インフラメンテナンス実践研究論文集
Online ISSN : 2436-777X
2 巻, 1 号
選択された号の論文の37件中1~37を表示しています
A.担い手と体制
  • 藤原 俊輔, 永井 政伸, 関屋 英彦
    2023 年 2 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     道路法施行規則改正(平成26年3月31日公布,7月1日施行)により,道路橋の定期点検では,必要な知識および技能を有する者が5年に1回の頻度で近接目視点検を行うことが義務化された.そのため,点検技術者の効率的な養成が喫緊の社会的要求事項と考えられる.現状の点検技術者教育で用いられるテキストによる座学は,比較的容易に実施できるが,実際の構造を十分に理解することは難しい.対して現地実習は,実構造物を見ることができるが,現地の準備や安全性の確保に労力を要することや実習できる人数に制限がある.これら座学と現地実習のメリット・デメリットを補完するため,仮想空間で効率的に疲労き裂の発生部位と発生原因を学習可能とするシミュレータの開発を実施した.

  • 後藤 幹尚, 川越 貴水, 浅野 和香奈, 後藤 朋子, 多和田 俊介, 岩波 光保, 千々和 伸浩, 津野 和宏
    2023 年 2 巻 1 号 p. 11-20
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     次世代の橋梁長寿命化修繕計画の実践を通じて,ライフサイクルコストの縮減による効果には限りがあると考え,社会インフラの実態を十分に周知した上で,これらの存在によって得られる恩恵をより広げることが重要であると考えている.そこで,現代における橋の新たな価値を創造し,この価値から社会活動や日常生活の向上等に資する橋のみを守り,場合によっては新たな機能を拡充した橋へと更新することで,橋の存在によって新たな恩恵を享受することができる.本論文は,メンテナンスの区民協働を通じて橋の新たな価値を創造するために,広報活動とアンケート調査を実施し,この調査結果を報告するとともに,メンテナンスの区民協働の実践に向けた課題と今後の展開について示した.

  • 浅野 和香奈, 岩波 光保, 津田 誠, 子田 康弘, 浦部 智義, 岩城 一郎
    2023 年 2 巻 1 号 p. 21-30
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     福島県平田村にて,市民協働により橋の簡易な点検を行い,排水桝周辺の清掃活動等を行う「橋のセルフメンテナンス」を構築し,実装した.定期点検の間に生じた橋面上の劣化や損傷等を記録するとともに,排水機能を確保することで予防保全につながる.市民協働による橋のセルフメンテナンスの構築を行う際,活動の必要性を理解し,積極的かつ自発的に活動に携われる人材の育成を並行で進めた.市民協働と人材育成に立脚した橋のセルフメンテナンスモデルの各地への展開の実績から,各地域におけるセルフメンテナンスの参加者の傾向を分析した.さらに,本モデルの活動の中から4つの分類において,市民協働・人材育成・維持管理の点数の高低から,各活動が果たす役割について傾向を明らかにすることができた.

B.技術とプロジェクト
  • 石見 涼, 小松 伸也, 稲本 耕介
    2023 年 2 巻 1 号 p. 31-35
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     新幹線軌道の道床交換作業後は,初期沈下による列車動揺の発生防止を目的に,翌日の営業速度を160km/h以下に設定している.新幹線の高速化に伴って総遅延時分の削減が求められる一方で,設備の老朽化により,徐行を伴う保守工事の増加が予想されることから,道床交換時の徐行速度を向上可能な施工方法を検証することが求められた.今回は,道床交換作業の施工方法の検討と加振機能付き小型マルチプルタイタンパー(以下,UNIMA)を活用した道床安定効果を検討した.また,シミュレーションに基づき,徐行速度の速度向上の検討を行った.これらの結果により,列車通過による沈下量を抑制する改良施工方法とUNIMAを用いた適切な加振方法の提案,および,それらの工法を用いた試験施工において,徐行速度210km/hへと速度向上させても列車動揺に大きな差が無いことを確認した.

