原発性側索硬化症患者に対する歯科治療を経験した. 症例は73歳女性で, 約25年前より, 歩行障害, 構音障害, 嚥下障害を認め, 原発性側索硬化症との診断を受けていた. 今回, 左下顎小臼歯部の腫脹と疼痛, 上顎橋義歯の動揺を主訴に当院を受診した. 歯科治療に対する恐怖心が強くまた異常絞扼反射があったため, ミダゾラムによる静脈内鎮静法下にて上顎橋義歯の除去と2歯抜歯を行った. 術中, 異常絞扼反射はみられず, 問題なく処置を終了した. その後橋義歯の形成, 冠合着など, 合計7回の治療を行ったが, いずれも問題なく終了した.
治療がすすむにつれ, 鎮静法を用いなくても歯科治療は可能となった. それゆえ本症例でみられた異常絞扼反射は, 原発性側索硬化症によるものではなく, 歯科治療に対する恐怖心が原因と考えられた.
歯科治療の際には, 嚥下障害を合併するため, ミダゾラムの投与量が過量にならないよう留意し, 誤嚥事故を起こさないよう, 配慮する必要があった.
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