救急への対応の問題はあるものの,県立こども病院が総合周産期母子医療センターとして機能することがもっとも現実的と考えられ,県立こども病院に産科を設置し,2000年9月より総合周産期母子医療センターとしての診療が開始された。

     総合病院としてのinfrastructureを持たない小児専門医療機関である「こども病院」が総合周産期母子医療センターとして指定されることには以下のような問題点が内在していると考えられる。

     ①周産期ハイリスク症例・救急症例のうちで受け入れることができる症例が,胎児救急・胎児異常中心に限定される。

     ②「こども病院」であるために,成人を扱う他科は存在せず,母体・胎児集中治療管理室を整備したとしても,救急母体への集中治療能力には限界がある。

     ③(院外・院内の)母体救急については成人の救命救急センター機能を有する他の施設に依存せざるをえない。

     したがって,搬送依頼に対して自施設に空床があっても他施設を紹介せざるをえない場合や搬送症例を他施設に再搬送することになることもまれではない。

     長野県では,このような問題点が存在することは十分理解した上で,地域の特殊性を考慮した結果,「こども病院」型総合周産期母子医療センターを含む周産期医療システムを構築した。その後すでに2年以上が経過し,長野県の周産期医療システムの運用実績が明らかとなりつつある。

     本稿では,長野県周産期医療システムの実績を紹介するとともに,「こども病院」型総合周産期母子医療センターを含む周産期医療システム運用上の問題点と対策について検討する。

  • 茨 聡, 丸山 英樹, 加藤 英二, 熊澤 一真, 丸山 有子, 徳久 琢也, 前出 喜信, 下野 隆一, 楠元 雅寛, 松井 貴子, 谷口 ...
    p. 51-60
    発行日: 2003年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     鹿児島県のハイリスク新生児の約90%を収容する鹿児島市立病院の周産期医療センターの新生児部門である新生児センターは,これまで60床(NICU12床)であったが,児の救命率の向上によるNICUベッド占有期間の長期化や多胎児の増加によるNICU入院数の増加から慢性的なオーバーベッド状態で,入院受け入れが困難な状況が続いていた(図1)。

     そこで,平成8年から始まった日本母性保護産婦人科医会鹿児島県支部の先生方の街頭署名運動をはじめとする熱心な運動により,鹿児島市立病院新生児センターにNICU20床の増床と新生児用ドクターカーの設置する旨の陳情に対する鹿児島県民約12万人の署名が集まった(図2)。その陳情が,鹿児島県議会,鹿児島市議会で採択され,平成12年の10月には,新生児センターの改築工事が終了し,総病床数80床(NICU32床)になり,鹿児島県(出生数年間約17,000人)の新生児医療の三次医療施設の収容能力は,鹿児島大学医学部付属病院と併せて十分なものになった(図3)。また,平成13年3月からは,保育器2台と人工呼吸器を装備した新生児専用ドクターカー(こうのとり号)(図4)が導入され,それまでは,救急隊による母体搬送と新生児搬送に頼っていた県内の一次および二次周産期医療施設と三次周産期医療施設との連携が円滑に行われるようになった(図5)。

     そこで,このような周産期医療システム導入による鹿児島県の新生児死亡率や周産期死亡率などの周産期医療の変化について,導入以前と比較検討し,また,今後の残された課題についても検討した。

  • 池田 智明, 池ノ上 克, 鮫島 浩, 寺尾 公成, 児玉 由紀, 嶋本 富博, 西口 俊裕, 春山 康久, 徳永 修一, 三輪 勝洋, 高 ...
    p. 61-65
    発行日: 2003年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     良い周産期医療システムを構築するためには,周産期医療に携わる医療スタッフの養成(人),施設・設備の充実(物),各部門間の良好なネットワーク(コミュニケーション)の3つが重要である。本稿では,宮崎県における周産期医療の地域化,医療システム構築について,われわれのこれまでの取り組みを述べたい。