  • 久保寺 貴彦, 郭 慶煥, 粟津 篤
    2023 年 2 巻 1 号 p. 36-42
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
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     本研究は,地中レーダによる画像判読を向上させるため,埋設管の実験ケースをVP管内にアルミテープを貼ったPF管,アルミテープを貼ったVP管とし,路盤とアスファルト混合物層を構築した舗装構造にて地中レーダ探査を行った.また,精度検証が行えるよう地下空間情報を施工前後で測量した.この結果,構築した舗装構造において,判読不能な状況下に対して,アルミテープよって判読可能となることがわかった.また,既設のVP管に対しても,アルミテープを貼ったPF管をVP管内に挿入することにより,VP管を取り替えることなく画像判読の向上ができる手法を見出した.さらに,相対誤差は,いずれも13%以内であった.

  • 佐々木 智, 髙橋 啓久
    2023 年 2 巻 1 号 p. 43-47
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     線路設備管理においてレール張り出し事故防止は安全安定輸送の確保のために重要な責務である.保線系統ではレール張り出し事故を未然に防ぐため,ロングレール検査を行い,必要に応じて設定替えを行っている.しかしながら,JR東日本管轄内においてレール張り出しを根絶させることはできていない.そこで本研究では,通常検査の補助手段として通り変位データに着目し,通り変位データを活用することでレール張り出しの予兆把握が可能か検討を行った.検討の結果,レール張り出しに至る過程で,通り変位はレール温度の上昇に伴い増大するといった特徴があることが分かった.そのため,通り変位の高頻度データで分析することでレール張り出しの予兆を把握することができ,計画的な対策工を実施できる可能性がある.

  • 後藤 幹尚, 岩野 聡史, 高鍋 雅則, 影澤 雅人, 三輪 空司, 岩波 光保, 千々和 伸浩, 津野 和宏
    2023 年 2 巻 1 号 p. 48-58
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     本論文は,次世代の橋梁長寿命化修繕計画において特に注意を要する橋に位置付けている感潮河川にかかる旭橋に対して,測定原理の異なる複数の非破壊調査を用いて,鉄筋の腐食にともなうかぶりコンクリートのうき,鉄筋の腐食状況,コンクリートの塩化物イオン量の調査を実施し,維持管理での適用を検討した.この非破壊調査の結果を踏まえたはつり調査も実施し,目視にて鉄筋の腐食状況を確認し,非破壊調査に対する信頼性も検証した.施工の状況等により品質にばらつきが生じやすい実構造物を調査対象としたことで,非破壊調査の結果から維持管理に非破壊調査を活用することの優位性が改めて高いことが示され,高度化した予防保全型のメンテナンスサイクルへと移行することが可能になる.なお今回の取り組みを踏まえ,維持管理に非破壊調査を適用する際の課題や今後の展開についても示した.

  • 細井 学, 植村 昌一, 神谷 弘志, 大島 竜二
    2023 年 2 巻 1 号 p. 59-65
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     鉄道沿線斜面からの落石と列車との衝撃・脱線を回避するために,徒歩巡回や斜面踏査を基本とした落石検査,落石防護設備の強化によるハード対策および落石検知装置等の整備によるソフト対策を実施している.過去の落石災害を分析した結果,落石の恐れのある不安定な領域が広範囲に分布している斜面からの発生が多く,斜面全体を面的に検査することが重要であることがわかった.しかしながら落石斜面は数が多く,また急峻な箇所が存在することから,斜面踏査には多大な労力がかかる上に危険な作業をともなうことがある.そこで本研究では落石検査に着目し,面的な検査を効果的に実施するため,ドローンに搭載したレーザスキャナにより上空から取得した三次元点群データを活用した落石検査方法を検討した.そしてこの方法を現地で検証し,効果的な落石の面的検査を実現できる可能性があることを示した.

