日本認知心理学会発表論文集
最新号
選択された号の論文の108件中51~100を表示しています
  • 蔵冨 恵
    セッションID: P2-10
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    近年,無関係な刺激を排除して課題目標を焦点化する認知的安定性と,状況の変化によって課題を切り替える認知的柔軟性は必ずしもトレードオフの関係ではないことが示されている。本研究では,タスクスイッチパラダイムを用いて,安定性と柔軟性の関係を明らかにするため,安定性と柔軟性の文脈操作が,安定性を反映する反応一致性効果と柔軟性を反映するスイッチコストのそれぞれに及ぼす影響を検討した。もし,安定性と柔軟性が独立した関係にあるのならば,一致性頻度の文脈操作は,反応一致性効果に対してのみ,スイッチ頻度の文脈操作はスイッチコストに対してのみ変動をもたらすことが予測された。その結果,反応一致性効果は,一致性頻度操作に加え,スイッチ頻度操作によっても変動し,スイッチコストは,スイッチ頻度操作のみによって変動することが示された。この結果は,認知的安定性と認知的柔軟性は独立した関係性にある可能性を示唆している。
  • 吉 西妍
    セッションID: P2-11
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    アンサンブル知覚とは、複数の視覚対象の要約情報(例えば、物体の平均大きさ)を短時間で正確に読み取ることであり、視覚認知の容量制限を克服する効率的なストラテジーとして認識される。しかし、アンサンブル情報の処理にも容量制限が存在している。視覚性ワーキングメモリには容量制限があるように、複数の点群の平均大きさを同時に処理する時は、2グループの平均値を正確に覚えることが示された。さらに、事前に注意をある物体群に向けることで、その物体群のアンサンブル記憶を強化できることが示唆された。本研究は、視覚性ワーキングメモリにおいて、アンサンブル情報の処理を注意で促進することに焦点を当てて、アンサンブル情報の記憶はretro-cue効果があるかどうかを明らかにすることを目指す。結果として、個別物体情報と異なり、アンサンブル情報処理においては、pre-cueの効果が見られたが、retro-cueの効果が見られなかった。アンサンブル情報の処理が知覚段階のみ注意に影響されることを示した。
  • 布井 雅人, 加藤 七美
    セッションID: P2-12
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    ポジティブ刺激の1つとして「推し」を取り上げ,推しによる注意の捕捉の特徴を検討した。実験では,参加者自身の推し人物の画像と,推しではない人物の画像を使用して,注意の引きつけられやすさを示す定位バイアスと,解放のされにくさを示す解放困難バイアスの両側面を測定可能な修正ドットプローブ課題(Rudaizky et al, 2014)を実施した。その結果,推しに対しても非推しに対しても定位バイアスが見られたが,推しと非推しで定位バイアスの大きさに違いは見られず,推しは注意を引きつけやすいわけではないことが明らかとなった。解放困難バイアスは,第1セッションにおいては推しにおいてのみ負のバイアスが見られ,推しは非推しよりも注意が解放されやすいことが明らかになった。これは,推しの情報が素早く処理され,逆方向に注意が向かう復帰抑制が生じているためだと考えられる。
  • :背景事象に対する注意の配分と再認成績からの考察
    後藤 靖宏
    セッションID: P2-13
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    外国映画の吹き替え版と字幕版とを鑑賞する際の注意の配分の特徴と映像の記憶を調べた。実験では,同じ外国映画の吹き替え版と字幕版を準備して、映像内の背景事象の再認課題を課した。その際に意図的に背景に注意を向けるように教示した群としない群を設定した。実験の結果、吹き替え版、字幕版ともに一定程度の記憶はされていつつも、前者の方が後者のそれよりも記憶成績が良かった。この結果は、吹き替え版は原則として映像にのみ視覚的注意を配分すればストーリーを追うことができるのに対し、字幕版の場合は影像と同時に字幕にも注意を分割して配分しなければならず、相対的に映像に向けられる注意が少ないことが理由であると考えられる。今後は、背景事象に加えてストーリーに直接関係している事象についても調べることで、外国映画の吹き替え版と字幕版の違いの本質を包括的に議論することが出来るであろう。
  • 齋藤 真里菜, 中嶋 莉那, 辻村 誠一
    セッションID: P2-14
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    近年、視物質メラノプシンに受容された光が覚醒度を変えることが明らかになってきた。だが、先行研究の多くはメラノプシン刺激量を変えるために青色光を用いており、色の心理効果とメラノプシンの効果が交絡している状態である。本研究は、古典的な光受容細胞の刺激量を一定にして、メラノプシン細胞の刺激量のみを変化させるメタマー光を背景光として用いた。課題にはRSVP法を行いて、背景光の違いが注意の瞬き現象へ及ぼす影響を調べた。実験の結果、メラノプシン刺激量の低い背景の上では、第一標的刺激 (T1)の検出成績が良く、第二標的刺激(T2)の検出成績も良い傾向にあった。なお、条件間の交互作用は見られなかった。メラノプシン細胞は、主に環境光の受容を行うとされている。今後、注意や認知成績に良い効果をもたらす「適切なメラノプシン刺激量」が明らかになれば、照明環境の発展に役立てることができるだろう。
  • 紀ノ定 保礼, 山泉 健, 川島 朋也
    セッションID: P2-15
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    自動車の運転には、時々刻々と変化する環境の知覚と、対応する行動の制御という、複合的な認知的能力が必要となる。交通環境内のハザード(交通事故の発生可能性を高めうる事象)を素早く正確に検出することは、自動車の運転において必須の能力の一つである。近年、心理物理学的手法により、一定以上の確率でハザードを正確に検出するために平均的に必要な時間が特定され、高齢者の方が若年者よりもハザードの検出に必要な時間が平均的に長いことが判明した。本研究ではこの知見の再現可能性の確認とメカニズムの検証を行った。若年者及び高齢者を対象としたオンライン実験により、ドライビングレコーダで記録された実際の映像240本を短時間呈示し、各映像にハザードが存在するかどうかの判定を求めた。ベイズ統計モデリングにより、先行研究の追試に成功するとともに、感度の低下が高齢期におけるハザード知覚の低下の原因である可能性が示された。
  • 大江 龍太郎, 木村 司, 篠原 一光
    セッションID: P2-16
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    本研究は,ビジランス課題実行時に自己選択したBGMが覚醒とエンゲージメント,ビジランス課題の成績にどのように影響するかを検討することを目的とした. 20名が実験に参加し,ビジランス課題としてSustained Attention of Reaction Task (SART)を実施した.覚醒(エネルギー・緊張)は感情・覚醒チェックリスト(Oda et al., 2015)により、エンゲージメント(感情的・行動的・状態的・認知的)はエンゲージメント尺度(Toyama, 2018)によって、同時に測定した。分散分析の結果,自己選択したBGMはBGMがない場合と比べて,エネルギー覚醒,感情的・行動的・状態的エンゲージメント,SARTの成績の向上をもたらした.さらに,パス解析の結果,自己選択したBGMによる課題成績向上の効果は,覚醒ではなく,エンゲージメントによって媒介されることが示唆された.ゆえに,BGM研究においては,覚醒だけでなく課題エンゲージメントの測定が必要であり,かつ,これらとBGM選曲方法の関係を考慮する必要があると考えられた.
