東海北陸理学療法学術大会誌
第24回東海北陸理学療法学術大会
選択された号の論文の158件中51~100を表示しています
  • 橋本 雄二, 北村 雄一, 宮守 祐輝, 吉田 千尋, 矢野 昌充
    セッションID: P006
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】
    筋力強化は理学療法の中で多く用いられ,筋肥大は,筋力の増加に直接結びつくとされている.後藤らによると,筋細胞の肥大は,筋細胞内におけるタンパク質の合成増加およびサテライトセルの融合によると考えられている.しかし,温熱負荷による筋肥大の影響については動物実験による報告が多く,人体に対しての報告は少ない.そこで今回,成人男性を対象に温熱作用がある極超短波を用い,上腕周径計測値から温熱負荷の有無による筋肥大を行なう効率に差があるかについて検討したので報告する.
    【対象】
    対象は,測定肢に整形外科的・神経学的疾患の既往のない成人男生20名とし,実験の主旨を説明し同意を得たうえで測定・実験を実施した.対象者を温熱負荷群10名と非温熱負荷群10名に分け実験を行なった.
    【方法】
    本実験ではまず,上腕二頭筋の最大膨隆部の周径を計測した.筋力強化は,壁に背部を接地させた立位で,上腕を固定し代償を防ぎ肘関節屈曲運動を行なった.負荷強度を設定するため,金久らの方法を用い,1RMは8kgもしくは6kgの鉄アレイ(SAKAI製)を使用し,上肢の最高反復回数を測定,その後に1RMの70%を算出した.トレーニングは上記の負荷強度を測定した時と同様の肢位で,等張性に8回1セット,週3回行い,実験期間は6週間とした.また,負荷強度は毎週1回再測定し,設定し直した.温熱負荷群は極超短波機器(SAKAI製インバータパルスマイクロージョ MJI-800W)を使用し,上腕二頭筋の最大膨隆部に温熱負荷を加えた.振動周波数は2450MHz,照射時間は10分間とし,照射後に上記のトレーニングを行なった.各計測値の温熱負荷群,非温熱負荷群の平均値と標準偏差を求め,2群間を比較するためにt検定を使用した.有意水準は5%とした.
    【結果】
    温熱負荷群では初期26.6±2.20cm,最終26.8±2.22cm,初期と最終で0.02cmの増加があったが有意差は認められなかった.非温熱負荷群では初期27.0±2.50cm,最終27.3±2.47cm,初期と最終で0.03cmの増加があったが有意差は認められなかった.
    【考察】
    今回,本実験では両群ともに初期と最終で周径に有意差は認められなかった.非温熱負荷群における結果は,渡邉らに述べられている筋力強化において8回1セット,週3回,実験期間は6週間では,運動負荷が不十分であることが示唆された.また,温熱負荷による効率的な筋肥大ついて本実験では,極超短波の温熱負荷を用い,短時間で筋温を急速に上昇させた.後藤らによるラット用いた研究では,温熱負荷時間が長く設定している.今後,運動負荷を増した上で,より効果的な筋肥大を促すための温熱負荷の強さや時間,検討する必要があるのではないかと考える.
  • 会津 直樹, 土肥 さやか, 伊藤 正典, 西井 一宏, 山田 晃司, 肥田 岳彦
    セッションID: P007
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】脊髄損傷は永久的な骨格筋麻痺、感覚脱失、自律神経機能損失などを伴う重度な障害である。脊髄損傷後の残存能力が日常生活動作に与える影響は大きい。脊髄損傷では左右の麻痺筋が上肢と下肢にて差が見られることがあり,リハビリテーションを行う上で日常生活動作訓練の問題となる。その病態生理を認識することは理学療法を行う上で重要である。
    今回我々は、実験的に作製した脊髄半側切断ラットを用い、ヒラメ筋の経時的変化を観察するために、筋肉の増減に影響を与える蛋白質の発現をWestern blot法を用いて、筋形成を促進する蛋白質であるFollistatin、Activin、IGF-1、また、筋形成に負の影響を与えるGDF-8の発現を検出し、組織学的解析結果と比較検討を行った。
    【方法】実験には8週齢のSprague-Dawley雄ラットを用いた。実験群の動物は深麻酔下で頚髄C7と8の間で半側(右側)切断した。術後の観察期間を1週、2週、4週の3グループに分類し、通常飼育を行った。動物は各観察期間終了後、生化学用、組織学用に実験群の麻痺側(切断側)と非麻痺側(非切断側)、正常群の正常側(右側)のヒラメ筋を採取した。生化学用に採取したヒラメ筋から蛋白質を抽出後、Western blot法によりFollistatin、Activin、IGF-1、GDF-8を検出した。組織学用に採取した筋についてはABC染色(Myosin Heavy Chain Fast 抗体)を用いて、筋線維タイプの遅筋、速筋の割合を調べた。また、筋線維の萎縮の程度を知るために、H.E.染色標本において筋線維の短径を測定した。尚、この研究は藤田保健衛生大学動物実験規定に基づいて行われた。
    【結果】Western blot法による蛋白質の解析ではGDF-8は麻痺側で術後1,2週おいて低下が認められた。Follistatin、Activin、IGF-1は術後2週で実験群の両側で低下が見られた。組織学的観察では、麻痺側において速筋線維の遅筋線維に対する割合が術後1週、2週では変化か見られなかったが術後4週で速筋線維が増加し、有意差が認められた。非麻痺側では、術後の経過に伴って速筋線維の増加が認められた。筋線維短径については術後2週まで、正常群に比して麻痺側の有意な低下が認められた。
    【考察】脊髄損傷後麻痺筋の筋線維タイプは速筋線維が増加すると言われている。今回の我々の実験結果では蛋白質解析と組織学的解析の結果が必ずしも並行ではなかった。これは蛋白質の発現と組織学的所見の間で時間差を生じていることも考えられるので、今後は例数を増やすと共に、観察期間を延長した群を作製し、事実を明らかにして行きたい。
  • 辻 圭一, 田中 正二, 横川 正美, 立野 勝彦
    セッションID: P008
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     長期臥床による下肢の廃用性筋力低下に対し、理学療法では筋力改善の有用な方法として起立・立位保持練習を実施している。骨格筋は肥大する際に筋衛星細胞が活性化し、筋線維の修復や新生に働くことが知られている。また、筋衛星細胞は活性時に転写調節因子である遺伝子(MyoD)を発現するため、MyoDは筋衛星細胞活性化の発現マーカーとして利用できる。ラットにおける後肢懸垂後再荷重の研究では、骨格筋の萎縮が改善されることが報告されているが、再荷重後のいつの時期に最も筋衛星細胞が活性化するかは不明である。本研究では後肢懸垂後に再荷重を行い、MyoD mRNAの発現量を経時的に調査し、筋衛星細胞活性化の時期を明らかにすることを目的とした。

    【対象と方法】
     対象は8週齢のWistar系雄ラットとした。ラットは無作為に対照群(CON群; n=5)と実験群に振り分けた。実験群はさらに2週間の後肢懸垂群(SUS群; n=6)と再荷重に振り分けた。再荷重期間は2日間(2D群; n=6)、7日間(7D群; n=5)、14日間(14D群; n=5)とした。両側のヒラメ筋は実験期間終了後に採取した。次に右ヒラメ筋を急速凍結した後、クリオスタットを用いて横断切片を作成した。切片はヘマトキシリン・エオジン染色を施し、筋線維面積を求めた。左ヒラメ筋筋腹中央部を切り出しtotal RNAを抽出、精製した。次にランダムプライマーを用いてcDNAを合成した。Light Cyclerを用いてリアルタイムPCRを行い、GAPDH mRNAを内部標準遺伝子としてMyoD mRNA発現量を定量した。統計学的解析には分散分析及びボンフェローニの補正法による多重比較検定を行った。なお、本研究は金沢大学動物実験委員会承認のもとに実施した。

    【結果】
    骨格筋湿重量はCON群に比してSUS群が有意に減少し、7D群、14D群でSUS群よりも有意に増加した。骨格筋断面積はCON群に比してSUS群、2D群が有意に減少し、SUS群に比して7D群と14D群は有意に増加した。リアルタイムPCR法ではCON群に比して2Dのみ有意に増加を認めた。

    【考察】
    MyoD mRNAの発現量は、再荷重の直後から2日目をピークに増加した。この結果は2日目に向けて筋衛星細胞の活動が活発になったと考えられる。そして7日目にはMyoD mRNAの増加はなく、骨格筋湿重量がCON群と同等になり、断面積についてもSUS群より有意な増加を認めた。これは既にMyoD mRNAの活動時期が終了していると考えられた。今回の結果から、ラットヒラメ筋のMyoD mRNAの発現量は再荷重後2日目に増加のピークを迎え、その後は減少に至ることが明らかになった。
  • 金原 一宏, 大城 昌平, 水池 千尋, 飯尾 晋太郎, 高山 善尚, 大杉 紘徳, 喜納 将克
    セッションID: P009
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】〈BP〉  痛みの経験は,認知,情動,行動的側面に影響を及ぼし,脳の機能的,器質的変化を引き起こす。我々は,前頭前野領域の脳活動が他動運動時中の疼痛刺激によって,刺激前から増加し,刺激終了後に急激に低下することを明らかにしてきた。このことは,疼痛刺激を受ける前から,苦痛や不安といった主観的体験が脳活動に反映していると推測される。従って,疼痛に対するリハビリテーションでは,末梢の受容器レベルに対するアプローチだけではなく,脳での情報プロセスについても考慮することが重要である。これに対して,芳香は,精神的ストレスを軽減させ,疼痛を軽減させる上で有効であるという研究報告がある。しかしながら,芳香が疼痛を知覚している時の脳活動にどのような影響を及ぼすかについては不明な点が多い。そこで本研究では,健常者を対象として,芳香が疼痛刺激時に前頭前野活動に及ぼす影響を検討した。〈BP〉 【対象と方法】〈BP〉  対象:研究の内容の目的と方法を十分に説明し,同意を得た健常成人7名(男性5名,女性2名,年齢22-48歳)であった。〈BP〉手続き:閉眼にて2つの条件下で前頭前野領域の脳活動を計測した。条件1は,安静長座位で測定前に電気刺激による疼痛経験を与えた後,他動的屈伸運動時に電気的疼痛刺激を加えた。条件2では,条件1に加え,測定の間,芳香(ラベンダーの精油)をかがせた。他動的屈伸運動はCPM装置(contentious passive motion:スペクトラCPM-SP100,酒井医療株式会社製)を使用して,膝関節屈曲0°~45°の3回の他動的運動(1往復30秒)を行った。電気的疼痛刺激は,電気刺激装置(Neuropackμ MEB-9100 NIHON KOHDEN社製)を用いて,周波数1Hz,刺激時間1msecで行い,刺激強度はvisual analog scaleで5の強さとした。刺激部位は膝関節内側裂隙とし,膝関節45°屈曲時に1回の刺激を加えた。〈BP〉脳活動の計測:近赤外分光法による光トポグラフィ装置ETG-7100(株式会社日立メディコ社製)を使用し,前頭前野領域の酸素化ヘモグロビン(以下,oxy-Hb)の変化量を計測した。課題後に,芳香の嗜好性や気分等を尋ねるアンケートを実施した。〈BP〉 【結果と考察】〈BP〉  条件1では,疼痛刺激前より前頭前野領域の活動が増加し,刺激後に急速に低下する変動パターンを示した。一方,条件2では条件1と比較して,疼痛刺激前・刺激中の前頭前野領域の活動(oxy-Hb値)は小さかった。このことは7人中6人が芳香課題後のアンケートで「リラックスした」と回答したこととあわせて,リラクゼーション効果を示すものと考えられた。嗅覚の知覚情報は,嗅球から扁桃体へ情報入力され,島,帯状回,前頭前野へ結び付き,情動調節を果たすことにより,脳活動の低下につながったのであろう。以上より,芳香が疼痛刺激時の脳活動に影響を与えることが示唆された。
  • -光トポグラフィ装置を用いて-
    高山 善尚, 大城 昌平, 水池 千尋, 飯尾 晋太郎
    セッションID: P010
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】
     認知機能検査として,改訂長谷川式簡易知能評価スケールやMMSEがよく用いられる.これらの検査項目の内容としては,見当識,短期記憶,注意,作業記憶などであり,これらの大まかな程度は把握できるが,詳細な評価を行うには他の評価方法が必要である.作業記憶の評価方法としては,前頭連合野機能を検査するn-back課題やPASATなどがあるが,これらのテストは高齢者にとって難易度が高く,より簡便に前頭連合野の活動を考慮した検査が必要であると考えられる.そこで本研究では,認知症や高次脳機能障害を有する高齢者の作業記憶を簡易に評価する検査方法の開発につなげる基礎的研究として,数字・図形・色を用いた作業記憶課題の作成を行い,光トポグラフィ装置を用いて,各課題(数字・図形・色)遂行時の前頭連合野の賦活の特徴を明らかにすることを目的とする.
    【方法】
     対象は健常成人6名(男性5名,女性1名,平均年齢25.7±1.4歳)とした.全被験者には口頭で研究の趣旨を十分に説明し,同意を得てから行った.脳血流変化の測定には,光トポグラフィ装置ETG-7100(株式会社日立メディコ製)を使用し,3列×10行のプローブ(計47チャンネル)を前頭連合野領域に装着させて計測した.  解析としては,前頭連合野領域の酸素化ヘモグロビン(以下,oxy-Hb)量の平均値を算出した.課題は,パソコンの画面上に順次表示される数字/図形を記憶させ,2つ前と同じ数字/図形であれば合図するように指示した.条件1は数字(1~5),条件2は天気に関連する図形,条件3はそれぞれには関連のない図形(○☆□×△),条件4は色(赤,青,黄,緑,紫)であった.一課題は40秒間(表示時間:0.5秒,表示間隔:2.0秒)とし,その間の脳血流量を測定した.左右のoxy-Hb値の比較には,対応のあるt検定(p<0.05)を用いた.
    【結果・考察】
     前頭連合野領域のoxy-Hbは,すべての条件において増加し,左と比較して右半球において有意に高い値を示した(p<0.05).条件ごとに比較すると,前頭連合野領域全体では,条件1において最高値を示し,条件4では最低値を示した.また左右差では条件4で最大となった.条件2,3は,前頭連合野の全体,左右半球でそれぞれ有意差を認めなかった.条件1において,oxy-Hbが最も増加したことから,最も前頭連合野の活性化が起こることが示唆されるが,左右差が小さく,細かい変化を判定することは困難であると予想される.しかし,条件4において,左より右半球で高い値となったことは,色が他の課題と比較して,形(イメージ)としてとらえやすかったことが推測された.
     以上の結果から,課題ごとに脳賦活の程度や領域が異なることが示唆され,新たな検査バッテリーを作成していく上で有効な基礎資料となることが考えられる.
  • 飯尾 晋太郎, 大城 昌平, 水池 千尋, 高山 善尚, 金原 一宏
    セッションID: P011
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     視野をずらすプリズム眼鏡をかけ,前方の目標物を指差す課題を繰り返すと,最初は正確な位置を指すのが難しいが,次第に知覚と運動とのずれに適応し,正確な位置を指差せるようになる.このようなプリズム適応課題(以下PA)を半側空間無視(以下USN)患者に行なうと,USN症状が改善することが知られている.
     PA課題中の脳活動に関する先行研究はPETやfMRIを使用したものが多く,これらの先行研究では右小脳・左視床・左側頭葉中部・左運動関連領野が賦活したと報告されている.
     本研究は,PA課題中の運動軌跡と脳活動を測定することで,知覚と運動とのずれに対する即時的な適応過程を明らかにすることを目的とした.また,臨床における脳-運動-知覚の統合的な評価方法として光トポグラフィの有用性を検証した.
    【対象と方法】
     対象は,右利きの健常男性5名(年齢25.8±2.9)とした.対象者には事前に計測装置や実験手順の安全性について十分に説明をし,同意を得た上で測定を行った.
    PA課題は,視野を右側に12度偏光させるプリズム眼鏡を装着して到達運動を行った.到達運動は,遠近2箇所の視覚目標点間(30cm)を右示指先端で繰り返し往復させる課題とし,「一定のテンポで可能な限り速く」行なわせた.運動中,視線は遠方の目標点を注視し,頚部・体幹を動かさないよう指示した.対象者に充分な練習を行なわせた後,測定を開始した.
     到達運動軌跡の解析には,浜松ホトニクス社製プロファイルセンサ2眼モジュール(以下,PSモジュール)を使用し,右示指先端に取り付けられた光源の軌跡を計測した.
     脳活動の計測には,近赤外線分光法による光トポグラフィ装置ETG‐7100(日立メディコ社製)を使用し,血液中に含まれる酸素化ヘモグロビン(以下,oxy-Hb)と脱酸素化ヘモグロビン(以下,deoxy-Hb)の変化量を計測した.3列×10行のプローブ(47チャンネル)を国際10-20法に基づき大脳皮質運動関連領域を覆うように装着した.
    【結果と考察】
     運動軌跡の解析から,PA課題は6~11回(7.4±2.0秒)の到達運動で動作が修正され,軌跡は定常となった.また,左運動関連領野の脳活動(oxy-Hb)はPA課題開始から6.5±3.1秒でピークとなり,その脳活動は約13秒で収束した.これらの結果より,PA課題における運動軌跡は動作を繰り返すことで,脳-運動-知覚が連動して働き,知覚と運動のずれを即時的に修正することが示唆された.この適応過程は,脳活動においても光トポグラフィを用いて測定可能であり,評価や治療の効果判定等に光トポグラフィが有用であると考えられた.
    【謝辞】
     本研究で使用したプロファイルセンサ2眼モジュールについて,浜松ホトニクス中央研究所松井克宜氏,豊田晴義氏に協力をいただいた.
  • 北野 真弓, 佐々木 伸一, 嶋田 誠一郎, 北出 一平, 松村 真裕美, 亀井 健太, 久保田 雅史, 野々山 忠芳, 鯉江 祐介, 松尾 ...
