本研究の目的は, 骨髄移植または, 末梢血幹細胞移植前の患者に対する歯科的管理について検討することである. 1994年3月から2000年3月に, 九州大学歯学部附属病院特殊歯科総合治療部を受診した, 白血病, または悪性リンパ腫63症例について調査した. 調査内容は, 当科初診から移植までの日数, 初診時の血液データ, 歯科的問題点と治療内容についてであった. 患者は男性34症例, 女性29症例, 平均年齢は39.0歳 (13~73歳) であった. 63症例中27症例が, 移植前31日以上で当科を初診していた. 白血球数は, 63症例中41症例が5,000/μl未満で免疫低下の状態, 13症例が, 血小板数50,000/μl未満の止血困難な状態であった. 63症例中55症例において, なんらかの歯科的問題点を認めた. 26症例89歯に齲蝕症第2度が認められ, そのうち43歯は充填処置, 2歯の第3大臼歯は抜歯, 残りの44歯は経過観察となった. 歯髄炎と診断された7症例13歯では, 12歯が局所麻酔下で抜髄, 第3大臼歯1歯が抜歯となった. 21症例47歯の根尖性歯周炎では, 13歯が感染根管治療, 21歯が抜歯, 13歯が処置をせず経過観察となった. 12症例24歯の辺縁性歯周炎では, 抜歯, スケーリングや歯面清掃および洗浄などの歯周治療, 経過観察がそれぞれ8歯ずつであった. 齲蝕症第4度・歯根破折歯は13症例23歯に認められ, 21歯が抜歯で, 2歯は経過観察となった. 智歯周囲炎は12症例20歯で, 19歯が抜歯された. 行った歯科治療や, 処置をせず経過観察したことが, BMTやPBSCTを受けた患者の治療結果に何らかの影響を与えたという報告は, 内科主治医から受けなかった. 患者らの年齢が比較的若いことから, 保存治療や歯周治療を的確に行う事で抜歯数を減少させ, また齲蝕や歯周炎の発症, 進行を抑制する目的でも, 移植予定患者をより早期に歯科受診させ, きめ細かい口腔管理を行っていく必要があると思われた. 今後, 内科との連携をさらに強化し, 移植前, 移植期間中, 移植後において, より良い口腔内の状態を維持していけるような体制を作っていく必要があると考えている.
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