本論は,森林が貯蔵する炭素を排出権として具体的に計算する方法(アカウンティング)として,林業経営者は森林の成長に伴い排出権を毎年獲得し,その排出権を投資し,伐採時には伐採される森林に相当する排出権を返還することとした。そして,返還後に残る投資による利息分の排出権を政府が買い取るシステムを提案し,その方法を想定した林業経営収支モデルを作成した。投資の運用利率は,1年複利の年率1%,2%,3%を想定し,各ケースにおいての政府が買い取る排出権の金額,林業経営収支,林業利回りを事例地に当てはめて算出した。この結果とこれまでに報告されている排出権取引を想定した林業経営モデルと比較して,本林業経営モデルの特徴を考察した。伐期齢70年の場合,林業利回りは,排出権買い取りシステムを想定しないと-0.06%,運用利率1%では-0.04%,2%では0.20%,3%では0.45%であった。林業経営収支は,排出権買い取りシステムを想定しないと-997,217円/ha,運用利率1%では-452,528円/ha,2%では376,896円/ha, 3%では1,421,375円/haであった。
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