    セッションID: P012
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】臨床においてTimed Up and Go Test(以下,TUG)や最大歩行速度(以下,MWS)は頻繁に用いられる評価である。一般に,TUGは移乗・移動能力やADLとの関連があり,MWSは歩行能力を反映すると言われている。しかし急性期の症例では安全性の配慮から平行棒内での評価が必要な場合がある。そこで,本研究の目的は,1)平行棒内で実施するTUG(以下,平行棒内TUG)が一般的に実施しているTUG(以下,一般TUG),MWS,ADLをどの程度反映するか,2)歩行可能補助具の違いにおいて平行棒内TUGに差があるか,を明らかにすることとした。 【対象】対象は当院に入院しており,歩行になんらかの補助具が必要な男性13名,女性16名の計29名(整形疾患20名,中枢疾患9名)とし,年齢74.0±8.9歳,身長154.2±9.5cm,体重54.8±12.9_kg_であった。理学療法室において10mを歩行するのに必要な歩行補助具から,平行棒群(歩行器での10m歩行不可)4名,歩行器群(杖での10m歩行不可)11名,杖群14名に分類した。対象者には本研究の趣旨を十分説明し,同意を得て行った。 【方法】歩行器群と杖群においては一般TUG,MWS,平行棒内TUGを測定し,FIM運動項目について調査した。平行棒群は,平行棒内TUGとFIM運動項目のみ評価した。一般TUGはPodsiadloの提唱に従い,理学療法室にて主に使用している歩行補助具を用い3mの往復歩行とした。MWSも一般TUGにて使用した歩行補助具を用い,10m歩行路にて実施した。平行棒内TUGは平行棒内にて椅子から起立し,3m55cmを往復歩行後,着座に要した時間を計測した。手すりの使用については特に制限せず,最大努力下にて実施した。各施行間には十分休憩をとり,測定は全て3回ずつ行い,最速値を解析に用いた。平行棒内TUGと,一般TUG,MWS,運動FIMのそれぞれの間の相関と,平行棒,歩行器,杖群の各群間における平行棒内TUGの差を検討した。相関はPearsonの相関検定及びSpearmanの順位相関検定を用い,群間の平行棒内TUGの比較にはBonferroniの多重比較検定を用い,有意水準は5%未満とした。 【結果】平行棒内TUGは,一般TUG(r=0.95,p<0.01),MWS(r=0.93,p<0.01),運動FIM(r=-0.63,p<0.01)と有意に相関していた。また,杖群は歩行器群や平行棒群と比較して平行棒内TUGが有意に速かった。 【考察】本研究の結果より,平行棒内TUGは一般TUGやMWS,運動FIMと高い相関があり,重症例でも早期から歩行能力やADL(特に移動)能力を示す指標になりうると考えた。歩行可能補助具の違いが平行棒内TUGに反映されており,平行棒TUGにより歩行能力が推察できるかもしれない。
  • 鳥居 亮, 村瀬 政信, 三次 園子, 飯田 泰久, 佐藤 貴久
    セッションID: P013
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    慢性心不全(以下CHF)に対する運動療法を行なう場合は,リスク管理が重要である.運動療法により四肢筋群など末梢器官の改善が得られ,患者のADLを改善するといわれている.今回は重症のCHFに対して運動療法を行い,心不全症状の増悪を認めることなくADLを改善できた4例を報告する.
    【症例提示】
    症例1は85歳の女性で,原因疾患が陳旧性前壁中隔心筋梗塞であった.リハ開始時のNYHAは3,移乗動作は全介助であり,BNPは81.9pg/mlであった.安静時の収縮期血圧は80mmHg前後を呈し,運動療法は収縮期血圧が80mmHg以上ある場合に移乗動作練習を中心に実施した.退院時の移乗動作は最小介助となりリハ開始後約3ヶ月で自宅退院された.
    症例2は81歳の女性で,原因疾患が虚血性心筋症であった.リハ開始時のNYHAは3,ポータブルトイレ使用は自立していたが病棟内歩行は不可能であり,BNPは279.4pg/mlであった.開始時の心拍数は安定していたが経過と共に徐脈がみられたため,それに注意しながら歩行練習を中心に実施した.退院時のBNPは378.7pg/mlとなったが,歩行器での病棟内歩行は自立となりリハ開始後約6ヶ月半で施設入所された.
    症例3は94歳の女性で,原因疾患が大動脈弁狭窄症であった.リハ開始時のNYHAは3,ポータブルトイレでのトイレ動作は可能であったが疲労感強く,移動は車椅子にて全介助であり,BNPは1582.2pg/mlであった.運動に伴い血圧が低下するため,収縮期血圧が10mmHg以上低下した場合に運動療法を中止した.歩行練習を中心に実施した.退院時のBNPは1091.7pg/mlであったが,T字杖歩行が見守りにて可能となりリハ開始後約1ヶ月半で自宅退院された.
    症例4は97歳の女性で,原因疾患が大動脈弁狭窄症であった.リハ開始時のNYHAは3,起き上がり動作には中等度の介助が必要で,BNPは1402.4pg/mlであった.安静時より100回/分前後の頻脈がみられ,100回/分以上ある場合は運動療法を中止した.運動療法は軽度筋力増強運動や立ち上がり練習を中心に実施した.退院時のBNPは651.9pg/mlであったが,起き上がり動作は自立しポータブルトイレでのトイレ動作が見守りにて可能となりリハ開始後約2ヶ月で自宅退院された.
    【考察】
    CHFに対する運動療法の効果は近年多数報告されている.重症のCHFに対して行なう場合は,心不全症状の増悪を招く恐れがあり厳重な注意が必要である.今回の4例はいずれも重症のCHFであったが,経過中に心不全症状の増悪を認めることなくADLを改善できた.これは厳重なリスク管理を行なったことによるものと考えられた.
  • 葉切除との比較
    長島 正明, 中村 重敏, 山内 克哉, 入澤 寛, 安田 千里, 美津島 隆
    セッションID: P014
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 近年,肺の葉切除や部分切除後の肺機能や運動能力についての報告は散見するようになったが,片肺全切除患者の術前から術後早期における肺機能や運動能力の回復過程の報告はない.今回,術前から術後早期における片肺全切除一症例の肺機能と運動能力を測定し,葉切除例と比較したので報告する. 【方法】 対象1:58歳男性(168cm,57kg,術前%肺活量94%,1秒率73%)左上葉肺癌(扁平上皮癌)Stage3Bで化学療法後開胸法にて左片肺全切除となった.対象2:59歳男性(174cm,62kg,術前%肺活量92%,1秒率67%)左上葉肺癌(扁平上皮癌)Stage3Aで化学療法後Stage2Bとなり胸腔鏡手術にて左上葉切除となった.2例は術前心疾患はなかった.術前,術後1週,2週,3週,4週においてスパイロメータを用いて肺機能を測定し,同時に,呼気ガス分析装置を用いて運動負荷試験を実施し,最大酸素摂取量を測定した.運動負荷は自転車エルゴメータを使い,20分の安静後,3分間の30Wウォーミングアップ,その後1分毎に10W増加させall outまで実施した.術前,2例とも1週間の呼吸訓練を実施された. 【結果】 2例とも術後合併症はなかった.術後訓練は早期離床後,自転車エルゴメータにて一日20分以上の持久力訓練と呼吸指導を実施した.対象1は術後4週,対象2は術後3週で退院した. 肺機能:%肺活量は術前と比較し,対象1は術後1週で34%,4週で46%,対象2は術後1週で54%,4週で72%まで改善した.1秒率は術前と比較し,対象1は術後1週で93%,4週で86%,対象2は術後1週で88%,4週で93%であった. 運動能力:最大酸素摂取量(ml/kg)は,対象1は術前20.0,術後1週で8.9,4週で14.2,対象2は術前18.9,術後1週で15.6,4週で19.6へ改善した. 【考察】  肺切除後の運動能力の低下は,肺切除に伴う肺の容積,血管床の縮小による肺機能の低下が原因と考えられる.したがって,片肺全切除例はその切除域が肺葉切除に比べ大きいため,より肺機能が低下したと考えられた.加えて,片肺全切除例は開胸術であり手術侵襲が大きいことも影響しているかもしれない.片肺全切除例は,術前に比べ最大酸素摂取量は術後4週において70%程度であった.一方,上葉切除例では術前を上回った. 【結論】 最大酸素摂取量は,術後4週で葉切除例は術前レベルに改善したが,片肺全切除例は70%程度の改善であった.今後,症例の蓄積が必要である.
  • 藪本 保, 福富 悌, 西村 正明, 岩越 康真, 柴田 祐果, 渡邉 雄介, 古田 善伯, 今井 一, 松岡 敏男
    セッションID: P015
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    脳性まひ(以下CP)児は身体の姿勢・動作機能だけでなく、自律神経系の反応性の低下などの種々の神経機能低下が報告されている。なかでも、自律神経は身体機能の調節に関与していることから、CP児においても規則正しい日常生活をおくるためには自律神経系の改善が重要である。そこで、抗重力姿勢活動を中心としたリハビリテーションがCP児の自律神経系に及ぼす影響について検討した。
    【方法】
    1.対象:外来通院中のCP児12例(患児群)と同年齢の健康児11例(健康児群)とした。さらに患児群を粗大運動能力分類システムによって5段階に分類し、I、II、IIIを軽症群、IV、Vを重症群とした。
    2.リハビリテーションの内容:リハビリテーションは抗重力姿勢活動を中心に実施した。尚、時間は40分間とした。
    3.自律神経系の評価:加速度脈波計による心拍変動を計測した。これにより得られた数値のうちLF/HF値を自律神経活動の指標とした。患児群はリハビリテーション前後に測定し、健康児群は安静時のみ測定を行った。
    【結果】
    1.リハビリテーション前の軽・重症群と健康児群の比較:重症群は、LF/HF値が0.58±0.32であり、健康児群の1.02±0.61に対して有意に低値を示した(p<0.05)。軽症群と健康児群には有意差が認められなかった。
    2.患児群のリハビリテーション前後の比較:LF/HF値は、リハビリテーション前が0.89±0.97、リハビリテーション後は1.50±1.01であり、リハビリテーション後が有意に高値を示した(p<0.05)。
    3.軽・重症群のリハビリテーション前後の比較:重症群は、LF/HF値がリハビリテーション前の0.58±0.32から、リハビリテーション後は1.30±0.95となり、リハビリテーション後が有意に高値を示した(p<0.05)。軽症群は変化を認めなかった。
    4.リハビリテーション後の軽・重症群と健康児群の比較:LF/HF値は、3群で有意差を認めなかった。
    【考察】
    自律神経系の指標として用いたLF/HFは交換神経機能の指標とされていることから、全症例におけるリハビリテーション前後の比較では、LF/HF値の有意な上昇がみられ、交感神経系の亢進が考えられた。さらに、軽症群より重症群の方が交感神経系の亢進が大きいと考えられた。このことは、自律神経系の反応性の低下が報告されている重症児においても、加速度脈波のLF/HF値を指標とすることによって重症児の交感神経系の反応性を評価できる可能性が考えられた。また、リハビリテーション後の重症群と健康児群との間に有意差が認められなくなったことは、リハビリテーションによって健康児群と同等の自律神経系のバランスを示した可能性が考えられた。
  • 野々垣 聡, 内山 靖, 堀場 寿実, 岡川 敏郎
    セッションID: P016
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【目的】
     近年、様々な障害に対して、トレッドミル歩行の研究成果が報告されている。しかし、介入の際に重要な要因となる歩行速度を決定する基準は確立していない。
     脳性麻痺児(以下CP児)では、平地歩行での快適歩行速度(以下、快適速度)をそのままトレッドミル歩行速度として適用すると異なる反応が得られることがある。これは、日常で多く経験している平地歩行での快適速度とトレッドミル歩行では生体反応が異なることが推測される。
     そこで本研究では、トレッドミル歩行と平地歩行における快適歩行速度を比較し、トレッドミル歩行における特性を明らかにすることを目的とした。

    【方法】
     Aセンターに入所するCP児5名(平均15歳2ヶ月)を対象とした。対象者は全員、日常生活においてコミュニケーションの問題はなかった。
     快適速度とは、対象者が一番楽な歩行速度とした。比較のため最速速度も記録したが、最速速度とは、走ることなく歩行できる最大の速度とした。
     平地歩行では、各歩行速度で14mの平らな直線を3回ずつ歩行した。トレッドミル歩行では、まず快適速度を決定し、その後手すりを掴んで1分間歩行した。次に、最速速度を決定し、同様に1分間歩行した。
     なお、歩行の際は普段使用する歩行補助具を用いた。測定は、安静時の脈拍に戻った時点、もしくは5分程休憩をとった時点で再開した。両歩行ともにビデオ撮影を行い、歩行速度、歩幅、ケイデンスを算出した。
     対象者のうち2名については、後日同様の測定を行い、再現性を変動係数(以下CV)で示した。 また、比較のため、健常人5名(平均24歳4ヶ月)について、上記と同様の方法でデータ収集した。
     研究にあたって、すべての対象者に説明の上で同意を得た。

    【結果】
     CP児では、トレッドミル歩行の快適速度は平均1.96±0.42km/hで、平地歩行の快適速度は平均3.56±0.31km/hであった。また、歩幅はトレッドミル歩行での快適速度で平均42.0±7.3cm、平地歩行での快適速度で平均56.3±6.9cmであった。ケイデンスに関しても、快適速度、最速速度ともにトレッドミル歩行より平地歩行で大きかった。
     CP児における各歩行での再現性は、トレッドミル歩行での快適速度でのCVが6.4%、平地歩行での快適速度でのCVが0.8%と高い再現性を示した。
     また、最速速度および健常人の測定においても概ね同様の変化を示した。

    【結論】
     CP児ではトレッドミル歩行は平地歩行に比べて快適速度は有意に遅いことが明らかになった。また、再現性は高いがトレッドミル歩行では平地歩行に比べて歩行パラメータのばらつきが大きいことが示された。
  • 日高 慶美, 鈴木 由佳理, 沢田 光思郎, 水野 元実, 西尾 美和子, 川合 麻里, 松田 文浩, 小野田 康孝, 才藤 栄一
    セッションID: P017
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【目的】
     現在、ワクチンの普及によって日本におけるポリオの新規発症はほとんどないが、ポリオに羅患、回復、安定化し、長期間たってから新たな筋力低下・易疲労性を呈するようになるポストポリオ症候群(PPS)が急増している。
     当部門では平成19年6月からポリオ友の会東海と共同で、ポリオ検診を開催している。その結果をもとに、ポリオ経験者の歩行能力推移を把握し、PPSの危険因子について検討した。
    【対象および方法】
     対象は、第1~4回の検診(期間:平成19年6月23日~平成20年1月5日)を受診したポリオ羅患者計83名(男性28名、女性55名)とした。平均年齢は59.7歳(47~77歳)であった。
     検診における評価項目は、Halsteadの診断基準(1985)に基づいた問診、ROM-T、MMT、形態計測(周径、上下肢長)、DTR、感覚、立位、歩行、装具使用状況とした。このうち、歩行速度と筋力(大臀筋、大腿四頭筋)との関連性について検討した。また、Halsteadの四肢クラス分類(1996)に準じて診断した下肢のクラス分類と装具の使用状況との関連性について、各肢別に検討した。統計処理には、X2独立性の検定を行った。
    【結果】
     検診を受診した83名中、歩行可能であったものが81名であった。平均歩行速度は3.4km/h、平均の歩幅は0.52mであり、歩行速度と歩幅とは高い相関を示した。大臀筋および大腿四頭筋の筋力は共に歩行速度との間に相関を認めた。しかし、装具非使用者についてみると、上記筋力と歩行速度との間に明らかな相関を認めなかった。また、Halsteadの下肢クラス分類(162肢)では、クラス4(不安定なポリオ;PPSに相当)と診断された下肢99肢(装具なし83肢、装具あり16肢)とクラス4以外と診断された下肢63肢(装具なし19肢、装具あり44肢)の間には、装具使用に有意差(P<0.05)を認め、クラス4は装具非使用に多かった。
    【考察】
     ポリオ羅患者における歩行速度・歩幅は、健常成人に比べやや低い値を示した。また、装具非使用者では筋力と歩行速度の関連性がなく、極端な代償運動により歩行能力を維持していることが示唆された。また、下肢クラス4で装具非使用例では、装具非使用による下肢の過用がPPS発症に関与している可能性がある。
    【まとめ】
     クラス4の下肢における装具非使用での日常生活が、PPSの発症・進行を引き起こしている可能性がある。筋力や生活強度、PPSの特徴的症状を総合的に検討して、早期に装具作製を行うことがPPSの発症・進行予防に役立つかも知れない。
  • 村瀬 政信, 鳥居 亮, 金丸 みき, 中野 隆, 遠山 裕之
    セッションID: P018
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】
    後骨間神経(橈骨神経深枝)は,前腕の手指伸筋群を支配している.Irwin(1988)は,ロフストランド杖の使用によって後骨間神経麻痺が生じた症例について報告し,前腕近位部がロフストランド杖の前腕カフの端によって圧迫されたためであるとしている.今回,解剖実習用遺体を用いて前腕部の局所解剖を行い,ロフストランド杖の使用による後骨間神経麻痺の可能性について検討したので報告する.
    【対象】
    愛知医科大学解剖学セミナーに供された解剖実習用遺体6体12肢(男性2体・女性4体,右側6肢・左側6肢,平均死亡年齢84.2±3.9歳)を対象とした.
    【方法】
    上腕中央部から手関節部を剥皮,皮下組織を除去し,腕橈骨筋と上腕筋の間において橈骨神経を同定した.次いで腕橈骨筋,長橈側手根伸筋,短橈側手根伸筋を切離反転し,橈骨神経から分岐した後骨間神経を剖出した.さらに,遺体にロフストランド杖を装着し,前腕カフと後骨間神経の位置関係を観察した.なお,解剖の実施にあたっては,愛知医科大学解剖学講座教授の指導の下に行った.
    【結果】
    橈骨神経から分岐した後骨間神経は,前腕近位部で回外筋の浅層と深層の間を貫通し(以下,この部位を「回外筋貫通部位」とする),前腕の手指伸筋群に向けて走行していた.肘関節裂隙から「回外筋貫通部位」の入口部までの距離は,平均2.6±0.7cmであった.また,肘関節裂隙から「回外筋貫通部位」の出口部までの距離は,5.7±0.9cmであった.「回外筋貫通部位」において回外筋の浅層を切離反転して後骨間神経を剖出した結果, 12肢中9肢において,後骨間神経が回外筋深層に接していたが,回外筋深層は薄いため同神経は橈骨に近接していた.12肢中3肢においては,後骨間神経が橈骨に直接接していた.
    ロフストランド杖を装着させて観察した結果,前腕回内位では全例において前腕カフが「回外筋貫通部位」に位置していた.前腕中間位では全例において前腕カフの前方開き部位に後骨間神経が位置しており,「回外筋貫通部位」には位置していなかった.
    【考察】
    ロフストランド杖を前腕回内位で持たせた場合,前腕近位部の「回外筋貫通部位」において後骨間神経が前腕カフと薄い回外筋に被われた橈骨の間で圧迫され,後骨間神経麻痺が惹起される可能性があると考えられた.臨床上はロフストランド杖の使用による後骨間神経麻痺は稀ではあるが,その危険性を軽減させるためにも,ロフストランド杖を前腕回内位ではなく,中間位で持たせるように指導することが必要であると示唆された.