  • 高見沢 美咲, 鳥谷 彰, 上村 拓也, 松木 萌, 山本 達也, 福井 琢
    セッションID: P2-17
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    健康寿命延伸は国の重要施策だが,運動習慣者の割合は伸び悩んでいる。この状況の改善に向けて,我々は運動を習慣化させるための技術方式の開発を進めている。従来,運動の維持にはポイント付与等の画一的な施策が用いられてきたが,習慣化には不十分だと考えられる。本研究では,行動要因に応じてパーソナライズドされた介入切り替え方式を立案し,習慣化効果を評価した。具体的には,健康行動の習慣化に関連すると考えられる行動要因(自己効力感,挑戦・成功欲求)の高低に応じて,運動継続を促すメッセージを送った群(介入群)と,画一的なメッセージを送った群(統制群)とで比較した。約4週間に渡り,対象者約350名で実践した際の運動実施率,及び運動継続意図(心理アンケートスコア)について,向上効果の評価と考察により,パーソナライズド介入による習慣化の実現性を確認した。
  • :ゲームプレイと感性満腹感誘導による食物渇望減少効果の検証と比較
    小林 正法, 西村 誠, 井上 和哉, 大竹 恵子
    セッションID: P2-18
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    渇望(craving)とは特定の対象を摂取したいという強い欲求を指す。本研究では食物を対象とした渇望の低減が可能かどうかを検討した。本研究では,渇望低減手法として「テトリス」の実施による視空間的妨害,食物の動画視聴による感性満腹感誘導に着目した。参加者は食物渇望が誘導された後,テトリスの実施(テトリス群),食物動画の視聴(動画群),計算課題の実施(統制群)のいずれかに分けられた。渇望誘導前,渇望誘導後,介入後の3時点で渇望を質問紙で測定し,群間で比較した。実験の結果,テトリス群,統制群は渇望誘導後より介入後の食物渇望が低かったが,動画群は渇望誘導後より介入後の食物渇望が高かった。しかし,テトリス群と統制群の間に渇望低減量に差はなかった。したがって,テトリスや計算課題の実施といった渇望対象とは関わらない何らかの認知課題の実施(もしくは時間経過)が渇望の低減に繋がることが示唆された。
  • 浅川 芽衣, Mooore Michael
    セッションID: P2-19
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    Depression is a complex mental health condition that impacts various aspects of an individual’s life. This study aimed to explore the relationships between mood reactivity, cognitive reactivity, loneliness, and symptoms of depression. Participants (n = 521) completed self-reported questionnaires assessing attributional styles, depression symptoms, and loneliness. They were then exposed to a mood induction technique involving music associated with sadness and autobiographical recall. Mood reactivity was operationalized using residual changes in the total of depression items, while cognitive reactivity was assessed using attributional style scores. The study found that depressed mood and pessimistic thoughts increased significantly after mood induction. Loneliness, depression symptoms, and pessimism were positively correlated, with loneliness showing a strong association with depression. Counter to hypotheses, mood reactivity was not significantly associated with cognitive reactivity. Despite limitations related to causation and external validity, these findings provide valuable insights for clinicians. Understanding the separate roles of mood and cognitive reactivity can enhance depression assessment and intervention strategies.
  • 亀井 菜名, 原田 佑規, 池田 慎之介
    セッションID: P2-20
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    The recognition of facial expressions in peripheral vision has been explored in only a few studies, and the association with alexithymia, in particular, has seldom been examined. This study aimed to investigate facial expression recognition in peripheral vision among university students, while controlling for retinal eccentricity, and to assess the influence of alexithymia tendency. Participants were required to engage in a dual task: a Rapid Serial Visual Presentation task in central vision and a facial expression recognition task in peripheral vision. Four eccentricity conditions (left 30°, left 15°, right 15°, and right 30°) and three facial expression conditions (happy, angry, and neutral) were established. Alexithymia tendency was evaluated using the Toronto Alexithymia Scale-20. The findings revealed that the correct response rate for facial expression discrimination varied based on eccentricity, with ±15° exhibiting a higher correct response rate than ±30°. The correct response rate also differed depending on the facial expression. Additionally, it was suggested that difficulties in identifying and describing feelings, which are subfactors of alexithymia tendency, contributed to the lower correct response rate.
