日本林学会誌
Online ISSN : 2185-8195
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85 巻, 1 号
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  • 細田 浩司
    2003 年 85 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2003/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    林床で越冬するマツバノタマバエ(=タマバエ)幼虫の重要な捕食者と考えられている真正クモ類などの捕食者の働きを評価するため,タマバエ被害を確認した茨城県内の被害程度の異なるマツ林で土壌動物相を調査した。調査地は海岸砂地に生育するクロマツ林と内陸の壌土に生育する和華松林である。クロマツ林は,落葉除去などの林分管理がなく落葉層の厚い林分(二放置林)と,これに隣接して林分管理が継続して行われ,落葉層の薄い林分(=管理林)を選んだ。和華松林は,林分管理されていない。土壌中のタマバエ幼虫の個体数は放置林で最も多く,土壌中の動物群数と個体数は和華松林で最も多かった。放置林と和華松林での各動物群の個体数は,ともにF層で最も多いが,和華松林での真正クモ類の個体数は放置林の4.5倍多かったこと,タマバエ幼虫数は真正クモ類の個体数が増加する早春に減少したことから,真正クモ類による捕食がタマバエ個体数を減少させる可能性が示唆された。管理林では土壌の乾燥のため土壌動物の生息には適さず,乾燥自体がタマバエの個体数増加を抑制する可能性が示唆された。
  • 坂田 景祐, 木平 勇吉
    2003 年 85 巻 1 号 p. 7-11
    発行日: 2003/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    本論は,森林が貯蔵する炭素を排出権として具体的に計算する方法(アカウンティング)として,林業経営者は森林の成長に伴い排出権を毎年獲得し,その排出権を投資し,伐採時には伐採される森林に相当する排出権を返還することとした。そして,返還後に残る投資による利息分の排出権を政府が買い取るシステムを提案し,その方法を想定した林業経営収支モデルを作成した。投資の運用利率は,1年複利の年率1%,2%,3%を想定し,各ケースにおいての政府が買い取る排出権の金額,林業経営収支,林業利回りを事例地に当てはめて算出した。この結果とこれまでに報告されている排出権取引を想定した林業経営モデルと比較して,本林業経営モデルの特徴を考察した。伐期齢70年の場合,林業利回りは,排出権買い取りシステムを想定しないと-0.06%,運用利率1%では-0.04%,2%では0.20%,3%では0.45%であった。林業経営収支は,排出権買い取りシステムを想定しないと-997,217円/ha,運用利率1%では-452,528円/ha,2%では376,896円/ha, 3%では1,421,375円/haであった。
  • 三浦 香代子, 阿部 剛俊, 中島 嘉彦, 浦野 忠久
    2003 年 85 巻 1 号 p. 12-17
    発行日: 2003/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    アカマツ立木に設置したマツノマダラカミキリ穿入丸太にサビマダラオオホソカタムシ成虫を放飼し,寄生率と成虫の移動分散能力を調べた。サビマダラオオホソカタムシ放飼丸太においては,材内のマツノマダラカミキリの約70%が寄生を受けて死亡し,マツノマダラカミキリの羽化脱出は認められなかった。一方,無放飼丸太における寄生率は17.5%で,放飼丸太から移動して産卵した成虫が少なかったものと推察された。放飼成虫の半数を蛍光塗料で着色し,夜間に紫外線ランプで照らすことにより存在位置を確認した。放飼丸太周囲の立木上での観察数が5月下旬以降増加したことから,成虫の活動は気温の上昇とともに活発化するものと推定された。無放飼丸太における寄生状況から,放飼点からの距離と寄生の有無には関係がないものと考えられた。また,放飼後38日経過しても20%以上の個体が放飼丸太および放飼丸太の支持立木樹幹上で観察されたため,本種の産卵期における分散行動は活発ではなく,同一の場所にとどまって産卵を行う傾向が強いものと推察された。
  • 蔵治 光一郎, 田中 延亮
    2003 年 85 巻 1 号 p. 18-28
    発行日: 2003/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    これまで世界の熱帯林で行われてきた樹冠遮断量の観測事例を調査した。30の国と地域で73地点,106の観測事例を集め, その中から比較的精度のよい事例を抽出し,樹冠遮断率や樹冠遮断量の気候タイプ,植生タイプ,標高との関係,および蒸発散量と樹冠遮断量の関係について考察した。樹冠遮断率は,気候区分,植生区分,標高にかかわらず,おおむね10~20%の範囲に入っていた。一方,観測精度に十分な注意が払われているにもかかわらず,この範囲から大きく外れ,非常に大きい樹冠遮断率が観測される事例や,非常に小さい樹冠遮断率が観測される事例が存在することがわかった。
  • 伊藤 太一
    2003 年 85 巻 1 号 p. 33-46
    発行日: 2003/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    最初に森林レクリエーションの関連概念を整理してから,森林(自然地域)と人間,管理の三つの要因からなるフレームワークで,森林レクリエーションを位置づけた。次に,日米における研究の歴史的展開過程を比較し,今後の日本における研究の方向性を探った。その結果,アメリカの影響を選択的に受けつつ,日本では依然として森林環境主体の研究が多く,管理改善に結びつく利用者の満足感に関する研究は緒に就いたばかりであることが明らかになった。今後のレクリエーションとその研究の質的な向上には,1)アメリカを含む先行研究をふまえた成果の体系的な蓄積,2)フレームワークにもとつく研究の視座の明確化,3)管理データの蓄積と研究成果のフィードバックによる管理者と研究者のコミュニケーション促進,4)森林の文化資源の役割に関する研究,5)自宅からのアクセスを含む環境保全型フレームワークの構築が必要となっていること示された。
