九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会
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  • 第1報:利用者へのアンケート
    野尻  良, 吉村 尊子, 川口 和久, 大里 泰彦, 前田 英児
    セッションID: 201
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     在宅での訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)の介入により直接生活に効果が反映される訪問の現場では、常に現在の状態やリハビリテーション目標・内容について利用者と情報を共有していくことが重要である。また、在宅で生活を送るためには本人・家族のみでなくケアマネージャー、その他介護サービスの利用により複数のスタッフがかかわることが多い。それらは同一事業所だけでなく各種サービスに応じて複数の事業所が関わることも多く、その全てが常に利用者の情報を共有することが必要であると考える。
     そこで、今回利用者とそれに関わるスタッフが密に情報を共有することを最終課題とし、利用者と訪問リハスタッフ間の現状について調査したことをここに報告する。
    【対象と方法】
     当院訪問リハビリテーションの利用者14名に対しアンケートを実施。記入は本人、または家族による代筆とした。アンケート結果を集計し、その結果を考察し今後の方針・対策を検討した。
    【結果】
     訪問回数について1回5名、2回8名であったが、うち5名が不満と回答した。訪問リハの内容や目標に関しては14名全てが満足と答えた。訪問リハに求めるものとしては現状維持が8名、身体機能の改善が6名で、生活の改善と答えたのは0名であった。また、ケアマネージャーやその他スタッフとの連携については全員が出来ていると答えた。
    【考察】
     回数への不満に関して、訪問回数が1回、2回で訪問リハの目標・目的を満たしているケースはその説明が不十分なこと、またリハビリテーションに対して受け身な捉え方になっていることなどが考えられる。一方でそれ以上の訪問回数が必要であるが、利用者もしくは訪問リハスタッフの時間的制約から訪問の回数を増やすことが困難なケースも考えられる。
     今回のアンケート調査で詳細な判断は難しいが、どのケースに対しても訪問回数は限られている。しかし、それ以外の日常生活の中でどのようにリハビリテーションに取り組んでいくことができるかを検討することで解決できる要素を含んでいると考える。また、訪問リハへ求めるものとして生活の改善ではなく身体機能の改善との回答が多かったことからもリハビリテーションと生活のつながりが利用者の意識の中で低いことも見えてきた。これらの問題解決にはセラピストや利用者のみでなく利用者を取り巻く家族やケアマネージャー、その他利用者に関わる介護スタッフまで全員がこの問題を共通認識として持ち、利用者と接していくことが重要であると考える。
     今後ケアマネージャーへのアンケート調査により第2報として利用者やセラピスト・ケアマネージャー間での認識の差を調査することでよりよいサービスの提供ができるようこの問題の解決に取り組んでいきたいと考えている。
  • 盛小根 康, 荒木 伸, 仲間 教恵, 藤山 二郎
    セッションID: 202
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     臨床場面において、肺炎後廃用症候群患者が入院経過中に肺炎などを繰り返すケースをしばしば経験する。肺炎再発はADL 低下や全身状態の悪化を来たすといった悪循環に陥りやすいため、肺炎の再発予防へのアプローチが非常に重要である。しかし肺炎後廃用症候群の臨床的特徴や肺炎発症要因等に関する先行研究は少ない。
     今回、肺炎後廃用症候群患者における肺炎発症要因の検証を目的に、当院へ入院した肺炎後廃用症候群患者の実態調査を実施し、臨床的特徴について若干の考察を加え報告する。
    【対象と方法】
     対象は平成19年4月から平成20年10月の間に肺炎後廃用症候群の診断にて当院へ入院した患者38名(男性18名、女性20名、平均年齢82.4±9.6歳)。
