日本小児腎臓病学会雑誌
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30 巻, 2 号
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総説
  • 横尾 隆
    2017 年 30 巻 2 号 p. 107-111
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/15
    ジャーナル フリー

    もともと1 つの受精卵であった我々も,約10 か月経って産まれる頃には腎臓を含む全ての臓器を持っている。つまり非常に複雑な構造を持つ腎臓も受精卵から作られるわけであり,そのメカニズムを解明できればiPS 細胞やES 細胞から腎臓を再生できるはずである。これだけ複雑な構造を組み立てるわけなので,非常に複雑なプログラムが空間的時間的に間違うことなく絡み合って働くと考えられていたが,最近になり実は幹細胞にすでに能動的にプログラムを進める能力(自己組織化能)を持っていることが明らかとなった。つまりドミノ倒しのように,次から次へとプログラムが進行するため想定よりかなり少ない刺激により複雑な臓器が組み上がっていくのである。腎臓はこの自己組織化能が非常に強いことがわかってきており,幹細胞から腎臓を作り上げることは想像していたよりは楽にできるのかもしれない。本総説では,多能性幹細胞を用いた腎臓再生の取り組みの現状を概説する。

  • 杉本 圭相
    2017 年 30 巻 2 号 p. 112-118
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/15
    ジャーナル フリー

    ネフロン癆(nephronophthisis: NPH)は,腎髄質に囊胞形成を認める進行性の囊胞性腎疾患の代表であり,小児期の末期腎不全の約5%を占める。組織学的には,進行性の硬化,硝子化糸球体を伴う尿細管間質性腎炎像を呈する。遺伝形式は主として常染色体劣性遺伝を示す。NPH の初期症状は,多飲,多尿,尿最大濃縮能の低下,二次性の遺尿や成長障害であるが,病勢がかなり進行した末期腎不全の状態で発見されることも少なくない。低比重尿や低分子蛋白尿は特徴的な検査所見である。また,NPH は眼や顔貌・骨格異常といった腎外症状を合併するため,診断の手がかりとなる。NPH 発症に関与する責任遺伝子はNPHP であるが,その同定率は約30%にすぎない。近年,全エクソーム解析の進歩により原因遺伝子が増加している。本邦ではNPH の診断基準が作成され,今後,NPH 未確定診断例の確定診断への指針となると思われる。

  • 稲垣 徹史
    2017 年 30 巻 2 号 p. 119-125
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/15
    ジャーナル フリー

    薬剤性腎障害は薬剤の投与により新たに発症した腎障害,あるいは既存の腎障害の悪化を認める場合と定義される。腎は血流量が多いこと,薬物の濃縮が行われること,尿細管で分泌が行われその過程で尿細管細胞内の薬物濃度が上昇することなどにより,薬剤性障害が起こりやすい臓器である。薬剤性腎障害の診断は一般的な血液,尿検査,画像検査などと共に薬剤反応性リンパ球刺激試験(drug induced lymphocyte stimulation test: DLST),尿中好酸球も含めて診断するが,薬剤性障害の診断基準に必ずしも当てはまらず,確定診断は困難である。予防や治療に特異的なものはなく,尿の濃縮を防ぐための輸液負荷,薬剤の減量などしかない。

    腎障害を起こす薬剤には様々なものがあるが,小児科で遭遇することが多い抗菌剤,抗けいれん薬,抗腫瘍薬,降圧薬について症例を挙げながら解説する。また,当科で経験した薬物性腎障害を疑った症例の診断過程を提示する。薬剤性腎障害が疑われた患者においては,特に病歴の聴取が重要である。

原著
  • 宇都宮 靖, 梶 俊策, 林原 博, 長石 純一, 岡田 晋一
    2017 年 30 巻 2 号 p. 126-134
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/15
    [早期公開] 公開日: 2017/09/04
    ジャーナル フリー

    2011 年の米国小児科学会ガイドラインの乳幼児初発尿路感染症(UTI) 児に対する排尿時膀胱尿道撮影(VCUG)の適応は高度VUR を見逃す危険性が指摘されている。今回,多施設による前向き観察研究を行い,患者背景因子を含めた急性期因子の中から乳幼児初発UTI児における高度VUR 合併リスク因子を明らかにした。単変量解析の結果,腎膀胱エコー(RBUS)異常,血清CRP 値,血清プロカルシトニン(PCT)値の3 因子が3 度以上のVUR(VUR≥3)と関連する因子であった(各p<0.01)。また,多変量解析の結果ではPCT 値 ≥0.37 ng/mlが単独でVUR≥3 と関連する因子であった(オッズ比29.3,95%CI;3.7–236.0,p<0.01)。以上より,PCT 値 ≥0.37 ng/ml の乳幼児初発UTI 患者は高度VUR を合併しているリスクが高いため,VCUG を施行することが望ましいと考えられた。