  • 沼田 美織, 大田 涼介, 江本 久雄, 吉武 俊章
    2023 年 2 巻 1 号 p. 66-75
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     近年,土木構造物において老朽化施設の増加が懸念され,適切な維持管理が求められている.しかし,土木構造物のうち地方自治体とりわけ市町村管理道路の維持管理に着目すれば,舗装路面点検のために路面性状測定車などの高精度な手法はあるものの,点検費用が高額になることから,多くの地方自治体では定期点検が十分に行われていないのが現状である.そこで,筆者らは要補修個所のスクリーニングを行うために,一般乗用車にビデオカメラ,3次元モーションセンサを搭載した,低コストで簡易的に点検可能な舗装路面簡易評価システムを開発してきた.本研究は,このシステムの実用性および利便性向上のために走行映像やデータ管理手法に着眼し,走行映像を用いた変状自動抽出機能の開発や,マップシステムによるデータベース化を行い,舗装路面簡易評価システムの実践的研究を行ったものである.

  • 髙山 充直, 松尾 賢, 池田 泰博, 松田 芳範
    2023 年 2 巻 1 号 p. 76-85
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     鉄道PC桁に施された5方式の電気防食工法について,導入20年経過後の防食効果と耐久性について調査を行った.モニタリングした電位と復極量の経時変化から,いずれの方式も防食効果を継続していることが確認されたが,内部鉄筋近傍の腐食環境の改善効果は方式によって違いが見られた.また,復極量を面状分布で評価した結果,チタングリッド方式のばらつきが大きく,基準復極量を満たさない箇所があることがわかった.チタン溶射方式では,陽極材被膜の剥離が確認されたことから,この影響について評価するとともに,発生原因について考察した.

  • 米山 良平, 大懸 重樹, 羽守 紀幸, 岩橋 啓行, 鈴木 康寛, 太田 雅彦
    2023 年 2 巻 1 号 p. 86-95
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     近年,橋梁の老朽化の進行とその対応が社会課題となっており,限りある人員や体制,予算内で持続的かつ適切に維持管理に取り組む必要がある.中でも橋梁付属物である支承は上部工の荷重を下部工へ伝達する重要な部材であり,漏水の影響を受けやすい桁端部の過酷な使用環境に設置されるため,支承機能の不全が懸念される.支承そのものの健全性を目視点検のみで的確に評価することは困難である.そこで,本稿では光学振動解析システム(動画像を用いた遠隔・非接触変位計測手法)に着目し,支承補修が必要な既設PC橋梁の宿坊大橋(以下,当該橋梁)において,10t積ダンプトラック2台が橋梁上を通過する際に発生する桁・支承の変位量を動画像より計測した.計測結果より,当該橋梁の支承の機能は維持され,調査結果の妥当性が確認できたため,その措置方針と合わせて報告する.

  • 引地 宏陽, 栗林 伶二, 水谷 亮勝
    2023 年 2 巻 1 号 p. 96-100
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     首都高速道路1号羽田線海老取川付近の3径間連続PCラーメン橋は,ディビダーク工法によって架設された橋梁(以下,ディビダーク橋梁)である.定期点検の結果,中央ヒンジ部の損傷が確認されている.そのため,中央ヒンジ部の健全性確認を目的としてFEM解析と変位計測を実施し,その結果を比較した.また,損傷した中央ヒンジ部について補修方法を検討した.本稿では解析と計測を用いた中央ヒンジ部の健全性評価結果及び補修方法の検討概要について報告する.

  • 西尾 昭希, 木村 定雄, 荻野 竹敏
    2023 年 2 巻 1 号 p. 101-108
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     鉄道事業における構造物の設計法の適用は,事業者が国土交通省に届出た実施基準に従っている.ここで,大都市部の既存の地下鉄構造物をみると,供用後50年が経過するものが増加しつつある.また,建設時期が異なる構造物の設計法は荷重系・構造モデルなどが適宜合理化され適用されてきている.本研究は,1層2径間および2層3径間の鉄道開削トンネルを例として,掘削深の浅い場合と深い場合における構造モデルおよび側方土水圧の算定式の違いが,部材の断面照査に及ぼす影響を検討した.その結果,構造モデルの違いが,曲げモーメントに及ぼす影響が大きいことを確認した.また,側方土水圧の算定式が異なることによって,下床版の隅角部の断面照査に大きく影響を及ぼすことを確認した.