  • 〜若年者との比較〜
    星野 雅代, 平井 達也, 渡邊 紀子, 鈴木 由紀子, 村雲 聡江, 千鳥 司浩, 下野 俊哉
    セッションID: P019
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【目的】臨床において,車椅子のブレーキをかけずに移乗を行い,不安定性が増大し,転倒につながる可能性が高い者がみられる.これらの者は,「移乗」動作というタスクや,移乗対象に注意が捕捉(attensional capture)され,車椅子外乱の知覚に問題を生じている,つまり,二重課題における注意配分の問題と考えられた.今回,二重課題が高齢者の車椅子外乱刺激の知覚に及ぼす影響について検討したので報告する. 【方法】対象は,健常若年者(若年群:平均24.2±2.7歳),健常高齢者(高齢群:平均72.6±6.1歳,HDS-R平均 27.9±1.6点)各10名で,日常生活は自立しており,めまい等の耳鼻科的疾患のない者とした.高齢者は,中枢神経疾患の既往がなく,HDS-R 25点以上の者とした.尚,対象者には本研究の趣旨を説明し,同意を得た.課題は,一次課題を車椅子外乱刺激の知覚課題,二次課題を検者の指示した順序にペグを挿すペグ挿し課題とした.被験者はアイマスクで遮眼し,両足部はフットレスト上の車椅子座位とし,検者は車椅子を10秒間に12cmを1往復,前後に動かした.二次課題の有無をランダムに組み合わせ,4回実施した.1試行毎に車椅子が「動いた/動いていない/分からない」の3択で回答を求め,試行間は,開眼にて10秒間休息をいれた. データ分析は,全試行数に対して被験者毎に完全に正答できた(「分からない」は,誤答に含む)割合を正答率(正答数/全試行数×100,%)とした.統計学的解析は,年齢・課題による2要因の分散分析を行い,有意水準は5%未満とした. 【結果】正答率の平均は,若年群:課題無100%,課題有100%,高齢群:課題無95.0±15.8%,課題有60.0±39.5%であった.分散分析の結果,各要因に有意な主効果がみられた(年齢:F=11.2,p=0.002,課題:F=6.8,p=0.01).年齢・課題要因間に有意な交互作用がみられた(F=6.8,p=0.01). 【考察】今回の結果から,年齢要因に主効果があったことより,高齢群において車椅子外乱刺激知覚が低下することが示唆された.また課題要因に主効果がみられたことから,課題の付加により車椅子外乱刺激知覚が低下することが示唆された.さらに両要因の交互作用がみられたことにより,高齢者は二次課題の影響により,車椅子外乱刺激の知覚が悪くなることが示唆された.高齢群においては,加齢による前庭系の機能低下(Rosenhallら,1975)や,二次課題(ペグ挿し)が一次課題(車椅子外乱刺激知覚)への注意配分を減少させた結果であると考えられた.本研究では,健常高齢者を対象としたが,車椅子使用レベルの高齢者や認知症高齢者では,注意資源がさらに減少することが予測され,移乗時の車椅子外乱刺激の知覚の困難性が増し,転倒の危険が高まると考えられた.
  • 斜めベルト導入の効果
    長屋 秀吾, 成瀬 友貴
    セッションID: P020
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】片麻痺患者の多くは歩行手段獲得の為、下肢装具を用いている。短下肢装具では、通称「シュホーンブレース(以下SHB)」と呼ばれるプラスチック短下肢装具が多くの臨床場面で用いられている。SHBは軽量、外見が良い等多くの長所を有する、反面回旋に対して固定力が弱い等の短所も有する。今回従来のSHBに斜めベルトを付帯することで、回旋の弱さを改善することが出来た為紹介する。
    【方法】脳梗塞患者2名に対し、SHBの下腿近位外側と遠位内側に斜めのベルト(以下斜めベルト)を付けた場合と付けない場合の歩容、歩行速度、歩幅を比較、検討した。
    【症例1】63歳、男性、身長157cm、体重55kg、平成19年10月脳梗塞発症、右片麻痺、ブルンストロームステージテスト上肢3、手指3、下肢5、右足関節に痙性による関節可動域制限有、病棟内ADLはすべて自立レベル、歩行は独歩にて自立レベルであった。
    【症例2】50歳、女性、身長149cm、体重45kg、平成19年9月脳梗塞発症、左片麻痺、ブルンストロームステージテスト上肢2、手指2、下肢3、病棟内ADLは一部洗体を除き自立レベル、歩行は短下肢装具、T字杖を用いて自立レベルであった。
    【結果】「斜めベルト」を付帯させたことにより、症例1では右立脚中期における右膝の過伸展、右立脚中期での骨盤の後傾、右遊脚中期での体幹の右回旋、右遊脚中期での体幹重心の左偏位が改善された。また、10m歩行テストでも歩行速度、歩幅が改善された。
    症例2では、左立脚中期における左膝の過伸展、左立脚中期における体幹重心移動の不十分が改善された。
    【考察】両症例とも、異常歩行が出現した原因は立脚期における足関節の内反を伴う底屈によるものであり、歩行時には相対的に下腿が後方傾斜・外旋している為だと考えられた。また、SHBが足関節の底屈を十分に抑制できなかった理由は、足関節の底屈が内反を伴っているためだと考えられた。そして「斜めベルト」を付帯させ、下腿外旋の動きを抑制したことにより麻痺側立脚期の膝関節過伸展、非麻痺側への重心偏位等の異常歩行が改善され、また、症例1では10m歩行テストでの改善もみられた。この結果から従来のSHBでは足関節の内反を伴う底屈への抑制は不十分な場合があり「斜めベルト」を付帯させることにより、その動きを改善できると考えられた。
    【おわりに】今回紹介した「斜めベルト」は従来のSHBを利用しながら安価で容易に歩容の改善を期待できる方法である。また「斜めベルト」の評価は従来のSHBに対して斜めにテーピングを貼付して行うことができる為容易に評価を実施することが可能であり、臨床において有用であると考えられる。
    但し、今回の研究では症例数が少なく、斜めベルトの有効性を検討するには不十分であったと思われる。その為今後も継続して同装具の研究を行いたいと考える。
  • 渡邊 紀子, 平井 達也, 星野 雅代, 河合 裕美, 上野 愛彦, 井上 大輔, 原田 隆之, 田中 正大, 牧 公子, 千鳥 司浩, 下 ...
    セッションID: P021
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【目的】グレーディング能力とは,協調性の評価に分類され,動作に必要な出力の量を適切に調整し,段階付けをする能力である.一般に転倒は女性に多く(厚生労働省,2000),運動機能には性差があるとされているが,グレーディング能力における性差は明らかにされていない.今回は,歩行速度グレーディング能力において,年齢及び性差の影響について検討したので報告する. 【方法】対象は,若年群:男性(平均年齢22.5歳),女性(24.9歳)各15名,高齢群:男性(69.1歳),女性(71.0歳)各15名,全て健常者とした.各群の年齢に男女差はみられなかった.対象者には,本研究の概要を説明し,同意を得た.方法は,10m歩行路にて最速歩行を測定した後,歩行速度グレーディングの測定を行った.最速歩行を100%とし,目標速度である20%,40%,60%,80%をランダムに適応し,主観的速度で3回ずつ歩行させた.最速歩行に対するそれぞれの主観的速度の割合をグレーディング値(%)とし,各目標速度との絶対誤差(%)を算出した.分析は絶対誤差を使用し,年齢,性差を要因とした二元配置分散分析を行い,有意水準は5%未満とした. 【結果】絶対誤差は,若年群:男性/女性の順で20%:26.1/38.3,40%:19.0/25.7,60%:11.3/18.9,80%:6.7/9.4,高齢群:男性/女性の順で20%:35.1/49.1,40%:15.2/36.3,60%:13.7/23.1,80%:6.9/9.5であった.年齢要因では,目標値20%(F=13.1,p=0.0006)で主効果が認められ,40%(F=3.2,p=0.08),60%(F=2.3,p=0.1),80%(F=0.02,p=0.9)では主効果は認められなかった.性別要因では,目標値20%(F=23.1,p<0.0001),40%(F=53,p<0.0001),60%(F=15.7,p=0.0002),80%(F=6.6,p=0.01)で,すべてに主効果が認められた.交互作用は目標値20%(F=0.1,p=0.7),40%(F=14.4,p=0.0004),60%(F=0.2,p=0.7),80%(F=0.002,p=0.9)で,目標値40%のみに認められた. 【考察】歩行速度グレーディング能力は加齢による影響は少なく,性差による影響が認められた.絶対誤差の比較から,女性の方が男性よりも目標値に対する誤差が大きく,グレーディング能力が低いことが示唆された.歩行に関わる運動機能の性差については,歩行速度(村田,2004),TUG(島田,2006)などの報告があるが,協調性についての報告は見受けられない.本研究の結果,歩行における協調性は女性の方が低くなることが示された.
  • 装具による下肢筋力補助の視点から
    清水 竜太郎
    セッションID: P022
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】従来,臨床において筋力の評価測定にはMMT,HHD,CYBEXなどが用いられている.片麻痺を呈する脳血管障害患者(以下患者)を対象にこれらを用いて評価された筋力と動作能力に関する先行研究では,歩行能力においては非麻痺側下肢の筋力ではなく麻痺側下肢の筋力と相関があるとされている.しかし,これらの研究は下肢の求心性収縮力に対するものが多く,遠心性収縮力と比較したものは少ない.近年,パワリハの普及に伴い,老健や通所施設さらに病院などにもマシンが導入され筋力訓練に利用されるようになっている.これらのマシントレーニングの特徴は,負荷に錘を使用するため遠心性収縮力を必要とすることである.したがって,この特徴を利用することによって筋の遠心性収縮力を定量化し,評価,訓練に利用することが可能と考えられる.そこで,本研究では患者の求心性・遠心性の脚伸展収縮筋力と歩行能力との関係を明らかにし,さらに,装具との関係についても考察した. 【対象】対象は当院に入院し,課題の理解ができる,下肢に整形疾患を有していない,動作に影響のある疼痛を有していない,近位監視レベル以上で10m歩行及び,3分間歩行が可能であることを条件とした. 【方法】測定項目は,麻痺側下肢運動機能(SIAS),最大下肢伸展筋力体重比,10m歩行所要時間,3分間歩行速度,PCIとした.最大下肢伸展筋力体重比は,SAKAI社製ホリゾンタルレッグプレス(以下マシン)によって計測された最大下肢伸展筋力を体重で除した値とする.マシン設定は,股関節屈曲,膝関節屈曲を約90度,足関節背屈角度が約0度になるように調節し,代償を抑制するために骨盤ベルトを使用する.下肢装具を使用している場合は実際使用している装具を使用(除くLLB)する.得られた測定値から,SIAS,麻痺側、非麻痺側の最大下肢伸展筋力(求心性・遠心性)体重比, 10m歩行所要時間,3分間歩行速度,PCIの関係を考察した. 【結果と考察】筋力体重比においては装具なしが装具ありと比べ高値を示した.麻痺側遠心性最大下肢伸展筋力体重比は,麻痺側求心性最大下肢伸展筋力体重比,歩行速度,10m歩行所要時間と関係が深いことが分かった.以上のことより,非麻痺側下肢筋力ではなく,麻痺側下肢筋力が歩行に強く影響を与えることが考えられた.また,装具によって麻痺側筋力低下が補われていると思われた.今後は歩行速度のみではなく,FIMとの関係についても検討を加える必要があると考える.
  • ~脊柱側屈に影響を及ぼす肩甲骨の動き~
    氏原 三歌, 本島 直之
    セッションID: P023
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】
    臨床にて,歩行中に体幹側屈が出現する症例に対し側屈側の上肢にて物を把握したところ体幹側屈が軽減した.把握動作が,どのように連動し体幹側屈を軽減させたのか明確にしたいと考えた.そこで今回,脊柱側屈に及ぼす肩甲骨の動きを明確にすることを目的とし,把握動作が体幹に及ぼす影響を考える上での一助にしたいと考えた.
    【方法】
    対象者は本研究への同意が得られた健常男性3名.測定対象は脊柱,右肩甲骨とする.体表マーカは,肩甲棘の内・外側端,下角,第7頚椎棘突起(C7),第7胸椎棘突起(Th7),第4腰椎棘突起(L4)の合計6点とした.
    対象者への運動課題は,肩甲骨挙上(A),下制(B),内転(C),外転・上方回旋(D),内転・下制(E)の5つとした.基本肢位は,端座位にて右上肢下垂位,左上肢はベッド上に置き,直立・円背とした.そして各々の肢位にて運動課題を3試行実施し,デジタルカメラ(SONY社製)にて撮影した.その後,画像処理ソフトウェアImageJを用いて脊柱と肩甲骨の角度を算出した.
    脊柱側屈角度はC7とTh7,Th7とL4を結んだ線の成す角とした. 肩甲骨挙上・下制は,肩甲棘の内側端の平行線と肩甲棘の内・外側端を結んだ線の成す角,上・下方回旋は,肩甲棘の内側端の垂線と肩甲棘の内側端と下角を結んだ線の成す角とした.内転は,L4の垂線と肩甲棘の内側端との距離とした.
    統計処理は,開始肢位と運動課題後の脊柱側屈角度の差の平均値をt検定により有意水準5%未満で検討した.
    【結果】
    1.肩甲骨角度
    直立:課題A~Eに,課題動作の角度変化が大きかった.
    円背:課題A~Dに,課題動作の角度変化が大きかった.課題Eには,下方回旋角度が他の課題と比較し大きかった.
    2.脊柱角度
    直立:課題AとDに脊柱の右凸が生じ,平均値は5.72±1.81°と6.96±2.91°であり有意差を認めた(p<0.05 ).
    円背:課題Eに脊柱の左凸が生じ,平均値は6.56±1.16°であり有意差を認めた(p<0.05).
    【考察】
    今回,課題Dでは肩関節最大屈曲を行った.一側の屈曲動作には,最終域に脊柱側屈が生じるとの報告があり,脊柱の右凸は肩甲骨関節窩をより外・上方へ向ける肩甲骨の動きを補うために生じたと考えた. 課題Eでは肩関節伸展・内転を行った.また課題Eでは有意に下方回旋が生じた.ここでも脊柱の左凸は関節窩をより内・下方に向ける肩甲骨の動きを補うために生じたと考えた.
    直立は脊柱右凸,円背は脊柱左凸に有意差が得られた.脊柱の反対側側屈には腰方形筋,同側側屈には内・外腹斜筋が作用し,これらの筋は脊柱屈伸や回旋などにも作用する.直立では脊柱屈曲制限により腰方形筋が,円背では伸展制限により内・外腹斜筋が優位に働いたと考えられる.
    今回の計測により,関節窩を外・上方又は内・下方へ向ける運動課題により脊柱側屈を誘導できる事が示唆された.
  • 塩本 祥子, 三秋 泰一, 松村 純, 森 健太郎, 島田 亜由美, 浦田 恵, 松田 友和, 古矢 泰子, 立野 勝彦
    セッションID: P024
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】円背者の坐位姿勢では脊柱の後彎に伴って骨盤が後傾し骨盤を前傾させることが困難である.そのため,円背者の立ち上がり動作が困難となることは臨床上よく遭遇することである.従って円背姿勢に対する改善や予防を目的に理学療法として坐位での骨盤帯・体幹に対してアプローチすることは重要なことである.しかし,坐位で骨盤の前後傾運動と脊椎運動の関係を報告したものは少ない.そこで,本研究の目的は端坐位における骨盤前後傾運動中の骨盤帯と脊柱の運動について分析することである.
    【方法】被験者は健常成人男性18名(平均年齢24.7歳)とした.骨盤前後傾運動中の脊柱,骨盤,股関節の運動分析には3次元動作解析装置を用い計測した.被験者は端坐位で骨盤最大前後傾運動を一定速度(各4秒間)で5回くり返した.データ解析は各被験者において3回をランダムに抽出し,運動分析は骨盤の前傾運動相,後傾運動相に分け行った.骨盤傾斜可動範囲,股関節可動範囲,上部胸椎・下部胸椎・腰椎の各部位の可動範囲との間のそれぞれの相関について検討した.
    【結果】端坐位における骨盤前後傾運動中の脊柱の動きは,骨盤前傾にともなって,股関節は屈曲し,下部胸椎,腰椎の伸展がみられた.上部胸椎も伸展するが可動性は小さかった.後傾運動では前傾運動時と相対的なパターンを示した.骨盤前傾運動時の左右平均股関節可動範囲は26.4±7.1度,骨盤傾斜可動範囲は39.0±9.1度,上部胸椎可動範囲は5.4±1.8度,下部胸椎可動範囲は13.2±5.5度,腰椎可動範囲は27.1±7.6度であった.骨盤後傾運動時の左右平均股関節可動範囲は26.0±6.4度,骨盤傾斜可動範囲は39.0±9.4度,上部胸椎可動範囲は5.7±1.8度,下部胸椎可動範囲は12.9±5.5度,腰椎可動範囲は26.9±7.4度であった.前傾時,後傾時の各部位の可動範囲はほぼ同程度であった.
    前傾運動においては,骨盤可動範囲と下部胸椎可動範囲(r=0.47),股関節可動範囲(r=0.79)に正の相関がみられた.また腰椎の可動範囲と股関節可動範囲(r=0.72)で正の相関がみられた.後傾運動においては,骨盤の可動範囲と上部胸椎可動範囲(r=0.49),下部胸椎可動範囲(r=0.54),股関節可動範囲(r=0.79)で正の相関がみられた.腰椎の可動範囲と股関節可動範囲(r=0.79)で相関がみられた.
    【考察】骨盤前後傾運動と股関節の運動は強く相互に影響しあっていることは以前から報告されている通りであった.また,骨盤傾斜可動範囲と上部,下部胸椎可動範囲に正の相関がみられたことから,脊柱の可動性を維持するためには骨盤の可動範囲が必要であることが示された.このことから,骨盤運動は胸椎の運動に影響を与えることより,脊柱後彎増強に対する運動療法としての効果が示唆された.
  • 中田 裕之, 田口 将也, 後藤 健一, 内藤 靖生, 永田 幸史, 工藤 慎太郎
    セッションID: P025
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【目的】
     当回復期リハビリテーション病院は,退院後の実用的な移動手段の獲得や,実用的なADL能力の向上を目標としている.我々は,Berg Balance Scale(以下BBS)とFIMなどからこれらの評価を行っている.しかし,これらの評価には主観的な判断が多く,検査測定に時間がかかることが臨床上問題となっている.
     本研究の目的は退院後の実用的なADL能力を反映するBBS測定項目を抽出することである.