  • :回想評価と音声聴取評価を用いた検討
    冨岡 晟多, 長村 秀一, 小林 耕太
    セッションID: P2-21
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    自己音声は最もありふれた音声であるにもかかわらず、その録音音声を聴くと否定的な反応が生じることが知られている。その一方で、状況によっては不快感を感じない、さらには魅力的に感じる事例も報告されており、議論が続いている。近年の研究で、感情評価は主観的な感情反応(感情価)と知識としての感情(意味価)を含むことが示唆されており、感情の差異も評価軸のばらつきに起因している可能性がある。本研究では、感情価に焦点を当て被験者に評価させることで、自己音声に対する主観的感情を探索的に調べた。具体的には、発話・聴取前後での自己音声に対する感情を評価させた。その結果、発話・聴取中の自己音声に対してそれぞれ肯定的・否定的な感情が上昇した。また各行動前後で感情評価に変化が見られたものの、発話前後では肯定的な感情が低下し、聴取前後では個人間でばらつきが見られた。自己音声知覚の個人差について、音声以外の自己性に関する評価一般との関係も議論する。
  • :ボイスなしのゲームを用いた検討
    鬼頭 里帆, 伊東 裕司
    セッションID: P2-22
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    人が自分の名前を好み,注意を向ける傾向があるということは明らかになっている。しかし,ある対象から名前を呼ばれることによって,その対象の印象が変化するかどうかについては十分に検討されていない。そこで本研究では、同性あるいは異性から名前を呼ばれることによって生じる、名前を呼んだ者に対する評価の変化を検討した。参加者の性別,刺激人物の性別,名前の呼びかけの有無を独立変数とし,刺激人物に対する評価得点を従属変数とする要因計画を用いた。ゲームの中で実験参加者に名前を呼びかける/呼びかけない条件を設定し,ゲーム前後での印象の変化を検討した。その結果,名前の呼びかけ要因の主効果は見られなかった。しかし,刺激人物が男性の場合,男性参加者は呼ばれた方が,女性参加者は呼ばれない方が,印象が大きく上昇するという交互作用が見られた。本研究の結果から,参加者の性別によって名前の呼びかけの影響は変化することが示唆された。
  • :パス解析を用いた検討
    藤木 晶子, 西原 進吉, 畠山 孝男, 百瀬 容美子
    セッションID: P2-23
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    ある刺激に対して,それほど何も感じず平静でいられる人もいれば,鋭敏な感覚処理を行うことで強いネガティブな感情を抱く人もいる。感覚刺激に対するこうした感受性の個人差は感覚処理感受性(Sensory Processing Sensitivity:以下SPS)と呼ばれ,生得的な特徴を有するとともに,感覚器自体ではなく感覚情報を脳内で処理する過程において生じる個人差であることが指摘されている(e.g., Aron & Aron, 1997)。本研究では,SPSの程度を測定するHSPSにおける低感覚閾・易興奮性・美的感受性に対し,視覚・聴覚・味覚・嗅覚・皮膚感覚・運動感覚・有機感覚の7種類の感覚における鮮明性と感情価がどのような関連性にあるのかを検討した。
  • :バーチャルハンドイリュージョンによる身体同期の操作
    伊藤 友一, 米原 凜
    セッションID: P3-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    我々の日常的な視覚体験には,あまり意識はされないものの,自分の腕などの身体の一部が視野内に存在している。没入型VR空間での体験でも,自分の身体の一部がVR空間中に存在することで,VR空間内で偶発学習したものに関する記憶成績が向上するという知見がある。そのような現象の背景には,実際の身体運動とVR内での視覚体験との同期によって記憶が強化されている可能性が想定される。本研究では先行研究の部分的な追試に加え,VRハンドイリュージョンを利用して身体同期の程度を操作する実験を行った。すなわち,VRハンドイリュージョンを生じさせた後に学習をした同期促進群とVR空間中の視覚体験と身体状態のズレを意識させた後に学習をした同期妨害群の記憶成績を比較した。その結果,同期妨害群に比べ同期促進群において記憶成績が有意に高くなった。この結果は,身体情報の視覚的フィードバックが記憶形成において重要な役割を担っている可能性を示唆している。
  • :空間的文脈と予測誤差
    長井 美友貴, 奥村 晴, 伊藤 友一
    セッションID: P3-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    再固定化とは,再活性化された記憶が不安定になった後再び安定するプロセスを指す。エピソード記憶の再固定化は空間的文脈や予測誤差によって生じるとされる。本研究では,エピソード記憶の再固定化が空間的文脈と予測誤差のどちらによって生じるか検討するため,Hupbach et al. (2007) の手続きを一部改変して実験を行った。1日目と2日目に物体リストの学習,3日目に1日目に学習した物体リストの再生テストを行った。実験1では実験室の違いによる空間的文脈,実験2ではテストの中断による予測誤差の有無を操作した。再生テストで2日目の物体リストが混ざって再生される侵入率を比較した。その結果,空間的文脈および予測誤差の操作による侵入率の違いはみられず,再固定化の生じるリマインダの種類を特定することはできなかった。予測誤差の操作が不十分であった可能性,および再生テスト時の被験者の判断基準が異なっていた可能性が考えられるため,手続きを修正して再検討する必要がある。
  • 奥村 晴, 伊藤 友一
    セッションID: P3-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 フリー
    ヒトは特定の事象を素早くかつ正確に想起するために,それと競合する記憶表象を抑制する。複数の先行研究で,意味記憶想起時に競合する対象に対して抑制が起こることが明らかにされている。ただし,その現象を扱った先行研究は少ない上,行動指標によって現象が再現できていないものも存在する。本研究では,先行研究で用いられてきたパラダイムの不備を修正し,現象が再度確認できるかどうかについて検討した。本実験では,手がかりとなる単語から関連語あるいは非関連語を生成させる単語生成課題を行い,その後に語彙判断課題によって記憶表象の抑制の有無を確認した。その結果,語彙判断課題では意味記憶の表象の抑制を示す証拠を得ることはできなかった。本研究と先行研究との齟齬について,語彙判断課題と単語生成のパフォーマンスの双方を考慮した議論を行う。
  • 鄭 氷瑶 , 小林 正法
    セッションID: P3-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    Vivas et al. (2016)は忘れるよう求めることが抑制対象の忘却だけでなく,価値低下(devaluation)を導くかどうかを調べた。刺激として英単語や顔を用いて項目法による指示忘却パラダイムによって検討した。実験の結果,学習指示を受けた項目と比較して,忘却指示を受けた項目の記憶成績の低下と感情的価値の低下が確認された。本研究は,日本語単語を刺激として日本人を対象として忘却指示が忘却と価値低下が再現できるかどうかを調べた。オンライン実験を行ったところ、学習指示を与えた項目と比較して,忘却指示を与えた項目の方が記憶成績と感情的価値の両方が低かった。以上にように,忘却指示による記憶成績の低下(指示忘却効果)と感情的価値の低下ともに再現できた。
  • –単語ペア内の意味的関連性の影響に着目して–
    西山 慧, 齊藤 智
    p. 69