  • 松本 麻美, 昆野 修平, 森 健矢
    2023 年 2 巻 1 号 p. 109-117
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     列車がバラスト軌道上を繰り返し走行すると,列車荷重等により軌道変位やレール凹凸が徐々に大きくなる.そこで,有限な保守費の中で,中長期的に列車の安全性や乗り心地を維持する保守計画が求められる.一般に,バラストをつき固めて軌道のゆがみを整正する軌道変位保守と,レール凹凸を除去するレール削正を同時期に行うことで,保守周期を延伸する「組み合わせ保守」効果が得られることがわかっている.しかし,本効果の定量分析や効果推定のモデル化は新幹線で行われたものであった.そこで本論文では,組み合わせ保守の実用化と汎用性向上に向け,在来線において組み合わせ保守効果の実地試験を行い,その効果の検証を行った.加えて,在来線において組み合わせ保守を行った場合に実現する線区全体の軌道状態についてシミュレーションを行った.

  • 石川 敏之, 塚田 啓二, 堺 健司, 紀和 利彦, 堀 謙吾, 福田 英徳
    2023 年 2 巻 1 号 p. 118-125
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,付着物を除去せずに鋼矢板の板厚を計測することを目的に,極低周波磁気非破壊計測装置を開発した.初めに,極低周波磁気非破壊計測装置に対する錆の影響やリフトオフ量の影響を調べ,鋼矢板の計測に適した,100mm×100mmの正方形コイルを有する磁気センサプローブを開発した.そして,開発した磁気センサプローブを用いて,実鋼矢板の計測を行った.その結果,潜水士によるプロービングで計測した鋼矢板の板厚,機械アームによる陸上から計測した鋼矢板の板厚は,共に従来の付着物をケレンで除去して超音波計測による板厚とほぼ一致した.

  • 小林 巧, 大住 道生
    2023 年 2 巻 1 号 p. 126-135
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     橋梁の振動計測による異常検知,状態監視,健全度評価等を目的とした研究は多く行われているが,実務において長期的・定期的に計測が為され,活用された事例は少ない.その原因の一つに振動計測のサイクルコストの高さがあると考えられる.本研究では実務で活用しやすい振動計測手法と為り得る,スマートフォンに内蔵されたMEMSの加速度センサの橋梁振動計測への適用性を確認した.その結果,スマートフォンの加速度センサのノイズレベルは,振動数領域で最大でも10mGal*sec程度であった.また,一般的な鋼上部構造で振動計測を試行した結果,適切な作用を与えることで,感度が良いとは言えないスマートフォンの加速度センサであっても,鋼上部構造の固有振動特性を計測できることを実験的に示した.

  • 田井 政行, 白旗 弘実, 河合 孝純
    2023 年 2 巻 1 号 p. 136-142
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     橋梁の点検では,損傷・劣化の見逃しや見過ごしがなく,点検が必要な個所に対して確実に点検を実施し,その損傷・劣化が危険性や進行性を有するものであるかを判断できる資料を提供することが重要である.本研究では,タブレット端末上のVR空間に橋梁の3Dモデルを構築し,橋梁モデル上に過去の点検結果や新たな点検個所及び点検結果の記録が可能なデジタルツイン点検野帳を開発した.本システムを活用することで,点検時の損傷・劣化の見逃しや見過ごしを防ぐことや,既往の点検結果や損傷事例等を参照し,損傷・劣化の危険性・進行性を考慮した判定が可能であり,効率的かつ効果的な維持管理に役立つ基礎データを提供可能であると考えられる.

  • 河井 勇樹, 渡辺 佳彦
    2023 年 2 巻 1 号 p. 143-150
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     山陽新幹線では,RCラーメン高架橋における電気防食工法の適用性を検証するため,2003年度より外部電源方式の試験施工を開始している.2010年度からは流電陽極方式の試験施工も開始しており,施工後の各工法の追跡調査を実施した結果,いずれの電気防食工法においても防食基準を概ね満足し,錆汁等の鉄筋腐食に起因する外観変状も認められず,防食効果を維持していることを確認した.今後の適用については,高架橋の構造形式や内部の鉄筋腐食状況だけでなくライフサイクルコストや周辺環境を踏まえて決定することを考えている.

