熱帯と温帯のダイズ根粒菌の根粒形成遺伝子のRFLP解析を行った結果,テストした123株(タイ62株,日本46株,米国USDA15株)は4種の系統に分類できた。系統1は米国と日本産のB. japonicumで構成され,系統2は米国・日本及びタイ産のB. elkaniiで構成された。一方,タイ株は系統3と4を占め,温帯及び熱帯アジアに於いては,少なくとも根粒形成遺伝子の違いにより,4系統のダイズ根粒菌が生息することが推定された。18株のタイ産ダイズ根粒菌と13株のUSDA株を用い,根粒形成遺伝子と窒素固定遺伝子のRFLPに基づくクラスター解析を行った結果,B. japonicum種で占有されたクラスター・B. elkanii種で占められたクラスター及びタイ株のみで占められたクラスターが出現すると共に,各系統間の16 S-rRNAの部分塩基配列の比較により,タイの熱帯固有菌は16 S-rRNA遺伝子の部分配列で,B. japonicumとB. elkaniiの中間に位置することが分かった。各系統に属する根粒菌の分布域を調べた結果,B. japonicum種は日本・韓国・中国の温帯域のみで見いだされ,系統3・4はタイ・インドネシア及びインドに分布しており,各系統の分布域に気候帯特異性が存在した。そこで,各系統菌の根粒形成遺伝子の遺伝子発現に対する温度の効果を調べた。その結果,温帯起源の菌は中温域で,また,熱帯起源の菌は高温域で最大の遺伝子発現を示すことが分かり,各気候帯に最も適応したダイズ根粒菌が存在することが裏付けられた。
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