未治療の心房細動を有する患者に対するスケーリング後に脳塞栓症状を発症した症例を経験した. 症例は61歳の男性で4〓部歯肉腫張を主訴に近歯科医院を受診. 同部の歯肉膿瘍と診断され消炎処置後, 血圧および脈拍のモニター下にて, 全顎的なスケーリングを予定された. 問診で患者が「不整脈があったが, 特に治療の必要もなく, 問題ないと言われている. 」とコメントしたため, 医科対診の必要はないと判断された. スケーリング施行中, 局所麻酔時に血圧上昇はあったが, スケーリング中の血圧は安定していた. スケーリング後約1時間経過した時点で, 右側咽頭部のしびれ感, 右側上下肢の運動不全を生じたため藤枝市立総合病院歯科口腔外科を受診した. 初診時の臨床所見より, 発作性心房細動による脳塞栓症と疑診し, 脳神経外科ならびに循環器科対診のうえ, 早急に抗血栓療法を行った. その結果, 1週間で症状は消退し, 6か月経過した現在, 循環器科の通院管理下に, 後遺症を残すことなくADLは保たれている.
本症例におけるスケーリングと脳塞栓症との因果関係は明らかではないが, いわゆる有病者の歯科治療を行う際には, 医科担当医との連携を図り, 患者の基礎疾患の病態について把握し, 不測の事態が発生した場合にも早急に対処できる体制を確立しておくことが重要であると考えられた.
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