生長休止期の22-23年生トドマツの葉を1970年I月19日と1971年3月5日の2回採取し,その中にある生長抑制物質を調べた。
1. 1970年1月19日のトドマツの葉においては,酸性区分と中性区分にサリチル酸と推定される物質が存在する。また,不確実ではあるが,酸性区分に,
p-オキシ安息香酸,バニリン酸,中性区分に
p-オキシ安息香酸と推定される物質が存在する。
2. アベナ伸長試験において,合成のサリチル酸は,濃度1~500 ppmで抑制作用を示すが,合成の
p-オキシ安息香酸とバニリン酸は,約1~100 ppmで促進作用を示す。生長抑制物質の種類によっては,低濃度で生長促進作用を有することは注目される。
3. 1971年3月5日の葉においては,酸性区分,中性区分に多量の生長抑制物質が認められるが,前実験で見られたフェノール化合物はなかった。生長休止期の生長抑制物質は,質的にも変化していることが予想される。本実験の酸性区分の生長抑制物質について幾つかの実験を行ない,以下のことがわかった。
1) Rf O.50~1.00の生長抑制物質 (inhibitor-β) は,アベナ伸長試験において,濃度を増すにつれて直線的に抑制作用が強くなる。しかし, Rf O.10~50の生長抑制物質は,低濃度では生長促進作用を示し,高濃度では生長抑制作用を示す。
2) inhibitor-βは,トドマツ苗木の秋伸びを抑制する作用がある。また, Rf0.10~1.00の生長抑制物質も,エゾマツ種子の発芽を抑制する作用を有している。
3) inhibitor-βと合成IAAの相互作用をアベナ伸長試験で調べた。 IAAがinhibitor-βの強い抑制作用を弱めることはあまりできない。この事実から,植物の休眠を破ったり生長を開始することは, 1AAの増加より生長抑制物質の減少が関係するように考えられる。
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