  • 田村 博, 倉岡 将平, 宮下 雄輔, 永野 幸治, 河野 智康, 川瀬 千晶, 古瀬 昭夫, 仲里 仁史
    2017 年 30 巻 2 号 p. 135-140
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/15
    [早期公開] 公開日: 2017/09/22
    ジャーナル フリー

    小児の慢性腎不全患者は,腹膜透析(peritoneal dialysis: PD)を選択することが多く,家族によるPD の清潔操作が求められる。そのため,電気や水,清潔空間の確保が必須である。今回,熊本県内の小児科管理中のPD 患者7 名について,平成28 年熊本地震の影響を調査した。地震後の状況は,電源・水確保困難6 名(入院2 名,避難所2 名,県外避難1 名,自宅1 名),施設入所中1 名であった。避難所2 名のうち1 名は車中で,1 名は保健室で連続携行式腹膜透析(continuous ambulatory peritoneal dialysis: CAPD)を施行した。後日,腹膜炎,出口部感染が各1名発生し入院した。全体として,1)透析液や備品等は常時2 週間分の在庫を処方しており困らなかった。2)患者(家族)に日頃から緊急時対応を説明しており患者への早い連絡と対応ができた。今後の課題として,1)PD 方法に拘らず自宅でいつでもCAPD が行えるよう準備すること,2)平時から地域病院との連携を図ること,3)災害時,透析環境確保が大事であり,できるだけ入院管理を勧めることが挙げられた。

  • 岡田 晋一, 河場 康郎, 坂口 真弓, 横山 浩己, 山田 祐子, 北本 晃一, 神﨑 晋
    2017 年 30 巻 2 号 p. 141-147
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/15
    [早期公開] 公開日: 2017/10/26
    ジャーナル フリー

    鳥取県米子市の学校検尿30 年のまとめを報告した。学校検尿の最終精密検査対象者数,総合判定内訳と,学校検尿で発見され腎生検を施行された例について最終診断名,予後を検討した。また同時期に学校検尿以外で発見され腎生検を施行された例についても比較検討した。昭和53 年度~平成28 年度で結果の得られた30 年に米子市内の小・中学生,のべ418,802 人が学校検尿を受検し2,567 人(0.61%)が三次精密検査対象者であった。最終総合判定数は昭和62 年度の学校検尿判定委員会の設置前後で受検者10,000 人あたり84.2 例から4.50 例へと減少し,特に「異常なし」判定が減少した。糸球体腎炎(疑い含む)は受検者10,000 人あたり3.1 例から0.76 例へと減少した。調査期間内の腎生検施行例の中で学校検尿での腎疾患発見例は54 例(IgA 腎症28 例が最多)で,学校検尿以外での発見例は39 例(紫斑病性腎炎9 例が最多)であった。米子市における学校検尿判定委員会は学校検尿の精度向上に寄与したと考えられた。

症例報告
  • 森 夕起子, 玉村 宗一, 林 泰平, 田中 奈々絵, 渡辺 康宏, 谷口 義弘
    2017 年 30 巻 2 号 p. 148-152
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/15
    [早期公開] 公開日: 2017/06/16
    ジャーナル フリー

    症例は3 歳6 か月で発症したステロイド依存性頻回再発型ネフローゼ症候群の男児。プレドニゾロン(PSL),シクロスポリン(CsA),アザチオプリン(AZP),カルシウム拮抗薬,スタチン,H2 受容体拮抗薬で治療中の15歳8 か月時に,夜間頻尿と口渇を訴えた。多尿と尿濃縮障害,血漿アルギニンバゾプレシン(AVP)高値より腎性尿崩症と診断した。CsA 減量により多尿は速やかに消失した。

    CsA による尿濃縮障害は慢性腎毒性によるもの以外に,急性腎不全に至らなくても血中濃度依存性に生じ得ると考えられる。CsA のアクアポリン2(AQP2)発現抑制による自由水のホメオスターシスへの影響を検討することが重要である。

  • 徳永 愛, 山田 哲史, 千葉 浩介, 武政 洋一, 梅田 千里, 三輪 沙織, 掛川 大輔, 伊藤 亮, 平野 大志, 齋藤 義弘, 井田 ...
    2017 年 30 巻 2 号 p. 153-158
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/15
    [早期公開] 公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー

