日本小児腎臓病学会雑誌
Online ISSN : 1881-3933
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ISSN-L : 0915-2245
23 巻, 2 号
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原著
  • 菊池 絵梨子, 下田 益弘
    2010 年23 巻2 号 p. 85-91
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
     超音波断層法 (US) は,腎形態を評価する上で静脈性腎盂造影 (IP) に替わるファーストラインの検査となった。腎疾患には低形成腎を始めとして腎サイズの異常を呈する疾患が少なからず認められる。腎長径には年齢ごとの正常値が存在するが,静脈性腎盂造影 (IP) が汎用された時代には簡便な方法として同時に撮影される椎体の厚さとの比が用いられていた。今回われわれは,195名の腎尿路奇形を有さない児に対しUSを施行し,腎長径と身体的パラメータの関係を明らかとするとともに,USで同時に撮影したL4~5の棘突起間距離を用いた腎長径の評価法について検討した。結果,腎長径は身長と最も高い相関を示した。また,腎長径はおおむねL4~5棘突起間距離の4~6倍となることが示された。L4~5棘突起間距離はUSで容易に測定でき,変換式や身長別正常値表も必要としないことから,腎サイズを簡易的にスクリーニングする上で有用な評価法となる可能性がある。
  • 後藤 芳充, 田中 一樹, 畔柳 佳幸, 松隈 英治, 山田 拓司
    2010 年23 巻2 号 p. 92-95
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
     腎不全医療を行っているわれわれの最終目標は,患児を一般の社会人として自立させることにある。腎代替療法の一つである腎移植医療の進歩はその目標を容易にした。われわれは1987年より腎移植を行っており,19歳以上で当院外来でフォローを行っている患者は24例いる。そのうち,仕事を持たずに自宅で生活している患者は,うつ病で精神科医に受診している1例だけであった。学生を除いた就職年齢の患者は17例であり,失業率は5.8%となり,同年齢の完全失業率が6.4~9.4%であることから比べ,遜色のない就業率であった。何らかの資格を持っている症例5例は,全例その資格に関する職業に就いていた。4名は結婚しており,男性の2名は父親となっている。腎移植は確立した医療であるとともに,社会生活についても有用である。
  • 唐澤 環, 池住 洋平, 鈴木 俊明, 長谷川 博也, 内山 聖
    2010 年23 巻2 号 p. 96-101
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
     運動後急性腎不全 (ALPE) は腎性低尿酸血症での合併が知られており,その病態として活性酸素による腎血管攣縮や尿細管の尿酸結晶による閉塞などが提唱されている。しかし,低尿酸血症を来さないALPE症例もあり,発症機序は未だ不明な点が多い。今回われわれは,低尿酸血症を伴わないALPE症例において,酸化ストレスと抗酸化作用に着目して病態の解明を試みた。
     症例は13歳10か月の男児で,運動後の頭痛,腹痛等で発症し,クレアチニン5.9mg/dlと腎機能低下を認めたが,低尿酸血症は認めなかった。運動負荷試験を行い,正常コントロールと比較検討した。酸化還元力分析においてコントロールで負荷後の還元力が上昇したのに対して症例では低下し,酸化度/還元度比がコントロールでは低下,症例では上昇した。ALPEの病態として,低尿酸血症の有無に関わらず,酸化ストレスと抗酸化力のアンバランスが関与している可能性が示唆された。
  • 酒井 菜那, 大塚 泰史, 岡 政史, 市丸 智浩, 田代 克弥, 佐藤 忠司, 濱崎 雄平, 中嶋 洋
    2010 年23 巻2 号 p. 102-106
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
     Yersinia pseudotuberculosis (Y. pstb) 感染症は,従来より確定診断が困難とされてきた。今回われわれは,LAMP法 (Loop-Mediated Isothermal Amplification) を用いて便よりY. pstbを検出し,後の血清抗体価と合わせて診断に至った症例を経験した。
     症例は10歳女児,発熱・腹痛を主訴に5病日に入院した。細菌性腸炎,腎前性腎不全があり,輸液・抗生剤による治療で改善した。16病日より川崎病様症状を呈したため,入院時の便検体で培養は陰性であったが,LAMP法を施行しY. pstb陽性を確認した。ペア血清でY. pstb 2a型が陽性で確定診断とした。Y. pstb感染症の診断は,便の低温培養や研究施設での抗体価測定など煩雑な側面があり,診断に至らない症例も多い。便検体によるLAMP法はY. pstb感染症の早期診断の有用な補助検査と考えられた。
  • 日比 喜子, 上村 治, 永井 琢人, 山川 聡, 山崎 靖人, 山本 雅紀, 中野 優, 笠原 克明, 谷風 三郎, 吉野 薫, 渡辺 仁 ...
