本研究はリーダーシップPM論におけるM行動に期待支持M行動, 現状保守M行動の2つの異なる性質を持っM行動が存在する可能性を実験的に検討したものである。
被験者は3段階の階層序列をもつ実験状況の2階層目に位置し, 上位階層の上位リーダーのリーダーシップのもとで下位リーダーとして, 最下位の階層の3人の部下を監督し, 部下の迷路脱出を促がす任務にあたった。但し, 実際には上位リーダー, 3人の部下いずれも“サクラ”であった。
実験: 被験者は72名。上位リーダーの被験者に対する発言内容によって期待支持M条件, 現状保守M条件, Mなし条件の3条件を設定し, さらにこの各M条件ごとに上位リーダーが部下に対して指示を行なう権限を被験者に委譲する頻度によって, 権限委譲が多い条件, 少ない条件を設定した。権限委譲が多い条件は期待支持M条件の効果を促進すると予想された。Mの条件3×権限委譲の条件2の各6条件それぞれに12名を割り当てた。期待支持M条件は上位リーダーが被験者に対して支持や信頼を表明する発言を行なう条件であり, 現状保守M条件は上位リーダーが被験者の現状を肯定し, 現状維持を認める発言を行なう条件であった。Mなし条件は上位リーダーがM的な発言を一切せず, P発言のみを行なう条件であった。Mなし条件に含まれている上位リーダーのP発言は他の2つのM条件にも同じく含まれているものであった。主な結果は以下の通りである。
1) 期待支持M条件の下では現状保守M条件に較べて上位リーダーに対する被験者のP認知が強まる。
2) 期待支持M条件の下では現状保守M条件の下でよりも被験者の“モラール”が高まる。
3) 権限委譲の多い条件の下では, 権限委譲の少ない条件の下でより, 上位リーダーのリーダーシップに対して不快とする感情認知が被験者に生じる。
4) 権限委譲行動は期待支持Mの効果を促進しない。
追加実験: 被験者15名。本実験の期待支持M条件のリーダー発言から, P発言を除き, 期待支持M発言単独の効果を吟味した。得られた主な結果は以下の通りである。
1) 期待支持M行動はリーダーのP行動があって初めて被験者のP認知を強めるMである。
2) 期待支持M条件の“モラール”はリーダーのP発言がない状況においても高まる。
これらの結果については, 現状保守M行動が部下の課題達成への適度の緊張や不安を失わせるのに対して, 期待支持M行動は部下にリーダーの期待・支持に応えなくてはならないとする内的圧迫を生じさせ, それがリーダーに対する部下のP認知を強め, “モラール”をも高めると考察された。
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