  • 森近 翔伍, 関屋 英彦, 高橋 慶多, 三上 貴仁
    2023 年 2 巻 1 号 p. 151-157
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     台風などによる大雨がもたらす洪水災害に対しては,適切なタイミングでの水防活動や避難行動が重要である.そのためには,異なる複数箇所にて水位データを取得し,それぞれの地域における氾濫の危険性をより正確に把握していくことが望ましい.したがって,計測システムの施工性の良さ,およびデータ収集のしやすさを兼ね備えた水位計測システムが必要であると考えられる.そこで本研究では,非接触型センサによる水位計測およびLPWA(Low Power Wide Area)無線測定器を活用したデータ収集システムを組み合わせた,水位計測システムを構築し,現場での実用性について検証した.その結果,超音波式センサを用いて水位を遠隔にて把握できる可能性を示した.

  • 丸山 晃平, 吉田 郁政, 関屋 英彦, 金 哲佑
    2023 年 2 巻 1 号 p. 158-168
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     本研究では曲げ剛性の低減から損傷の同定を行うことを想定し,楢梁桁に関する曲げ剛性の補正係数をたわみ影響線を用いて推定する手法について数値解析に基づく検討を行った.ベイズ推論(MAP推定)の考え方から2種類の目的関数を示し,局所的に損傷が生じるシナリオと全体的に損傷が生じるシナリオについて曲げ剛性の補正係数の推定を行った.局所的損傷には未知量である補正係数そのものに事前情報を与える目的関数が,全体的捐傷には未知量の差分に対して事前情報を与える目的関数が好ましい結果となった.Hessian行列を用いた推定値の不確定性の大きさや未知量間の相関係数の評価を行い,推定精度についても定量的に示した.ホワイトノイズを観測量誤差として考慮した場合,複数回の計測結果から推定を行うことで捐傷領域の推定が可能との結果となった.

  • 林 祐葵, 小林 巧, 大住 道生
    2023 年 2 巻 1 号 p. 169-178
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     地震発生後は早急な道路啓開のため,道路橋の被害を迅速かつ的確に把握し,橋の健全性や供用安全性について判断する必要がある.新技術などを活用することで,震後調査の更なる効率化・高度化が期待されるが,それらに求められる要件が体系的に整理された事例はほとんどなく,道路管理者や点検者のニーズに最適化された新技術の提案がされているとは言い難い.本研究では,新技術活用の一例として,地震により被災した道路橋の震後調査に3次元レーザスキャナを試用した.また,取得した点群データの検知精度を確認し,目視を基本とする震後調査の代替可能性とそのために新技術に求められる要件について検討した.

  • 相内 豪太, 前島 拓, 面 政也, 飯土井 剛, 岩城 一郎
    2023 年 2 巻 1 号 p. 179-186
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     本研究は,ハンディ型蛍光X線分析計によるコンクリート構造物の塩害調査方法について実験的に検討したものである.まず,塩分を含有させた供試体を用いて本装置の計測精度について評価するとともに,従来の化学分析法による塩分分析結果との関係を整理した.次に,塩害環境下に供用される実構造物に対して本装置による構造物表面および内部の塩分分析手法について検討した.これらの試験の結果,本装置と従来の評価指標であるイオンクロマトグラフ法による塩分分析結果には高い相関がみられ,本装置によりコンクリート中の塩化物イオン濃度を定量的に評価可能であることを明らかとした.さらに,本試験装置とドリル法を組み合わせることにより,迅速かつ簡易に構造物表面および内部の塩分プロファイルを現地にて評価することが可能であることを示した.

  • 武藤 あかね, 三岡 善平, 林 承燦, 木村 定雄
    2023 年 2 巻 1 号 p. 187-196
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     土木学会インフラ健康診断書(2020年版)などによると,全国の約10%の道路橋が早期あるいは緊急に措置が必要であり,さらに建設後50年を経過した橋梁の割合は,2019年時点の約27%から,10年後の2029年時点には約52%に急増するとされている.近年では,橋梁上部工の効率的なリニューアル技術として,プレキャスト製の床版と壁高欄とを接合する床版取替技術が開発されている.筆者らは,床版と壁高欄を接合する目地部の充填モルタルが20℃の環境において,その要求性能を満たすことを確認している.しかし,実施工時の環境温度と施工法の影響を考慮した研究は見当たらない.本論では,室内の実験によって充填モルタルの基本特性を評価し,現場環境を模擬した実験によって現場適用性を評価した.これらの特性をふまえ,実施工時の留意事項を提案した.