  • 岡村 州博, 西田 朗
    p. 67-69
    発行日: 2003年
    公開日: 2024/07/29
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     『赤ちゃんが救えない!』1994年朝日新聞夕刊のトップ記事が書かれたときに比べ,周産期医療にまつわる種々の環境はよくなっているものと推測されるが,いまだに多くの問題を含んでいる。シンポジウム『21世紀の周産期医療システム:問題点と展望』は,患者および医療従事者にとって21世紀の医療環境がよりよいものとなることを願い企画されたものと理解している。午前の部の座長解説としては,独断で問題点を I.地域に関わるもの,II.施設に関わるもの,III.そこに働いているヒトに関わるものの3項目に分けてシンポジストを紹介し,多少の解説を加えるとともに,『東京発医療改革』の掛け声のもと,周産期医療の分野でも新しい試みが行われているので,話題提供として座長の一人である西田が東京の現状を加えて座長解説としたいと思う。

シンポジウム午後の部
  • 久野 敦, 秋山 正史, 田中 宏和, 秦 利之
    p. 73-78
    発行日: 2003年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     周産期医療のさらなる成績向上のためには,個々の医療機関の充実に加え,地域全体における周産期医療のシステム化が重要と考えられる。周産期医療の分野においてはすでに平成8年度から厚生省により全国的規模で「周産期医療のシステム化プロジェクト」が進められており,その効率的運用のためには医療情報の標準化,ネットワーク化が不可欠と考えられ,電子カルテの普及を推進していた1~4)。一方,平成11年4月には厚生省が電子媒体による診療録の保存(電子カルテ)を認めると発表し,今後は周産期分野においても医療情報の電子化が急速に進むことが予想される。

     今回,一般公立病院である坂出市立病院において,院内電子カルテと,周産期管理システムという2つの電子カルテを併用して効率的な運用が実現できている一例を報告する。

  • 秋山 正史
    p. 79-85
    発行日: 2003年
    公開日: 2024/07/29
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     厚生労働省により「周産期医療のシステム化」プロジェクトが全国的規模で進められており,総合周産期母子医療センター,および地域周産期母子医療センターと地域の医療機関が有機的に連携できる体制が求められている。本プロジェクトを効率よく運営するには,医療施設間相互に,また妊娠中から新生児期までを通して,スムーズな情報伝達システムを確立する必要がある。日本産婦人科医会情報処理検討委員会においては,将来の周産期医療情報の電子化,すなわち“電子カルテ”とその“ネットワーク”による運用を視野に入れ,平成6年に周産期管理における文字情報,数値情報に関する記録法の標準化,さらに平成10年には胎児心拍数情報記録の標準化に取り組んできた。これを受け,香川医科大学周産期医学講座では,早くから周産期医療情報の電子化共通規格化とその記録媒体である光カードの実用化に取り組んできた。その結果,日母光カード標準フォーマットが完成し,その情報をネットワーク上で伝送するシステムを開発した。

     開始当時は診療情報の電子媒体への記録はもちろん,ネットワークを介しての医療情報の伝送,保存に関して法的な裏付けが十分でなく,このような取り組みに関して懐疑的な意見も少なからず見受けられた。

     しかしながら平成11年4月に,厚生省労働省が電子媒体よる診療録の保存(電子カルテ)を認め,さらに平成14年3月に,診療録等の保存を行う場所(ネットワークによる医療情報の外部保存を許可)を認めるに至り,電子カルテの実用化に対して大きく舵が切られることとなった。

     現在光カードシステムは,平成10年度の香川県のモデル事業として,香川医大母子センターと地域の基幹病院産婦人科を結ぶ周産期電子カルテネットワークとして発展している。この電子カルテでは,妊娠管理だけではなく,入院から,分娩,新生児経過まで,すなわちすべての周産期情報を扱う機能をもっており,データのグラフ表示機能や検索機能はもちろん,ネットワークで接続されている医療機関は相互に,瞬時に情報を交換できるようになっている。

     香川県では現在8ヵ所の医療機関の電子カルテがネットワークで接続され,ハイリスク妊娠の母体搬送対応など周産期医療の向上に威力を発揮している。

     本稿では周産期の領域を中心に,電子カルテとそのネットワーク化の重要性に関して,香川県をフィールドとして行われているプロジェクトを解説し,その母体搬送時における役割を考察する。

  • 加藤 文英, 長谷川 明広, 菊池 清, 高垣 謙二, 清水 史郎, 中川 正久, 横木 礼子, 森山 祐子, 川合 政恵
    p. 87-96
    発行日: 2003年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     1999年4月,旧厚生省が,3局長通知1)として電子媒体による診療録の保存を認めたことにより,医療情報の標準化,ネットワーク化への流れは,大きく進展した。当院では,同年8月の病院新築移転を機に,電子カルテシステムを核とした院内全部門の情報を同時共有する独自の医療統合情報システム(System of Hospitals for Integrated Management and Administration by Network Environment-Integrated Intelligent Management System=SHIMANE-IIMS)を導入した2)。今回,3次医療機関としては,全国に先駆けて電子カルテを使用した経験から新生児集中治療室(NICU)での利用状況を紹介するとともに,電子カルテによる診療における今後の課題について,考察する。