     調査項目は脳血管疾患既往、呼吸器疾患既往、入院時FIM、嚥下障害の有無、入院中の感染症発症の有無の5項目とし、医師カルテおよびリハビリ診療記録より調査した。
    【結果】
     脳血管疾患既往は脳卒中22名(57.8%)、パーキンソン病またはパーキンソン症候群13名(34.2%)であった。また吸器疾患既往は16名(42.1%)であった。入院時FIM38.11±23.54点、嚥下障害有り33名(86.8%)であった。入院中の感染症発症の有無については肺炎12名(31.5%)、尿路感染5名(13.2%)、気管支炎2名(5.3%)、感染症発症なし19名(50%)であった。
    【考察】
     本調査から肺炎後廃用症候群は高齢、脳血管疾患既往、FIM低値、嚥下障害の項目において強い関連性を示していると考える。多くの患者は脳卒中やパーキンソン病による嚥下障害を呈し、加齢に伴う嚥下機能低下や口腔内細菌の影響により、維持期の経過の中で肺炎リスクを増大させているものと予想される。またFIM低値を示していることは嚥下機能に関与する座位保持能力の低下も推測され、誤嚥性肺炎のリスク増大に関連していると考えられる。当院では肺炎後廃用症候群の肺炎再発の予防に向けて嚥下や口腔ケア、ポジショニング等に対して積極的なチームアプローチを実施している。しかし今回の調査にて31.5%の患者において肺炎再発が認められたことから、肺炎再発予防に向けた肺炎要因の分析とアプローチを再考する必要があると考える。
     今後、肺炎後廃用症候群患者における肺炎再発群と非再発群間でのさらなる要因の詳細を検討していきたい。また理学療法士もチームの一員として、肺炎予防に向けた呼吸機能の改善やポジショニングの工夫などを積極的にアプローチしていくことが臨床現場にて求められていると考える。
  • ~創造的手工芸は今~
    三瀬 由美子, 山田 康二, 河津 由佳, 渡辺 綾, 仲村 陽子, 洲上 祐亮, 入口 晴香
    セッションID: 203
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     平成17年6月,県内作業療法士を対象とした作業活動(activity)を研究する会が立ち上がった.作業活動の指導技術と普及・啓発を目的に,月1回活動している.
     今回,作業療法手段としての創造的手工芸の使用が少ないのではないかと考え,実態調査を行ったので報告する.
    【方法】
     大分県下の協会員が勤務する全施設,計136施設にアンケート調査を行った.調査期間は平成20年6月から7月の1ヶ月とした.
     主な質問内容は、「施設で用いている作業療法手段上位3項目」,「作業療法手段として創造的手工芸を用いているか?」,「用いている創造的手工芸の具体的種目」,「頻度・時間・創造的手工芸についてどう思うか(自由解答)」である.
    【結果および考察】
     136施設中68施設より返信があり,回収率50%.内訳は身障29施設,老人25施設,発達2施設,精神12施設であった.
     どの分野においても8割以上が手工芸を作業療法手段として使用していた.また,作業活動の内容としては貼り絵や塗り絵等の紙を使った作業活動が多く,安価で導入しやすいことが考えられる.創造的手工芸の目的として,身体機能面では,主に巧緻性の向上.精神機能面では,注意・集中力・自発性の向上が多かった.対人交流・楽しみなど,周囲との関連も含まれているものは,集団活動が多い精神・老人分野に見られる.創造的手工芸の完成までにはある程度の時間が必要である.その時間内,活動に対する興味・関心・責任感などが生まれ持続する魅力が創造的手工芸にはあるといえる.対人交流について,精神・老人の分野において目的が上位だった事は創造的手工芸が一つの作品を複数の対象者に用いる事が出来る.また集団における訓練の相乗効果が得られやすいと思われる.頻度や時間は各分野でばらばらであった.これは対象者の耐久性,セラピストがかかわる時間,作業の内容ではかなり差があり,作業の自由度が高いことがうかがえる.
    【まとめ】
     今回の調査により,大分県における作業療法では創造的手工芸が各分野において治療手段として上位に位置づけられていることがわかった.また,創造的手工芸を行いたいが行えていないという現状に関しては,施設側の物理的な問題や,本人の知識や技術不足の原因も考えられる.
