エチオピアでは森林修復が急務となっており,その中でもティグライ州は半乾燥地域において自然資源を増大させるため土地囲い込み法を実施している.しかしながら,エチオピア北部の優占種であるVachellia etbaica(Schweinf.)Kyal & Boatwr.のような矮林はその厳しい環境に耐えるため成長は遅く,その下では資源増大に至るまでに長い年月を要する.これまでこの低木林の現存量や時間的生産性の変化については限られた情報しか見られなかった.本調査では,Vachellia etbaica林分に着目し以下について行った結果を報告する.まず,1)伐倒木20本の実測値からその種・地域に限定した相対成長式を導き,2)2014年および2017年の毎木調査結果から各々の時点におけるバイオマスを推計し,3)林分の生産性を把握するため,3年4ヶ月間のバイオマス差から平均年成長量(MAI)を算出した.このため,20年以上囲い込みが行われた土地に調査区画(20 m×100 m)を設定し,すべてのV. etbaica個体について地際幹直径,地上30 cm高幹直径,樹高,樹冠長を実測した.3つの相対成長モデルを地上部(AGB),地下部(BGB),および総バイオマスについて20本の伐倒木データを基に試作したモデルを調整済み決定係数,二乗平均平方根誤差,赤石情報基準に照らしたところ,地際幹断面積と樹高との組み合わせによる変数の算入が最もよく適合した.毎木調査の結果,2014年と2017年の間に,林分密度が1175から1145本/haへ2.6%減少,樹冠面積は3469.5から3780.8 m2/haへ9.0%拡大し,単位面積あたりバイオマスは,16.70から18.42 Mg/haに微増した.これらから,AGB,BGB,および総バイオマスのMAIは,それぞれ372.11,147.62,516.04 kg/ha・yearと推計された.これらの値は他の先行例と比較して非常に低く,燃料部分に相当する地上部のMAIと過去の地方政府データを適用すると,薪消費量毎年194人分(または30世帯近く)しか供給できない水準であった.囲い込み法は最終的には植生回復に貢献すると思われるが,このような低成長樹木が保全対象となった場合には,制度の結果,地域住民は資源調達に苦慮し生活に影響が生じる可能性がある.また,木質資源の利用が制限されているため,薪の代わりに家畜糞が燃料源として使われるようになってきている.農村部の人々は,自然資源を保全しながら,同時に短期間に増加できる資源を必要としている.しかし,半乾燥地域では植林と森林管理法によって木質バイオマスの成長速度を上げるには限界がある.このことから,自然資源保全とは別の枠組みにより,農村部への積極的な近代的代替燃料の導入が求められるのではないか.