  • 大木 康史, 懸川 聡子, 塩島 健, 名古 靖, 森川 昭廣, 針谷 晃, 桑島 信, 竹内 東光
    p. 97-103
    発行日: 2003年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     近年,明らかな根拠に基づいた医療,いわゆるevidence-based medicineの概念が治療方針の決定などに重要な役割を果たしている。Evidence-based medicineの推進により、医療の質の向上と標準化が図られ、地域や医師による診療内容のばらつきを極力減らすことが可能となる。また,他施設との比較に基づく業務内容の改善,いわゆるbenchmarkingも行われつつある。Evidence-based medicineにおいては,異なる状況下での結果の公正な比較が重要である。最も信頼性の高い比較法は,無作為割付試験による前方視的検討である。しかし,きわめて多数の対象症例数が必要であることや長期間を要することなどの制約が多いため,臨床の場では後方視的検討も重要である。後方視的検討では,対象を層別化(stratification)やリスク調整(risk adjustment)して,主な関心事以外の因子を統一した群間で比較することが必要とされる。集中治療分野では,リスク調整のために,重症度スコアとしてAcute Physiology, Age and Chronic Health Evaluation (APACHE)1-3)が開発され,重症度の客観的評価や,予後の予測に有用とされている。小児の集中治療においても1988年にPRISMスコア4)が発表された。新生児医療では,従来は生死を左右する最大の要因は児の未熟性であり,その指標である在胎週数や出生体重が重症度評価の代わりに使用されていた。しかし,周産期医療の進歩に伴い未熟性の強い児での生存率は著明に改善した5)。このため,在胎週数や出生体重のみでは重症度の評価として不十分な場合も考えられる。そこで欧米では,病的新生児の重症度を定量的に評価する目的でScore for Neonatal Acute Physiology6)(以下SNAPと略)およびClinical Risk Index for Babies7)(以下CRIBと略)が作成された。この結果,成人から新生児領域までの数種類の重症度スコアが集中治療の臨床研究における研究対象の層別化や多施設間,異なる年代間の成績の比較などに広く用いられている(表1)。新生児重症度スコアは在胎週数や出生体重よりも良好に生命予後を予測し6~8),重症度を基準にした,より的確な新生児集中治療の比較を可能にすると報告されている6~11)。しかし,これらスコアは欧米人を主な対象としており,日本人にも同様に利用できるかは不明である。そこで,当院のNICUに入院した極低出生体重児(以下VLBWIと略)の生存の予測に関するSNAPの有用性について検討した11)。加えて,SNAPを用いて,当院NICU整備前後のVLBWIの保育成績の比較を試みた12)

  • 臼倉 幸宏, 五十嵐 健康, 志賀 清悟
    p. 105-109
    発行日: 2003年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     静岡県における新生児医療の地域化は全国に先駆け今から25年以上前に柴田ら1~3)によって整備され,現在も県内を東・中・西と三分した医療体制を構築している。

     地域化が進むことで重症児は3次新生児医療施設に集中し,その予後の改善にも大きく貢献しているが,そのために慢性的な質的・量的な病床不足が社会問題化している。また前回の本学術集会でも取り上げられた“不妊治療”は多胎および早産児の発生をはじめ,新生児医療に大きな影響を与えており,病床不足に拍車をかけている。

     今回われわれは静岡県中部地域で3次新生児医療施設として機能する当施設が関わった品胎以上の多胎(Supertwin)症例を新生児医療の地域化の観点から検討したので報告する。

  • 土屋 清志, 岩下 光利, 中村 幸雄
    p. 111-119
    発行日: 2003年
    公開日: 2024/07/29
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     緒言