     今後も作業療法の原点である作業活動について,当研究会では,創造的手工芸を中心に作業療法手段としてのあり方など,調査・研究を展開していきたいと考える.
  • 西 智洋, 福留 清博 (PhD), 米 和徳 (MD), 前田 哲男, 川井田 豊, 松下 寿史
    セッションID: 204
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     臨床において広く用いられている上肢機能の評価法として,指鼻試験や線引き試験などが挙げられる.これらは非常に簡便ではあるが客観性に欠けるという問題点を抱えている.障害の程度の定量的評価が実現できれば,験者間での情報の共有や治療法の比較検討が可能となり,リハビリテーションの効果や経過の把握に役立つなど,臨床の場面での活用が見込まれる.我々はこれまでペンタブレットと自作プログラム,ノートPCを組み合わせ,座標,筆圧,時間のデータを経時的に取得可能な上肢機能の定量的評価システムを作製し,第44回日本理学療法学術大会で報告した.今回は,評価システムを健常成人(以下若年者)と健常高齢者(以下高齢者)に適用し,若年者と比較した高齢者の上肢協調性について検討するとともに,筆圧が上肢機能評価の対象として有効であるかについても検討した.
    【対象と方法】
     本研究では体幹および上肢に整形外科的・神経学的疾患の既往がない右利きの若年者21名および高齢者22名を対象とした.全ての被験者には本研究の目的や方法などを説明し,同意を得た後に実施した.なお,本研究は当大学医学部疫学・臨床研究等倫理委員会にて承認されたものである.被験者にはペンタブレット(WACOM社製,Intuos3 PTZ-930)上に提示された図形(正弦波形)をデジタルペンでなぞる描画課題を快適速度で行い,描画中はデジタルペン以外がタブレットと触れないように指示した.算出したデータは垂直方向の座標値変化,筆圧の平均値,筆圧の変化,筆圧の主成分の割合,描画時間である.若年者と高齢者との関係の検討には対応のないt検定を使用した.
    【結果】
     垂直方向の座標値変化は高齢者が若年者と比べて有意に大きい値を示した(p < 0.01).筆圧の平均値は,若年者と高齢者との間に有意差は認めなかった(p > 0.05).筆圧の変化は高齢者が若年者と比べて有意に大きい値を示した(p < 0.01).筆圧の主成分の割合は若年者が高齢者と比べて有意に大きい値となった( p < 0.05).正弦波課題を一課題遂行するために必要な描画時間は若年者と高齢者との間に有意差は認めなかった(p > 0.05).
    【考察】
     垂直方向の座標値変化は高齢者が若年者と比べて大きな値となったが,これは高齢者の空間調節能力低下を表しているものと考えられる.全体の筆圧変化量は高齢者が若年者と比べて大きな値となった.これは筋収縮が時間的・空間的に必要最小限とならないことによる効率低下が原因として考えられる.高齢者において筆圧の主成分の割合が減少したが,この原因として高齢者は時間調節能力の低下による円滑な動作の欠如,力の調節能力低下による合目的な筋収縮の欠如が考えられる.以上の結果から,高齢者は上肢協調性が低下していること,筆圧は上肢機能評価の対象として有用であることが見出された.
  • 川井田 豊, 福留 清博(PhD), 西 智洋, 松下 寿史, 上嶋 明(PhD)
    セッションID: 205
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     重心動揺検査では足圧の中心位置座標(x, y)の動揺に着目して解析されるが,その時間変化(全足圧動揺)については,体重に相当するため,変わらない一定値とも思われてきた.ところが,稲村らにより,全足圧動揺には小さな振幅ながら周期的信号が重畳していることが報告された.興味深いことに,その周期はヒラメ筋の生理的振戦に相当する.現在のところ全足圧動揺について基本的メカニズムは未解明ではあるが,もしヒラメ筋に由来するのであれば,高齢者や片麻痺患者,パーキンソン病患者の転倒の予測評価に結び付く可能性がある.そこで,今回,当研究室で開発したプログラムを用いてバランスWiiボード(以下Wiiボード)により全足圧動揺を計測し探索的研究を行った.
