ディーゼル排気の健康影響を調査する目的で, F344ラットを用いた長期吸入実験を行った。実験は, 呼吸器系の腫瘍の発生を検索する発癌性試験および吸入開始後6か月ごとの病理組織学的変化を評価する長期吸入試験に関して実施した。
ディーゼルエソジソは小型 (LD), 大型 (HD) を用い, いずれも定常運転とした。実験動物として4週齢のSPFラットを導入し, 予備飼育後, 5週齢より実験に供した。LD, HD系列とも, ディーゼル排気の吸入群は各4群 (LD;2.3, 1.1, 0.4, 0.1mg/m
3, HD: 3.7, 1.8, 1.0, 0.5mg/m
3) とし, またそれぞれに対照群を設定した。各実験群とも雄120匹, 雌95匹のラットを横層流型の吸入チャンパーに収容し, 1日16時間, 週6日, 最長30か月間吸入させた、結果は以下の通りである。
(1) 30か月吸入後の各実験群の動物の生存率は, いずれも30%-40%であり, 性差は見られなかった。
(2) ディーゼル粒子の吸入群での炭粉沈着は, 吸入期間が短期である場合や吸入物質が低濃度である場合には肺胞腔が主であったが, 吸入期間の延長および濃度の上昇とともに, 間質内への沈着も強くなることが認められた。
(3) 炭粉沈着にともなって, II型肺胞上皮の腫大および呼吸細気管支上皮の末梢への伸展, 増生を認めた。これらの過形成性病変は吸入物質濃度や吸入期間に比例して増生し, 高濃度の長期吸入の実験群では, 多発した個々の病巣が相互に癒合し, 腺腫性過形成巣の形成を認めた。
(4) 肺の原発性腫瘍はすべてが上皮性腫瘍で, 非上皮性腫瘍の発生はなく, 腺腫, 腺癌, 扁平上皮癌, 腺扁平上皮癌が見られたが, 各実験群における発生腫瘍の組織型に特異性は認められなかった。
(5) 肺腫瘍の発生率は全体的に低く, HD系列の37mg/m
3群でのみ65%に上昇し, 対照群との間に有意差 (P<0.05) を認めた。
(6) 他臓器の腫瘍として, 白血病, 精巣間細胞腫, 下垂体腺腫, 副腎褐色細胞腫などの発生率が高かったが, 各実験群間での有意差は認められなかった。
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