    【対象及び方法】
     当院を退院し,歩行を実用的な移動手段としている30名(男性16名,女性14名,平均年齢64±15歳)を対象とした.疾患内訳は脳血管障害20例,運動器疾患10例であった.対象者には本研究の趣旨を口頭で説明し同意を得た.
     全対象者のFIM運動項目総得点とBBS下位7項目,FIM認知項目総得点,年齢,疾患内訳との関連を多変量的に分析した.統計学的手法はFIM運動項目総得点を目的変数とし,BBS下位7項目,FIM認知項目総得点,疾患内訳,年齢を説明変数として変数減少法による重回帰分析を行い,危険率5%未満を有意水準とした.
    【結果】
     FIM運動項目総得点を説明する因子に,「踏台への足載せ」:標準偏回帰係数(β)=0.62,単相関係数(r)=0.91,「タンデム立位」:β=0.42,r=0.80,「一回転」:β=-0.38,r=0.61,「リーチ動作」:β=0.23,r=0.58,「拾い上げ」:β=0.20,r=0.47の5項目が抽出された(R=0.95,p<0.001).
    【考察】
     我々は先行研究において,入院患者の実用的な歩行能力を反映する因子を,「踏台への足載せ」,「タンデム立位」,「片脚立位」,「一回転」と報告した.本研究においても,「踏台への足載せ」「タンデム立位」「一回転」は抽出された.また,先行研究に加え,新たに「リーチ動作」と「拾い上げ」が抽出され,「片脚立位」は抽出されなかった.これらの結果は,先行研究では歩行能力に焦点を当て,Timed Up and Go testとBBSの関係を分析したのに対して,本研究ではADL能力に焦点を当て違いと考えられる.
     実用的なADL能力を獲得するために必要なバランス因子は,「踏台への足載せ」の様に“支持基底面と重心位置をほぼ同時に移動する能力”,「タンデム立位」の様に“狭い支持基底面内で高い重心位置を保持する能力”,「リーチ動作」や「拾い上げ」の様に“支持基底面内で重心を移動する能力”が必要になると示唆された.また,「一回転」はβの符号が逆を示した.これは,制限時間が設定されているため,バランス能力の低い対象者でも性急に動作を遂行し高得点を獲得し,逆にバランス能力の高い対象者で慎重に課題を遂行し得点が低くなったためと考えた.つまり,「一回転」は実用的なADL能力を反映するバランス因子として扱うには慎重を期すべきと考察した.すなわち,退院後のADL能力を推測するためのBBS測定項目は,「踏台への足載せ」,「タンデム立位」,「リーチ動作」,「拾い上げ」の4項目と考えられた.
  • ~成人片麻痺の症例を通して~
    船見 純子, 奥出 弘, 奥出 修子, 中森 陽一, 小原 毅, 亀谷 寛子, 増永 直子, 矢野 昌充
    セッションID: P026
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【目的】
    小原によると、ヒトは四つ脚から二足歩行を獲得していく上で、重力に抗して適合するように進化してきた。その中で、骨盤は椀形となり内臓を支えるとともに、脊柱の下端と一体化して、坐位の土台機能として発達していったと述べられている。今回、脳出血後遺症にて右片麻痺となり座位保持困難となった症例に対し、骨盤・脊柱の抗重力機能に着目し治療を行ったので報告する。
    【症例紹介・経過】
    57歳/男性/脳出血後遺症/右片麻痺
    H19.4 発症 基本動作・ADL全介助
    H19.6 リハヒ゛リ目的で当院に転院
    【初期評価】
    B.R.S.は右上肢・下肢・手指いずれもStage2であり、右上下肢・体幹筋群は全体的に筋緊張が低下を示していた。そのため、端坐位姿勢では、胸腰椎部後彎・右側屈、骨盤は後傾・右回旋しており、主に重心は右に偏位し、全介助の状態であった。起居動作等の基本動作やADLも全ての動作で介助を要し、食事動作は胃瘻を造設していた。
    【問題点および治療】
    ADL場面において、坐位保持困難による二次的障害への影響が考えられ、介助を要していた。そのため、坐位保持能力の向上を目的に体幹筋の促通を図った。その際、脊柱固有背筋や腹斜筋・腹直筋・腰方形筋などの促通のために、筋へのストレッチ刺激を利用することで筋収縮を促した。期間は1年間実施した。
    【結果】
    B.R.S.は右上肢・手指Stage3右下肢Stage2であり、筋緊張はAshworsスケールにて右上肢Stage3、右下肢Stage2、体幹は左右差がほとんどなくなった。その結果、端座位姿勢の脊柱はほぼ生理的彎曲となり、骨盤の後傾・右回旋は消失、重心はより正中位となった。基本動作は起居動作自立、移乗動作見守り、ADLは、ホ゜ータフ゛ル見守り、食事・整容自立、障害者y用浴槽見守りとなった。
    【考察】
    今回の症例は、骨盤・脊柱の抗重力機能の低下により機能的な座位が障害され、坐位からの姿勢変換やADLに制限をきたしていると考えた。そこで主要問題として、骨盤・脊柱の抗重力機能の低下をあげ、それを獲得するために、もっとも次元の低く安定できる臥位姿勢で腹直筋・腹斜筋・中殿筋・腰方形筋など骨盤の3次元の動きに必要な筋を促通する治療を行なった。Keeyan,j.j.によると、基本的坐位姿勢に比べラウンシ゛チェアで見られる坐位では、腰部の支えもなく筋の作用もないため、骨盤は後傾し腰椎前彎は極端に減少しているとあった。冨田らによる研究では下部体幹のインスタヒ゛リティーが機能的座位に影響を与えていると示唆されており、赤坂は腹斜筋・腹直筋・大腰筋・多裂筋・脊柱起立筋などが腰部骨盤帯領域の動的安定化と長軸方向の支持性に不可欠あると述べている。今回の結果は、骨盤・脊柱の抗重力機能が再獲得され、座位からの姿勢変換が可能となり、ADLの向上につながった。今回の症例を通して、機能的座位を獲得するためは、骨盤の3次元の運動を組み合わせた抗重力機能が必要であり、それを獲得するには下部体幹、骨盤、股関節の筋結合が必要で、それに対する機能的アフ゜ローチが行われることが重要であると考えた。
  • 野々山 忠芳, 久保田 雅史, 山村 修, 佐々木 伸一, 嶋田 誠一郎, 北出 一平, 松村 真裕美, 亀井 健太, 北野 真弓, 鯉江 ...
    セッションID: P027
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】
    脳卒中の回復の程度はその重症度に影響することが多いが,重症例にもかかわらず順調な回復を呈する症例もしばしば経験する.急性期病院における脳卒中リハビリテーションでは予後予測に基づいて,より効率のよいリハビリテーションを行い、転院か直接自宅退院かをより早期に判断していく必要がある.回復期病院退院時のADL予後予測として,急性期病院入院時のFIM点数を用いた報告は数多く見られるが,急性期でのADL変化の程度は症例によって異なり,このことが回復期病院退院時のADLにどのように影響を及ぼすかは明らかにされていない.そこで本研究の目的は,急性期のFIM回復率と,回復期病院退院時までのFIM回復率との関連性を明らかにすることとした.
    【対象】
    対象は,急性期病院に入院し,回復期リハビリテーション病院に転院した虚血性脳梗塞患者11名(男性7名,女性4名,平均年齢75.7±9.5歳)であった.病型分類は,アテローム血栓性6例,心原性梗塞1例,その他4例であった.なお入院期間は,急性期病院5.1±0.9週,回復期病院9.7±4.1週であった.
    【方法】
    発症後2週時,4週時,回復期病院退院時にFIMを用いてADL評価を行い,FIM運動項目合計点(mFIM),FIM認知項目合計点(cFIM),FIM合計点(tFIM)を算出した.
    2週目から4週目までのFIMの変化率,2週目から回復期病院退院時までのFIMの変化率をそれぞれ,2-4FIM改善率(4wFIM-2wFIM)/(項目別満点-2wFIM)×100(%),2-退FIM改善率(回復期退院時FIM-2wFIM)/(項目別満点-2wFIM)×100(%)を用いて算出した. 各項目間でspearmanの順位相関係数を用いて相関分析を行った.なお,有意水準は5%未満とした.
    【結果】
    FIM平均得点はそれぞれ,mFIM(2週時43.7±22.1,4週時54.0±23.2,回復期病院退院時74.3±13.0),cFIM(2週時24.9±9.0,4週時28.7±9.2,回復期病院退院時26.5±9.1),tFIM(2週時68.6±29.3,4週時82.7±30.9,回復期病院退院時100.7±19.7)であった.
    2-4mFIM改善率と2-退mFIM改善率との間に有意な相関を認めた.cFIM,tFIMに関しても同様に有意な相関を認めた.
    【考察】
    急性期のFIM改善率と,回復期病院退院までのFIM改善率に関連性があることが明らかとなった.急性期のFIM改善率は,退院時のADL能力を予測するひとつの因子であるかもしれない.
  • 大野 洋一, 牧野 洋平, 神戸 晃男, 山口 昌夫
    セッションID: P028
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】 当院では2007年4月にラクナ梗塞クリ二カルパス(以下,CP)を作成し,5月に当院CP委員会の承認を得て導入を開始している.今回,当院作成のラクナ梗塞CPの紹介と導入例の経過について報告をする. 【対象】 当院でラクナ梗塞と診断され,以下の基準を満たしたものを対象とした.
    ・発症前FIMが修正自立以上
    ・リハビリテーション(以下,リハ)施行の障害となるような合併症がない(心疾患・整形疾患・認知症等)
    ・意識障害がない(JCS1以上)
    ・入院後24時間神経症状の増悪がない
    また,重症度によって回復に要する時間や機能的予後が異なることを考慮し,12段階片麻痺機能検査を用いて2週間と4週間の2種類のCPを作成した.この2種類を分ける判定基準は以下のとおりである.
    リハ初期評価において下肢グレードが9以上は2週間CP適応,8以下では4週間CPの適応とした.
    グレード9で分けた理由は,9以上では分離運動が可能となり歩行への障害が少なくなることである.また,日数設定を2週間と4週間とした理由は,他病院の報告を参考とし,また,2週間CPでは,当院での内科的な急性期治療の終了が2週間という点,4週間CPでは当院でのCP導入前の軽度麻痺から麻痺のない本疾患の平均在院日数が約3週間であったことを考慮した. 【リスク管理】 診療録から病棟安静時血圧を確認,リハ施行時に収縮期血圧が30mmHgの低下を認めた時点でPTを中止し,Drコールとした. 【リハスケジュール】 2週間CPでは入院から退院を2週間に設定し,入院2日目から理学療法(以下,PT),作業療法(以下,OT)を開始とし,活動度(病棟における歩行・基本動作・ADLの自立日)の到達指標を設定した.
    4週間CPでは入院から退院を4週間に設定し,各活動度の達成指標を2週間CPよりも遅らせ,14日目以降は当院回復期病棟でのリハ対応とした.
    リハスケジュールとしてPTでは基本動作練習,OTではADL・APDL練習の開始日をCPに組み込んだ. 【経過報告・考察】 今回,CPを導入して5月から9月の間に4例がCP適応となり全例が2週間CP適応となった.このうち,1例が合併症等によりCP除外となった.
    最も在院日数の長期化した症例では在院日数28日間であった.この症例は入院時グレードが上下肢,手指ともに11であり,感覚障害については上肢に軽度の深部感覚低下を認めた程度であり,1週間後にはグレード12まで改善していた.診療録により後方視的に調査した結果,退院前に脳血管造影検査が行われており,運動機能に問題がないことから,この検査実施までの経過期間が在院日数の延長に影響していると考えられた.この傾向は日数設定を超えている他症例においても認められ,今後の課題として,明確なリハ終了基準作成の必要性が示唆された.
  • 山田 優子, 戸田 恵美子
    セッションID: P029
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】
    当院回復期リハビリテーション病棟(以下回復期リハ病棟)では、2007年6月より脳卒中クリニカルパス(以下パス)を導入した。パスは入院時のADLに基づいて3種類作成、Functional Independence Measure(以下FIM)の合計が110~126点を6週入院コース(以下A)、80~109点を10週入院コース(以下B)、18~79点を14週入院コース(以下C)に設定したものである。今回、パス導入効果の検証とともに、特にC該当患者について、転帰に影響を与える重要な因子として移乗移動動作及びトイレ動作に着目し分析を行った。
    【対象】
    2006年6月1日から2008年5月31日の期間に当院回復期リハ病棟に入退院した脳卒中患者のうち、急性転化により転院となった患者を除いた392名(平均年齢71.2±11.6歳)を対象とした。
    【方法】
    1.パス導入前に入院した166名を非パス群、パス導入後に入院した226名をパス群とし、年齢、発症から入院までの期間、入退院時FIM合計、在院日数、転帰について調査した。便宜上、非パス群もパスのコース基準に則って分類し、パス群A、B、Cと比較した。
    2.パス群Cの患者を自宅退院と転院(含施設入所)の2群に分類、入院時、入院1か月、入院2ヶ月、退院時のベッド・椅子・車椅子移乗、トイレ移乗、浴槽移乗、歩行、トイレ動作各項目の得点と入院1か月、入院2ヶ月のFIM合計を追加調査し、比較を行った。統計は対応のないt検定、Mann-WhitneyのU検定、χ2乗検定を用い、有意水準はp<0.05とした。
    【結果】
    1.入退院時FIM合計はパス導入前後で有意差を認めなかった。発症から入院までの期間はパス群B、Cに有意な短縮を認めた。平均在院日数はパス群A、B、C全てに有意な短縮を認め、その差はA:21.9日、B:34.6日、C:14.9日であった。自宅復帰率はパス群の方が高い傾向を示した。
    2.パス群Cの自宅退院群と転院群において、発症から入院までの期間、入院時の移乗移動動作及びトイレ動作の得点、FIM合計には有意差を認めなかった。年齢は転院群が有意に高かった。ベッド・椅子・車椅子移乗、トイレ移乗、トイレ動作の得点とFIM合計は入院1ヶ月以降、浴槽移乗は退院時のみ自宅群が有意に高かった。歩行には有意差を認めなかった。
    【考察】
    パス導入により早期退院が可能となった。これはリハビリテーションの標準化、患者情報の共有、チーム医療の推進による結果と思われるが、FIMが低値であるC該当患者は依然として自宅復帰困難なケースが多く見受けられた。しかし、C該当患者の中でも自宅退院した者は入院1ヶ月より、移乗やトイレ動作において転院した者よりも有意な改善を認めたことから、これらの動作能力の向上、介助量軽減を目的とした入院初期からの積極的な介入が有効と思われる。
  • 鈴木 智子, 本島 直之
    セッションID: P030
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】肩関節亜脱臼がある脳卒中片麻痺者に対する肘屈曲型アームスリングの使用は,臨床上よく見られることである.上肢の重さを頚部で支える上,肩関節が内旋・内転位をとることで,体幹前傾や患側への側屈を助長する可能性がある.脊柱に変形がある脳卒中左片麻痺者に対して,肘伸展型アームスリング(以下,スリング)を使用したところ,観察により歩容の変化を認めた.そこで,今回は3次元動作解析装置を用いて検討した.
    【症例紹介】症例は52歳男性.脳出血後遺症による左片麻痺.合併症として変形性脊椎症がある.立位姿勢は体幹右回旋,左側屈,胸椎右凸,後弯,骨盤左挙上となっている.歩行では,上記姿勢が増強される.なお,症例には本研究の説明を行い同意を得た.
    【方法】測定機器は,3次元動作解析装置(VICON MX,VICON社製)と大型床反力計を用いた.反射マーカ貼付位置はDIFFマーカセットに第10胸椎棘突起を加えた.患側へのスリングありとなしの2条件で自由歩行を行った.補装具は, T字杖,プラスチック短下肢装具を使用した. 1歩行周期の体幹と骨盤の前後傾,側屈,回旋角度を算出し,各角度の最大値と最小値,最大値と最小値の差(以下,幅)を比較した.今回,マーカ貼付のため,スリングの代用として弾性包帯を巻いた.巻き方は,患側上腕から巻き始め,前方変位している上腕骨頭を関節窩に戻すように後上方に進み,肩を通って背面に回り,最も右凸している部分を押さえ込むように前面に回りこみ,腹部に巻きつけ固定した.
    【結果】2条件を比較し,角度差はほとんど見られなかったが,スリングありで体幹の前傾と左側屈,骨盤回旋が大きくなる傾向があった.幅はスリングあり/なしで,骨盤前傾6.42/6.95,骨盤右側屈6.0/5.80,骨盤左回旋10.01/11.17,体幹前傾5.04/5.68,体幹左側屈5.22/6.25,体幹左回旋4.7/5.14と骨盤右側屈以外の項目でスリングありの方が小さい傾向にあった.歩行速度(m/min)は20.7/19.1とスリングありで向上した.
    【考察】結果から,スリングによって姿勢の大きな改善は見られなかったが,歩行速度は向上した.スリングによる角度の差はほとんど見られなかったが,スリングありの方が,体幹前傾の傾向にあった.つまり,歩幅を拡大するために骨盤回旋の代償は用いておらず,体幹前傾することによって歩行の前方推進力が高まったと考えられる.各角度の幅をみると,骨盤右側屈以外の項目でスリングありの方が小さく,体幹の動きが抑制されている.以上のことから,今回のスリングの巻き方は,姿勢の改善というよりも,身体の剛性を高める影響があったと考える.上半身が安定することで,重心の移動が行いやすくなり,歩行速度の向上につながったことが示唆された.しかし,体幹の左側屈は増加傾向にあった.これはスリングを左肩峰から後左下方へ巻いたため,左肩甲帯が下制したことが原因と考えた.よって,スリングの巻き方を再考し,改善する必要があると考える.
  • 堀場 充哉, 田中 照洋, 山下 豊, 長谷川 竜也, 和田 郁雄, 梅村 淳, 山中 武彦, 清水 美和子, 石井 文康
    セッションID: P031
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     パーキンソン病(PD)に対する深部脳刺激療法(DBS),特に視床下核に対するDBS(STN-DBS)は,運動症状改善や薬物減量に有効である.一方,姿勢調節に関しては STN-DBSは姿勢の不安定性を増大させるという報告と安定化に有効であるという報告がある.今回,我々は両側STN-DBSを行った症例を経験し,術前および術後の姿勢安定性について検討したので報告する.
    【方法】
     評価は,術前のOnとOff時,STN-DBS術後1週,退院時に行った.姿勢の安定性の評価にはニッタ社製マットスキャンを用い(サンプリング20Hz),開眼静止立位時の足圧中心(CoP)を60秒間計測した.得られた左右,前後方向それぞれのCoPの位置データから,mean CoP position,root mean square distance,mean velocity of CoP displacementを求めた.また,CoP軌跡の95%信頼楕円を求め,動揺面積(area)を算出した.
