飛行時間型二次イオン質量分析法(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)は,材料最表面に存在する物質の化学構造情報を得ることができる点で有機材料の表面分析には非常に有用なツールである.しかし,測定が高真空中で行われるため,いわゆる“真空ダメージ”により本来測定したい状態とは異なる状態を分析している場合,あるいは再現性のある結果が得られない場合がある.このような場合,試料の冷却が効果的である.本報告では,試料冷却により,“真空ダメージ”を低減し,再現性を保ちながら有機材料表面のToF-SIMS測定を行った例について報告する.
光電子放出過程によって,試料構成系は始状態に比べて電子が一つ少ないいくつかの終状態に至る.相互作用のない場合を除いて,この終状態の効果によって光電子分光(PES)に顕著な構造が見られることになる.これらの構造は主ピークとは別にサテライトとして区別される.本稿では,拡張励起,すなわち電荷やスピン,あるいは格子振動の集団励起を経て終状態に至った場合にPEスペクトルに見られるサテライト構造について議論する.特に,伝導電子によるフェルミの海をもつ金属系の基本的なPES問題に焦点を絞って議論する.