    2010 年23 巻2 号 p. 107-112
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
     一次性膀胱尿管逆流症 (VUR: vesicoureteral reflux) と診断された359例,715尿管の自然治癒率について,Grade,年齢別に後方視的に検討した。尿管毎にVURのGrade分類を行い,手術症例を除外し,残り322尿管につき年齢毎の自然治癒率を算出した。結果は,一般に自然治癒を期待する4~5歳まではGradeが低いほど自然治癒率が高く,それぞれの5歳時の自然治癒率は,Grade I~III: 72%,GradeIV: 58%,Grade V: 40%であった。また,VURが片側か両側かの自然治癒率の差については,Grade I,IIにおいて4~5歳までの検討で片側が両側に比べ自然治癒率が高い傾向を示した。
  • 梶保 祐子, 上田 博章, 水谷 誠, 谷口 貴実子, 古山 政幸, 石塚 喜世伸, 藤井 寛, 近本 裕子, 秋岡 祐子, 岡 政史, 野 ...
    2010 年23 巻2 号 p. 113-118
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
     血尿を特徴とする菲薄基底膜腎症 (thin basement membrane nephropathy: TBMN) は,従来は腎不全に至る率の低い予後良好な疾患と考えられてきた。しかし,TBMNの約4割は,常染色体劣性アルポート症候群 (autosomal recessive Alport syndrome: ARAS) の原因遺伝子であるCOL4A3/COL4A4のヘテロ接合体変異を有し,これら症例の一部は腎不全に進展することが明らかにされつつある。今回われわれは,術前のドナー腎生検でTBMNと診断してARAS症例への生体腎移植を実施したところ,術後にドナーのCOL4A3/COL4A4のヘテロ接合体変異が確認された2例を経験した。2例とも術前にドナーの腎機能が良好なことを確認し,術後も腎機能は安定している。ARASの生体腎移植では,保因者がドナーとなる可能性が高い。そのため,尿所見や腎機能,さらに可能な限り遺伝子異常の検索を行うなど,個々の症例で術前の十分なドナー評価と術後の慎重なフォローアップの必要性が示された。
  • 古山 政幸, 相馬 泉, 水谷 誠, 谷口 貴実子, 上田 博章, 石塚 喜世伸, 梶保 祐子, 藤井 寛, 久野 正貴, 近本 裕子, 秋 ...
    2010 年23 巻2 号 p. 119-122
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
     カテーテルの出口部が下方を向く挿入・固定法だった1999年から2004年のA群 (6症例) と,カテーテルの出口部を耳介後部から垂直に上方に向けて挿入・固定した2005年から2009年のB群 (3症例) の2群に分け,当院で経験した15歳以下の症例に対する長期留置型バスキュラーアクセス (Vascular Access: VA) についてカテーテルトラブルの発生率・その内容・カテーテルの留置期間を中心に検討した。A群では1症例あたり平均37.7回,B群では21.3回の体外循環血液浄化療法 (Extracorporeal blood purification: EBP) が施行されていた。EBP施行期間の平均は,A群では87.5日間で,B群では61.0日間であった。A群では全例でEBPの中断を余儀なくされたのに対して,B群でのEBP中断症例は1例もなかった。B群では中断や入れ替えを必要とせずにEBPが可能であったことから,カテーテルの出口部を上方に向けて直線的に挿入・固定することで屈曲・閉塞を防ぎ,十分な血液流量を確保できたことがEBPの安全かつ確実な継続に繋がったと考えられた。
  • —単一施設における小児10症例の検討—
    水谷 誠, 近本 裕子, 上田 博章, 谷口 貴実子, 梶保 祐子, 古山 政幸, 石塚 喜世伸, 末廣 真美子, 藤井 寛, 久野 正貴, ...