  • 田中 伸彦
    2003 年 85 巻 1 号 p. 47-54
    発行日: 2003/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    レジャー白書((財)自由時間デザイン協会発行)で公表されている余暇活動の統計を用いて,森林管理上留意すべきレクリエーションの動向を解析した。白書掲載の余暇活動94項目は,森林や林産物への関わりなどの観点から8タイプに類型化が可能であり,そのうち森林との関係性が乏しい項目や時系列データが十分そろっていない項目を除く7タイプ,46項目の余暇活動に関するトレンドの分析を行った。46項目の参加率の年変動を用いて時系列分析を行った結果,上昇型,上昇→平坦型,平坦波動型,山型,下降型,下降→平坦型の6種類のトレンドに分類することが可能であった。そして,(1)上記の7タイプと六つのトレンド類型との対応関係および(2)7タイプと活動への平均参加率との間には多様な対応関係が見られること,そして(3)六つのトレンド類型と平均参加率との間には一定の関係が一部示唆されるものの,やはり全般的には非常に多様な対応関係があることなどが明らかになった。
  • 八巻 一成, 広田 純一, 小野 理, 庄子 康, 土屋 俊幸, 山口 和男
    2003 年 85 巻 1 号 p. 55-62
    発行日: 2003/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    山岳自然公園地域の自然らしさを維持し,秩序ある利用を図るためには,地域ごとにレクリエーション空間としてのあり方を明確にし,それに沿って施設整備,空間管理を行うことが求められる。本研究では,利用者のレクリエーション体験を考慮した計画概念であるROS(Recreation OP Portunity Spectrum)の,わが国の自然公園利用計画への適用可能性を検討するために,大雪山国立公園を対象としてROSによる地域区分を試みた。まず利用者に対するアンケート調査を行い,施設整備水準やアクセスなどに対する嗜好性が異なる四つのグループに分類した。つぎにこの分類結果をもとに,人為性が高く施設整備が進んでいる,利用者が多いなどの特徴のある空間から,自然性が高く施設整備水準が低い,利用者が少ないなどの特徴のある空間まで,空間状況に応じて地域を四つに区分することによって対象地域の現況把握を行った。以上のROSによる現況把握をもとに利用計画の検討を行えば,利用者の視点を加味した客観的かっ合理的な自然公園計画の策定が可能となると考えられた。
  • 奥 敬一, 深町 加津枝
    2003 年 85 巻 1 号 p. 63-69
    発行日: 2003/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    林内での散策を対象として,良好と感じられる景観体験がどのような時間的分布で生起するのかを探ることを目的とした写真投影法による調査を行った。京都大学芦生演習林内の由良川本流に沿った2本のトレイルを対象地とし,一般来訪者に対してレンズ付きフィルムを配布して,散策の往路で良いと感じた風景を撮影し,その撮影時刻を記録するよう指示した。そして撮影の時間的分布状況を解析することで,良好な景観体験の時間的生起パターンを把握するものとした。結果からは,被験者の撮影行動の時間的分布パターンは,約半数がランダム分布であり,半数弱が集中分布であることが明らかとなった。撮影行動は集中と弛緩を繰り返しながら,全体としてはほぼ一定のペース,ないしはペースを減衰しながら行われていた。これらの結果を受けて考察では,レクリエーション利用者の景観評価の仕組みとして,周囲の環境との相互作用によって変動する景観意識レベルと実際の評価を行う段階とからなる概念モデルを提示した。そしてレクリエーション林の景観計画への応用として,継時的に生起する景観体験の観点から計画•管理を検討することの重要性を指摘した。
  • POMSおよびSD法を用いた森林環境評価
    大石 康彦, 金濱 聖子, 比屋根 哲, 田口 春孝
    2003 年 85 巻 1 号 p. 70-77
    発行日: 2003/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    森林環境のイメージと気分を比較検討することを目的に, 5種類の森林と対照区(森林外)で実験を行った。各実験区においては被験者(n=44)に10分間の自由行動を与えた後にPOMSおよびSD法により評価させ,最後に5種類の森林を順位付けさせた。POMSの結果,活気を除く5尺度(緊張,抑うつ,怒り,疲労,混乱)に森林外と各実験区の間に有意差が認められたが,5実験区相互の間では一部を除き有意差が認められなかった。SD法の結果,価値因子,空間因子が認められた。価値因子においては,2区が最高,1区が最低の評価を得た。空間因子においては,1区が最も開放的な評価を得,4区が最も閉鎖的な評価を得た。好みの順位は2区一5区一4区一3区剤1区であった。POMS尺度,SD法因子,好みの順位の結果からSpiamanの順位相関係数を求めた。POMSの活気尺度と好みの順位の間にプラスの相関が,疲労尺度と好みの順位の間にマイナスの相関が認められた。
  • これまでの研究と今後の課題
    庄子 康
    2003 年 85 巻 1 号 p. 78-87
    発行日: 2003/02/16
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    本論では森林レクリエーションの経済的な評価を行うための五つの評価手法,ゾーントラベルコスト法•個人トラベルコスト法•離散選択型トラベルコスト法•仮想評価法•選択型実験を紹介する。さらにこれらの評価手法を有効に利用するために,特に日本においてにどのような課題が残されているのかを検討する。
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