    【症例】
     59歳女性,罹病期間22年,入院時のYahr重症度分類ではOn2,Off4であった.UPDRSのPart_III_スコアはOn11点,Off21点,Part_IV_のジスキネジアスコアは5点であった.
       On時のmean CoP positionは,Off時の後方7.7mmから前方35.0mmへと変化した.術後1週では,Off時よりもさらに後方へ変位(40.0mm)したが,術後2週には前方7.0mmの位置となった.On時の動揺面積は,Off時の686.6mm2に対し6121.3mm2と著明に増大し,信頼楕円は特に左右方向へ拡大した.術後は,1週3375.4mm2,2週852.1mm2と動揺面積は減少し,前後方向を長軸とする信頼楕円となった.
     また,root mean square distanceは,前後方向においてOff時の31.6mmから On時42.2mm,術後1週44.7mmと増大したが,左右方向の振幅はOff時と同程度であった.一方,mean velocity of CoP displacementは特に左右方向においてOn時に増大したが,術後1週ではOff時と同程度であった.
    【考察】
     On,Offの比較から,L-DOPAは前方への足圧中心の変位と振幅の増大,特に側方への動揺面積を増大させたと考えられた.一方,STN-DBSは術後1週で,後方への著明なCoP変位,不十分な動揺面積の減少,前後方向の振幅の増大が認められ,転倒リスクが高い状態にあると思われた.また,退院時には,前後方向の振幅減少や動揺面積がさらに減少し,姿勢の安定性は術後数週間で大きく変化することが示唆された.
  • 鈴木 琢也, 小口 和代
    セッションID: P032
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【目的】近年,脳卒中患者の歩行の獲得に部分免荷トレッドミル歩行訓練(以下,BWSTT)が注目されている.しかし,BWSTT後の即時効果の報告は少ない.療養病床入院リハ中の発症後5ヶ月の重度脳卒中患者にBWSTTを施行し,訓練前後の歩行速度・歩行率・股関節伸展角度を検討した.
    【症例】64歳男性.脳底動脈閉塞による脳梗塞.Brunnstrom recovery stage test右上肢2・下肢2・手指2,左上肢5・下肢6・手指6.深部覚右上下肢重度鈍麻.FIM運動32点・認知30点・合計62点.
    【方法】BWSTTは懸荷モード12m/分で25m歩行を,5分間の休憩を挟んで2回実施した.実施前・直後・2日後に,5m平地歩行(左サイドケイン・右長下肢装具を使用し軽介助)を家庭用ハイビジョンデジタルビデオカメラ(Canon社製)で撮影した.計測の妥当性を検討するため,直後のみ三次元動作解析システムKinemaTracer(キッセイコムテック社製)で同時撮影した.歩行路の中央5歩分の右下肢イニシャルコンタクト時の左股関節伸展角度を検討した.マーカーをつけた腸骨稜と大転子の軸と大転子と膝関節外側上顆の軸で角度を計測した.統計学的処理にはANOVA(有意水準5%)を用いた.
    【結果】歩行速度は実施直前5.2m/分,直後5.3m/分,2日後6.5m/分.歩行率は実施前18.6歩/分,直後26.3歩/分,2日後27.4歩/分.股関節伸展角度は,実施前平均-3.6°,直後平均10.8°,2日後平均-3.8°で,直後に有意に増加していた(p<0.05).動作解析システムでの計測値でもほぼ同値であった.
    【考察】BWSTTについて寺西らは,膝折れや膝過伸展,股関節伸展不十分などによる歩行異常・不能症例に対して課題指向的歩行訓練実現を可能にすると述べている.多くの先行研究では,効果として歩行速度・歩行率増加が報告されている.本症例でも歩行速度・歩行率増加の効果は,2日後でも持続していた.一方で股関節伸展効果は即時的でキャリーオーバーしなかった.股関節伸展が増大した要因は,懸垂により体幹伸展を促せたことと,トレッドミルにより左下肢の踵からつま先へ重心移動がスムーズに行えたことが考えられた.以上よりBWSTTはアライメントへの効果より歩行周期への効果の方が持続的であることが推測された.
    【まとめ】重度脳卒中患者にBWSTTを施行し訓練効果を検討した.アライメントと歩行周期への効果を認め,後者はより持続的であった.動作解析装置のない環境でも,今回のように簡易な歩行評価項目なら,家庭用ビデオ撮影で十分検討が可能である.今後さらに慢性期・重度脳卒中症例にBWSTTを適用し,効果発現機序について検討したい.
  • 山岸 耕二, 矢部 信明
    セッションID: P033
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】 組織プラスミノーゲンアクチベーター(以下t-PA)の静脈投与の有効性は確立されている。当院では2006年1月から2008年5月までに43例に施行されている。また、2006年6月より脳卒中センター(以下SCU)開設に伴いPT、OT、ST各1名が在籍し、静注終了後なるべく早期からリハビリテーション(以下リハ)が介入することにより、障害の状況を多面的に把握し適切なプログラムを実行し早期回復に努めている。今回、当院での取り組みについて報告し今後の役割について検討する。 【対象】 2006年6月~2008年5月に当院SCUにおいてt-PA静注療法が施行され、その後リハの介入が行われた31例(男性18例、女性13例、年齢74.7±10.5歳)をA群・B群に分けた。A群はt-PA投与開始後24時間以内にリハを施行した21例(平均年齢72.9歳±9.3歳)。静注開始からリハ開始までの平均開始時間は13.3±7.2時間であった。B群はt-PA投与開始後24時間以降にリハを施行した10例(平均年齢77.4±12.6歳)。静注開始からリハ開始までの平均時間は43.9±12.9時間であった。その内死亡例はA群1例、B群2例であった。 【方法】 上記の2群に対し、1)National Institutes of Health stroke scale(以下NIHSS)の改善度、2)退院または転院時のmodified Rankin Scale(以下mRS)、3)出血性合併症の発生率、4)平均在院日数(急性期病棟在院日数)の比較検討を行った。 【結果】 1)NIHSSはA群で投与前:12.0±5.4、投与後:7.3±6.4。B群で投与前:18.5±5.0、投与後:14.1±8.6であった。2)退院または転院時のmRSの平均はA群で2.1±1.7、B群で3.5±1.6であった。3)出血性合併症の発生率はA群4件19%、B群2件20%と差は認められなかった。いずれも無症候性出血であり症状の悪化にはつながっていない。4)平均在院日数はA群で13.3±7.2日、B群で43.9±12.9日であった。 【考察】 退院時のmRSはリハ開始までの時間によりに改善傾向に違いがみられたが有意差はみられなかった。また、リハの開始時期による出血性脳梗塞の発生率が変わらないことより、状態を把握し変化に注意しながら離床を行えば、合併症発症のリスクに差はないと考えられた。平均在院日数について差は認めたものの、20例が当院の回復期リハビリテーション病棟も含めた転院となっている。当院では可能な限り発症から24時間以内に、主治医、担当看護師、ソーシャルワーカー、PT、OT、STによりSCUカンファレンスを行い、現状、治療方針、各部門の問題点、展望等を話し合い早期に方針決定が可能となっている。 t-PA静注患者においても合併症や症状の進行に注意しながら可能な限り早期よりリハが介入することは重要である。 【まとめ】 t-PA静注患者に早期よりリハ介入し、NIHSS、mRS、合併症の発生率、平均在院日数について検討を行い良好な結果を得た。
  • 高橋 和久, 金井 章
    セッションID: P034
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】
    近年、診療報酬改正により、医療保険下におけるリハビリテーション(以下リハ)に日数制限ができている。しかし、日数制限を超えても日常生活活動(以下ADL)の改善を認める症例は多く認められる。そこで今回、階段昇降の改善が認められた慢性期脳血管障害患者2症例の経過を報告するとともに、慢性期症例に対する理学療法について検討した。
    【症例1】
    60歳代、男性。平成15年1月12日発症(左前頭葉皮質下出血)。開頭脳内血腫除去術施行。3月3日A病院転院。5月17日自宅退院。5月22日当院外来理学療法開始。既往歴として、平成14年に脳梗塞あり。当院理学療法開始時は、Brunnstrom Stageは上肢3~4、手指3、下肢5で、表在・深部感覚は重度鈍麻、コミュニケーションは、日常会話の理解は良好であるが、表出は困難な状態であった。ADLは歩行、階段(手すり使用)、整容、更衣は見守り、入浴は一部介助となっていた。経過は平成17年5月19日より杖使用及び支持なしによる階段昇降訓練を開始した。7月14日10_cm_台ステップ可能、平成18年5月25日20_cm_台ステップ可能、10月26日一本杖使用にて階段昇降可能。平成19年3月より昇段訓練を取り入れ、その後も昇降時のスピードが改善している。
    【症例2】
    70歳代、女性。平成16年11月30日発症(慢性硬膜下血腫)。12月17日当院入院し、平成17年2月21日自宅退院となり、2月28日外来理学療法を開始した。既往歴として、昭和59年に脳内出血あり。当院理学療法開始時は、Brunnstrom Stageが上肢4、手指4、下肢5であり、表在・深部感覚は軽度鈍麻、コミュニケーションは、日常会話の理解は良好であるが、表出に時間を要する時もあった。ADLは入浴が見守りであり、支持なしでの階段昇降は足が挙がらない状態であった。経過は平成17年4月4日より支持なしによる階段昇降訓練を開始した。7月11日30_cm_台ステップ可能、平成18年9月11日支持なしでの階段昇降可能。平成19年3月より昇段訓練を取り入れその後も昇降時のスピードが改善している。
    【考察】
    今回、慢性期症例において、杖による階段昇降訓練、昇段訓練を中心に行った。その結果、慢性期症例にも関わらず、階段昇降動作の改善が認められた。このことは、慢性期症例に対する理学療法においても、運動機能改善効果の有効性を示しており、現在の診療報酬で規定されている日数制限の問題点を表していると言えよう。脳血管障害者に対するリハの目的は、いうまでもなくADLの自立である。今回は階段昇降動作について焦点を当てて検討したが、目的とした動作能力を改善するためには、課題志向的理学療法が重要であり、その効果は発症後半年を過ぎてからも有効であることを考慮して、理学療法を実施して行かなくてはならないと考えられる。
  • 森 健太郎, 古矢 泰子, 塩本 祥子, 松田 友和, 高坂 浩, 野本 あすか
    セッションID: P035
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【目的】脳卒中片麻痺患者の麻痺側下肢筋力は,麻痺下肢機能と関係し,さらには歩行速度といった歩行能力と密接に関係するといわれている.さらにBrunnstrom recovery stage(以下BRS)では反映できない変化を,連続尺度である下肢筋力評価によって反映できる面があるといわれている.そこで今回,当院回復期リハビリテーション病棟に入院中の脳卒中片麻痺患者の下肢筋力を測定し,その結果が歩行自立度と歩行速度に関係しているかを検討したので報告する.
    【方法】対象は当院回復期リハビリテーション病棟に入院中の脳卒中片麻痺患者13名を歩行自立群6名(年齢59.5±4.2歳,BMI22.3±3.0,罹患日数114.5±56.3日),非自立群7名(年齢56.6±11.0歳,BMI22.6±5.3,罹患日数92.3±35.6日)とした.測定項目はBRS,歩行速度,Berg Balance Scale(以下BBS),両側膝伸展筋力とした.等尺性膝伸展筋力の測定はハンドヘルドダイナモメーター(以下HHD)を用い,測定肢位は端坐位で下腿を下垂させた膝屈曲90°位で3秒間,できるだけ強く膝を伸展するように教示した.測定は各3回行い,分析には最大値を用いた.等速性膝伸展筋力はCybexを用い,角速度30°/秒とし,膝の屈曲伸展運動を5回反復,できるだけ速く,強く膝を伸展,屈曲するように教示した.得られた値のうち最も高いピークトルク値を採用した.
    【結果】歩行自立群のBRSは3が1名,4が3名,6が2名,歩行速度1.27±0.4m/秒,BBS52.2±2.8点,非麻痺側HHD1.4±0.4Nm/kg,麻痺側HHD0.90±0.3Nm/kg,非麻痺側Cybex1.61±0.3Nm/kg,麻痺側Cybex0.9±0.3Nm/kgであった.
    歩行非自立群のBRSは3が6名,4が1名,歩行速度0.3±0.2m/秒,BBS36.8±9.7点,非麻痺側HHD1.23±0.22Nm/kg,麻痺側HHD0.3±0.26Nm/kg,非麻痺側Cybex1.06±0.57Nm/kg,麻痺側Cybex0.2±0.2Nm/kgであった.
    歩行自立群と非自立群間においてBRS,歩行速度,BBS,麻痺側HHD,麻痺側Cybexで有意差が認められた(p<0.05).BBSと麻痺側HHD(r=0.609,p<0.05),麻痺側Cybex(r=0.696,p<0.05),で正の相関がみられた.BRSと麻痺側HHD(r=0.690,p<0.05),麻痺側Cybex(r=0.765,p<0.05)で正の相関がみられた.歩行速度と麻痺側HHD(r=0.541,p<0.05),麻痺側Cybex (r=0.639,p<0.05)で正の相関がみられた.
    【考察】麻痺側膝伸展筋力ではBBS ,BRS,歩行速度で相関がみられた.これにより,回復期脳卒中片麻痺患者において麻痺側の膝伸展筋力が歩行自立度,歩行速度などに影響を与える一因子であることが示唆された.非麻痺側の膝伸展筋力と相関がみられなかったのは,対象が測定日までに回復期理学療法の介入をうけていたため,既にある程度の非麻痺側の筋力の改善がみられていたためと考えられる.にも関わらず歩行自立にいたっていなかった群があることから,歩行自立に他の影響が関与することが示唆された.
  • 山川 ありさ, 石田 智大, 飯田 有輝
    セッションID: P036
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】
     今回,脳出血後に麻痺側大腿骨転子部骨折を受傷し,歩行獲得までの過程で,患肢への荷重において視覚情報が阻害因子となった症例を経験した.荷重困難な症例に対しては視覚情報が有用であるとの報告がある.本症例の場合,視覚情報により患肢への重心移動に制限が生じ,荷重の誘導が困難であった.しかし,体性感覚に注意を向けることで荷重を促すことが可能となり,能動的な重心移動獲得に至った.そこでアプローチの経過とともに若干の考察をふまえ報告する.
    【症例紹介】
     右大腿骨転子部骨折,59歳女性.既往に全身性エリテマトーデス,脳出血があり,右片麻痺と左腓骨神経麻痺を呈している.受傷前は屋内のみ短下肢装具と四脚杖を使用し歩行が可能であった.H20年3月23日,自宅廊下歩行中に転倒し受傷.3月31日骨接合術施行され,翌日より全荷重許可での理学療法開始となった.
    【評価】
    Brunnstrom Recovery Stageで上肢2,手指1,下肢3.表在感覚・深部感覚ともに鈍麻.動作時筋緊張は軽度亢進.運動性失語あり.
    【アプローチ内容および経過】
     立位訓練開始初期は鏡を用いた視覚的フィードバックを利用した.その後ステップ訓練へ移行したが,麻痺側への荷重が不十分なためステップ動作困難であった.再度鏡の利用を試みたが良好な効果は得られず,それまで可能であった重心移動も困難となった.そこで,体性感覚を利用するアプローチへと変更した.具体的には,ステップ動作時の足底感覚を表象してもらった.足底での荷重感覚を表象することで感知を促し,重心移動が可能となった.訓練を反復していく中で,足底の重量増加位置は足底の絵を指し示すことで確認し,重心移動方向の修正を行った.その結果,荷重が良好となり歩行獲得へと至った.
    【考察】
     本症例は立位訓練開始初期から鏡を用いた視覚的フィードバックを利用し良肢位が得られたが,ステップ訓練へ移行すると恐怖心が出現し,それまで可能であった重心移動も困難となった.その要因として,訓練移行前後で身体機能には変化がなかったことから,視覚情報が関与していることが考えられた.視覚情報は感覚情報の60%を占めると言われており,他の感覚情報に対し優位性を持つと言われている.一方で,訓練時に視覚情報に依存しすぎると体性感覚的な学習を阻害するとされている.本症例は,訓練初期から鏡を用いたことによって意識的に体性感覚に注意を向けることがなく,動作は鏡からの視覚情報に影響されやすい状態であったと考えられた.また,鏡に映る身体像と内的な身体像との差があったことが,重心移動能力に差を生じさせたのではないかと考えた.そこで,訓練にて体性感覚へ注意を向けるようにし,それが可能となったことで動作時の身体の情報が得られやすくなり,体性感覚的な学習が促進されたと考えられる.その結果Body imageの再編成,能動的な重心移動獲得に至ったと考える.
