有病者歯科医療
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15 巻, 2 号
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  • 抜歯前後におけるPT-INRの検討
    井上 育子, 梅本 丈二, 穐山 靖子, 喜久田 利弘
    2006 年 15 巻 2 号 p. 67-72
    発行日: 2006/08/31
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    ワルファリンカリウムによる抗凝固療法中の患者において, 抜歯前の服薬調整は血栓形成のリスクを高めるといわれている. そこで, 服薬調整を行った患者の抜歯前後のPT-INR (prothrombin time international normalized ratio) の変化を後ろ向きに観察することで, 血栓形成のリスクの高まる期間や服薬調整の必要性の有無について検討した.
    対象は1996年1月1日より2004年12月31日までの9年間に当科で抜歯を行ったワルファリンカリウム服用中の症例83例 (継続: 25例, 減量: 11例, 減量から休薬: 4例, 休薬: 35例, ヘパリン変更: 8例) である.
    その結果, 服薬継続群以外の服薬調整を行った4群は, 平均7.5日間血栓形成のリスクが高まることが示唆された. また, 継続群において, 抜歯後止血困難な症例はなかったことより, 普通抜歯の場合PT-INRが3.0以下であれば, 維持量継続下での抜歯は可能と考えられた.
  • 山本 竜, 澤 裕一郎, 川野 大, 滝本 明, 眞野 晃寿, 宮城島 俊雄
    2006 年 15 巻 2 号 p. 73-78
    発行日: 2006/08/31
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    有病者への歯科治療は, 全身的偶発症を減少させるために歯科口腔外科医や歯科麻酔科医によって行われることが多い. もし一般開業歯科医院にて有病者への歯科治療が必要となった場合は, 連携システムを用いて病院歯科へ紹介されることになる. 連携システムのひとつである総合病院のオープンシステムは, 治療の質を向上させるために導入された. われわれは, 開業診療所と総合病院間のオープンシステムを利用した全身管理下での開業医による歯科治療を行った有病者歯科治療の2例について報告した.
    症例1: 54歳, 男性で歯科治療時の局所麻酔によるショックの既往を有した患者で, 歯痛などのため開業歯科医院を受診した. 歯科治療として局所麻酔下での歯髄炎処置とカリエス治療が必要であった. そのため, オープンシステムを利用した歯科麻酔科医との連携治療を選択した. 全身管理下にてショックを生じることなく, 手術室で抜髄と抜歯を行うことができた.
    症例2: 43歳, 男性で心房細動と一過性脳虚血発作の既往を有して, 上下顎歯の動揺を訴えた. 抜歯時の刺激による血栓塞栓症などの全身的偶発症について考慮した. そのため, 静脈内鎮静法や急速血栓溶解療法の併用を考慮しオープンシステムによる総合病院との連携治療を選択した. 歯科麻酔科医による静脈内鎮静法や監視の下で問題を生じることなく開業医による抜歯が行われた.
    短時間の歯科治療のためにオープンシステムを使用することは, 歯科麻酔科医や手術室のスケジュールの過密さやコストなどにより難しかった. また, オープンシステムを使用するかどうかの判断基準も明確ではなかった. しかし, オープンシステムを利用したことで全身的偶発症を生じることなく歯科治療を行うことができた.
  • 北川 栄二, 佐藤 健彦, 阿部 貴洋
    2006 年 15 巻 2 号 p. 79-90
    発行日: 2006/08/31
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    静脈内鎮静法には多くの有用性がある一方, その周術期の管理においては, 副作用や偶発症の発症も考慮に入れておく必要がある. そこで, 当科で管理を行った静脈内鎮静法症例を対象に, 副作用や偶発症の発症をみた症例について検討を行ったので報告する.
    1997年3月より2004年5月までに当科において静脈内鎮静法で管理した症例は1,938例であった. そのうち, ミダゾラムを用いた症例が804例 (以下M群), プロポフォールを用いた症例が1,134例 (以下P群) であった. これらのうち麻酔記録, 診療記録をもとに周術期に何らかの副作用や偶発症を認めた症例を研究対象とし, 両群間での副作用や偶発症の内容, 発症率について比較検討した.
    各群での副作用や偶発症の症例数は以下の通りであった. 30%以上の血圧上昇はM群22例, P群18例. 30%以上の血圧下降はM群19例, P群115例. 30%以上の脈拍数上昇はM群26例, P群75例. 30%以上の脈拍数下降はM群5例, P群16例. 不整脈はM群8例, P群2例. 呼吸抑制はM群23例, P群49例. 93%以下のSpO2低下はM群30例, P群32例. 嘔気・嘔吐はM群12例, P群4例. 気分不快はM群2例, P群1例. アレルギー様の反応はM群4例, P群2例. 迷走神経反射または疼痛性ショックはM群2例, P群3例. シバリング・振戦はM群1例, P群2例. 過換気症状はM群1例, P群1例. むせはM群0, P群9例. 血管痛はM群0, P群217例. 術後狭心症はM群0, P群1例などであった.
    P群では, M群に比較して比較的深い鎮静が得られ, 嘔気や嘔吐の頻度が減少する一方, 血圧低下, 脈拍数上昇, 血管痛, 呼吸抑制やむせの発現頻度が多く, これらに対する配慮が必要と思われた.