    2010 年23 巻2 号 p. 123-127
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
     常染色体劣性多発性嚢胞腎 (Autosomal recessive polycystic kidney disease; ARPKD) における腎および肝病変の表現型と進行度は多様である。当院のARPKD 10例について,腎障害と肝合併症の臨床像を検討したので報告する。
     対象例は検討時1.7~23.0歳 (中央値9.9歳) で,全例が1歳までに診断された。生下時に腹部膨隆,呼吸障害,低ナトリウム血症をそれぞれ,80.0%,50.0%,55.6%に認めた。検討できた8例の肝線維症および肝内胆管拡張症は,それぞれ100%,75.0%であったが,胆道感染症の合併はなかった。6例で0~21歳 (中央値7.6歳) 時に腎代替療法を要し,うち5例は腎移植を施行した。腎移植全例で移植時に片腎は摘出し,2例で汎血球減少改善目的に移植前の脾臓摘出を要した。ARPKDの治療では,腎機能障害の進行度,および肝合併症の病態に応じた治療計画を立てる必要性が示された。
  • —長期腎機能予後規定因子の検討—
    平野 大志, 藤永 周一郎, 遠藤 周, 西崎 直人, 金井 宏明, 大友 義之, 小林 堅一郎, 多田 実, 臼井 信男, 井田 博幸
    2010 年23 巻2 号 p. 128-132
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
    【目的】 後部尿道弁 (PUV) の長期腎機能予後規定因子を明らかにすること。
    【対象・方法】 過去22年間に当院にてPUVと診断された46例 (中央値年齢8か月,平均観察期間6.9年間) を後方視的に検討した。予後不良群と予後良好群の2群に分け,予後規定因子の解析を行った。
    【結果】 46例のうち5例が予後不良群に,残りの41例が予後良好群に分類された。
     単変量解析の結果,初診時腎機能障害 (p<0.001),両側低/異形成腎の合併 (p<0.001),nadir sCr>1.0mg/dl (p<0.001) が長期腎機能予後と相関することが判明した。
    【結論】 初診時腎機能障害,両側低/異形成腎の合併,nadir sCr>1.0mg/dlがPUV患児における長期腎機能予後規定因子であった。
     危険因子を有する児に対して早期の介入を行うことにより,腎後遺症を防ぐことができる可能性がある。
総説
  • 池住 洋平, 鈴木 俊明, 唐澤 環, 長谷川 博也, 内山 聖
    2010 年23 巻2 号 p. 134-140
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
     マクロファージの腎糸球体または尿細管間質への浸潤は,すべての進行性腎疾患にみられる普遍的な現象である。私たちのこれまでの検討から,特にマクロファージの「活性化」は腎障害の発症・進展機序の中で重要な過程であることが明らかになっている。近年,マクロファージの活性化様式には,組織障害にかかわる古典的なM1型と,組織修復や線維化にかかわるM2型の2系統の活性様式があることが知られており,私たちは慢性糸球体腎炎におけるM1,M2浸潤とその役割を検討してきた。本総説では,これまでの検討から得られた知見をもとに慢性糸球体腎炎の進展機序におけるM1,M2活性化マクロファージの機能についてまとめた。
  • 田中 完, 相澤 知美, 沖 栄真, 敦賀 和志, 今泉 忠淳
    2010 年23 巻2 号 p. 141-149
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
     【背景】Retinoic acid-inducible gene-I (RIG-I) は細胞質に発現するRNAヘリケースファミリー蛋白の一つであり,Toll様受容体 (Toll-like receptor) と同様に細胞内でウイルス複製時に形成される二本鎖RNA (dsRNA) を認識する細胞内センサーである。RIG-IはI型interferon (IFN) などの産生誘導を通して抗ウイルス作用を誘導するが,近年,さまざまな細胞の炎症機構にかかわっていることが報告されている。今回,ヒト培養メサンギウム細胞 (MC) におけるRIG-Iの発現意義を明らかとする試みの一環として,II型IFNであるIFN-γとウイルスdsRNAのアナログであるpolyinosinic-polycytidylic acid (poly IC) の刺激によるRIG-Iの発現とRIG-I経路を介したシグナリングを検討した。