  • ~判定基準の妥当性について~
    松儀 怜, 西野 康子, 上野 弘樹, 川岸  崇則, 要明 元気, 岩佐 和明, 北沢 博章, 川上 仁子, 北川 敦子, 後藤 伸介
    セッションID: P037
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【目的】我々は第17回石川県理学療法学術大会において、脳卒中片麻痺患者の歩行自立度判定基準作成を試みた。本研究では、これらの判定基準の臨床運用結果から、妥当性の検討を行ったので以下に報告する。
    【歩行自立度判定基準】当院で作成した歩行自立度判定基準の各評価項目およびそのカットオフ値は、1)麻痺側膝伸展筋力体重比[26%]、2)麻痺側片脚立位時間[2.7秒]、3)非麻痺側片脚立位時間[7.7秒]、4)Stroke Impairment Assessment Set体幹・下肢合計[18点]、5)10m歩行時間[11.7秒]、6)Timed Up&Go Test[13.7秒]、7)立ち上がり能力[20cm]、8)問題解決[5点]の8項目である。
       カットオフ値をクリアしている項目が3つ以上ある場合に、歩行に関するFunctional Indipendence Measure(以下FIM) が6点以上となり、自立と判定した(以下A群)。2項目の場合は60%の確率で自立となるが、確定的でないため判定不能とした(以下B群)。2項目未満の場合は何らかの形で歩行が可能であるが、歩行に関するFIMは5点以下となり非自立であると判断した(以下C群)。
    【対象と方法】平成19年12月1日から平成20年4月30日の間に当院回復期リハ病棟にてリハビリテーションを行い、歩行に関するFIMが5点以上の片麻痺患者33名(男性22名、女性11名、平均年齢63.0±32.0歳)を対象とした。重篤な整形疾患・高次脳機能障害を有する疾患および両麻痺患者は除外した。
     対象者の入院時および歩行自立度変更時に、当院で使用している脳卒中片麻痺患者に対する定期評価の中から前述の歩行自立度判定に必要な8項目のデータを抜粋し、歩行自立度を判定した。また、A群と判定された後2週間以内の転倒有無を調査し、歩行自立度判定基準の妥当性を検討した。
    【結果】A群は22名であったが、その内2名は、併発症の問題などにより対象から除外した。その20名については、2週間以内に転倒があった者は0名(0%)であった。B群は2名であり、うち1名(50%)が個別検討にて歩行自立となり、2週間以内の転倒は認められなかった。C群は9名であった。
    【考察】我々が作成した歩行自立度判定基準により自立と判定された者については、転倒の発生が認められず、比較的妥当な判定が可能であると思われる。
     A群から除外となった2名の特徴として、失調と眩暈、または麻痺側上・下肢の重度の感覚障害に加え、既往歴の腰部疾患による非麻痺側足関節の重度の運動・感覚障害を合併しているなどより、著明なバランス低下を呈していたことが挙げられる。よって、眩暈や失調および感覚障害等によりバランス低下をきたしている症例に関しては、個別に対応していく必要があると考える。
  • 土山 裕之
    セッションID: P038
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】
     急性期脳卒中片麻痺患者に対し、早期から立位練習を行う必要性は、多くの文献により報告されている。重度の麻痺により、下肢及び体幹機能が低下した場合、平行棒や下肢装具など器具や道具を併用することが一般的である。今回下肢の重度麻痺に加え体幹機能障害が見られる患者に対し、立ち棒を利用する経験をした。平行棒と比較し、若干の知見を得たので考察を加え報告する。
    【症例紹介】
     症例は、64歳、男性。平成20年4月3病日目に左脳梗塞にて当院入院。うっ血性心不全の既往あり。6病日目からSCUにて理学療法開始となった。
    【理学療法評価】
     Br.stageは、右上下肢2。感覚は、表在・深部ともに鈍麻。ROMは、正常。MMTは、左上肢5、左下肢4、体幹2。端坐位は、骨盤後傾位で15秒程度保持可能であり、上肢前方挙上時麻痺側に崩れやすい状態であった。寝返り、起き上がりなどの基本動作やADLは、ほぼ全介助の状態であった。また、高次脳機能については、運動性失語および注意障害がみられた。
    【理学療法経過】
     8病日目:AFOに支柱付き膝装具を装着して立ち棒による練習開始。棒を前腕部で引っかけ軽介助にて5分間保持可能。平行棒の利用では、右股関節外旋が強くなり1分間の立位保持にとどまった。19病日目:平行棒内でも5分保持可能になった。しかし、右股関節外旋、骨盤後退、体幹右側屈、右肩後退が著明であった。立ち棒では、左手でつかみAFOのみでも立位保持可能であった。アラインメントは、比較的良好であった。31病日目:KAFOを利用し、軽介助にて平行棒内を1往復可能となった。
    【立ち棒および平行棒内での立位時麻痺側荷重率】
     立ち棒および平行棒という異なる条件下で、静止立位時と麻痺側への最大荷重時に市販の体重計を用いてそれぞれ計測した。このとき、麻痺側の荷重量をKAFOおよびAFO装着時に3回計測し、その平均値を体重に対する百分率で表した。結果、KAFOおよびAFO共に平行棒よりも立ち棒利用で高い荷重率を示した。特にKAFO装着した状態で立ち棒を持ち立位を行うほうが、麻痺側へ荷重しやすいという傾向が見られた。
    【考察】
     立ち棒とは生田により開発されたもので、重度の片麻痺患者の立位訓練に対して有効であると言われている。本器具は、コンパクトかつ軽量で使用場所を選ばないのが特徴である。今回下肢の重度麻痺に加え体幹機能障害が見られる患者に対し、早期に立位を行うために立ち棒と平行棒を併用した。その結果、立ち棒を利用することによりアラインメントや体重移動が比較的良好であった。このことから、立ち棒のような縦型手すりは体幹機能を補助し、立位の安定化につながるのではないかと推測される。立ち棒によって、縦型手摺りを利用する訓練がどこでも行えるという点で理学療法の有効な手段として応用できることが分かった。
     今後は、下肢および体幹のどの程度の障害に対しどの時期に行うことが有効であるかを症例数を増やし検討していきたい。
  • 平井 達也, 鈴木 由紀子, 梅木 将史, 安藤 寿浩, 渡邊 紀子, 星野 雅代, 村雲 聡江, 青山 満喜, 千鳥 司浩, 下野 俊哉
    セッションID: P039
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【目的】施設入所者の転倒は,車椅子からベッドへの移乗時に最も多いとされている(松井,2006).しかし,その転倒の直接的な原因についての調査報告は非常に少ない.本研究の目的は,老人保健施設入所者に対し,転倒につながる行動を直接的に評価可能であると考えられる転倒回避行動(Fall Avoidance Behavior:以下,FAB)と認知機能および転倒の関連性について調査することである. 【方法】対象は,日常的に車椅子を使用し,移乗が監視レベルで行える施設入所高齢者27名(平均年齢:88.0±7.6歳,平均入所期間26.7ヶ月)とした.認知機能は言語指示に従え,MMSEは平均17.7±5.7点(7-30点)であった.転倒回数は入所からH20年5月までのヒヤリハット報告から割り出した.転倒回数は0~6回(平均1.7回)であり,入所期間(月)と転倒回数に有意な相関は見られなかった(r=0.06).すべての対象者および代諾者に本研究の趣旨を説明し参加の同意を得た. FABの評価では,車椅子からプラットホームへの移乗動作を観察した.その際,鈴木ら(2008)の報告を基に,1)安全な距離までの移動,2)フットレストの操作,3)ブレーキの操作を観察項目とした.観察は,1日3回,3日間行い,可否の2件法で評価した.全9試行のうち可の割合:FAB出現率(%)を,1),2),3)の項目毎と全体で算出し,各々の出現率を距離FAB,フットレストFAB,ブレーキFAB,全体FABとした.3日間の評価終了後,口頭指示で動作を行わせ,動作的にはすべての動作が可能であることを確認した.分析は,各FABとMMSE,転倒回数のそれぞれの相関についてスピアマン順位相関係数検定を用いて行い,有意水準は5%未満とした. 【結果】距離FABは平均79.0±32.8%,フットレストFABは79.0±33.1%,ブレーキFABは75.7±34.7%,全体FABは77.9±17.7%であった.距離FABとMMSEの相関係数(r)は0.08(n.s),転倒回数とでは-0.06(n.s)であった.フットレストFABとMMSEは0.51(p<0.05),転倒回数とでは-0.06(n.s)であった.ブレーキFABとMMSEは0.42(n.s),転倒回数とでは-0.21(n.s)であった. 全体FABとMMSEは0.57(p<0.01),転倒回数とでは-0.27(n.s)であった. 【考察】本研究の結果,転倒回避行動と転倒回数との関係性は見られなかった.この理由について,実際の現場で起こる転倒は,本研究で観察した転倒回避行動のみでなく本人の活動性や施設環境などの様々な要因によって生じるからであると考えられた.しかし,転倒回避行動と認知機能の関係性は認められ,転倒回避行動に問題のある者は,実際に転倒に至っていなくとも潜在的に転倒リスクを有している者であると考えられた.
  • バランス能力・麻痺側最大荷重率および歩行能力に着目して
    大鐘 智博, 佐藤 友香, 大川 保昭, 芹澤 充洋, 堀田  昌宏,  岡田  知久, 井戸田 学, 村上  忠洋
    セッションID: P040
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】
    片麻痺患者の車椅子―ベッド間の移乗動作を自立させるためには,一般的に指導される非麻痺側方向への移乗動作に加え,麻痺側方向への移乗動作も重要となる.そこで今回,車椅子―ベッド間における麻痺側方向への移乗動作能力に影響する要因を検討すべく,バランス能力(調査1)および立位での麻痺側下肢への最大荷重率(調査2)との関連について調査した.さらに移乗動作能力と歩行能力との関係(調査3)についても調査したので報告する.
    【対象および方法】
    調査1の対象は,当院入院中の片麻痺患者で移動手段として主に車椅子を使用している18例(男9例・女9例,平均年齢76歳)である.ベッドから車椅子(麻痺側方向)への移乗動作が自立している9例を自立群,介助または監視を要する9例を介助群とした.対象者のBerg Balance Scale(以下,BBS),Functional Reach(以下,FR),座位での前方へのリーチ距離,および下肢のBrunnstrom Recovery Stage(以下,BRS)を測定し,両群を比較検討した.
    調査2の対象は,調査1の対象の中で移乗動作と立位保持が自立または監視で可能な10例(男6例・女4例,平均年齢73歳)とした.方法は車椅子―ベッド間の移乗動作を往復で行わせ,車椅子からベッド(非麻痺側方向)と麻痺側方向の移乗動作の所要時間(以下,移乗時間)を計測した.また,麻痺側最大荷重率として,体重計を用い立位にて麻痺側下肢への最大荷重率(体重を100%とする)を計測し,非麻痺側および麻痺側への移乗時間との関連を検討した.
    調査3の対象は,調査1の対象の中で移乗動作と10m歩行が自立または監視で可能な10例(男7例・女3例,平均年齢74歳)とした.10m歩行時間と調査2の移乗時間との関連を検討した.
    【結果および考察】
    調査1の結果より自立群と介助群間においてBBS値(自立群/介助群:37.0±11.2点/10.4±6.6点),FR値(16.7±6.9cm/2.1±6.2cm),BRS(3-3例,4-4例,6-2例/2-5例,3-2例,4-2例)に有意な差が認められ,麻痺側方向への移乗動作能力に影響する要因は,主に立位でのバランス能力と下肢の運動機能であった.調査2の結果より麻痺側最大荷重率は移乗時間と有意な相関(非麻痺側:r=-0.64,P<0.05/麻痺側:r=-0.77,P<0.01)を認め,特に麻痺側方向への移乗動作能力との関連がより強かった.調査3の結果より10m歩行時間は移乗時間と有意な相関(非麻痺側:r=0.69/麻痺側:r=0.73,共にP<0.05)を認め,特に麻痺側方向への移乗動作能力との関連がより強かった.
    これらのことから,麻痺側方向への移乗動作能力には立位バランスや麻痺側下肢の支持性が関与していると考えられる.麻痺側方向への移乗動作は,立位で麻痺側下肢へ荷重をかけながら方向転換する要素が含まれている.したがって麻痺側方向への移乗動作練習は,麻痺側下肢への荷重を促通し,ひいては歩行能力の向上につながり,病棟における練習としての可能性が示唆された.
  • 山崎 彰悟, 西 恭男, 薮越 八重子, 宮北 裕子, 山本 由乃, 田中 眞也, 松本 成雄, 紺谷 悌二
    セッションID: P041
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】頸部郭清術は頭頸部癌の頸部リンパ節転移に対し行われる外科的な治療である。頸部郭清術の主な術式には、根本的頸部郭清術、機能的頸部郭清術の2つがある。今回、両側頸部リンパ節転移に対し右側は内頸静脈・副神経を、左側は内頸静脈のみを温存した機能的頸部郭清術を同時に施行した症例の理学療法を担当したので報告する。
    【症例紹介】65歳女性。H19.12.17舌悪性腫瘍切除術施行。H20.3.31両側頸部リンパ節転移認められ、4.14両側頸部郭清術施行。
    【術前評価】両側肩甲帯・肩関節のROM-TおよびMMTはともに正常。上肢のADL能力は、日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(以下JOA score)の日常生活動作群項目を使用し10/10点であった。
    【理学療法経過】術後1日目より肩関節のROM運動、筋力増強運動を開始。術後9日目、ROM-T(右/左)は他動運動で正常。自動運動で肩甲帯挙上は正常、肩関節屈曲115°/115°、外転60°/60°。MMT(右/左)は肩甲骨挙上3/3、内転1/1、下制と内転0/0、肩関節屈曲3/3、外転2/2。術後14日目より頸部のROM運動開始。ROM-T(右/左)は自動運動で頸部屈曲35°、伸展20°、側屈10°/10°、回旋30°/30°。術後56日目、ROM-T(右/左)は自動運動で頸部屈曲55°、伸展40°、側屈20°/20°、回旋45°/45°、肩甲帯・肩関節は変化なし。筋力はMMT(右/左)で肩甲骨挙上4/4、その他は変化なし。JOA scoreの日常生活動作群項目は8.5/10点で減点項目は「結髪動作」・「頭上の棚の物に手が届く」・「上着を着る」であった。
    【考察】頸部郭清術では副神経を温存しても術中に筋鉤などにより副神経が圧迫・牽引され僧帽筋麻痺を呈することがある(以下stretching injury)。この場合、術後約6カ月間は僧帽筋麻痺の状態が継続するという報告や、2年以上経過しても僧帽筋麻痺の回復がほとんどみられなかったという報告もある。本症例では両側ともに肩関節周囲筋の筋力低下がみられた。これは、左側は副神経の切除、右側は副神経のstretching injuryに伴う僧帽筋麻痺により、肩甲胸郭関節の運動が障害され正常な筋収縮が阻害されたためと考えられた。このことから、筋力増強運動については肩甲胸郭関節の生理的な動きを介助しながら肩関節周囲筋の筋収縮を促した。減点がみられたADL動作については頸部のROMの改善や脊柱伸展などにより可能となった。今後、右側に関しては副神経の回復の可能性があり、回復に伴う肩関節周囲筋の筋力の改善の可能性がある。しかし、左側は副神経切除に伴う僧帽筋萎縮および肩関節周囲筋の筋力低下がさらに生じる可能性がある。そのため、これらの点に留意した長期的なフォローが必要であると考える。
  • 木村 優一, 宮腰 弘之, 高島 市郎, 松並 由夏, 志村 美香, 坪田 謙, 池上 勲, 木村 知行, 柴田 克之
    セッションID: P042
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】
    大腿神経の損傷例は全末梢神経麻痺の1%前後とされ,治療報告も少ない.今回,左大腿神経麻痺による歩行能力低下を認めた症例の理学療法を実施したので報告する.
    【症例紹介】
    症例は40歳代女性.現病歴は平成19年8月下旬,A病院にて子宮体癌に対し,準広汎子宮全摘術を施行.術直後より左大腿前内側の異常知覚,左下肢筋力の低下を認め,左大腿神経麻痺(Seddonの分類ではneurapraxia)と診断.術後第14病日より16日間理学療法(歩行練習や筋力増強運動)実施し,A病院を退院.平成19年9月27日より当院外来にて理学療法開始となる.職業は薬局販売員(自営).ニードは家事や配送業ができるようになりたい,である.
    【初期評価】
    感覚検査では左大腿前内側に軽度の異常知覚あり.MMTは左腸腰筋・縫工筋4レベル,左大腿四頭筋2レベル(徒手筋力計で算出した健側・患側の筋力比19.4%,以下,健患比),その他の筋群は正常.左膝関節にextension lag -10度認めた.歩行能力は屋内独歩,外出時は杖歩行にて可能.また,歩容では左側の立脚期における二重膝作用を認めなかった.階段昇降は手すりを使用し,二足一段で可能.ADLはFunctional Independence Measure(以下,FIM)124点(歩行や階段で減点)であるが,浴槽清掃などの家事動作や商品配達が独力では困難であり,家族が援助していた.
    【治療プログラム・経過】
    週4回の通院では,筋疲労に留意しながらクアドセッティングや固定自転車のペダリング,スクワット,階段昇降練習に加えて,徒手的抵抗運動を実施.また,家庭内では主にclosed kinetic chainによる運動を取り入れた.当院理学療法開始4週目でも著明な歩容の改善は認めないため,歩行をビデオ画像で確認するフィードバック療法を追加.開始9週頃にはextension lagは消失し,歩容もほぼ正常化したため,フィードバック療法を終了した.独歩や階段昇降も自立(FIM126点)し,職業復帰に至った.開始16週目で左大腿四頭筋筋力はMMTで5レベル(健患比89.4%)となり,理学療法を終了した.
    【考察】
    大腿神経麻痺の予後は損傷の程度により異なるが,いずれの文献でもADL上の障害は軽度とされ,neurapraxiaでは7例中,全例筋力の回復が報告されている.大腿神経麻痺に対する理学療法には,麻痺筋の筋力強化,代償筋の筋力増強,麻痺回復時期の低周波療法,拘縮の予防等があげられる.本症例では峰久らが提唱している筋力増強運動を左下肢代表筋(特に大腿四頭筋)に対し実施した.また,口頭指示では理解しにくい二重膝作用の様相をビデオ画像で視覚的にフィードバックを導入し,運動学習の強化を促した.これは原田らの身体部位間協調運動パターンを,口頭指示にビデオ,姿勢鏡,示範を併用する方法論を臨床応用したものである.視覚的フィードバックとの併用により,歩容の改善に加え,社会復帰につながった有効な治療手段であることが示唆された.
  • 橘田 正人, 柘植 英明, 浅本 憲, 中野 隆
    セッションID: P043
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】肩甲上腕関節の屈曲制限因子として,腱板の短縮,腱板疎部の癒着,肩峰下における滑動性の低下,疼痛などがあげられる.これらの因子のうち腱板に注目した報告は散見されるが,その多くは回旋についてのものであり,屈曲最終域における腱板に関する報告は少ない.
     今回,愛知医科大学医学部解剖セミナーに参加し,解剖実習遺体を用いて肩関節部の解剖を行い,肩甲上腕関節の屈曲最終域における棘上筋について観察し,屈曲制限との関連を考察する機会を得たので報告する.
    【対象】愛知医科大学医学部解剖セミナーに供された遺体1体(女性,81歳)の右肩関節部を対象とした.
    【方法】背臥位で胸部から肩にかけて皮膚を剥離し,大胸筋・小胸筋・三角筋を切断除去して関節包を剖出した.次いで,腹臥位で背部の皮膚を剥離し,肩甲骨・鎖骨・上腕骨を温存した状態で上肢帯を体幹より切離した.上腕骨は,遠位部で切断した.腱板を露出後,肩甲下筋・棘下筋・小円筋を切断除去し,関節包を剖出した.滑液包を除去し,棘上筋を肉眼で観察可能な状態とし,前額面に対し30度の角度をつけて肩甲骨を万力に固定した.この状態で,上腕骨を他動的に屈曲方向へ運動させ,棘上筋線維の走行について肉眼的に観察した.
    【結果】肩甲骨を万力に固定した状態で上腕骨を他動的に屈曲した際,肩甲上腕関節の最大屈曲角度は80度であった.屈曲に伴って上腕骨が肩峰に接触したため,80度以上の屈曲はできなかった.上腕骨下垂位から最大屈曲位までの他動的な屈曲運動を肩甲骨背側面より観察した結果,屈曲に伴い上腕骨頭は後方に回旋し,関節包の上部が伸張されて捻れた.この際,関節包上部の伸張とともに,上腕骨頭の上部を覆っている棘上筋線維遠位部は後外下方へ伸張される様子が観察された.