    【対象と方法】
     重心動揺計の代替品として,パーソナルコンピューター(以下PC)にBluetoothで接続したWiiボードを用い, Excelのシートに質量と足圧中心座標値の時間依存性を直接記録できるようにプログラミングした.被験者は若年健常人5名とし,サンプリング時間20msで約20sの静止立位状態のデータをWiiボードからPCに取り込んだ.その後,足圧時間変化から直流成分を差し引き,窓関数にHanning関数を使用して高速フーリエ変換(FFT)し全足圧動揺に振戦が含まれていないか検証した.なお,この研究は本大学医学部疫学・臨床研究等倫理委員会の承認を得た上で実施した.
    【結果】
     一例として被験者Aでは,20秒間の平均値と標準偏差は72.0±0.1kgwであった.この平均値が俗にいう体重である.そして,この僅かな分散についてFFTにより得たパワースペクトルに2つのピークを見出した.静止立位状態においても,被験者Aでは約5Hzと約7Hzの振戦を呈していることが判った.
    【考察】
     今回の結果から,重心動揺検査と同時に測定される全足圧動揺には先行研究(筋電図,筋音図)で得られた値(8-10Hz)とほぼ同じ振動が含まれ,ヒラメ筋活動に伴う生理的振戦との関連性が疑われる。また2峰性のパワースペクトルが,普遍的であるかは多くの被験者についてデータを蓄積する必要がある。このように,今回得た全足圧動揺に含まれる振動が生理的振戦であるならば,若年者より大きいとされる高齢者の振戦をパワースペクトルの強度から算出でき,転倒リスク評価に利用できる可能性がある.しかしながら,全足圧の値を測定できるに過ぎず,そのため筋電図も併用して振戦箇所を特定する必要がある. 今回報告したように,当研究室が開発したWiiボードを用いたシステムでは,研究目的に限られるものの安価なWiiボードを重心動揺計として利用でき,しかも無線でデータを取得可能なため,場所を選ばずに検査できることから理学療法士・作業療法士にとって様々な応用が可能となるであろう.
  • 松下 寿史, 福留 清博(PhD), 西 智洋, 川井田 豊
    セッションID: 206
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     高齢者の転倒の原因の一つに,予測できない状況への対応の遅れ,すなわち敏捷性の低下が挙げられる.先行研究において健常高齢者における上肢と下肢との両敏捷性に相関があることが示唆された.これは上肢の敏捷性を評価することで下肢の敏捷性の評価が可能になることを意味する.そこで,患者に低負担・安全かつ験者にとって定量的な評価が可能であり,さらには安価で携帯性に優れた敏捷性評価システムの確立を最終的な目標として,今回はフィードバック制御に基づく反応時間を計測できるプログラムを作成し,フィードフォワード制御に基づく反応時間と比較検討した.
    【対象と方法】
     対象は健常成人男女21名(男性16名,女性5名),年齢23.9 ± 4.4歳,右利き20名,左利き1名であった.全ての対象者には事前に研究の目的と内容を説明し,同意が得られた後に実施した.本研究は当大学医学部疫学・臨床研究等倫理委員会にて承認されたものである.今回,音刺激に対してコンピュータの特定のキーをタップするまでの時間を反応時間として計測できるようにExcel VBAでプログラミングした.フィードバック制御とフィードフォワード制御の反応時間の取得には,それぞれ予告反応時間課題(警告音-命令音時間間隔8000 ± 250 ms,9回タップ/試行)と繰返反応時間課題(音刺激時間間隔3000 ms,50回タップ/試行)を利用して実現した.データは対応のあるt検定にて統計処理された.
