大気浮遊粒子中金属による汚染状況を, 犬の肺内金属量から推定可能か否かを検討した。地域は川崎市を選び, 市内の飼育犬で年齢, 生息地区などの明らかな犬の肺513例について, 肺汚染度, 気腫, 上皮増殖, 腫瘍などを調査し, 更に13種金属 (Cr, Ni, Cd, Pb, Co, Cu, Zn, Mg, Fe, Ca, Sn, TlおよびBe) の肺内含有量を測定し, 年齢, 地区, 肺汚染度, 病変などと肺内金属量との関連性を検討した。
その結果, 工業地区に居住の犬の肺は商業および住宅地区のものに比べ, Cr, Ni, Cd, Pb, Coが有意に高い含有量で, 加齢に伴って増加する傾向も強い。地区別, 肺汚染度別の肺内金属量において, 肺内のCr, Ni, Cd, Pb, Coの含有量は, 肺汚染度の上昇に伴って増加し, すべての地区で, 上記金属は有意に肺に畜積する傾向があるが, 工業地区が最も強い。気腫, 上皮増殖, 腫瘍と各種金属の肺内含有量との間に特に関連性は認められなかった。沈着粉じんの種類 (褐色, 黒色, 黒褐色) によって, 肺内金属量に有意差はなかった。Crの含有量が高い肺 (5μg/g以上, 乾燥重量) は工業地区に集中していた。
このことから, 肺内cr, Ni, cd, Pb, co含有量, 特にcr, 次いでNiは, 大気汚染との関連を強く示唆するものであり, 他の曝露要因 (喫煙, 職業など) を無視できる犬の肺の金属をある程度多数定量することにより, 十分大気汚染の現況およびその推移を把握することができた。
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