    【考察】肩関節の拘縮を呈する症例において,最大屈曲位における肩峰の下後方の疼痛は,良く経験する愁訴である.疼痛の原因として腱板炎,肩峰下滑液包炎,肩峰下における滑動性の低下などが考えられるが,これらを鑑別することは困難である.しかしながら,最大屈曲位で肩峰下後方の軟部組織に対して圧迫・伸張・マッサージなどを加えると疼痛が軽減することは良く経験される.
     今回,最大屈曲位において,関節包の上部の伸張とともに,上腕骨頭の上部を覆う棘上筋線維遠位部が後外下方へ伸張されることを確認した.このことより,最大屈曲位における肩峰下後方の疼痛の原因として,関節包の上部と棘上筋線維遠位部が関与していると考えられ,運動療法を実施するにあたりアプローチすべき部位として重要であることが示唆された.
  • 船橋 由布, 岩本 賢, 飯田 博己, 岩堀 裕介
    セッションID: P044
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】
    変形性関節症は様々な関節にみられるが,非荷重関節である肩関節では比較的稀である.今回,強い疼痛と運動制限を呈した変形性肩関節症(以下肩OA)患者に対する理学療法(以下PT)を経験し,良好な結果を得たので報告する.
    【症例紹介】
    63歳女性,主婦,右利き.昭和63年にスキー中の転倒で右肩を打撲して以来,右肩に疼痛と運動制限が出現.その後,多数の医療機関を受診したが,症状の改善は得られず,「動かさないと益々動かなくなる」という思いから,日常生活や趣味活動において自主的に右手の使用頻度を高める生活を続けていた.平成18年に左第1中手骨骨折を受傷後,症状が更に増悪.平成19年2月に前医にて肩OAと診断,人工関節置換術の適応を指摘され,同年5月に紹介にされ当院受診となった.画像所見で高度な関節症変化を認めた.治療方針は,2ヶ月程PTを施行し,効果がみられなければ手術予定であった.
    【初診時PT評価】
    安静時姿勢は頭部前方突出位,胸椎後弯増強,右肩肩甲骨挙上・前方突出位,上肢は体幹に固定した疼痛回避姿勢であった.疼痛は安静時痛が肩前方,運動時痛が肩前方・肩峰下にあり,夜間痛で目を覚ますことが頻回であった.筋緊張は右上肢他動運動時の抵抗感が著明であった.筋のこわばりは頚部周辺筋群,右肩甲帯周囲筋から体幹筋にかけてみられた.肩甲骨可動性は,自他動ともに低下していた.肩関節可動域は自動屈曲80°,外転40°,外旋-5°,背面内旋は臀部であった.ADLは上肢挙上位で行う動作(洗顔・整髪・洗髪・洗濯物を干す),背面内旋を伴う動作(背部洗体・下衣更衣),筋力が要求される動作(硬いものを切る・拭き掃除・布団の上げ下げ)などが困難であった.これら困難な動作で,苦痛を伴いながら右手を積極的に使用していた.趣味活動は多彩で絵画教室,畑仕事,アクアビクスなどを行っていた.JOA scoreは33/100点であった.
    【治療および経過】
    筋由来の疼痛を緩和させるために頚部・肩甲帯・体幹筋リラクセーションと就寝時のポジショニングを含めたADL指導・自宅環境内調整および趣味活動に対する作業時の姿勢・動作指導,作業の内容・量と作業環境の調整を行った.開始後約2ヶ月から,肩周囲の疼痛や筋のこわばりの軽減,上肢帯筋緊張の正常化,肩甲骨可動性の向上がみられた.それに伴い,肩関節および肩甲帯機能改善を目的としたアプローチを追加した.約3ヶ月後には,疼痛回避姿勢,安静時痛および夜間痛は消失した.肩関節可動域は自動屈曲110°,外転100°,外旋-5°,背面内旋はTh12と改善した.困難であったADLは苦痛を伴うことなく遂行可能となった.JOA scoreは68/100点となり,手術は回避された.
    【考察】
    本症例において症状の緩解とADLの改善が得られた要因は,日常生活や趣味活動における誤った認識に対する指導や,肩関節をはじめ頚部から体幹に及ぶ機能に対するアプローチを,病期や病態に応じて選択したことが功を奏したためと考えられた.
  • 小田 拓見, 守山 成則, 前田 眞一
    セッションID: P045
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】後縦靱帯骨化症(以下,OPLL)に対し,手術を施行された症例の理学療法(以下,PT)を経験した.脊椎疾患に対する術後の理学療法として体幹筋強化や立位についての報告は多いが,坐位についての報告は少ない.今回,術後に坐位保持困難であった症例について,若干の考察を加えて報告する.
    【症例紹介】46歳女性.44歳時に頚椎OPLLに対し,頚椎(C3~C5)椎弓形成術を施行された.45歳より両下肢に軽度の脱力感と剣状突起以下の痺れを自覚した.当院整形外科を受診し胸椎OPLLを認め,脊椎除圧固定術を施行(Th1~L1)された.術前,ADL動作は自立していたが,動作の遅さ,歩行困難さを感じていた.
    【経過】術後2日目から,ベッドサイドよりPTを開始した.PTprogramでは,関節可動域運動,筋力増強運動,ギャッチアップ坐位練習をすすめた.感覚検査では,表在覚は体幹右側消失,体幹左側中等度鈍麻,両下肢中等度鈍麻であった.徒手筋力検査では,両上肢4,両下肢2~3,体幹屈筋2であった.PT経過中,化膿性脊椎炎を合併し手術施行され,術後11日目~19日目までは,PTを中止した.PT開始時期はギャッチアップ時,術創部痛の増強,悪心出現したが,徐々に改善した.しかし,それらが改善した後も,ギャッチアップ時に両上肢でベッド柵を把持し,「ふらふらはしないけど,なんか落ち着かない」「角度が大きくなることが恐い」「手で頑張るからすぐに疲れてしまう」などの訴えがあり,ギャッチアップ角度は50°程度まで,保持時間は20分程度までで著変なかった.
    術後34日目,離床許可され,体幹硬性装具装着し端座位練習を開始した.坐位バランスは後方,左右方向で不良であり,坐位保持は要介助であった.仰臥位で腹横筋,内外腹斜筋の随意収縮は拙劣であった.坐位練習として,ギャッチアップ坐位にて理学療法士が体幹を固定した上で,上下肢の自動運動,ボール投げを行った.その後,ギャッチアップ坐位保持時間の延長,端座位保持が獲得できた.
    【考察及びまとめ】ギャッチアップ坐位による本症例の訴えは術創部痛の増強,悪心,疲労感によるものであり,術後の自然治癒過程で,坐位時間の延長は可能であると考えていた.しかし,坐位時間に改善は多く見られなかった.そこで,症例からの訴えや坐位保持の方法や坐位バランス能力の低下,体幹筋の評価から,坐位で体幹の深部筋が効率良く機能していないのではないかと考え,体幹の深部筋の促通を目的とした坐位練習を行った.その後,ギャッチアップ坐位が安定し,端座位保持が獲得できた.本症例では,体幹筋力の低下,体性感覚は重度に障害され,広範囲の脊柱固定により脊椎の可動性が低下していた.それに加え,ギャッチアップ坐位時の訴えや動作があり坐位保持が困難であることから,このような症候がみられる場合には早期から体幹筋に対するアプローチが必要であったと考えられた.
  • 石澤 政博, 山田 雄士, 大澤 一誠, 河重 俊一郎, 落合 大輔, 木戸 健一郎, 藤浪 弘, 水野 大輔, 大道 裕介
    セッションID: P046
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】伊藤整形・内科クリニックでは、2007年3月より、経皮的内視鏡下腰椎椎間板ヘルニア摘出術 Percutaneous Endoscopic Lumber Discectomy(以下、PELD)を開始した。PELDは諸外国では約10年の歴史があり定着している。国内においては先端技術として限られた施設で行われている。この術式は、局所麻酔下の小切開、内視鏡下直径6ミリの操作管を対象部位まで挿入しヘルニアを摘出する方法で、筋・靭帯等への侵襲を最小に留め、出血量数cc、術後3時間で歩行許可、翌日退院可能といった利点がある。術後成績については、95%の満足度を得ている。しかし、高い満足度でありながら、術後の患者様やその御家族の方々から身体のケアや日常生活での注意事項について御相談を受けるうちに、術後運動指導の必要性を感じ、運動指導書を作成した。内容は、術後より2週間は股関節の運動、3-4週目までは腰椎の自動運動と四つ這い運動、5週目以降はラジオ体操と抗重力位での固定筋トレーニングInner Muscle Training(以下、IMT)、また、ウォーキングを術後より行う構成とした。 【目的】アンケート調査にて術後運動指導が患者様の状態や要望に即した内容であるか検討する。また、より良い術後指導へ活用する事を目的とする。 【方法】対象は平成2007年3月末から同年12月末までのPELD施行後、術後運動指導書に基づき運動指導を行い、6週目以降にアンケートを郵送、その後回答を得た50例(男性35例、女性15例)とした。アンケート内容は術後運動指導の必要性、術後から6週目までの13種類の各運動の活用度とした。回答は選択式とした。各運動指導では、実施・非実施を問い、非実施については理由(複数選択可)も回答して頂いた。 【結果】「術後指導書の必要性」は98%で必要と回答。「術後指導書を活用したか?」は82%で活用したと回答。時期別実施率は、術後より2週間まで平均70%、3-4週目平均68.6%、5週目以降平均59.2%であった。各運動実施率では、体幹の伸展60%、四つ這い60%、IMT54%の項目が、全体平均67%を下まわった。非実施の理由は、腰椎の伸展や四つ這いでは「不安」40%や「痛み」30%が多く挙げられ、IMTでは、「必要性を感じない」43%が多く、「不安」8.6%や「痛み」17.3%であった。 【考察】術後運動指導は必要性、活用度共に高く有益と考える。しかし、時間経過により実施率が低下する点は、我々が的確に興味やニーズを捉えていないと考える。腰椎の伸展や四つ這いでの不安や痛み等に対しては、運動の程度や注意点へのケアが十分でなかったと考える。また、IMTについては運動に対する目的や効果を今以上に説明する事が必要と考えた。以上を踏まえ、運動指導書の改訂を含め、指導時の説明方法に再検討が必要であると考える。 【まとめ】PELDの術後運動指導は、必要性が高く、作成した意義はあったと考える。しかし、内容については実施率向上の為、改善が必要であると考える。今後、この運動指導を礎として、質の高いリハビリテーションを提供していく所存である。
  • 中西 俊一, 岩田 康弘, 伊藤 武久, 佐藤 友紀, 飯田 有輝
    セッションID: P047
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    人工股関節全置換術(THR)は除痛,ADLの拡大を目的に施行される.術後はアライメントが改善されることで,筋出力が変化し,歩容の改善に難渋することがある.本症例は術侵襲による疼痛は改善されたが,歩行時に荷重時痛を訴えていた.痛みには直接的な痛みだけでなく,痛みの経験や記憶などの心理的要因も関係しているとの報告もあり,今回運動イメージに着目し,理学療法を施行し良好な結果を得たので報告する.
    【症例】
    82歳女性.平成17年頃より右変形性股関節症と診断され,平成20年4月22日除痛目的の手術を希望され入院し,術前より理学療法を開始.4月25日THRを施行した.
    【治療経過】
    術前評価時はROM股関節屈曲105°外転10°で痛みによる制限であった.ADLは一本杖歩行にてほぼ自立していたが強い痛みを伴っていた.JOAスコアは右で100点中54点であった.術後14日目の評価では股関節屈曲100°外転35°.JOAスコア62点.歩行は一本杖で自立していたが,荷重時痛の訴えがあった.しかし,炎症所見,術部の伸張痛,収縮時痛,圧痛等の検査時の疼痛は認められなかった.それにもかかわらず荷重に対する不安や恐怖心は術前から継続していた.これらより,この疼痛は末梢受容器からの侵害刺激ではなく,運動の予測と実際の荷重時の感覚入力との不整合が原因と推察され,荷重感覚を再構築するために,感覚入力と実際の動作の統合が必要と考えた.訓練では立位にて立脚期における足底感覚と荷重動作の統合を試みた.荷重動作を段階的に行い,荷重感覚と痛みについて本人に確認しながら行った.痛みの評価についてはVisual analog scale(VAS)を用いて行った.その結果,介入前の歩行時はVASにて5であったが,介入後VASは0となり,痛みは軽減され歩行は一本杖自立となった.歩行に対しての発言も「痛みが出そうで不安を感じる.」から「歩けそうな気がする.」に変化した.また,JOAスコアは72点に改善された.
    【考察】
    今回,痛みの経験や記憶などの心理的要因が運動イメージを歪め,痛みを発生させていたのではないかと考えた.そこで訓練を通じて,立脚期に必要とされる適正な感覚入力と運動の予測の整合性がつけられるようになったため,痛みが軽減し,歩容が改善したと考えた.
    JOAスコアが2週間で54点から62点に改善していた.それは,手術により痛みと関節可動域が改善したことによるものであると考えられる.その後,運動イメージに着目しアプローチした結果,JOAは72点に改善し,荷重感覚を再構築できたと考えられた.