    【結果】
     繰返反応時間課題においては,開始直後,音刺激に遅れて反応する(すなわち遅れてキーをタップする)が,徐々に音刺激に合わせるようになり,11回目からは音刺激とほぼ同時にタップできるようになった.ほぼ一定の反応時間を示す11-50回目までの平均値は14 ± 170 msであった.一方,予告反応時間課題では,予告音刺激で被験者に注意を促してはいるものの,命令音刺激に対する反応時間は,回数に大きくは依存せず,241 ± 62 msであった.両課題について得られた反応時間の間には,p < 0.01で有意差が認められた.
    【考察】
     繰返反応時間課題において,開始直後の反応時間の大きな減少は,音刺激の間隔が予測できないためフィードバック制御に頼らざるを得ないためと考えられる.その後,反応時間は徐々に減少しやがて一定値となった。この音刺激を予測し同期していく過程はフィードバック誤差学習で説明できる.しかしながら,予告反応時間課題では反応時間は241 ± 62 msであり,これは命令音刺激に対してフィードバック制御による応答しかできないためである.しかしながら転倒では聴覚より視覚が重要であることを考慮すると,今回開発したシステムを視覚刺激でも実施できるように改良することが今後の課題である.
  • 田中 靖之, 大田尾 浩, 今村 明子
    セッションID: 207
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     脳卒中片麻痺患者(以下,片麻痺患者)において,ADLや基本動作獲得における体幹機能の重要性は多くの先行研究にて指摘されてきた.しかし,既存のTCT(trunk control test)やSIAS(stroke impairment assessment set)では体幹機能を詳細に評価することは難しい.そこで片麻痺患者の体幹機能を評価する目的で臨床的体幹機能検査(functional assessment for control of trunk :以下,FACT)が開発された(奥田ら2006).FACTは治療指向的検査法であるとされ,検者間信頼性と内的整合性は検証されている.
     今回は,片麻痺患者に一般的に用いられている評価項目とFACTとの関連を明らかにすることで,FACTの妥当性と有用性を検討することを目的とした.
    【対象と方法】
     対象は,当院でリハビリを受けている片麻痺患者32名(男性16名,女性16名,平均年齢70.7±13.1歳,平均発症期間421.9±491.6日)だった.
     測定は体幹機能についてFACTを用いて測定し,ADL能力はFIMを,両側の下肢筋力は膝伸展についてMMTを用いて測定した.その他に上肢,手指,下肢の麻痺の程度をBr.ステージを用いて測定した.統計処理は,各測定値の関連についてSpearman順位相関係数を用いて検討した.また制御因子として年齢と性別で補正し,それぞれの測定値の関連を検討した.さらに,FACT得点が20点から10点のものをFACT高値群,9点から1点のものをFACT低値群として,それぞれの測定値をMann-Whitney検定にて比較した.統計学的有意水準は両側検定にて危険率5%未満とした.
    【結果】
     すべての項目においてFACT得点と有意な相関が認められた.また,年齢と性別で補正しそれぞれの測定値の関連を検討したが,FACT得点とすべての評価項目との間に有意な正相関(p<0.01)が認められた.さらにFACT得点高値群(11名)と低値群(21名)の2群間においても有意差が認められた.
    【考察】
     本研究の結果から,FACTの点数が高いほどADL能力が高いという関係が示された.また,FACT得点高値群と低値群の2群比較から体幹機能とADL能力との関連が示されたことにより,本研究においても先行研究で指摘されているように体幹機能がADL能力へ影響している要因の一つである可能性が示唆された.これらのことから,FACT得点と各評価法との関係が認められたことにより,FACTは片麻痺患者の体幹機能評価法としての妥当性と有用性が伺われた.
     今後はFACTとADL能力との関連をより詳細に検討し、ADL能力低下の要因を明らかにしていきたい.