     【方法】MCをIFN-γまたはpolyICを添加することでRIG-Iの発現をRT-PCR,Westernblot法で検討した。次にRIG-IをRNA干渉法でknockdownさせRIG-I経路のsignalingを解析した。
     【結果】IFN-γ,poly ICは濃度依存性,時間依存性にMC上にRIG-Iの発現を誘導した。RIG-IのknockdownはIFN-γ刺激系ではinterferon regulatory factor (IRF) 7の発現を選択的に抑制した。polyIC刺激系ではRIG-Iのknockdownはその下流にCC chemokine ligand (CCL) 5の発現を選択的に抑制した。また,polyIC刺激でのRIG-I発現はIFN-βのknockdownで抑制され,TLR3のknockdownはIFN-β,RIG-I両者の発現を抑制した。
     【結論】MCにおいて,IFN-γ,polyIC刺激に反応するRIG-Iを介した経路の存在が示された。IFN-γ刺激系ではIFN-γ/RIG-I/IRF7のsignalingが,ウイルスの疑似感染状態を惹起させるpolyIC刺激ではTLR3/IFN-β/RIG-I/CCL5のsignalingの存在が示された。ウイルス感染がヒト糸球体腎炎の発症や増悪過程に関与することは知られた事実であるが,その炎症過程において,MC上でのRIG-I経路を介したsignalingの関与が示唆された。
  • 辻 章志, 居原田 安奈, 高田 晃平, 下 智比古, 平林 雅人, 蓮井 正史, 金子 一成
    2010 年23 巻2 号 p. 150-153
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
     乳幼児における溶血性尿毒症症候群は,その多くが病原性大腸菌O-157: H7から産生されるShiga toxinが原因である。発症者の年齢分布は80%以上が15歳未満の小児であり,うち0~4歳が半数近くを占める。このように溶血性尿毒症症候群が成人よりも乳幼児に多く合併する理由はいまだに不明である。
     近年,生体の感染防御機構における活性酸素種や活性窒素種の意義が注目されている。すなわち活性酸素種は抗菌作用を,また,活性酸素種は細胞保護作用を有する可能性が示唆されている。
     本論文では,まず活性酸素種や活性窒素種と溶血性尿毒症症候群の関連について文献的にレビューし,次にShiga toxinの刺激に対する一酸化窒素産生能を成人と乳幼児で比較した筆者らの実験結果を紹介する。そしてそれらの結果に基づいて筆者らが最近立てている仮説,すなわち「活性酸素種や活性窒素種の産生能の低いことが乳幼児において溶血性尿毒症症候群の合併率が高い理由である」という考え方を提示する。
  • -病態と効果機序に関する検討-
    上田 博章, 秋岡 祐子, 宮村 正和, 石塚 喜世伸, 末廣 真美子, 久野 正貴, 近本 裕子, 宮川 三平, 甲能 深雪, 服部 元史
    2010 年23 巻2 号 p. 154-159
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
     一部の小児ステロイド抵抗性・難治性ネフローゼ症候群に対してLDL吸着療法 (LDL-A) は有効ではあるが,その効果機序は不明な点も多い。そこでLDL-Aの効果機序を明らかにする目的で,マイクロアレイ法,リアルタイムPCR法を用いて末梢血単核球 (PBMC) 中のmRNA発現を検討し,LDL-Aの効果機序に関連すると思われる候補遺伝子を抽出した。これらのうち,GZMB (グランザイムBをコードする遺伝子) に注目し,ステロイド感受性ネフローゼ症候群 (SSNS),ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群 (SRNS),コントロールを対象に,panT (CD3) 細胞におけるグランザイムB蛋白発現をフローサイトメトリー法で解析した。その結果,SRNSにおいてグランザイムB陽性T細胞は有意に増加していた。グランザイムBによるパーフォリン非依存性で “extraceller” な障害機序が注目されていることから,循環しているT細胞中のグランザイムBが糸球体濾過障壁を障害してSRNSの病態に関与している可能性,そしてLDL-Aの効果機序として,LDL-AによるグランザイムB発現制御が関与している可能性が示唆された。
