我々はこれまでに, 重度痴呆性老人を対象に義歯の装着状況と日常生活動作 (Activities of Daily Living: ADL) との関係について調査し, 重度痴呆性老人の義歯適応の目安を求めた。すなわち, まずADL5項目 (排泄, 食事, 入浴, 衣服の着脱, 洗面) について, 自立度を3度 (自立, 一部介助, 全介肋) に分類した。そして, 各自立度を3, 2, 1点として15点満点で各人のスコアー合計値を算出した。その結果, 10点以上は義歯の装着が可能で, 7点以下は装着が困難であるとの結論を得た。今回, この目安が中等度から非痴呆にまで適応できるか否かをみるため, 痴呆の程度が比較的軽度の患者を収容している施設を対象に, 義歯の装着状況とADLの関係について調査し比較検討した。
対象は, 特別養護老人ホーム利用者113名 (平均年齢83.9歳) で, 痴呆の程度の内訳は, 重度30名, 中等度13名, 軽度18名, 痴呆でない者52名であった。方法は, ADLを5項目 (歩行, 排泄, 食事, 入浴, 衣服の着脱) について, 上記と同様にした。ADL各項目と義歯装着可否との関連性については, 赤池情報量規準 (Akaike's Information Criterion: AIC) による分析, 検討を行った。
その結果,
1. 痴呆の程度別にみた義歯装着率は, 痴呆の程度が軽くなるにつれて高くなる傾向を示した。
2. ADLの「衣服の着脱」と「食事」の項目では, 自立度が高い程, 義歯装着率も高いことが認められた。しかし「排泄」「入浴」「歩行」では義歯の有無との関連性がなかった。
3. 非痴呆群および軽度群では, ADLスコアー上, 義歯装着者と非装着者の間に差がなかった。しかし, 中等度群および重度群では「重度痴呆者に対する義歯適応の目安」がほぼあてはまった。
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