  • 米田 香, 安田 直史, 村田 伸, 樋口 直明, 樋口 善久
    セッションID: 208
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当通所リビリテーション施設(通所リハ)では、利用者の心身機能にあわせたリハビリテーションプログラムを作成するために、半年毎に体力測定を実施している。先行研究では、加齢に伴う身体活動能力の低下は他の動作に先行して歩行動作に現れるとされ、歩行速度が体力指標として重要であることが報告されている。本研究は、要介護高齢者の体力測定の項目について、歩行やTimed Up & Go Test(TUG)との関連性から検討した。
    【対象と方法】
     対象は、当通所リハを利用している要介護高齢者のうち、歩行可能な49名(男性7名、女性42名、平均年齢83.1±6.1歳、要介護度:要支援1~要介護3)である。方法は2008年11月に握力、箸での豆つまみ動作、5m最大歩行時間、TUG、長座位体前屈距離を評価した。握力の測定は、直立姿勢で腕を体側に垂らした状態で最大握力を測定した。豆つまみ動作は10粒の大豆を箸で椀から椀へ移す所要時間を測定した。歩行速度は平地11mを歩行してもらい中間の5mを測定区間として所要時間を計測した。TUGは椅子に座った姿勢から立ち上がり3m先の目印まで最速で歩いて折り返し再び椅子に座るまでの所要時間を測定した。長座位体前屈距離は壁に背と臀部をつけ、肩幅の位置で肘を伸展し測定器に手をついた長座位姿位から前屈し測定器の移動した距離を測定した。統計処理は、各測定値間の関係について、ピアソンの相関係数を用いて検討した。なお、統計学的有意水準は5%とした。
    【結果】
     相関分析の結果、TUGと歩行時間(r=0.79,p<0.01)、TUGと豆つまみ動作(r=0.43、p<0.05)に有意な正の相関が認められ、TUGと握力(r=-0.47、p<0.01)、歩行時間と握力(r=-0.39、p<0.01)に有意な負の相関が認められた。一方、長座位体前屈距離はすべての測定値と有意な相関が認められなかった。
    【考察】
     一般に、身体の柔軟性は運動に伴う障害の予防や後療法の評価として重要と考えられている。ただし、今回の結果では、柔軟性の指標とした長座位体前屈距離は、要介護高齢者の歩行やTUGとの関連は認められなかった。これは歩行やTUGの速さの要素には筋力や俊敏性が必要と考えられ、長座位体前屈によって計測される柔軟性では俊敏性や協調性は評価されないためと考えられた。反面、豆つまみ動作とTUGに相関が認められたのは、豆つまみ動作が俊敏性と協調性を必要とする動作であるためと推察した。また握力は、高齢者の体力を反映する指標であることが既に報告されているが、今回の結果も先行研究を追認した。
  • 塩崎 智之, 志田 啓太郎
    セッションID: 209
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     移動手段の自立は利用者本人の自立心を養う上で重要な要素であり、特に歩行での移動の獲得は利用者の施設内の生活範囲の拡大と生活に対する自信にもつながる。その為には利用者の現状の正確な能力をセラピストと、リハビリチームスタッフである日常生活に関わる看護・介護職が共有し、利用者の日常生活に反映される事が必要で、その為の効果的な判定表が有用と考える。
     第一報ではBerg balance scale(BBS)が有用と示唆されたが、先行研究では安全な歩行判定には精神面と認知面を考慮する必要性があげられている。今回は精神面として日本版Fall Efficacy Scale(FES)を、認知面としてstop walking when talking test(SWWT)を取り入れ、歩行自立度判定表の作成を目指した。
    【対象と方法】
     対象は介助なしで10m歩行可能な入所者18名(歩行補助具使用可、認知症や失語症によりコミュニケーションが困難な者は除外)。方法は施設内移動別に車椅子群・歩行生活群の2群に分けBBS、FES、SWWTを測定。BBS、FESに関しては2群の得点をMann-whitneyのU検定にて群間比較した(危険率は5%未満)。また、2群の平均値の中間得点をカットオフとし、車椅子群の的中率を求めた。SWWTに関しては車椅子群と歩行生活群によって歩行の中止に差があるかを検証した。
