我々は, 1975年から1995年にかけての21年間に, 当大阪大学歯学部附属病院において, 全身的な問題を有する患者の歯科治療中の全身管理を行ってきた。そのうち18人はNYHAIII度であると評価され, これは全体の1.2%を占めていた。本文献では, 歯科治療中に適切な全身管理が必要であった3つの症例を呈示する。
症例1
本患者の全身的な問題点は, 僧帽弁閉鎖不全症, 陳旧性心筋梗塞, 狭心症, 閉塞性動脈硬化症, 脳梗塞, 慢性腎不全であった。右側下顎中切歯および側切歯の歯周炎による疼痛のため, 同歯の抜歯が予定された。感染性心内膜炎予防のため, 治療の1時間前にアンピシリン1.5gの投与を行った。狭心症発作もしくは全身的合併症にそなえて, 治療直前に静脈路を確保し, 硝酸イソソルビドスプレーの舌下投与を行った。治療中は血圧と心電図のモニターを行い, 5L/Mの酸素投与を行った。抜歯は特に合併症が起こることなく終了した。
症例2
本患者の基礎疾患は, 一過性の心室頻拍を伴った拡張型心筋症であった。少なくとも月に1度は意識喪失発作を起こしていた。局所麻酔下での上顎中切歯, 犬歯のレジン前装冠の形成が予定された。血圧と心電図のモニターを行い, 精神的なストレスが循環動態の悪化を引き起こす可能性があったため, 笑気による精神鎮静法を行った。それと同時に静脈路の確保を行った。歯科治療中は, 単源性の心室性期外収縮が0~4回/分の頻度でみられた以外に, 全身的合併症はみられなかった。
症例3
本患者は高血圧症, 狭心症, 陳旧性心筋梗塞, 腹部大動脈瘤, 脳梗塞, 慢性腎不全を患っていた。鞄を持ち上げるだけでも胸痛発作を起こしていた。歯周炎の診断のもと, 左側下顎第一大臼歯, 第三大臼歯の抜歯術が予定された。血圧測定後, 心筋虚血性発作予防のため, 硝酸イソソルビドスプレーの舌下投与を行った。歯科治療中, 全身的な合併症はおこらなかった。
重度の心疾患患者で全身的な合併症を防ぐためには, 適切な全身管理を行い歯科治療を上手に行うことが必要である。
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