日本小児腎臓病学会雑誌
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31 巻, 2 号
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追悼文
総説
  • 川崎 幸彦
    2018 年 31 巻 2 号 p. 96-108
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/15
    ジャーナル フリー

    慢性糸球体腎炎としては,IgA 腎症の頻度が最も高く,その他,紫斑病性腎炎,巣状糸球体腎炎や膜性増殖性糸球体腎炎などが挙げられる。免疫原性腎炎では,免疫複合体が糸球体に沈着することで補体やマクロファージが活性化し,メサンギウム細胞の形質転換,さらに上皮・内皮細胞障害を介した凝固異常が惹起され炎症のpathwayが進展する。これらの制御には,ステロイド剤,免疫抑制剤やRAS 系の阻害薬による多剤併用療法が用いられ,重症例では血漿交換やLDL アフェレーシスなどが施行される。一方,典型的溶血性尿毒症症候群 (典型的HUS) は,腸管出血性大腸菌感染に起因して発症し,溶血性貧血,血小板減少,急性腎不全を3 主徴とする疾患である。私たちは,典型的HUS の発症病態を明らかにするためにHUS マウスモデルを作製し,このモデルを使用して腎障害からの回復機序や腎再生因子およびHUS の制御に関する新たな知見を得た。

  • 中西 浩一
    2018 年 31 巻 2 号 p. 109-113
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/15
    ジャーナル フリー

    WHO の「糸球体疾患の臨床分類」は,腎疾患管理において有用である。1) 急性腎炎症候群,2) 急速進行性腎炎症候群,3) 反復性または持続性血尿,4) 慢性腎炎症候群,5) ネフローゼ症候群の5 つのカテゴリーからなる分類である。本分類を使用するうえで最も重要なことの一つとして,それぞれのカテゴリーは病態であり,病名ではないことに留意する必要がある。特に,「急性腎炎症候群」と「急性腎炎」を混同してはいけない。本邦ではしばしば「急性糸球体腎炎」の「糸球体」がなく「急性腎炎」となっており,この言葉が日常の診療で「急性糸球体腎炎」として頻用されているため「急性腎炎症候群」と混同しやすく注意が必要である。すなわち,「急性腎炎症候群」は「急激に発症する肉眼的血尿,タンパク尿,高血圧,糸球体濾過値の低下,ナトリウムと水の貯留を特徴とする」病態であり,「急性腎炎」は「急性糸球体腎炎」を示す病名である。

  • 小島 祥敬, 松岡 香菜子, 星 誠二, 胡口 智之, 佐藤 雄一, 小川 総一郎, 羽賀 宣博
    2018 年 31 巻 2 号 p. 114-122
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/15
    ジャーナル フリー

    ロボット支援手術は,泌尿器科領域において急速に普及し,特に前立腺癌に対するロボット支援前立腺全摘除術や腎癌に対するロボット支援腎部分切除術は,わが国においても標準的手術となりつつある。手術用ロボットdaVinci surgical system は,術者が操作レバーを操ることによって,ロボットアームを遠隔操作することができる。術者は10 倍以上の拡大視野と遠近感を有した3 次元画像による手術操作を行うことが可能である。また,ロボットアームの鉗子先端部には,70 度の可動性を有する関節機能および高い自由度を有したエンドリストが装着されており,さらにロボットが有するモーションスケールにより正確かつ繊細な手術操作を行うことが可能になる。小児泌尿器科疾患,特に尿路再建術は,手術用ロボットの特性を生かすことが可能で,今後小児泌尿器科疾患に対するロボット支援手術の確立が期待されている。

  • 亀井 宏一
    2018 年 31 巻 2 号 p. 123-128
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/15
    ジャーナル フリー

    小児の慢性腎臓病 (CKD) の原因は先天性腎尿路異常 (CAKUT) が最多である。小児のCKD においても高血圧の管理は重要であるが,血圧は年齢毎に基準値が異なることや変動が大きいこと,白衣高血圧やノンアドヒアランスなどに注意が必要である。また,小児のCKD では成長障害がしばしば問題となる。乳幼児で哺乳不良による体重増加不良があれば,積極的に経管栄養を導入する。蛋白制限食は小児のCKD には推奨されていないが,導入を検討してもよい症例も存在する。高血圧があれば塩分制限は有効であるが,CAKUT や若年性ネフロン癆などでは逆に塩分の補充が必要な症例がある。肥満は予防が必要である。遺伝子解析は,不要な治療の回避,腎外病変の早期発見,移植後再発の予測,家系内の他の患者の診断など有用な情報をもたらすことがある。小児CKD の患者の管理では,個々の患者のそのときの状況に特化した医療・指導を心掛けることが大切である。

原著
  • 芳野 三和, 郭 義胤, 西村 真直, 此元 竜雄, 鯉川 弥須宏, 山口 孝則
    2018 年 31 巻 2 号 p. 129-134
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/15
    [早期公開] 公開日: 2018/08/30
    ジャーナル フリー