    【結果】
     歩行生活群と車椅子群との間でBBS得点、FES得点のどちらも有意差を認めた。BBSについては歩行生活群の平均が52点で車椅子群が41点であり、カットオフを47点とした際の的中率は89%であった。FESについては独歩群の平均が37点で車椅子群が26点であり、カットオフを32点とした際の的中率は78%であった。SWWT中止群は7名であり全て車椅子群であった。継続群は11名であり、うち2名が車椅子群、9名が歩行生活群であった。
    【考察】
     結果よりBBS、FES、SWWTは当施設での歩行自立困難者の選定に有用であることがいえる。BBSでは的中率が89%であり、FESでは78%であった。先行研究にて歩行自立のカットオフ値としてBBSは45点、FESは29点という報告がある。
     本研究で協力を得た歩行生活群は3項目の全てでカットオフ値を上回った。また、車椅子群は3項目中1項目はカットオフ値より下回っており、3項目での予測によりハイリスク転倒者の選定が可能と考える。これらより、今回設定したカットオフ値での当施設での歩行自立困難者の選定に妥当性があることがいえる。
    【おわりに】
     今回の研究でBBS、FES、SWWTの3項目が有用と示唆された。今後は3検査の結果を考慮し、施設内カンファレンスで、各職種の意見交換を行い安全な移動方法を検討していく。また、継続して縦断研究による予測妥当性の検証を実施していく。
  • 大石 賢, 矢倉 千昭, 高柳 公司, 平川 樹, 横田 悠介, 田邊 花倫, 太田 友樹, 中原 雅美
    セッションID: 210
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     椅子や台から立ち上がりは,日常の生活の中でも頻度が高く,ADL自立に影響する動作である.これまで,我々は,手すり支持椅子立ち上がり(HSCS)テストと下肢筋力,歩行能力およびADL評価のBarthel Indexと関連することを報告し,HSCS-30テストを3ヵ月に1回行われる通所リハの運動機能評価の1項目にしている.本研究では,通所リハ利用者を対象に,HSCS-30テストの経時的変化,下肢筋力および身体パフォーマンステストの変化との関連について調査することを目的とした.
    【対象・方法】
     対象は,6ヵ月前後でHSCS-30テスト,下肢筋力および身体パフォーマンステストを測定した通所リハ利用者32名(男性17名,女性15名),平均年齢71.7±12.4歳であった.事前に,すべての対象者に口頭で本研究の目的と内容を説明し,同意を得た.HSCS-30テストは,42cmの高さの椅子に座って手すりを支持し,30秒間の立ち上がり回数を測定した.下肢筋力は等尺性膝伸展力を測定し,身体パフォーマンステストとして,開眼片脚立ち時間,Timed up & Go(TUG)テスト,5m歩行時間を測定した.6ヵ月前後のHSCS-30,下肢筋力および身体パフォーマンステストの比較は,対応のあるt検定とWilcoxon検定を用いた.6ヵ月前のHSCS-30テストと下肢筋力および身体パフォーマンステストとの関係,6ヵ月前後の変化量の関係は,Spearman順位相関を用いて分析した.
    【結果】
     6ヵ月後,HSCS-30テスト,TUGテストおよび5m歩行時間は有意な増加がみられなかったが,下肢筋力と開眼片脚立ち時間は有意な増加がみられた(p<0.05).また,すべての対象者のうちHSCS-30テストに維持・向上がみられたのは18名,低下がみられたのは14名であった.6ヵ月前のHSCS-30テストは,下肢筋力(r=0.65,p<0.01),開眼片脚立ち時間(r=0.44,p<0.05)およびTUGテスト(r=-0.37,p<0.05)と有意な相関があり,有意でないものの5m歩行時間とボーダーラインの相関があった(r=-0.34,p=0.06).6ヵ月前後のHSCS-30テスト変化量は,下肢筋力変化量と有意な相関がなかったが,TUGテスト変化量(r=-0.58,p<0.01)および5m歩行時間変化量(r=-0.57,p<0.01)と有意な相関があった.