  • 杉本 圭相, 宮沢 朋生, 宮崎 紘平, 藤田 真輔, 柳田 英彦, 岡田 満, 竹村 司
    2010 年23 巻2 号 p. 160-163
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
     慢性糸球体腎炎の治療が進歩した今日,小児科領域では腎機能低下をきたす原因として,低形成腎 (renal hypoplasia) などの先天性腎疾患の割合が高くなっている。正常腎と比較して機能的ネフロンの絶対数の少ない低形成腎では糸球体への過剰濾過の状態が持続することにより,糸球体硬化症が発症する。過少ネフロン症は病理組織学的にネフロン数の減少を認め,代償性肥大と考えられる糸球体腫大,線維化や硬化病変を生じる。今回われわれは,過少糸球体と腎症発症について,5症例の腎生検組織標本に画像解析装置を用いて検討した。組織学的に巣状糸球体硬化を認めた2症例で単位面積あたりのネフロン数の著明な減少を認め,残りの3症例で軽微な組織所見を呈した。また,全症例にて代償性と思われる糸球体腫大を認めた。
  • 下 智比古, 高橋 雅也, 武輪 鈴子, 田中 幸代, 蓮井 正史, 金子 一成
    2010 年23 巻2 号 p. 164-167
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
     小児の特発性ネフローゼ症候群 (Idiopathic Nephrotic Syndrome: INS) では,細菌性腹膜炎など重篤な感染症を合併しやすいが明確な理由は不明である。近年,高度の低アルブミン血症を呈しているINS患児は高率に腹膜炎を合併するという報告が見られる。実際,アルブミンは主要な生体内抗酸化物質であり,感染防御においても重要な役割を担っている可能性がある。以上より筆者らは,「INSにおける低アルブミン血症が抗酸化力低下,酸化ストレス増大を招き感染症が重症化する」という仮説のもとに,INS患者における酸化ストレス (活性酸素・フリーラジカルと抗酸化力のバランス) と血清アルブミンの関連について検討を進めている。
     本論文では,1) INSにおける酸化ストレスの関与,2) アルブミンの抗酸化物質としての作用機序,そして,3) INS患者血清や静注用アルブミン製剤のアルブミン濃度と抗酸化力の関係,について自験成績を紹介しながら概説する。
  • 竹村 豊, 岡田 満, 柳田 英彦, 杉本 圭相, 藤田 真輔, 宮沢 朋生, 竹村 司
    2010 年23 巻2 号 p. 168-171
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
     これまでに,成人における扁桃腺摘出療法 (以下,扁摘),あるいはステロイドパルス療法を組み合わせた扁摘の有効性は多く報告されている。しかし,小児期IgA腎症に対する扁桃腺摘出療法の有効性についての報告は少ない。そこでわれわれは,臨床的な有効性に加え,免疫組織学的有効性もあわせて検討した。小児期発症のIgA腎症で,扁摘が実施された31例を対象とした。その内,扁摘後に再度,腎生検を実施した19例について,その前後の組織学的な評価を行った。臨床的有効性としては,蛋白尿の減少効果,血尿発作の減少効果を認めた。また,発見から扁摘までの期間が短い方が尿所見の改善効果が得られた。組織学的有効性の検討の結果として,扁摘はIgAの沈着を減少させることはないが,糸球体局所における補体活性,活性化マクロファージの抑制を介して病変を鎮静化させる可能性が示唆された。また,その効果は,尿異常発見から3年以内の症例で顕著であった。小児においても,慎重な適応選択の上扁桃腺摘出療法を実施することで,IgA腎症を治癒させうる可能性がある。
  • 田中 幸代, 蓮井 正史, 野津 寛大, 飯島 一誠, 杉本 圭相, 竹村 司, 金子 一成
    2010 年23 巻2 号 p. 172-178