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    記憶の再生は心理プロセスのひとつであるが,十分には検討されていない。本研究では,認知神経科学的なモデルをベースに,文脈と意味が階層的に機能し再生が達成されるモデルを想定した。このモデルでは,意味処理は文脈処理の前に行われる。つまり,意味処理によって生成できる反応は,文脈処理を必要とする反応よりも速くなる。一方で,意味の学習は遅く,文脈の学習は速い。これらを検討する実験を実施した。具体的には,単語音読,意味的な関連の強い単語ペアを用いた手がかり再生,そして意味的な関連の弱い単語ペアを用いた手がかり再生をそれぞれ反復させ,反応潜時の変化を比較した。その結果,すでに手続き的に学習されている単語音読では反応潜時が最も短く,反復による変化も見られなかった。次に反応潜時が短かったのは,反応における意味の寄与の大きいと想定された,意味的な関連の強い単語ペアを用いた手がかり再生であった。手がかり再生では2種類とも,反復によって潜時が短くなった。これらの結果は,仮説モデルを支持するものである。
  • :自由再生課題と特性的自己効力感尺度(GSES)を用いた検討
    清水 寛之
    p. 70
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    本研究は,メタ記憶と自己認知・状況認知との関係を探る総合的研究の一環として行われた。本発表では実験室場面における自由再生課題の成績予測と自己と状況の認知に関する測定尺度への回答との関係を検討した。大学生160名を対象に個別的に自由再生課題を実施し、最終再生の予測を求めた。さらに、特性的自己効力感尺度(GSES,23項目)への回答も求めた。その結果、自由再生における成績・予測に関する各種の指標(直後再生成績、最終再生成績、最終再生成績の予測)とGSESの1因子の尺度得点との相関を調べたところ、最終再生の成績・予測の指標はいずれもGESEとの間に有意な相関が認められなかった。この結果から、全般的な自己効力感の高低は実験室場面での記憶成績の成績にも予測にも関係しないことが示唆された。
  • :DRMパラダイムにおける自己関連づけ学習が虚記憶を増加させる
    島根 大輔
    セッションID: P3-7
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    自己は記憶処理に重要な役割を果たしている。自己が記憶に与える影響の1つは自己参照効果であり,符号化時に自己参照することで記憶が促進される。他方,自己参照が誤警報の増加につながることも指摘されている。より最近の研究では,Deese-Roediger-McDermott(DRM)パラダイムにおけるリスト学習時の自己参照が偽記憶を増加させることが実証された。著者らは,自己参照によってリスト内の連合が強化され,その結果,学習項目とルアー項目の間に強い連合が生じ,それによって偽記憶の形成が促進されたと結論づけた。しかし,自己参照が誤警報の増加を誘因することを考慮すると,DRMにおける虚記憶の増強が, ルアー項目への特異的な効果かどうかは不明のままであった。そこで本研究は,学習時の自己参照・他者参照条件を被験者間で操作し,虚記憶の生起率を比較した。結果,自己条件での虚記憶増加が認められ,自己参照によるリスト内の連合の増加が示唆された。自己と虚記憶の関係を検討することで,虚記憶の適応的機能を明らかにできるかもしれない。
  • 猪股 健太郎, 山本 晃輔, 荷方 邦夫
    セッションID: P3-8
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    経験価値とは,製品やサービスの物質的・金銭的価値ではなく,その使用や保有といった経験が有する価値であるとされている。これまでに,商品やサービスの経験価値を測定する尺度がいくつか提案されてきているが,いずれの質問項目も研究者間の合議で決定されたものや,複数の先行研究で用いられた項目を統合して作成されており,消費者からボトムアップ的に収集された情報に基づいた十分な検討がなされてきていない。そこで本研究では,まず予備調査において,過去の消費行動のなかでもっとも価値の高かった消費経験に関する自伝的記憶の想起を求めた。続いて本調査では,予備調査の結果から 39項目の経験価値の高さに関する質問項目を策定し,1000名を対象としたオンライン調査を行った。因子分析の結果,経験価値の高さは満足,ギフト,アイデンティティ,審美性,親密性として解釈できる5つの因子で構成されている可能性が示唆された。
  • :記憶の機能・感情価の検討
    関本 朱里, 池田 和浩
    セッションID: P3-9
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    本研究では,機能および感情価が異なる自伝的記憶の想起がその後の課題に与える影響について実験的に検証した。52名の参加者は,金銭に関する①自己や方向づけ機能に関わるポジティブな記憶,②ネガティブな記憶,③社会機能に関わるポジティブな記憶,④ネガティブな記憶,の4つのうちいずれかの条件に振り分けられ,記憶の想起を求められた。質問紙に回答後,先ほど想起した記憶を選択前のプライムとした課題を行った。4名の参加者を除外し分析を行った。利得状況,損失状況別に分析した結果,利得状況では,確率の曖昧さが大きい状況の時,ネガティブな社会機能に関する自伝的記憶を想起した参加者は曖昧さ回避が低くなった。また,ポジティブな自伝的記憶を想起した参加者は,確率の曖昧さの大きさに関わらず,金額の幅が小さい時に曖昧さ回避が低かった。損失状況では,社会機能想起条件の方が自己方向づけ機能想起条件の参加者に比べて有意に曖昧さ回避が低かった。
  • 獅子堂 金吾, 小宮 あすか
    セッションID: P3-10
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 フリー
    「I statement」は、主語の「私」を明確にすることで、相手の行動に関して?分がどのように感じたかを正確に表現するアサーションの一手法である。臨床やマーケティグなど実践の場では広く用いられているものの、その効果を実験的に検討した研究は少ない。そこで本研究ではシナリオ実験を実施し、「I statement」を用いた場合に、会話相手の感情経験がどのように変化するかを検討した。実験では、友人からポジティブな評価、あるいはネガティブな評価を受けるシナリオを呈示し、その状況でどのような感情を経験すると思うかを評定してもらった。この際、評価文として「私は?思う」という「I statement」を用いた文か、そうでない文を呈示した。この結果、評価の内容に関わらず、「I statement」を用いた評価文はそうでない評価文よりも受け手の快・不快経験を増大させた。「I statement」の効果とそのメカニズムについて考察する。
  • 高宗 楓, 西本 一志
    p. 75
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    フレーミング効果とは,ある物事に関する論理的に等価な2つの異なる記述が与えられた際,その記述内容が物事のポジティブな側面を描写しているかネガティブな側面を描写しているかによって,意思決定がポジティブまたはネガティブに変化する現象である.これまでのフレーミング効果に関する研究は,言語で記述された情報を対象とした調査が主流であり,非言語的な情報がフレーミング効果に与える影響に関する研究例はほとんどなく,特にジェスチャを対象とした事例は管見の限り見当たらない.本研究では,量的な情報を表現するジェスチャ(両手を広げる動作・狭める動作など)が意思決定の偏りに与える影響について調査した.結果として,ジェスチャ表現の違いによって意思決定の程度に影響を及ぼすこと,および量的情報を誇張表現するジェスチャが必ずしもフレーミング効果を促進しないことが明らかになった.