    膀胱尿管逆流症の長期予後は未だ不明な点が多いが,手術により逆流が消失した後に腎障害が進行する例もあり長期的な経過観察が必要と考えられている。今回,2000~2005 年に当院で逆流防止術を施行し,5 年以上経過観察し得た199 名の腎機能(% Cr 値:基準値/ 実測値×100(%))の推移を解析した。男児が135 名(68%),両側性が159 名(80%),手術時年齢中央値は3.0 歳(0.4~16.5 歳),観察期間中央値は10.0 年(5.0~15.2 年)であった。最終観察時eGFR 90 ml/min/1.73 m2 未満であった51 名の腎機能% Cr 値の平均値は手術時77%,術後2 年目85%,最終観察時75%であり,術後2 年目の腎機能より最終観察時の腎機能は統計学的に有意に低下していた。術後短期間は腎機能が保持されていてもその後腎機能が低下する症例が多いことが明らかになった。

  • 佐藤 雅之, 今西 梨菜, 坪田 朋佳, 堀井 百祐, 中村 英記, 平野 至規, 室野 晃一, 松本 靖司, 平沼 法義
    2018 年 31 巻 2 号 p. 135-138
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/15
    [早期公開] 公開日: 2018/10/25
    ジャーナル フリー

    腎超音波スクリーニングにおける中心部エコー像(CEC)解離について,スクリーニング時のSFU 分類重症度が予後と関連することは既報で示されているが,CEC 前後径と予後との関連を検討した報告はみられない。当院における1 か月健診腎超音波スクリーニングでのCEC 解離例106 例について,スクリーニング時のCEC 前後径と予後との関連およびCEC 前後径のカットオフ値について検討した。精査実施群(非自然軽快例)では自然軽快群よりも有意にCEC 前後径が大きく(p=0.0457),前後径が大きい例は自然軽快しにくいと考えられた。ROC 曲線で求めたCEC 前後径のカットオフ値は8.1 mm となったが,その場合自然軽快しない例を数例見逃すこととなり,陽性基準を変更するかはさらなる症例の蓄積,検討を要する。自然軽快群でCEC 前後径と軽快時期との相関は認めず,解離が軽度でも早期に自然軽快するとは限らないことが示された。

  • 松村 千恵子, 氷見 京子, 黒田 浩明, 升田 真依, 小林 雅代, 金本 勝義, 松山 健, 本田 雅敬, 浅野 真純, 伊藤 美枝子
    2018 年 31 巻 2 号 p. 139-145
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/15
    ジャーナル フリー

    先天性腎尿路異常の早期発見を目的に,山武市4 か月児乳児健診において,同意の得られた1018 名に腎エコーを施行した。腎長径42 mm (−2.5 SD) 未満,左右差8mm (99%タイル) 以上,水腎症SFU 3 度以上 (著明なあるいは変動する腎杯拡張のSFU 2 度を含む) 等をスクリーニング基準とした。スクリーニング陽性者は,23 名 (2.3%) で,水腎症11 名 (1.1%) ,腎長径42 mm 未満7名 (0.69%) 等であった。精査有所見者は7 名0.69%で,SFU 3 度+左右差よりVUR 左III 度・右V 度・右高度瘢痕腎1 名 (手術) および閉塞性腎症2 名,変動する腎盂拡張のSFU 2 度から両側VUR IV 度1 名等が発見された。水腎症の偽陽性率低減に配慮したスクリーニング基準の明確化は,一般小児科医および臨床検査技師による腎エコー実施を可能とし,1 次スクリーニング陽性率を低くおさえ,費用対効果の向上にも寄与すると考えられた。

  • 櫻谷 浩志, 平野 大志, 西野 智彦, 富井 祐治, 藤永 周一郎
    2018 年 31 巻 2 号 p. 146-150
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/15
    ジャーナル フリー

    国内外のガイドラインでは小児期ステロイド感受性ネフローゼ症候群 (steroid sensitine nephrotic syndorome: SSNS) の再発時治療として,プレドニゾロン (prednisolone: PSL) 2 mg/kg/日または60 mg/m2/日が推奨されている。実臨床では推奨量まで増量しないことがあるが,その効果や予後への影響は不明である。そこで,当科において初発時のPSL 投与量で初回再発治療を行ったSSNS 49 名を対象に,初回再発時PSL 投与量,初回再発時の寛解までの日数,初回再発から2 回目再発までの日数,頻回再発 (frequently relapsing nephrotic syndrome: FRNS) 移行率を,診療録より後方視的に検討した。再発時のPSL 投与量は27 名 (55.1%) で2 mg/kg/日未満だったが,中央値7 日で全例寛解した。PSL 投与量と寛解までの日数,および2 回目の再発までの日数に有意な相関はなかった。初発時寛解後6 か月以内に2 回以上再発したFRNS 群23 名(46.9%)と非FRNS 群26 名の両群において,初回再発時のPSL 投与量に有意差はなかった。したがって,再発時のPSL 投与量はガイドラインの推奨量まで増量しなくても効果や予後へは影響しない可能性がある。

  • 権田 裕亮, 西野 智彦, 富井 祐治, 櫻谷 浩志, 藤永 周一郎
    2018 年 31 巻 2 号 p. 151-154
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/15
    ジャーナル フリー