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
     Alport症候群 (Alport sndrome: AS) と良性家族性血尿 (bnign fmilial hmaturia: BFH) は,比較的頻度の高い遺伝性腎疾患である。前者の腎機能予後が不良であるのに対し,後者は,予後良好で,その臨床像は対照的である。近年,ASの多くはX染色体に位置する遺伝子・COL4A5の変異で,また,BFHの半数近くは2番染色体に位置する遺伝子・COL4A3COL4A4のヘテロ変異で発症することが明らかとなり,遺伝子解析による発症早期の鑑別が可能となってきた。一方で,従来,ASの原因遺伝子と考えられてきたCOL4A5の変異がBFHの家系で確認されるなど,4型コラーゲンα鎖の遺伝子変異とその臨床像の関係には多様性が大きいことが明らかとなってきた。
     今回,筆者らもCOL4A5変異を有するにもかかわらず,BFHの臨床像を呈する家系を経験し,「ASやBFHといった臨床像からの分類ではなく,病因論に立脚し,“IV型コラーゲン関連腎症” といった概念を確立すべきではないか」と考えるに到った。
  • —from bench to bed: 臨床医にとって, なぜ基礎研究が大切なのか—
    香美 祥二
    2010 年23 巻2 号 p. 179-182
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
     レニン・アンジオテンシン系(RAS)の研究は,腎臓レニンの発見以来100年以上の歴史を経て,血圧や体液調節に必須の全身性調節機構という古典的コンセプトを確立してきただけでなく,降圧剤の開発とその臨床応用,新たな組織RAS (tissue RAS) コンセプトへの発展という,まさしく “from bench to bed, from bed to bench” 的展開を成し遂げてきた。特に腎臓領域では,腎発生過程,腎機能調節,慢性腎臓病の進展とさまざまな局面での腎組織RASの役割が証明されており,現在,慢性腎臓病 (CKD) の治療法としてRAS阻害薬がグローバルに試みられつつある。これらの医学,医療上の発展は,数多くの基礎医学者,臨床医学者 (Physician-Scientist),リサーチマインドをもつ臨床医による膨大な基礎・臨床研究の成果に基づいている。
  • 岡田 満
    2010 年23 巻2 号 p. 183-188
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
     小児腎臓病における医学教育について,筆者の個人的な経験と見解をもとに概説した。特に,日本小児腎臓病学会において,これまでに行われてきた医学教育関連の内容,現在行われている若手小児腎臓医のためのパワーアップセミナー,これから行うべき医学教育項目について記載した。今後,医学生,初期研修医,および後期研修医に対して,小児腎臓病の魅力や小児腎臓病医としてのキャリアデザインを呈示し,さらに日本小児腎臓病学会における卒前,卒後教育方針もアピールして,少しでも多くの若手医師が小児腎臓病に興味を持っていただきたいと願っている。
  • 大薗 恵一
    2010 年23 巻2 号 p. 189-194
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
     CKD-MBD (chronic kidney disease-mineral and bone disorders) は,腎機能の低下に伴い,カルシウム・リン代謝異常,異所性石灰化および骨変形,成長障害などを呈する病態の総称である。また,リン代謝調節の主たる担い手であるFGF23 (fibroblast growth factor23) は骨で生産されるので,腎と骨の間には臓器連関があり,これをBone-Kidney axisと呼ぶ。FGF23が作用するには,1型FGF受容体と抗老化因子として発見されたklothoが必要である。高リン血症は,CKD-MBDの主症状であり,血管の異所性石灰化などを介して死亡リスク増加,心血管障害などをもたらす。腎機能が低下した患者では,蛋白質摂取量のコントロール,リン吸着剤投与などにより,適正な血清リン値に保つことがCKD-MBDを防ぐ上で重要である。
症例報告
  • 平野 大志, 藤永 周一郎, 西崎 直人, 金井 宏明, 中井 秀郎, 臼井 信男, 井田 博幸