  • 礒兼 真由美, 住田 知樹, 浜川 裕之
    2006 年 15 巻 2 号 p. 91-95
    発行日: 2006/08/31
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    ネフローゼ症候群は糸球体の透過性亢進に伴うタンパク尿, 低タンパク血漿, 浮腫を主症状とする腎疾患である. 原発性糸球体疾患による一次性ネフローゼ症候群と続発性糸球体疾患による二次性ネフローゼ症候群に分類され, そのうち病理組織学的に光学顕微鏡レベルでは有意な変化を認めない一次性ネフローゼ症候群を微小変化型ネフローゼ症候群という. 治療には副腎皮質ホルモンが第一選択薬として用いられ予後は良好であるが, ストレスの負荷により症状の再燃がしばしば誘発される疾患でもある. 今回われわれは, 全身麻酔下に外科的矯正手術を施行した後, 症状の再燃を認めた微少変化型ネフローゼ症候群患者を経験したので, その概要を報告し, 周術期の対応に関し考察する.
  • 慢性腎不全患者への応用例
    住田 知樹, 浜川 裕之
    2006 年 15 巻 2 号 p. 97-101
    発行日: 2006/08/31
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    今回われわれは, 脳内出血後遺症および透析治療中の慢性腎不全患者に発症した習慣性顎関節脱臼に対して全身麻酔下に下顎頭前方運動抑制術を施行し, 良好な結果を得たのでその概要を報告する. 患者は61歳の女性で, 左側顎関節の習慣性脱臼を訴え当科を紹介され受診した. 以前より, 時折脱臼は認めていたが最近は頻発し, 脳内出血後遺症による右半身の麻痺もあり, 自己整復は不可能であった. 既往にはさらに週3回の血液透析を必要とする慢性腎不全があった. チンキャップを用いた保存的な治療は奏功しなかったため, 入院, 全身麻酔下に外科的治療を計画した. 手術前日に透析を行い, 全身麻酔下に下顎頭前方にチタンプレートを留置するいわゆる“Buckley-Terry法”を施行した. 術後はICUにて呼吸循環の管理を厳密に行い, 手術翌日より血液透析を再開した. 特に, 大きな合併症を認めることなく回復し退院した. まだ術後8か月であるが, 現在のところ再脱臼は認めず, 良好に経過している.
  • 石井 達也, 関 慎太郎, 阿部 恵一, 石垣 佳希, 中村 仁也
    2006 年 15 巻 2 号 p. 103-107
    発行日: 2006/08/31
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    今回, 著者らはEisenmenger症候群患者の静脈麻酔下での歯科治療を経験したので報告する.
    患者は35歳の男性で, 〓67部の疼痛を主訴に両親と共に当科を受診した.
    患者の既往にDown症候群, 精神発達遅滞, Eisenmenger症候群があり通常下での歯科治療は協力が得られないと判断し, 全身麻酔法・笑気吸入鎮静法・静脈麻酔法のいずれかの方法で行うこととなり, 心臓への負担が少なく麻酔深度の調節性が良いプロポフォールによる静脈麻酔法を選択し〓67の抜歯術を施行した. プロポフォールの使用による循環抑制が生じ右―左シャントが起こる可能性に対しては, ドーパミンの持続注入で対処した.
    局所麻酔薬は血管収縮薬の添加の問題から, 1/8万エピネフリン添加2%塩酸リドカインを2%塩酸リドカインで2倍に希釈した, 1/16万エピネフリン含有2%塩酸リドカイン1.8mlおよび0.03IUフェリプレシン含有3%塩酸プロピトカイン1.8mlを使用することで, 術前の循環動態を大きく変化させることなく処置を終了させることができた.
    今回の処置では麻酔中の低酸素血症の増悪などの合併症はなく麻酔管理を行えたが, 周術期には慎重な管理と, 術中発作に対して即座に対応できるよう万全の準備が必要である.
  • ワーファリン®からヘパリン®へ変更して管理した3例について
    監物 真, 桑澤 隆補, 扇内 洋介, 片岡 利之, 佐々木 亮, 扇内 秀樹
    2006 年 15 巻 2 号 p. 109-115
    発行日: 2006/08/31
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    今回われわれは, 抗凝固薬を内服している患者の上顎洞根治術, 下顎骨腐骨除去術および下顎骨骨折観血的整復固定術の周術期抗凝固療法を, PT, APHTTを指標にワーファリンカリウム (ワーファリン) からヘパリンナトリウム (ヘパリン®) に変更して管理した3例について報告する. 当科では以下のようなプロトコールでワーファリン®からヘパリン®への変更を行っている. 手術3~4日前にワーファリン®の内服を中止し, ヘパリン®2,000~3,000単位静注後, 10,000~15,000単位/day持続静注し, APTTが対象の1.5~2.5倍になるように調整する. 手術当日, 執刀3~4時間前に中止し手術を行い, 術後, 止血確認ができたらヘパリン®の投与を開始し, PT-INRが1.5~2.5倍になったら中止し, ワーファリン®は経口摂取可能になったら開始する. ヘパリン®は患者により感受性が異なり, 投与による異常出血や血小板減少症が知られているが, そのような合併症や血栓症の合併も認めず良好に経過し, 周術期にワーファリン®からヘパリン®に変更し施術を行えば安全であると考えられた.
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