    当科で初回治療が行われ,1 年以上観察しえたネフローゼ症候群 (NS) 患児93 例 (初発年齢中央値5.2 歳,観察期間6.3 年) において,学校検尿などから無症状で診断された8 例 (9%:無症候群) と全身浮腫で診断された85例 (91%:浮腫群) の2 群に分けて,臨床経過を比較検討した。初回ステロイド感受性だったのは無症候群7 例 (88%) ,浮腫群68 例 (80%) で,寛解までの日数は無症候群が浮腫群より有意に短かった (6.0 vs 10.0 日,p<0.01) 。また無症候群は浮腫群と比較して,診断から1 年間の再発回数は有意に少なく (0.25 vs 1.29 回/人・年,p<0.01) ,頻回再発/ステロイド依存性ネフローゼ症候群 (FR/SDNS) の移行例はなかった。初回ステロイド抵抗性のうち浮腫群の17 例は免疫抑制療法にて全例で完全寛解したが,無症候群1 例は WT-1 遺伝子変異が同定され高度蛋白尿が持続している。無症候性NS は一般的に予後良好であるが,ステロイド抵抗性を示した場合は,遺伝子検査を検討した方がよいと思われた。

症例報告
  • 笠置 俊希, 笠原 克明, 後藤 芳充
    2018 年 31 巻 2 号 p. 155-159
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/15
    [早期公開] 公開日: 2018/08/30
    ジャーナル フリー

    神経因性膀胱で,抗コリン薬などの保存的治療に抵抗性である小児において,腸管利用膀胱拡大術は近年積極的に施行されている。症例は24 歳,女性。7 歳時にS状結腸利用膀胱拡大術を施行され,その後,清潔間歇導尿法,洗腸を継続し,小児腎臓科でフォローアップしてきた。24 歳時に妊娠に至り,妊娠26 週にて両側水腎症を伴う腎後性腎不全を来し,入院となった。泌尿器科に依頼し,両側腎瘻増設を行い,水腎症,腎機能の改善を認め,正期産にて出産を迎えることができた。途中,無症候性細菌尿を認めたが,抗菌薬投与にて尿所見は改善し,腎盂腎炎を発症することもなかった。今後も膀胱拡大術後の妊娠症例は増えてくることが予想されるため,小児科医は成人科への移行医療を進める必要もある。

  • 天羽 竜子, 山本 威久, 木島 衣理, 櫻井 美帆子, 山田 知絵子, 東 純史, 溝口 好美, 中道 伊津子, 井上 豊, 北岡 太一, ...
    2018 年 31 巻 2 号 p. 160-166
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/15
    ジャーナル フリー

    症例は12 歳女児。発熱,全身倦怠感などの症状があり,テプレノン,ドンペリドン,アセトアミノフェン,セフカペンピボキシルで加療されたが改善せず,血清C-reactive protein (CRP) の上昇や腎機能障害を認めたため,精査目的で入院となった。入院時検査所見では,補体低下はなく各種自己抗体陰性で血沈は亢進し,高IgG血症や高IgE 血症,尿中尿細管マーカーの上昇を認めた。また,腹部MRI 拡散強調像では両腎に斑状の高信号病変がみられたため,悪性腫瘍やIgG4 関連間質性腎炎が疑われた。骨髄穿刺では悪性所見を認めず,腎組織上尿細管間質性腎炎と診断した。その鑑別としてIgG サブクラス免疫染色を施行したところ,IgG4 は一部のみ陽性でIgG1 が優勢であり,IgG4 関連間質性腎炎は否定的であった。最終的にdrug lymphocyte stimulation test (DLST) 検査で強陽性となったアセトアミノフェンによる薬剤性間質性腎炎と診断した。腎生検でのIgG サブクラス免疫染色は間質性腎炎の鑑別において有用であると考えられた。

  • 山本 かずな, 寺野 千香子, 濱田 陸, 橋本 淳也, 武田 良淳, 原田 涼子, 石倉 健司, 幡谷 浩史, 長谷川 行洋, 本田 雅敬
    2018 年 31 巻 2 号 p. 167-171
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/15
    ジャーナル フリー

    腎臓内科医は慢性的な腎機能障害に複数の症状を呈した患者を診療した際には,腎疾患を中心に検索を進めることが多いが,甲状腺機能低下症も鑑別の一つに含める必要がある。我々は腎機能障害に貧血,低身長を合併した症例を甲状腺機能低下症と診断し,治療により可逆的に各種臓器障害が改善した1 例を経験した。症例は11歳女児。偶発的に発見された貧血精査目的で当院他科を受診し,その際からCKD stage 3 の腎機能障害,軽度の肝機能障害を認めていた。腎機能障害の進行と腎性貧血の合併を疑われ腎臓内科に紹介となり,その際に低身長も指摘された。臨床・検査所見より橋本病と診断し,甲状腺ホルモン補充療法を開始した。腎機能障害は3 か月で改善し,貧血,肝機能障害,成長率も6 か月で改善した。甲状腺機能低下症による腎機能障害は可逆性であるため,腎機能障害以外に複数の症状を呈している場合には,甲状腺機能低下症を鑑別に挙げる必要がある。

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