現在までに,7種の、Alternaria属病原菌から,宿主植物にのみ毒性を示す宿主特異的毒素(HST)が検出されている。これら病原菌は,分生胞子などの形態的性状から本来腐生菌であるA. alternataと判定され,その病原型(pathotype)として位置付けられた。これらHSTのうち6例についてはすでに化学構造が決定され,極めて低濃度で宿主選択的な毒性を発揮することが示された。HSTは,菌の胞子発芽時すなわち植物体への侵入前にすでに生産・放出され,その作用によって,菌の感染を誘導することが明らかにされた。このようなHST機能の背景として,それぞれの宿主植物に対する作用機構が検討され,宿主細胞内の第一次作用器官が同定された。ナシ黒斑病菌(AK毒素生産菌)のRFLP分析による個体群中の変異菌系の検出とその地理的分布調査から,本菌個体群構造の解析にRFLPマーカーが有効であることが示された。ナシ黒斑病菌のAK毒素の生合成中間体が同定され,毒素生合成さらに毒素生産性失活現象の代謝レベルでの手がかりが得られた。HST生産性(病原性)遺伝子の単離を目的として,A. alternataにおける形質転換,変異相補による遺伝子単離などの遺伝子操作技術が確立された。
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