     東京都の周産期医療システムは,昭和53年10月に,新生児医療に対応できる17病院が,輪番制で当番日を定めた「新生児・未熟児特殊救急医療事業」に始まる。平成9年10月「東京都周産期医療対策事業」計画により整備が進み,5年後の平成15年には総合周産期センター9病院,地域周産期センター10病院が登録された。これにより新生児集中治療管理室のベッド数は180床となった。平成12年東京都の出生数約10万0千人の実績をもとに計算すると,東京都に必要な新生児集中治療管理室の目標ベッド数は200床となる。現在,東京都ではこの目標へ,残り20床のところまできた(表1)。

     このように,周産期設備の整備という点をみれば,東京都の「東京都周産期医療対策事業」は順調に推移してきたといえる。しかし,総合的な周産期医療体制の確立と運営というソフト面の整備はこれからの課題である。そこで,「東京都周産期医療対策事業」に参画している東京都の各産科部門の周産期センター施設にアンケート調査を実施して,東京都という巨大な周産期医療圏におけるわれわれの周産期医療への取り組みを紹介し,東京都という都市型の周産期医療体制の現況と今後の展望を考察した。

  • 谷口 隆
    p. 121-124
    発行日: 2003年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     厚生労働省においてはこれまでも「新エンゼルプラン」(平成16年までの政府全体としての総合的な少子化対策)や「健やか親子21」(平成22年までの母子保健医療対策)を策定し,そのなかで周産期医療対策を重要な課題と位置づけて対策を進めてきた(表1)。いずれも現在進行形の施策であるが,昨年9月にはさらなる少子化対策として「少子化対策プラスワン」が打ち出され,そのなかにおいても周産期医療を含めた「いいお産」が加えられたところであり,単に安全な妊娠出産を目指すだけでなく,妊産婦やその家族にとって満足なお産ができるためにも周産期医療の改善推進を図ることとしている。

  • 堺 武男, 原 量宏
    p. 126-127
    発行日: 2003年
    公開日: 2024/07/29
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     今回の学会の午後のシンポジウムはITシステムについての3演題と臨床システムについての3演題の発表を頂き,最後に厚生労働省母子保健課谷口隆課長より行政面からの提案を頂いた。

     坂出市立病院産婦人科の久野先生からは,院内に導入した周産期管理システムと関連病院との間での電子カルテシステムと画像管理システムによるネットワークの状況を示して頂いた。厚労省は2006年までに400床以上の病院の80%を電子カルテ化する計画でいるが,それには基準となるものが必要と考えられるが,その範となりえるシステムである。次いで香川大の秋山先生からは,香川県の主要施設をつなぐ周産期情報ネットワークについて報告頂いた。妊検情報のみならず画像情報を含む多くの情報を共有することで,母体搬送にも有効に用いられており,これも今後システム化を考えている他県にとって有用な情報である。島根県立中央病院の加藤先生からは,病院全体の先駆的な電子カルテの導入によるメリット,デメリットについて報告頂いた。詳細は別稿を参照頂くが,電子カルテの有用性の反面,現在の機器の持つ問題点,メーカーを使うことの難しさと維持経費の大きさについても言及され,これらは今後の課題と思われる。この後3題は周産期臨床的システムについての発表である。群馬大の大木先生からは重症度スコアSNAPを用いた臨床成績の評価について報告を頂いた。これは時期が異なった場合での臨床成績を客観的に評価することが可能であるのみならず,各NICUの機能評価にもつながると考えられ,今後多施設での検討が期待される。静岡こども病院の臼倉先生からは産科を持たないNICUが,品胎以上の多胎の出生について地域的なシステムをいかに活用して対応しているかを報告頂いた。各症例の配分の決定や,遠隔地への搬送など並々ならぬご努力が示されたが,54例全例が生存退院という素晴らしい臨床成績の一方で,子ども病院型の産科を持たないNICUの問題点もあり,今後の周産期センターの必要性を示唆された。杏林大学の土屋先生からは東京都の周産期医療システムについて報告を頂いた。東京都には現在総合周産期センターが8施設存在しているが,23区と多摩地区での地域的較差の問題,母体搬送の受入れについて自院の症例が優先され,他院からの搬送依頼がなかなか受け入れられないことなど,システムが充実するにつれて発生してくる問題点が提起され,今後各地域でも検討すべきことと考えられた。最後に厚生労働省母子保健課の谷口隆課長より行政からみた周産期システムについて報告を頂いた。「健やか親子21」においては「安全で快適ないいお産」が提唱されており,その具体化について今後検討,実施されるべきいくつかのことが提案された。討議も活発であり結局谷口課長との討論は終了時間まで続くという結果となった。

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