  • :情報処理における直感性と合理性の媒介効果の検討
    向居 暁 , 中本 朋花
    セッションID: P3-12
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    これまでの研究では,死後の世界を信じることと幸福感の関連性が指摘されているが(e.g., 大石他, 2007; 寺沢・横山, 2014),両者の関係性に関するメカニズムは十分に説明されていない。このことに関して,向居・中本(2023)は,死後の世界信奉は幸福感を高めるが,これら両者は情報処理スタイルの直感性によって媒介されることを明らかにした。本研究では,この研究に続いて,大学生を対象に,直観性を制御しうる合理性の媒介効果も併せて検討された。その結果,直感性高群においては,合理性の高低にかかわらず,死後世界信奉群の方が非信奉群よりも主観的幸福感が高くなった。また,SEMを用いた分析では,死生観尺度の「死後の世界観」から主観的幸福感に正の有意なパスが確認されたのと同時に,直観性から死後の世界観と主観的幸福感に,そして,合理性から主観的幸福感に正の有意なパスが確認された。
  • 榊原 佑奈, 森 将輝, 藤井 進也
    セッションID: P3-13
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    ノスタルジアは、自伝的な記憶だけでなく、生前の社会や文化に関する知識からも喚起される。先行研究では、déjà vu(既視感)が生じやすい特徴を持つ新奇な情景はノスタルジアを喚起しやすく、これら二つの現象は密接な関係があることが示唆されている。ただし、新奇な音楽の認知において同様の傾向があるかは定かでない。本研究は、新奇な音楽に対するdéjà entendu(既聴感)がノスタルジアに及ぼす影響を検討した。有効回答者170名は、37曲を30秒間聴取し、各楽曲に対する聴取経験とdéjà entenduの有無、ノスタルジアの主観的強度を回答した。楽曲と参加者を変量効果においた線形混合モデルの結果から、déjà entenduが生じた場合は、ノスタルジアの主観的強度が有意に高いことが示された。この結果は、情景認知だけでなく音楽認知においても、既知感がノスタルジアを喚起する可能性を示唆する。
  • :3歳~7歳を対象とした物体命名実験
    今井 裕大, 渡邊 智美, 尾形 麻衣, 村井 翔太, 野口 瑞生, 松本 誠, 加藤 正晴, 小林 耕太
    セッションID: P3-14
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    音そのものがある特定のイメージや意味を喚起する事象のことを音象徴といい, 幼児の言語発達を促進させる可能性が報告されている. しかし従来の研究では音象徴と言語発達の詳細な対応関係は明らかになっておらず言語発達において音象徴がどの程度積極的に利用されているのかは未だ不明である. 幼児の言語発達に寄与する際の音象徴のより詳細な影響を検証するため本研究では言語発達の後期である3-7歳の幼児と成人を対象に2つの図形を提示した後に聴覚刺激として無意味単語を流し, その単語に合う図形を選択させることで物体命名行動を促し年齢間における音象徴感度の発達を検討した. その結果, 年齢を追うごとに音象徴の感度が上昇したが7歳の段階においても完全に成人と同程度の音象徴感度を有していないことが分かった. これは, 音象徴の完成は言語の初期発達より遅れることを示し, 音象徴が言語発達に一方的に寄与するのではなく, 相互作用しながら発達する可能性を示唆する.
  • ―休憩時の行動が単純作業に与える影響―
    林 美都子, 渡辺 莉緒
    セッションID: P3-15
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    今日では授業や勉強の合間にスマホで息抜きする学生の姿をよく見かけるが、その結果、勉強の効率はあがっているのだろうか。本研究では、大学生48名の協力を得て、単純な計算課題に15分間取り組ませ、Youtube鑑賞、仮眠、ストレッチのいずれかの休憩活動を10分行った後に、再度計算課題15分を行わせることで、計算数や正答数、疲労度にどのような変化が生じるか実験を行った。疲労度は産業疲労研究会の自覚症しらべへの回答を、各計算課題の前後に求めることで計測した。その結果、どの休憩グループにおいても計算数(F(1,45)=44.59, p<.01)や正答数(F(1,45)=36.01, p<.01)は休憩後に増加した。休憩後の疲労度の軽減項目数は、ストレッチがもっとも多く、本研究の結果からは、総合的にはストレッチがもっとも良い休憩である可能性が示唆された。
  • 高嶋 魁人, 郭 雯, 池田 鮎美, 山田 祐樹
    セッションID: P3-16
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    2020年以降、オンラインで授業をすることは、主流の授業形態の一つとなった。一方2022年ごろから、多くの大学で徐々に対面授業が再開されてきた。この背景には、「授業は対面が良い」という何らかの共通認識が形成されたと考えられる。しかし一部の授業や会議は、依然としてオンラインで行われている。本研究では、オンラインライブ授業、オンデマンド授業、対面授業それぞれに対して、大学生がどのようなメリット、デメリットを感じているのかを探索的に明らかにすることを目的とした。自由記述に基づくアンケート調査の結果、オンライン授業は時間的手間がかからない点で好まれ、対面授業は集中しやすい点で好まれていた。またオンラインライブ授業において、「質問」はメリット・デメリットの両方で記述が見られ、学生によって認識に違いがあることが示された。
  • :実習前の大学生を対象とした検討
    田爪 宏二
    セッションID: P3-17
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    本研究では,教員養成大学において実習を直前に控えた3年生を対象に,自身の認知的個性を踏まえた教育実習に対する予想の特徴について分析した。認知的個性として実行機能の個人差を取り上げ,学生に実行機能のチェックリストを用いて自身の認知的個性を把握させ,認知的個性を踏まえた教育実習の予想や留意点について考察させるという試みを行った。さらに,質問紙法により授業力(授業を構想し,児童生徒の学習過程を組織する力)を測定した。授業力の予想に対する実行機能の影響について分析した結果,授業力の予想に対しては主に実行機能のうち[切替え]が正の影響を及ぼしていた。また,実行機能の影響には交互作用がみられた。分析結果を踏まえ,教員養成課程において各学生が認知的個性を活かしながら教師としての資質獲得を促し,質の高い教師を養成するための教育的支援のあり方について考察した。
  • 蒔苗 詩歌, 安達 潤 , 柳 民秀
    セッションID: P3-18
