C60イオン銃やArガスクラスターイオン銃の利用により,TOF-SIMS(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)による有機材料の深さ方向分析の応用が急速に広がっている.本稿では,化学種の正確な深さ分布情報を得ることを目的として開発した,TOF-SIMSによるAr-GCIBによる切削断面観察法を紹介し,その有用性について検討した結果を報告する.本観察法は,分子構造を維持したままの断面観察が可能であり,3次元スパッタデプスプロファイルでは得られない正確なスケールの分子種の分布情報が得られることから,複雑な有機材料の構造解析に有効であることを示した.
硬X線光電子分光(hard X-ray photoemission spectroscopy, HAXPES)は従来の光電子分光に比べて数倍以上大きい分析深さを有する比較的新しい実験手法で,産業応用研究における新しい分析ツールとして近年注目を浴びている.本稿では,まず始めにHAXPESの原理と特徴について,いくつかの利用例とともに概説する.次にSPring-8 BL46XUにて我々が運用している,異なるタイプの電子分光器(VG Scienta R4000-10 keVとFocus HV-CSA 300/15)を装備する,2台の硬X線光電子分光装置について詳細に説明する.SPring-8の利用制度についても簡単に述べる.