  • 津田 誠, 大矢 昌樹, 増山 昇一郎
    2023 年 2 巻 1 号 p. 197-203
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     日本の橋梁は70万橋を上回り,その多くが高度成長期に集中して建設されたことから,今後建設後50年を超える橋梁が増加傾向になる.地方の橋梁は単径間の橋長が短い形式が多く,また立地条件は小規模な河川や農業用水を渡河し,軟弱地盤上に位置している.このため,橋台背面の沈下による段差より通行車両からの衝撃が橋梁の劣化原因になると考えられる.これより,短時間で施工が可能で,耐久性の高い段差修正工法の開発を目的とし,伸縮装置付近に段差が生じている橋梁にて試験施工を実施した.さらに補修効果の確認として,施工前後にて試験車両を用いて騒音および振動を測定し検証を行った.

  • 平野 勝彦, 西澤 大和, 三田村 浩, 松本 高志
    2023 年 2 巻 1 号 p. 204-208
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     インフラ整備が重要となる重交通路線である,横浜新道の鉄道交差部に位置する法泉高架橋は,1971年の供用から48年が経過し,経年劣化と交通荷重により鉄筋コンクリート床版の劣化損傷が進行し,耐荷力を確保するために速やかに補修を講じる必要が生じた.一般的な床版の補修は,変状部に対して部分もしくは全層打換を行うが,迅速かつ抜本的な対策を講じるまでの延命化対策として,床版上面の床版コンクリートの一部を超緻密高強度繊維補強コンクリートに置換する床版上面補修を実施し,その後の補修効果を確認した.

  • 吉田 亮, 吉川 正治, 鈴木 隼人, 八嶋 宏幸
    2023 年 2 巻 1 号 p. 209-216
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     z鋼鉄道橋の塗装塗膜の劣化状態は,定期検査時に塗膜の状態を評価し,その評価に対応する評点を用いて劣化状態を判定している.管内の各鋼鉄道橋での塗替え後の経年と評点の関係について分析を行ったところ「海岸部」に位置する鋼鉄道橋では劣化が早い傾向にあることがわかった.また,塗膜劣化に大きく影響を与えると考えられる鋼鉄道橋の付着塩分に着目し,塗替え塗装時の素地調整(ブラスト工法+水洗い)での塩分除去について部位ごとに測定した.素地調整後には,全体的には付着塩分量は50㎎/㎡以下となったが,部材の輻輳部や隙間部では100 ㎎/㎡程度となった.

  • 須江 政喜, 品川 恒平, 堀 雄一郎, 元好 茂
    2023 年 2 巻 1 号 p. 217-223
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
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     昨今の生産年齢人口の減少をはじめ,鉄道業界を取り巻く環境は急激に変化しており,JR東日本の在来線では,線路管理の中で特に比重が大きいレール管理の縮減は喫緊の課題である.そこで,レール検査で発見されたレール傷において,レールの部位,材質,削正の有無,および線形別に発生傾向を調査分析した.この結果,レール傷の発生傾向として,レール頭部表面,熱処理レール,曲線で多数発生することがわかった.これにより,レール頭部表面傷の発生および進展抑制を目的とした,新たなレール材質の導入およびレール削正パターンの見直しを行った.また,線区の輸送量等の影響度を考慮したレール管理区分の見直しおよびレール頭部傷の管理精度向上等,レール管理の最適化を図った.