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    自閉スペクトラム症(ASD)は、乳幼児期からの特異的な視線パターンが指摘されており、先行研究によると乳児期の視覚的な注意解放困難が幼児期のASD診断と関連することがわかっている。個別の早期療育を行う上では、このような特異的を踏まえた視覚的提示が必要である。そこで本研究では、イラスト提示を想定したビデオをGap/Overlap条件で作成し、ASD児においてどのような視線移動がみられるか事例的に比較検討した。参加者は4-5歳児(診断なし、ASD診断あり)の19名であった。視聴ビデオは、画面中央に動物のイラストが提示され、イラスト消失後(gap条件)あるいは、イラスト提示中(overlap条件)に、左右ランダムに風船のイラストが提示された。結果、両群ともにoverlap条件よりもgap条件で総注視時間が長く、提示する際には別々に見せる方が視線を向けやすいことが示唆された。しかしながら、個別データを見るとASD群では診断なしと比較して、視線データが一定していない結果であった。
  • 山岸 未沙子
    セッションID: P3-19
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    運転モニタリング (DM) を用いた高齢ドライバの運転評価では,しばしば急減速や急加速が不適切な運転行動として取り上げられる。本研究ではこれらの運転行動に関わる要因を検討し,その抑制について考察した。分析には,DAHLIA-DB (名古屋大学COI) の85名 (平均年齢68.5歳,SD=7.8,男性53名,女性31名) のDMデータ,認知機能成績 (MMSE,TMT,AIST認知的加齢特性検査),主観評価 (対処行動アンケート,運転スタイルチェックシート) を用いた。DMデータから急加速件数と急減速件数を加速度レベルごとに集計し,クラスタ分析によって異なる発生水準のクラスタを得た。クラスタの所属を目的変数とした二項回帰分析から,加速クラスタと主観評価,減速クラスタと認知機能成績の関連性が示された。この違いから,高齢ドライバの急加速と急減速の抑制には異なるアプローチの提案が示唆された。
  • 景山 望
    セッションID: P3-20
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    昨今の海難事故で遭難者の捜索に用いられた飽和潜水は、地上(1気圧)の30倍相当の水深300mでの潜水作業にも用いられる。こうした高気圧環境下であっても、刺激間の弁別が容易な場合の選択的注意課題の成績は地上と同等であるとされている。一方で、潜水作業時間は有限であることから、潜水員は作業中タイムプレッシャーに曝露されることとなる。これまでの研究では、課題遂行時のタイムプレッシャーの影響を検討していなかった。よって、本実験では高気圧曝露時のタイムプレッシャーが選択的注意能力に及ぼす影響について、数的ストループ課題によって検討した。本実験では、数的ストループ課題を水深300m飽和潜水中に1回(31気圧)と訓練前後に実施した。本研究において、タイムプレッシャーと高気圧曝露との間に有意な交互作用はなかった。以上から、高気圧曝露時の選択的注意能力は、タイムプレッシャーによって変化しないことが示唆された。
  • 七原 宇紀, 北神 慎司
    セッションID: P3-21
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 フリー
    都市や建築の空間形態は,人の経路選択行動に影響することが知られている.他方,知覚的流暢性もまた,人の意思決定に影響を及ぼしている.経路選択に関する既往研究では,奥行きが異なる二つの道から一方を選択をする際,奥行きの深い道へ選択が偏るという報告と,浅い道へ偏るという報告の両方がある.本研究はこの対立する結果をもたらした要因の一つとして,実験刺激における奥行の捉えやすさが異なっていた点に着目し,流暢,非流暢な刺激の間で選択の偏りがどのように異なるか検討した.結果,参加者の内,戦略をもって課題に取り組んだ群にて,刺激が非流暢な場合に浅い側への偏りが観察された.一方,刺激が流暢な場合には偏りが見られず,戦略を持たなかった群では流暢性の高低によらず偏りが見られなかった.既往研究のいずれとも合致しないこの結果は,本研究にて用いた刺激の生態学的妥当性の観点から再検討されるべきと考えられる.
  • 多田 美香里
    セッションID: P3-22
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    対象の位置や方向の把握については自分自身の現在の状況とも照合して判断されると考えられる(Ambrosini & Costantini, 2017)。また、把持動作を遂行するという目的に応じて、対象の大きさの知覚が変化することも知られている(Bosco, Daniele, & Fattori, 2017)。これらのことから、他者の把持動作であっても、その動作の目的、つまり把持状況の文脈を知っているかいないかによって、対象の知覚が変化し、さらには遂行される把持が成功するかどうかの予測の精度も違ってくると考えられる。そこで本研究では動画で提示された、他者が対象を傾ける動作の理解において、把持の目的の有無が影響するかどうかを調べた。その結果、把持の状況についてあらかじめ情報が与えられた実験参加者のほうが、情報が与えられてない実験参加者よりも、把持動作の傾きについての評価が正確であることが示された。
  • 戸村 友香, 小林 正法, 伊藤 友一
    セッションID: P4-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    自伝的記憶の想起や未来思考の際の視覚的視点は,精神疾患と関連する。例えば,健常群に比べ,うつ病群はポジティブな未来思考を一人称視点で想像しにくいとされる。本研究は,抑うつ傾向でも同様の傾向が見られるかどうかを調べた。実験1では,ポジティブな未来思考時の視覚的視点と抑うつ傾向との関連を調べたところ,両者との間には有意な相関はなかった。さらに,未来思考の感情価による違いと実験1の再現性を検討するために,ネガティブな未来思考を加えた実験2を実施したが,ポジティブ,ネガティブに関わらず,抑うつ傾向と視点の間には有意な相関はなかった。一方で,2つの実験を通して,ポジティブな未来思考でのみ,想像時の鮮明度などの視覚的視点以外の指標と抑うつ傾向の間に関連が見られた。以上のように,抑うつ傾向が鮮明度などのポジティブな未来思考の特異的な処理と関わるものの,視覚的視点とは関連しない可能性が示された。
  • :曖昧語を用いた検討
    根橋 妙恵, 望月 聡
    セッションID: P4-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    解釈バイアスは記憶想起との関連が報告されているが,自伝的記憶の概括化と呼ばれる,過去の自身の記憶を具体的に想起できずに概括化された記憶を報告する現象との関連についてはあまり研究がなされていない。そのため本研究では解釈バイアスと自伝的記憶の概括化の関連を検討した。方法:曖昧な意味を持つ単語を手がかり語として,感情価を指定せず自伝的記憶の想起を行い,自伝的記憶の概括化率・具体化率を算出した。また,想起した記憶の感情価に対する自己評定を求めた。解釈傾向の指標には曖昧語への感情価評定を用い,過去二週間に経験した抑うつ症状を測定した。結果と考察:相関分析の結果,ネガティブ解釈傾向の高さは概括的・具体的記憶の報告数との相関が得られ,解釈傾向による具体的・概括的記憶における明確な関連性は認められなかった。一方で,曖昧語への解釈傾向と記憶の感情価評定,および抑うつ症状との間に有意な相関が得られた。ネガティブ記憶の想起は直後の曖昧語への評価に対してネガティブな感情価を与えるなど,ネガティブな解釈の活性化につながることが示唆された。