    2010 年23 巻2 号 p. 196-201
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
     先天性後部尿道弁が原因と考えられた腎破裂および尿性腹水の1例を経験した。
     症例は在胎38週4日,正常経腟分娩で出生した男児。胎児エコーでの異常の指摘はなかった。出生後より徐々に腹部膨満が出現し,哺乳力低下も伴っていたため日齢17に入院となった。入院時,両側水腎水尿管症,右腎破裂,尿嚢腫,膀胱拡張,腹水が確認された。尿道カテーテル挿入により,腹部膨満,腎機能障害は軽快した。排尿時膀胱尿道造影 (VCUG) にて後部尿道弁による尿路閉塞と診断。内視鏡による経尿道的尿道弁切開術を施行し,尿路閉塞は解除された。尿路閉塞解除後の腎機能の改善は速やかであり,尿性腹水による圧の『pop-off mechanism』により腎機能が保護されていた可能性が示唆された。
  • 大田 敏之, 古江 健樹, 捻橋 紀久, 小野 浩明, 木下 義久, 坂野 堯
    2010 年23 巻2 号 p. 202-206
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
     腎移植後2年10か月目に緑膿菌による尿路感染症でショック状態となった18歳男性に,持続性血液透析濾過とエンドトキシン吸着療法を直列回路にて施行し,奏功した症例を経験した。急性血液浄化療法を始める前に,すでに体重比10%を超える水分負荷が行われて肺水腫,低血圧の状態であったが,上記方法はfluid resuscitationに反応しない低血圧と溢水の改善に有効であった。腎移植後の尿路感染症のような特殊病態に対する,過剰な水分負荷は慎重に行うべきであり,負荷後にすぐに急性血液浄化療法が施行できる体制下で行われなければ非常に危険である。
  • -その共通点と差異に関して-
    長谷 幸治, 高島 健浩, 小野 智子, 山岡 理恵, 村上 至孝, 林 正俊
    2010 年23 巻2 号 p. 207-213
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
     現在Dent病の約10~15%はOCRL1遺伝子異常によると言われている1)。この一つの遺伝子異常が,Dent病とLowe症候群といった表現型の異なる疾患の病因となることは興味深い。今回われわれは,これら両疾患を経験することができたため,両疾患の共通点と差異に関して文献的考察を交え検討した。共通点はOCRL1遺伝子異常,近位尿細管機能障害 (U-β2MG高値),GOT,LDH,CPK等の逸脱酵素の上昇である。差異は,眼症状,神経症状 (発達遅滞) など,腎外症状の有無である。OCRL1遺伝子の異常は,Lowe症候群例ではexon10のmissense mutation,Dent2症例ではexon5のframe shiftであった。これまで報告されたexon4~7のnonsense mutationとframe shiftなどの切断変異は,ほぼ全例Dent病 (Dent2) 患者で認められ,表現型に違いを生む一つの要因と考えられた。
  • 小野 ひろみ, 高田 彰, 佐々木 慎, 中辻 幸恵, 石川 健, 遠藤 幹也, 千田 勝一
    2010 年23 巻2 号 p. 214-218
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
     免疫抑制療法に反応しない重症血球貪食性リンパ球組織球症の小児2例に持続血液透析濾過を施行した。
     症例1は6歳の男児。若年性特発性関節炎の経過中に本疾患が再燃した。ステロイドパルス療法で解熱せず,低血圧,腎機能障害をきたした。
     症例2は14歳の女子。EBウイルス感染による本疾患が再燃し,ステロイドパルス療法,シクロスポリン,エトポシドなどの投与でも全身状態は改善せず,低血圧,腎機能障害,播種性血管内凝固を合併した。
     両症例とも持続血液透析濾過を開始後に症状と検査値が改善した。持続血液透析濾過は,低血圧,腎機能障害,播種性血管内凝固などを合併した重症血球貪食性リンパ球組織球症に対して有効であった。
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