  • 窪田 諭, 井上 明日香, 関 和彦, 安室 喜弘
    2023 年 2 巻 1 号 p. 224-232
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
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     国土交通省は,橋梁の維持管理の効率化と高度化を図るために,3次元モデルの活用を推進している.既設橋梁においては,紙図面から精確な3次元モデルを生成することは容易ではない.また,図面が残されていない橋梁も多く,点検時に図面を参照することや点検結果を図面に記録できない課題がある.本研究では,3次元モデルを維持管理に関する情報を記録するための基盤とすることを目的として,地上型レーザスキャナ,UAV搭載型カメラとMobile Mapping Systemにより実橋を計測したデータから生成した点群データにパラメトリックモデリングを適用し,3次元モデルを構築する手法を提案した.各計測機器により取得した実橋の点群データを用いて提案手法を検証し,データが一部欠損していても3次元モデルを構築できることを示した.

  • 木下 幸治, 菅沼 久忠
    2023 年 2 巻 1 号 p. 233-238
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     本稿では,橋梁の効率的な維持管理技術である車輛通行に伴う加速度応答を用いた橋梁たわみモニタリング技術の検証結果と広域計測を試みた結果を報告する.地方自治体が管理する実橋梁を対象に試験車輛による走行試験を行い,加速度応答より算出したたわみと計測たわみとの誤差が0.1mm以内と十分な精度であることを確認した.また,重量が異なる3種類の試験車輛の走行試験より対象橋梁が弾性的に挙動していること,2年後のたわみに経時的変化がないこと等を明らかとし,実橋梁へ適用可能であることを示した.その上で,効率的な広域たわみ計測方法を提案し,静岡県浜松市が管理する42橋梁を対象に実施した広域計測結果から,対象橋梁群の経時的なデータ取得により,経時的な変化,および類似橋梁の特徴量の取得などに活用できる可能性を示した.

C.マネジメント
  • 木村 秀治, 戸田 祐嗣
    2023 年 2 巻 1 号 p. 239-245
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     近年の自然災害の多発や,気候変動への的確な対応の必要性などから,降水量などの水文観測データの品質確保の重要性は一層高まっている.降水量データの品質確保を図る上では,観測所周辺の環境整備,特に支障となる樹木の伐採は重要であるが,様々な事由で適切に実施できていないケースもある.それは,樹木伐採効果に関する定量的評価情報が,存在しないことも遠因と推測する.本論文では,雨量観測所周辺の樹木伐採の効果を定量的に把握するため,レーダ雨量を説明変数とした回帰分析を行った.そして,回帰係数の変化を近隣観測所と比較・分析し,伐採後に相対的に降水量が増加したことを明らかにした.さらに,説明変数にダミー変数と交互作用項を加えて重回帰分析を行い,伐採前後の回帰係数の差が統計的に有意であることを示した.

  • 大懸 重樹, 坂本 信一, 高田 怜
    2023 年 2 巻 1 号 p. 246-254
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     市区町村が管理する道路トンネル(以下,トンネルという.)は, 地域住民の生活に密着した道路上にあるものが少なくない.基礎自治体の予算や人員等のリソースが限られる中,対象とするトンネルの社会的効用や技術的評価を踏まえて管理区分および管理水準を設定し,メリハリのあるトンネルマネジメントを実践することが重要である.本稿では,富山市の持続可能なトンネルマネジメントの考え方を紹介するとともに,生活道路上にある吉谷トンネルを事例として,メンテナンスに係る一連のマネジメントプロセスを実践し,手法の有効性を説明する.自治体の持続可能なトンネルマネジメントの実践を紹介する.

  • 寺山 一輝, 大坪 千夏
    2023 年 2 巻 1 号 p. 255-262
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     高度経済成長期に建設された多くの橋梁が老朽化し,その維持管理費用が今後増加することが予想されている.こうした中で,すべての橋梁を健全な形で維持していくことには限界があるため,維持管理の優先度を判断することが求められている.そこで本研究では,道路ネットワークの接続性と構造物の劣化度を考慮した橋梁の維持管理の優先度を計測・評価する.道路ネットワークの接続性は,Betweenness-Accessibility指標を用いることで居住者のアクセス利便性を反映する.石川県輪島市をケーススタディとして分析を行った結果,道路の接続性が高く,構造物の健全性が低い橋梁が複数存在していることが明らかとなった.また,本手法を用いることによって,構造物の健全性が低い,かつ道路ネットワークの接続性が低い橋梁は廃橋の候補として抽出することが可能となった.