  • ーGopie & Macleod (2009) の再現性検討ー
    陳 揚, 北神 慎司
    セッションID: P4-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    情報を誰に伝えたかという記憶は,伝達先記憶と呼ばれている。この記憶は社交において重要な役割を果たしている。Gopie & Macleod (2009) では、伝達先記憶は情報を誰から得たかというソースメモリーより再認成績の低いことが示された。しかし、彼らのパラダイムの伝達先記憶とソースメモリーでは、難易度が同じベースラインのカウンターパートではなく、ソースメモリーの難易度がより高いと考えられる。つまり、Gopie & Macleod (2009) は手続きに問題があるため、再現性の低いことが示唆された。本研究では、Gopie & Macleod (2009) の再現性を検討するために、追試を行った。2つの実験の結果では、Gopie & Macleod (2009) が再現されず、伝達先記憶とソースメモリーの再認成績の間には有意な差が示されなかった。今後の研究では、Gopie & Macleod (2009) の2つの記憶のベースラインを統制して伝達先記憶がソースメモリーより再認成績が低いか検討する必要があると考えられる。
  • 澤田 華生, 大山 潤爾
    セッションID: P4-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    記憶課題では、構音抑制を行うことで記憶成績が低下すると考えられている。本研究では、テキストと音声で視聴覚に同時に異なる単語が呈示される再認課題を行い、統制条件と構音抑制条件において、テキストと音声のそれぞれで呈示された単語の記憶成績の個人差を調べた。また、実験参加者は、日常的な思考スタイルの言語化傾向?視覚化傾向を調べる質問紙VVQに回答した。再認課題の結果、視聴覚のどちらの刺激に対しても、構音抑制による有意な記憶成績の低下がみられた。しかし、視覚刺激と聴覚刺激の記憶成績の低下に相関がみられなかった。また、構音抑制による視覚刺激の記憶成績の低下が聴覚刺激の記憶成績の低下より大きい群とその逆の群では、VVQ得点に有意差がみられた。実験結果から、構音抑制は視聴覚が同時に呈示された際、視覚刺激と聴覚刺激の両方の記憶成績に影響を与えるが、感覚間の影響の差は実験参加者によって異なり、その違いは日常における思考スタイルと関係している可能性が示唆された。
  • 武野 全恵, 西林 達也, 北神 慎司
    セッションID: P4-5
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    場面内に情動刺激が存在するとその刺激を詳細に記憶し,代わりに周辺情報の記憶は曖昧になるという中心-周辺のトレードオフ現象がある (Kensinger et al., 2007)。本現象は,高覚醒状態が誘発させる注意の縮小が原因だと考えられるが,情動刺激の記憶促進は注意配分量では説明できないという報告もある (e.g., Kim et al., 2013)。本研究では,注意縮小の記憶への影響を検討するため,実験1にて参加者内で注意範囲を操作し場面を偶発学習させた。各場面中央には情動刺激あるいは中性刺激が配置された。また,実験2では,注意範囲操作を参加者間で行った時の記憶への影響を検討した。その結果,注意範囲に関わらず,中心情報では常に情動刺激の記憶成績が高かった。周辺情報では,実験1及び注意拡大群では刺激種類による記憶の差はなかったが,注意縮小群で情動刺激の背景の記憶成績が低かった。注意範囲は周辺情報の記憶のみに影響し,中心情報の記憶には影響しないと考えられる。
  • :安価な視線計測装置を用いた計測
    須藤 智
    セッションID: P4-6
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    チョーキングとは,時間制限や情動喚起によって生じる緊張によって認知制御が妨害される現象である(Beilock & Carr, 2001等).実験室内でチョーキングを発生させるための方法として,認知課題中の刺激間隔のリズムを変える方法が提案されている(須藤ら,2020)。チョーキングの発生は,主観評価等で確認することができるが,より客観的な指標が望まれる。そこで本研究では,客観的な指標として瞳孔反応が採用可能かどうか,近年登場している安価な視線計測装置(Gazepoint社製GP3)を用いて検討した。12名の参加者に対してAX-CPT70を課し,cue-probe間のISIがノーマルリズム条件(ISI=5000ms),ランダムリズム条件(ISI=5000msと500msが半々ランダム)の瞳孔反応(60Hz)を計測した。ISI(500ms間)についての瞳孔径の平均サイズを分析したところ,ランダムリズム条件で有意に瞳孔径が増大した。以上の結果からは,ランダムリズム条件の手続きが認知的負荷を高めること,安価な視線計測装置で計測した瞳孔反応がチョーキング発生の指標となる可能性が示唆される。
  • 三浦 大志, 松尾 加代
    セッションID: P4-7
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    目撃者遂行型調査 (SAI) は、目撃情報を効果的に取得できる質問紙である。事件直後に目撃者自身がSAIを通して記憶を想起することが後の目撃供述を促進する可能性が示されているが、SAIが後の人物同定に及ぼす影響は明らかでない。そこで本研究はSAIを行った後の同定の正確性について検討した。164名の実験参加者は架空の事件のビデオを視聴した後、SAI群はSAIを用いてビデオの内容を、統制群は自由記述で授業の内容を想起した。その後、ビデオの中の犯人の同定を行った。分析の結果、SAI群と統制群で人物同定の正答率に違いはなかったが、SAI群の方が、事前の想起が同定に好影響をもたらすと考えていた。また、同定でフォイルを選択した場合の確信度はSAI群の方が高かった。SAIを行った目撃者は、後の人物同定に関するメタ認知が不正確になる可能性があるため、確信度等の指標の評価は慎重に行う必要があると考えられる。
  • 高濱 祥子
    セッションID: P4-8
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    日常生活では、再認の正確さとその確信度には正の相関関係が成立すると考えられやすいが、再認の確信度が正確さを予測しないという現象が報告されているように、両者の関係は一貫していない。本研究では、再認課題の刺激としてコンパニオンアニマル (イヌ、ネコ、キンギョ) のイラストを用い、全身または身体の一部 (頭部または胴体) のイラストを事前学習した後に、全身のイラストに対する再認課題と確信度評定を行った。その結果、イヌ、ネコのイラストのほうがキンギョのイラストよりも再認成績と確信度が高かった。また、イヌとネコのイラストについては、事前学習で用いたイラストが頭部の場合に最も再認成績が高く、胴体の場合は最も再認成績が低かった。イヌとネコのイラストに対する再認の正確さと確信度評定の関係は不規則であり、再認の確信度が正確さを予測しないことが示唆された。