    ネフローゼ症候群 (nephrotic syndrome: NS) において,低アルブミン (albumin: Alb) 血症は血栓塞栓症合併のリスク因子である。症例は13 歳男児。学校検尿で蛋白尿を指摘され,血清Alb 値2.7 g/dl,尿蛋白/クレアチニン比 (urinary protein-to-creatinine ratio: UP/Cr) 2.4 g/gCr と高度蛋白尿を認め入院した。入院第5 病日に血清Alb 値が2.5 g/dl に低下し,特発性NS の診断にてプレドニゾロン (PSL) 60 mg/日を開始し,入院12 病日に寛解に至った。入院時よりFDP 9.0 μg/ml と高値であったが,寛解後も凝固異常が遷延した。先天性血栓性素因や抗リン脂質抗体症候群は否定的であったが,入院32 病日にFDP 13.2 μg/ml まで上昇し,血小板が13 万/μl まで低下したため,胸部造影CT 検査を施行し,両側肺動脈塞栓症が判明した。抗凝固療法を開始し,最終的に後遺症を残さず軽快した。小児NS において,低Alb 血症が軽度でも凝固線溶系異常が遷延する場合には,血栓症を鑑別に挙げ,積極的に画像検索を行うべきである。

  • 小野 敦史, 鈴木 奈緒子, 木下 英俊, 村井 弘通, 前田 亮, 菅野 修人, 大原 信一郎, 陶山 和秀, 川崎 幸彦, 細矢 光亮
    2017 年 30 巻 2 号 p. 159-163
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/15
    ジャーナル フリー

    前立腺囊胞性疾患は,外表奇形の合併がない場合,幼少期に発見されることは稀な疾患である。今回我々は,尿路感染症を契機に画像検査で偶発的に発見された前立腺小室囊胞の1 例を経験した。症例は1 歳男児。発熱と排尿時の啼泣,異常な尿臭を主訴に当科を受診した。膿尿の他,腹部の造影CT 検査と造影MRI 検査で膀胱と直腸の間に長径約40 mm の囊胞性病変を認めた。抗菌薬による治療で尿路感染症は改善し,その後の膀胱尿道鏡検査で前立腺小室囊胞と診断された。抗菌薬の予防投与で経時的に囊胞は縮小し,画像検査で確認できなくなったため,外科的切除は行っていない。現在,予防内服中止から1 年以上経過したが,再発は認めていない。小児の尿路感染症では,しばしば尿路異常を合併する例があるため,発症時には腎尿路系の精査を行うことも多い。自験例のように,前立腺小室囊胞が尿路感染症の合併症の1 つとして関与することを念頭に置く必要がある。

  • 三村 卓矢, 馬瀬 新太郎, 清水 正樹, 藤木 俊寛, 黒田 梨絵, 荒木 来太, 伊川 泰広, 前馬 秀昭, 西村 良成, 谷内江 昭宏
    2017 年 30 巻 2 号 p. 164-169
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/15
    ジャーナル フリー

    BK ウイルス(BKV)は,免疫抑制状態の宿主に,出血性膀胱炎,尿管炎,尿管狭窄,間質性腎炎による腎機能障害を引き起こす。BKV 感染症は造血幹細胞移植後においても認められ,出血性膀胱炎を呈することが特徴である。今回我々は,臍帯血移植後に膀胱炎症状を呈さず腎機能障害で発症したBKV 腎症の1 例を経験した。症例は12 歳女児。急性リンパ性白血病を発症後化学療法で寛解に至らず,臍帯血移植を施行した。移植後13 日目に尿沈渣でデコイ細胞が検出され,その後徐々に尿中 β2 ミクログロブリン値とともに血清Cr 値が上昇した。尿中,血中のBKV コピー数の増加を認め,腎生検によりBKV 腎症と確定診断した。タクロリムスの減量中止後も腎機能障害が改善せず,大量ガンマグロブリン療法を追加したところ改善した。膀胱炎症状なく間質性腎炎を呈した報告は非常にまれであるが,原因不明の腎機能障害の症例の中には,移植治療関連の腎障害以外に,BKV の直接的な尿細管障害が関与している可能性もあり,注意が必要である。

  • 林 泰平, 有賀 譲, 五十嵐 愛子, 奥野 貴士, 玉村 宗一, 森 夕起子, 大嶋 勇成
    2017 年 30 巻 2 号 p. 170-175
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/15
    ジャーナル フリー

    新生児期の虚血性腎障害としては,しばしば急性尿細管壊死(ATN)が問題となるが,今回,腎乳頭壊死(RPN) の症例を経験した。症例は前置血管の破綻による胎児出血のため,重症新生児仮死で出生した。出生時,重度の貧血とアシドーシスを認め,血圧は測定不能で循環血液量減少性ショックの状態であった。出生時より無尿が続き,日齢2 より肉眼的血尿を認め,壊死物質や凝血塊による膀胱留置カテーテルの閉塞を繰り返し,一過性の両側水腎症を認めた。日齢14 に,超音波検査・MRI で両側腎髄質に多発する出血性囊胞性病変を認めた。その後囊胞は縮小,消退した。本症例では特徴的な画像所見からRPN が生じた症例と考えられた。新生児の虚血による急性腎障害(AKI)の病態を考えるうえでも貴重であり,文献的考察とともに報告する。

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