乾燥地に位置する灌漑農地の一部では,過剰灌漑や排水不良を要因とした二次的塩類集積が進行しており,作物生産性の低下が深刻な問題となっている.そのような地域では節水が必要であるが,資金不足や機材の調達が困難であるため,効率的な灌漑法への移行が容易ではなく,依然として浸透損失の大きい畝間灌漑などが用いられている.
畝間灌漑において農家が採用しやすい手法で節水することを目的に,Surge Flow法(以下,「SF法」)を簡素化した簡易Surge Flow法(以下,「簡易SF法」)を考案した.通常のSF法は,給水管やバルブを用いて4回程度に分けて間断的に給水することで節水効果を得るものであるが,簡易SF法は,通常の畝間灌漑(慣行法)を2回に分けて行うだけのものである.本研究では,簡易SF法を二次的塩類集積が顕著なウズベキスタン共和国(以下,「ウ国」)の灌漑農地に適用し,その節水効果を検証した.
畝間湛水試験においては,給水1日経過後の土壌は,乾燥土壌に比べ湛水開始後60分間の積算浸透水量が9.5 mm減少し,また,ベーシックインテークレートも50%以下に低下した.
慣行法と簡易SF法による畝間長100 m(勾配:1/800)での通水試験では,簡易SF法による第2回給水時の水足前進速度が増加したことによって,畝間末端に到達するまでの合計時間が簡易SF法で6,026秒(約100分)となり,慣行法の6,768秒(約113分)から742秒(約13分)短縮された.この結果,畝間への供給水量が約11%削減され,計画用水量を超える水量(損失水量)が約15%削減された.
この結果から,簡易SF法は水管理に課題を抱える開発途上地域において有効な手法になるものと思われる.しかしながら,簡易SF法の節水効果は,ウ国フェルガナ州において,通常のSF法で得られた21%よりも小さかった.また,畝間の不陸による灌漑水の滞留は,簡易SF法の節水効果に影響を及ぼす恐れがある.このため,簡易SF法の現地適用に向けた今後の課題として,最適な畝間長,不陸による影響の抑制対策を検討する必要がある.
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