  • 山﨑 正敏, 武者 琢磨, 長井 俊樹
    2023 年 2 巻 1 号 p. 263-268
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     大月保線技術センターは,東京都から山梨県を結ぶ中央本線,藤野~春日居町駅間における軌道の保守管理を行っている.管内は山間区間であり,曲線区間が多く,トンネルや橋梁等の構造物が多いことが特徴である.現在は電化路線だが,蒸気機関車で走行していた時代から使用している構造物も数多く残っている.特に建築限界が十分でないトンネル(以下,狭小トンネル)内の軌道変位に対し保守管理に苦慮している.なおかつ狭小トンネルでは山からの湧水の有無,勾配,線形など場所ごとに特徴があり,様々な要因が軌道変位進みを助長している.本稿では,大月保線技術センターで取り組んでいる狭小トンネルにおける軌道修繕事例や今後の展望について紹介する.

  • 北川 一希, 水野 光一朗, 安田 武道, 鈴木 尊, 藤井 幹生
    2023 年 2 巻 1 号 p. 269-278
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     本稿では新潟県中越地震および東北地方太平洋沖地震により発生した既設山岳トンネルにおける大規模な被害の状況や被害原因の分析についてレビューを行った.レビューにより,地震被害の対策として行われた原因に基づく復旧の要点,被害を防止するためのトンネル耐震対策の対象箇所の選定の考え方を示した.次に,過去の被害分析の知見を踏まえて制定した山岳トンネルの耐震対策に関する技術資料の制定の経緯や構成,特徴を示した.本技術資料は,地震被害の復旧や山岳トンネルの耐震対策に携わる技術者が,実務に活用できるように作成したものであり,本技術資料の制定により期待される効果について示した.

  • Isamu Poy, Seiko Goto, Aoi Koga
    2023 年 2 巻 1 号 p. 279-285
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     Street trees play an important role in the urban environment and have positive social impacts, such as improving human health. However, they can potentially be hazardous if not properly maintained. Although periodic tree assessments are necessary in urban forest management tasks, such assessments are often neglected because of the lack of trained professionals in local cities. This study aimed to develop a comparison of image classification to identify the problems associated with trees using a limited number of training samples using image classification, object detection, and semantic segmentation.

  • 古賀 掲維, 内田 大成, 石井 抱, 島﨑 航平, 出水 享, 松田 浩
    2023 年 2 巻 1 号 p. 286-295
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     橋梁をはじめとする交通インフラは,高度経済成長期に整備され,現在,建設後50年以上経過し,一斉に更新時期を迎えることが予想されており,点検,健全度診断,補修優先度,架替えの判断を効果的,効率的に行う必要がある.本論文では,構造物の効果的,効率的な損傷同定方法の確立を目的として,非接触かつ遠距離測定が可能な計測方法の一つであるレーザードップラ速度計を用いて,はりの固有振動数及びたわみを計測し,損傷が固有振動数やたわみに与える影響について検討している.さらに,有限要素法を用いた移動荷重を受けるはりの時刻歴応答解析から,損傷の有無がわたみの時刻歴応答に及ぼす影響について比較検討を行い,損傷がないはりと損傷があるはりのたわみの時刻歴応答の変化率を求めることによって損傷の有無と位置を特定できることを示した.

  • 木下 幸治, 沢田 和秀
    2023 年 2 巻 1 号 p. 296-301
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     岐阜大学の社会基盤メンテナンス・エキスパート養成講座(ME養成講座)は,平成20年度から現在に至るまでに550人以上MEを認定し,かつすでに国内展開を行ってきている先進的でかつユニークな社会人のリカレント教育プログラムである.著者らはこの岐阜大学のME養成講座をベースに,ザンビアでの技術定着のためにカスタマイズした橋梁技術者育成プログラムの技術移転の取組を進めている.本稿では,JICA事業と連携したJICAザンビアプロの取組に至った経緯,JICAザンビアプロの取組の具体的な内容,CIAMの国際展開領域の設置,国際展開した枠組みの持続的な体制構築の国際展開の試みを紹介する.

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