  • 井上 晴菜
    セッションID: P4-9
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    井上(2023)の結果から,話者同定の課題遂行にとって学習エピソードの回想過程がより重要であることが示唆された。この解釈が妥当か否かを検証するために,「学習エピソード」の回想過程の利用可能性を高めると思われる操作を加えることによって,標的人物の音声に対してより正確に「学習時に聴いた標的人物の音声だ」と判断しやすくなるかどうかを検討した。その結果,学習段階に標的人物の音声に似た音声をもつ人物を,自己に関連する身近な人物の中から選び,その人が話しているかのようにイメージするという方向づけを行うことによって,話者同一性評定セッションのテスト段階で,それぞれのテスト刺激を聴いて,知り合いのイメージが流暢に頭に浮かんだときに,その流暢性を「声を聴いたらすぐに人物のイメージが思い浮かんだ。これは先ほど学習段階で聴いた標的人物だからだろう」というように帰属させ,少なくとも一定の割合で「標的人物の音声と同じ人物のものだと思う程度」の評定値を高めるように作用したと考えられた。
  • 望月 正哉, 太田 直斗
    セッションID: P4-10
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 フリー
    身体-対象物相互作用(body-object interaction: BOI)は,単語が参照する対象と身体がどの程度相互作用しているかという度合いを示す。BOIが高いと単語認知が効率的になることが示されている。日本語単語では望月他(2014)は心像性や親密度の高い397語の名詞に関するBOIを収集した。本研究ではそれを拡張し,5,736語の名詞,形容詞,動詞に関するBOIを収集した。1,265名の日本語母語話者からウェブ調査によってBOIの評定を収集したうえで,既存の語彙特性との関連を検討した。その結果,BOIの歪度が正の値となり,全体的に評定値が低い傾向がみられた。また,BOIは心像性や抽象度と中程度の相関がみられた。望月他(2014)でも収集された148語とも中程度の正の相関がみられた。これらの結果から,今回収集したBOIの評定は,一定程度の妥当性をもっていることを示す。
  • :内受容感覚の正確さの視点から
    櫻木 麻衣, 品川 和志, 梅田 聡
    セッションID: P4-11
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    私たちの思考の内容や,思考に対する集中度合いの強さは,いつの間にか変化する。この2つの指標の変動性は,自律神経活動のゆらぎと関連することが知られている。しかし,両者がどのような過程を経て対応づけられるのかは未だ不明である。本研究では,単純注意課題中に,参加者の思考内容と熟考性(思考に対する集中度合いの主観的評価)の時系列データを取得した。隠れマルコフモデルを用いて,2つの指標の系列の背後にある思考状態の遷移系列を推定した。思考状態の遷移パターンに基づき,参加者を3つのクラスターに分類した。その結果,思考状態の変動性が高いクラスターにおいて,心臓内受容感覚の正確さ(心拍検出の正確性)が高いほど,思考状態の遷移確率が高い傾向があることが分かった。このことは,思考の変動に対応する心拍変化があり,それを捉えやすい人ほど,思考状態の遷移が継続的に生じやすい可能性を示唆している。
  • 中村 紘子, 新居 佳子, 高橋 達二
    セッションID: P4-12
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    少ない証拠に基づいて結論を出すJumping to Conclusion (JtC) 傾向が高い者ほど,随伴性学習課題における因果錯覚が生じやすいことが先行研究で示されている。本研究では,JtC傾向と因果錯覚の関係について,次の3つの仮説を検討した: (1)JtC傾向が高い者は, 学習前においても事象間に因果関係があるという事前予測を行いやすく,(2) JtC傾向が高いほど事前予測や因果判断に対する確信度が高い。(3) JtC傾向,因果関係の事前予測, 判断の確信度は因果錯覚の強さに影響する。その結果,JtC傾向は因果予測の強さや, 判断の確信度とは相関しなかった。一方,JtC傾向が高く,事前に因果関係を強く予測している者ほど,因果錯覚が大きかった。JtC傾向が高い者は,証拠をもとに事前信念を更新することが困難であり,信念更新の困難さが因果錯覚を生じさせる可能性が示唆された。
  • 粟津 俊二
    セッションID: P4-13
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    文章読解時に頭の中で聞こえる声(Inner Reading Voices:IRV)は、多くの者が体験する現象であるが、その機序も機能も未解明な多い。また、IRVを認識する程度には、個人差も刺激文差も大きいが、この差異が文章の読解プロセスや、理解と関係があるのかどうかも不明である。IRVの解明を進めるには、IRV認識の程度を測定する手法を確立する必要がある。そこで本研究では、IRVの認識程度を測定する尺度を開発することを目的として、日本語文刺激18種のIRVの体験しやすさを比較した。刺激文ごとのIRV認識者率を比較したところ、文によって認識者率には10%程度から70%超までばらつきがあった。会話文では認識者が多く、説明文では少ないなど、従来の知見と合致する結果が確認できた。IRV認識者が50%程度となる4文を、IRVを認識する程度の個人差を測定する質問項目として用い、よりIRV認識者が少ないと予想される抽象度の高い刺激文におけるIRV認識の程度との関連を検討したところ、正の相関がみられた。
  • :認知課題および感性評価からの検討
    内田 美輝, 作田 由衣子
    セッションID: P4-14
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/29
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    本研究では、ユニバーサルデザインフォントが単語の理解度と記憶および印象に影響するかを検討した。学生24名が実験に参加した。フォントは游明朝、游ゴシック、HG丸ゴシックM-PRO、UDデジタル教科書体N-Rの4種類を使用した。まず、提示された単語に対し「食べられるか」および「触れられるか」の意味判断を行った。次に、意味判断課題で提示した単語について再認テストを行った。最後に4種類のフォントについて印象評価を行った。意味判断ではフォントによって反応時間に差がある傾向があったが、再認課題では、正答率および反応時間に差は見られなかった。印象評定値に対する因子分析の結果、個性因子と好感度因子が抽出された。因子得点について分散分析を行ったところ、他のフォントに比べ、UDデジタル教科書体の好感度が高かった。ユニバーサルデザインフォントは印象はよいが理解度や記憶には影響しないという結果となった。
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