  • 大腿四頭筋切除術後に屋内杖歩行自立可能となった症例を通して
    池谷 亮, 寺田 茂
    セッションID: P048
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     大腿四頭筋は膝関節伸展作用を持つ筋として大きな筋力を発揮し、歩行や立位動作の安定性にも強く関わる。
     今回、大腿部の悪性軟部腫瘍により大腿四頭筋のほぼ全ての切除を余儀なくされ、膝伸展機構の破綻を来たしたにもかかわらず、屋内移動が膝装具なしでのT字杖歩行自立可能となった症例を経験したので報告する。
    【症例】
     85歳、女性、左大腿部平滑筋肉腫に対し腫瘍切除術を施行された症例である。病前は一軒家で独居、屋内外の移動や家事動作も含めADLは全自立であった。尚、症例には本発表の趣旨を十分に説明した上で同意を得た。
    【経過】
     2年程前より左大腿部に腫瘤を認め、症状悪化のため他院にて手術施行、術後5週目でリハビリテーション継続目的にて当院入院、理学療法開始となった。
     初期評価ではROM制限はなく、術側下肢筋力は2~3、非術側4レベルであった。術側膝伸展は、端座位で膝関節90度屈曲位から15度伸展可能であった。大腿周径では、膝蓋骨上縁15cmで最大4.5cmの左右差(非術側>術側)を認めた。歩行はT字杖監視、10m歩行は24.0秒、30歩。術側荷重量は安静立位時で全体重の30%、最大荷重時80%であった。いずれも立位動作時は金属支柱付膝装具を装着し、装具なしではわずかな屈曲でも膝折れを認め立位保持困難であった。
     治療プログラムは大殿筋、ハムストリングス、大腿筋膜張筋、下腿三頭筋を中心とした下肢筋力強化運動、closed kinetic chain(CKC)での膝伸展保持に関与する筋の再教育、膝装具なしでの基本動作練習を行った。
     理学療法開始5週目の最終評価時で筋力、周径に著しい変化はないが、膝伸展は同肢位で30度伸展可能、歩行は膝装具なしで屋内T字杖自立、10m歩行は21.5秒、27歩、術側荷重量は装具なしで安静立位時40%、最大荷重時88%、膝30度屈曲位時83%であった。屋内ADLの自立に伴い自宅退院、理学療法終了となった。
    【考察】
     本症例は大腿四頭筋切除により膝伸展が困難なため、膝装具なしでの日常生活は難しいと思われた。初期評価時は骨性支持による膝完全伸展位での立位保持が可能であったものの、屈曲位保持はできず装具なしの歩行は膝折れによる転倒の危険が考えられた。
     歩行の立脚初期における大腿四頭筋の膝関節安定作用の代償には、大殿筋、ハムストリングス、下腿三頭筋の働きが挙げられる。このうち、OKCで膝屈曲作用を持つ筋はCKCでは膝伸展保持に寄与すると考えられる。加えて大腿筋膜張筋も膝軽度屈曲位で膝伸展作用を持つ。これらの筋に対し、筋の特異性の原則に基づくCKCでの筋再教育によるアプローチの結果、膝軽度屈曲位の保持が可能となり歩行安定性の向上、装具なしでの屋内杖歩行自立に至った。これは、MMTでの有意な変化はなくとも作用機構の再構築がなされ、膝関節安定性が向上したためと考えられる。
  • 内藤 善規, 加藤 智香子
    セッションID: P049
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【背景・目的】近年、転倒による骨折が身体活動の減少を助長し、結果的に寝たきりとなる高齢者が増加している。基礎体力や骨量減少がその主な原因であると考えられ、骨密度と身体活動との関連が述べられている。一方、衝撃力の強い運動は骨量を高めるとの報告もあるが、行っているスポーツの種類で運動の強さを段階付けする主観的な方法で評価しており、運動強度を客観的に評価して骨密度との関連についての報告はない。そこで、運動強度を客観的に評価し、骨密度と運動強度との関連を検討するとともに、骨密度と強く関連する要因について検討した。
    【方法】対象は地域の転倒予防教室、健康教室、老人クラブ、市民講座の参加者で、地域在住の前期高齢女性36名(69.1±2.9歳)とした。骨密度は踵骨の定量的超音波測定法[QOS]を採用した。身体活動は、歩数(歩)、運動量(kcal)をライフコーダEX(スズケン社製)によって自動的に算出されたものの1週間分の和、分類した低、中、高の各運動強度の1週間分の合計時間(秒)をそれぞれ求めた。現在及び過去の運動習慣は国民栄養調査に準じ(1回30分以上、週2回以上、1年以上運動を継続しているか)、カルシウム摂取はカルシウム自己チェック表にて調査した。骨密度と各要因間の相関分析にはSpearmanの順位相関係数(ρ)を用いた。現在及び過去の運動習慣は運動習慣の有無で群分けしてMann-WhitneyのU検定を行い、骨密度の差を検討した。なお、有意水準は5%未満とした。
    【結果】骨密度と高強度(ρ=0.10)、中強度(ρ=0.06)、低強度(ρ=0.04)、いずれも運動強度との相関はみられず、統計的に有意な相関が認められた要因は年齢(ρ=-0.36)であった。その他の要因は、それぞれ歩数(ρ=0.06)、運動量(ρ=0.15)、カルシウム自己チェック表(ρ=0.06)で有意な相関はみられなかった。また、骨密度と過去の運動習慣(p=0.41)とは有意な差はみられなかったが、現在の運動習慣(p=0.05)には有意な差が認められた。
    【考察】骨密度と運動強度との関連はみられず、現在の運動習慣(1年以上運動を継続している)に関連がみられた。このことから、一時的な強い運動が骨密度に与える影響は少なく、運動の強さに関わらず、現在の継続した運動が骨密度の減少を緩やかにする可能性が推察された。
  • 段差昇降能力に与える影響
    古屋 尋子, 野村 知未, 大場 文紗子, 河村 純奈, 松山 太士, 田中 実希, 矢崎 進
    セッションID: P050
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 臨床において、大腿骨近位部骨折を起因として段差昇降が困難となるケースを多く経験する。本研究では、段差昇降に必要な能力を知る為に大腿骨近位部骨折患者と一般高齢者を対象に段差昇降の可否、下肢筋力、立位バランス能力を調査したので報告する。 【対象】 大腿骨近位部骨折にて骨接合術又は骨頭置換術を施行した67~88歳の女性10名、70.3±6.5歳(以下、骨折群)と下肢骨折及び変形疾患のない65~80歳の女性7名、76.2±6.1歳(以下、一般群)を対象とした。受傷前に段差昇降困難であった者、円背の強い者は除外した。 【方法】 骨折群は退院時の状態を把握する為に退院前1週間以内に測定した。段差昇降課題は、高さ20cm3段を使用し、2足1段にて連続昇降が可能な場合を可能、連続昇降が困難な場合と手すりを使用した場合を不可能と判断した。下肢筋力測定は、オージー技研筋力測定器GT-300を用い、股関節屈曲・伸展・外転、膝関節屈曲・伸展の各運動方向で最大努力による10秒間の等尺性運動を2回試行し、最大値を体重で標準化したものを採用した。立位バランス能力は、Functional Reach test(以下、FR)を2回測定し、最大値を採用した。以上の項目を、一般群と骨折群、及び全対象者を段差昇降能力の可否で群分け(以下、可能群、不可能群)し、Mann-Whitney U検定にて比較した。 【結果】 段差昇降課題は、可能群10名(内、骨折群3名)、不可能群7名(全員骨折群)であった。下肢筋力は、一般群と骨折群では股関節屈曲(0.66±0.21N・m/kg、0.42±0.19N・m/kg)、伸展(0.68±0.29N・m/kg、0.27±0.20N・m/kg)、外転(0.49±0.13N・m/kg、0.29±0.17N・m/kg)に有意な差を認め、可能群と不可能群では膝関節屈曲(0.46±0.27N・m/kg、0.22±0.07N・m/kg)、伸展(0.65±0.15N・m/kg、0.39±0.22N・m/kg)で有意な差を認めた。FRは、一般群と骨折群では有意な差を認めなかったが、可能群と不可能群では有意に可能群のリーチ距離が大きかった。 【考察】 骨折群の約70%が段差昇降能力を獲得出来ておらず、退院時の段差昇降能力は低いため積極的なアプローチが求められる。結果からは骨折により股関節筋力の低下を生じることがわかるが、段差昇降能力にはさらに膝関節筋力が重要といえる。FRにおいて可能郡と不可能群で差があったことから段差昇降には立位バランス能力が必要であり、不可能群は転倒のリスクが高くなると言われるカットオフ値15.3cm付近の値をとることから再転倒のリスクがあると考えられた。以上より、骨折により段差昇降が困難となる理由は股関節筋力の低下だけでなく、膝関節筋力と立位バランス能力の低下も関与すると考えられた。
  • 瀧 昌也, 濱瀬 さゆり, 水谷 公司, 加藤 喜隆, 石川 綾子, 高見 千由里, 清水 康裕, 才藤 栄一
    セッションID: P051
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【目的】関節位置覚は、加齢や疾患により減弱することが報告されている。変形性膝関節症(膝OA)では、骨・軟骨の摩耗による容積の減少、関節包や靭帯の弛緩などにより関節位置覚を低下させると言われており、この低下は関節の安定性や運動制御に影響をもたらす。今回、膝OAに対し人工膝関節置換術(TKA)を施行した症例で、術前後における関節位置覚の変化と内省報告を聴取し検討したので報告する。 【対象】膝OAに対し、当院でTKAを施行した12例12膝を対象とした。年齢は平均71.7±8.1歳、入院期間は平均32.7±14.5日であった。 【方法】膝関節位置覚は、端座位、閉眼にて測定し、検者が被検者の下肢を他動的に伸展させ、静止した角度を記憶するように指示した。再び他動的に伸展し、記憶した角度に到達したと感じた時、被検者は口頭にて指示し、その角度をデジタルビデオにて記録した。開始角度は、膝関節屈曲70°、目標角度は40°とし、測定は3回行い、平均誤差角度を算出した。また、他動運動を行う前に、「どこで感じたか教えて下さい」と提示しておき、検査後内省を聴取し再現性を確認した上で記録した。この研究を行うにあたり、個人情報を保護すること、本研究以外には使用しないことを口頭にて説明し同意を得た。 【結果】1.膝関節位置覚の平均誤差角度は、術前2.9±1.6°、抜糸後4.3±1.5°、退院前3.3±1.6°であり、各時期の間に有意差は認められなかった。 2. 関節位置覚を判断する内省報告は、「位置、高さ」を表現したA群18例、「皮膚の伸張」で表現したB群11例、「痛み」で表現したC群2例、「時間、重さ」で表現したD群2例に分けられ、AおよびB群は全体の80%を占めた。 【考察】関節構成体に侵襲を加えるTKAを施行することにより、関節位置覚の低下に影響することが予測されるが、今回の我々の結果では、術前後において膝関節位置覚には差が認められなかった。嶋田は、TKA症例において術後の関節位置覚が悪化しないのは、関節他動運動時に関節組織への適切な緊張が加わるようになったためと報告している。また、内省報告では位置や高さ、皮膚の伸張などで表現する症例が多かった。関節位置覚は、空間における身体位置や部位の相互関係に関連しており、この感覚の受容器は筋や腱、関節包、靭帯などに存在する。よって、残存している筋・腱、関節包の受容器が、身体の位置関係を検出し、関節の変化を感知したものと思われ、それは内省報告から確認することができた。また、術前、抜糸後で内省報告が変化した被検者もいたことからも、自己の身体に注意を向け、より有利な情報を感知、選択していることが示唆された。しかし、高齢健常者とTKA患者間では関節固有覚に差があることが報告されており、身体位置、身体認識のズレを再教育する必要はある。
  • 熊谷 匡晃, 林 典雄, 稲田 均
    セッションID: P052
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     人工膝関節置換術(TKA)は優れた除痛効果とそれに伴うADLの向上により安定した成績が得られ,その適応は拡大している一方で,術後に説明しづらい疼痛を訴える症例も時折経験する。今回,TKA術後に生じた膝窩部痛に対し,足底挿板療法が有効であった症例を経験したので疼痛発生メカニズムならびに足底挿板の効果について考察を加え報告する。
    【症例】
     60歳代の女性で,診断名は左変形性膝関節症である。2年前より左膝痛が出現し,徐々に疼痛が増強しTKAを施行した。術中角度は膝関節屈曲120°,伸展0°であり,術後翌日より運動療法を開始した。
    【術前評価】
     荷重位FTAは190°,腰野の分類にてグレード3であった。疼痛は平地歩行,階段昇降ともにみられた。ROMは膝関節屈曲120°,伸展-15°であった。JOAスコアは55点であった。
    【経過】
     術後2日目より運動療法を開始した。術後1週で歩行訓練を開始し,術後2週経過後にはT字杖歩行が監視下で可能となったが,膝関節屈曲時,立ち上がり動作時ならびに歩行時に膝窩部痛を生じた。ROMは膝関節屈曲105°,伸展0°であった。膝関節屈曲時の膝窩部痛の原因を手術侵襲による前方組織の伸張性低下に起因した後方組織のインピンジメントと考え対処したが,疼痛の軽減が得られなかったため,術後4週経過後に再評価を行った。膝窩筋にスパズムと強い圧痛を認め,posterolateral drawer testが陽性であったことから,膝窩部痛の原因を後外側回旋不安定性(PLRI)を基盤に発症した膝窩筋の慢性コンパートメント症状と推察した。徒手的操作による膝窩筋のリラクセーション,下腿外旋制動テーピングにより著明な除痛効果を認めたことより,下腿の内旋誘導を目的とした足底挿板を作成した。その後短期間で膝窩部痛は消失し,不整地長距離歩行が可能となった。
    【考察】
     PLRIは外傷による外側側副靱帯(LCL)と膝窩筋複合体,ファベラ腓骨靱帯,弓状靱帯,後外側関節包からなる後外側複合体(PLC)の損傷を原因として出現することが多い。内側型変形性膝関節症では,FTAの増大やlateral thrustにより外側支持機構の不安定性を認めることが多い。TKAでは手術を境にアライメントは大きな変化が起こり,LCLやPLCのゆるみに伴うPLRIの出現が推察される。このことから本症例における膝窩部痛の原因は,PLRIによる下腿の外旋を制動するために膝窩筋に過剰な収縮が強要された結果としての筋性疼痛と考えた。また,膝関節屈曲時の膝窩部痛は膝窩筋への機械的圧迫により筋内圧の上昇を招いたことが原因と解釈した。足底挿板療法としては,踵接地時の踵骨の直立化を保持した上で重心が後外側から前内側方向へと流れるように踵骨から立方骨にパッドを貼付し,踵接地した瞬間から下腿の内旋誘導をもたらすことでPLRIが制動され,歩行時痛の消失が得られたと考えられた。
  • 薮越 公司, 村谷 俊幸, 織田 真由美, 田口 典嗣, 山本 美紗子, 神戸 晃男, 山口 昌夫
    セッションID: P053
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】人工股関節全置換術(以下THA)の後、骨盤側方傾斜により生じる見かけ上の脚長差、すなわち機能的脚長差に対し、術側下肢への積極的な荷重を促す事がある。この研究の目的は、術側下肢への荷重が、機能的脚長差の軽減に本当に効果があるのかを調べる事である。【対象】2007.04.から2008.03.までに筆者が担当したTHA術後患者48名の中から、術後理学療法の中止期間がなく4週間に渡る脚長差の推移を計測できた29名を抽出し、パス通り術後2日目に全荷重可能となった17名(以下荷重群:平均年齢56.7±9.7歳, 術側右8名,左9名,術前JOAスコア43.4±12.0点)と、Revision THAや術後骨折等による安静のため術後3週間完全免荷となった5名(以下免荷群:平均年齢58.6±10.2歳, 術側右3名,左2名,術前JOAスコア51.2±26.9点)に分類した。両群とも全員女性であった。術後3日以降1週間以内の荷重であった残りの7名は対象から除外した。両群の平均年齢・術側の分布・術前のJOAスコアには有意な違いはなかった。【方法】荷重群・免荷群の両群において術前・術後1週・術後2週・術後3週・術後4週の計5回、臍果長(UMD)・棘果長(SMD)を計測し、それぞれの左右差の絶対値(以下UMD差・SMD差)を算出した。両群間の術前におけるUMD差・SMD差の比較には独立2群のT検定を、両群間における術後4週間のUMD差・SMD差の経時比較には二元配置分散分析を用いて検定した。有意水準は何れも5%とした。【結果】荷重群・免荷群の術前SMD差はそれぞれ(0.9±0.9cm,1.1±1.2cm)、術前UMD差は(1.3±0.8cm,2.1±2.7cm)となり、何れも両群間に有意な違いは見られなかった。術後SMD差は、荷重群・免荷群それぞれ、1週(0.8±0.7cm,0.7±0.4cm)、2週(0.8±0.8cm,0.6±0.5cm) 、3週(0.6±0.7cm,0.3±0.7cm)、4週(0.6±0.6cm,0.4±0.4cm)となり、4週間を通して両群間に有意な違いは見られなかった。一方、術後UMD差は、荷重群・免荷群それぞれ、1週(1.3±0.9cm,1.7±0.8cm)、2週(1.1±0.9cm,1.7±0.8cm) 、3週(0.9±0.7cm,1.5±1.0cm)、4週(0.8±0.7cm,1.5±1.0cm)となり、荷重群のUMD差は有意に低値を示し、また時間経過と共により低値に移行する傾向が見られた。【考察】両群間のSMD差には4週間を通して違いが見られないにも拘らず、荷重群のUMD差は有意に低値を示し、しかも時間経過と共により低値に移行する傾向が見られた事は、THA後の術側下肢への荷重が、機能的脚長差の軽減に有効である事を示しているものと思われる。
  • 平成18年度上半期と平成19年度上半期との比較
    荒木 左知子, 長田 勉, 岡部 秀司, 川本 成美, 上野 達弥
    セッションID: P054
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】急速な高齢化に伴い、当院において増加傾向の大腿骨頚部骨折患者の現状と在院日数について、平成18年度上半期と平成19年度上半期とを比較し調査したので報告する。 【対象および方法】大腿骨頚部骨折で当院整形外科へ入院し、各年度4月1日~9月30日の期間に手術を受け、理学療法を実施した患者63例(平成18年度30例・平成19年度33例)を対象とした(合併症等で他科へ転科した患者は除く)。調査項目は、年齢・性別・認知症合併率・抗凝固剤使用率・骨折分類・術式・ADL自立度・退院時行先・在院日数(術前・術後)で比較検討した。
    【結果】平成18年度30例(女性27人、男性3人、平均年齢86.1±8.4才)の内訳は受傷時の認知症合併率は40.0%、抗凝固剤の使用率16.7%。骨折の分類は外側骨折63%内側骨折37%、で術式はPFNA60%、人工骨頭置換術30%、ハンソンピン7%、DHS3%であった。受傷前のADLは、自立40%、半介助47%、全介助13%で、居住地は自宅67%、介護施設30%、他病院3%であった。退院時のADLは自立10%、半介助50%、全介助40%、退院後の行先は自宅54%、回復期病棟(他施設)13%、介護施設30%、他病院3%であった。
    これに対して平成19年度33例(女性26人、男性7人、平均年齢85.5±8.9才)の内訳は受傷時の認知症合併率は45.5%、抗凝固剤の使用率27.2%。骨折の分類は外側骨折67%内側骨折33%、で術式はPFNA67%、人工骨頭置換術15%、ハンソンピン15%、DHS3%であった。受傷前のADLは自立39%、半介助49%、全介助12%で、居住地は自宅64%、介護施設36%。退院時のADLは自立18%、半介助39%、全介助43%、退院時の行先は自宅30%、回復期病棟(他施設)24%、介護施設40%、他病院6%であった。
    術前在院日数は、平成18年度6.7±3.0日、平成19年度5.8±3.1日であり有意差はなく、術後在院日数は平成18年度34.2±19.9日、平成19年度27.8±16.1日で平成19年度術後在院日数は有意に短縮した(P<0.05)。
    【考察】急性期病院として、入院直後よりクリニカルパスに沿った理学療法を実施し、回復期病棟(他施設)への早期からの適切な転院を促進し、在院日数の短縮が求められる。 術前在院日数は、手術待機を余儀なくされる抗凝固剤の使用者の増加により大幅な短縮は困難な状態だが、術後在院日数は回復期病棟(他施設)への転院患者の増加により短縮が可能となった。自宅受傷者のうち、平成18年度は20%が、平成19年度は38.1%が回復期病棟へ転院となっている。今後も医師・看護師・MSWとチームを組みより良いサービスを提供し、在院日数の短縮と経営の健全化に努めると共に、さらには、今後は地域連携パスの導入についての検討も必要と考える。
  • 渡邊 絵美, 石倉 作紀, 椎木 孝道, 齊藤 和快
    セッションID: P055
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    足関節捻挫後の装具装着の目的は、傷害の予防・機能不全の代償など様々であり、スポーツ復帰の過程で使用される。装具を長期間にわたり装着することは、関節可動域制限や固有感覚の低下を起こし足部や他の下肢関節の障害に繋がる可能性があるとされている。
    今回、高校ハンドボールチームの選手を対象に、足関節装具と足関節機能について検討、考察した。
    【方法】
    アンケート調査と開眼片脚立位時間の測定を行った。アンケートの内容はスポーツ傷害の有無と装具装着の有無、装具を装着することになった時期、きっかけ、目的、感想である。アンケートは複数回答可能とした。アンケート回答より、足関節捻挫の既往があり、現在も足関節装具を装着していると答えた者の開眼片脚立位時間を測定した。開眼片脚立位は文部科学省新体力テスト実施要項の開眼片足立ちテストに基づいて行った。
    対象者には調査の主旨や目的を充分に説明し、同意を得た。
    【結果】
    過去のスポーツ傷害の部位は、上肢4件、足関節5件、下腿部3件、腰、股関節、膝関節、足部がそれぞれ1件であった。受傷後の装具装着は、足関節6件、腰1件、肘1件であった。現在のスポーツ傷害の部位は、膝関節、足関節、下腿部がそれぞれ3件、腰が2件であった。受傷後の装具装着は、腰1件、膝関節1件、足関節1件であった。
    足関節装具装着は7件(6名7足)あり、全員が現在も装着していた。7件の診断名は全て足関節捻挫であり、初めて受傷した時期は小学校時代1名、中学校時代1名、高校時代4名であった。装具装着時期は全員が高校からであり、きっかけは病院の処方が1件、周囲の勧めが3件、再受傷に対する恐怖心や不安感が3件であった。
    片脚立位保持時間(5名5足)は、装着側が33.0士5.6秒、非装着側が179.1士9.5秒であった。
    【考察】
    足関節捻挫の受傷時期にばらつきがあるのに対し、装具の装着時期は全員が高校からであった。きっかけとして周囲の勧めや再受傷に対する恐怖心や不安感と答えた者が多く、病院の処方と答えた者を上回っていた。小学校や中学校で受傷した者が、高校の部活動で練習量が増したことがきっかけで足関節に不安感を持つ様になり、周囲の勧めで装着する様になった可能性が考えられた。
    片脚立位保持は、装着側と比較し非装着側は保持時間が短く、足関節の機能低下が考えられた。片脚立位保持時間の低下は、固有受容感覚の低下や下肢アライメントの不良、下肢の筋力低下などから起こることは知られている。
    足関節装具を装着し競技へ完全復帰した選手は、装具装着の感想として、安心できる、固定されるから楽になるなど利点を挙げる一方で、動きにくい、蒸れるなど欠点を挙げることもあり、必ずしも好印象を抱いているというわけではないようだった。装具装着の目的として怪我の予防・安心感などをあげており、運動療法を用いて出来る限りそれらの問題点を解決することで、装具を外してプレーできるようになり、足関節の本来の機能を取り戻せるのではないかと考えた。
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