    【考察】
     本研究の結果,HSCS-30テストは,歩行能力の変化を推定することが可能な身体パフォーマンステストとなる可能性が示された.HSCS-30テストは,手すりを支持して椅子から立ち上がって再び座るという簡単な動作の反復であり,バランスを崩して転倒するリスクも低く,在宅など狭い空間で測定できる有用な身体パフォーマンステストになると考えられる.
  • 竹内 睦雄, 山室 美幸, 濱崎 寛臣, 大久保 智明, 野尻 晋一, 江口 宏, 鈴木 圭衣子, 百留 あかね, 米田 恵美子, 江原 加 ...
    セッションID: 211
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回、在宅パーキンソン病(以下、PD)者のHoehn-Yahrの重症度分類(以下、stage)と介護負担感の関係性について調査したので報告する。
    【対象】
     2009.4.1現在で当訪問リハビリテーション(以下、訪問リハビリ)センターから訪問リハビリを受けているPD13名と、同居している家族のうち主に介護を行っている主介護者13名。
    【方法】
     介護負担感を示すZarit介護負担尺度日本語版(以下、J-ZIB)と、生活満足度を示すPGCモラールスケール(以下、PGC)を主介護者に調査した。J-ZIBとstage、PGCの相関関係をスピアマンの順位相関係数を用いて調査した。PD者の生活状況の指標として機能的自立度評価表(以下、FIM)を調査した。尚、本研究は当院倫理委員会の承認を得て、対象者には調査の目的・内容を説明し、同意を得た上で実施した。
    【結果】
     各stageのJ-ZIBの得点は、stageII:28.0±5.7点、stageIII:22.0±2.7点stageIV:38.5±11.4点、stageV:20.5±2.1であった。各stageのPGCの得点はstageII:6.0±0点、stageIII:13.0±4.6点、stageIV:7.5±3.6点、stageV:10.5±5.0点であった。PGCとJ-ZIB、 stage間に相関は認められなかった。J-ZIBとstageで相関は認められなかったが、stageII、III、VのJ-ZIBの平均点が同程度であるのに対し、stageIVだけが高い値を示した。FIMではstageII、IIIに比べてstageIVで5点以下となる項目が多く、stageVでは1点の項目が多かった。
    【考察】
     今回、各stageの主介護者の介護負担感を調査した。stageIVの主介護者のJ-ZIBが最も高いという結果となった。StageIVはADL全般に介助が必要となる時期であるため、主介護者の介護負担感が最も高くなったと考えられた。それに対し、stageII、IIIは時間をかければADLは自立可能な時期であること、stageVはADLがほぼ全介助であるが寝たきりのため主介護者の生活時間に合わせて介助を行えることが、stage IVに比べて介護負担感が低くなった要因と考えられた。
     J-ZIBとPGC、PGCとstage間では相関が認められずPDが進行性疾患で今後症状が重度化していくことや、それによって介護負担が増大していくことが、主介護者の生活満足度の低下に直接的には影響していないことを意味する結果となった。
     今回の結果から、PD者に対して、ADLが自立している期間を継続できるような訪問リハビリの介入を行い、介護負担感が増大してくる時期では各職種間で主介護者の介護負担感を軽減できるような連携を図っていく必要があると考えられた。
  • 在宅での適切な介助を行うための意識調査
    百田 昌史, 石田 治久, 生駒 英長, 早川 武志, 高木 桂子, 水田 聡美, 橋口 鮎美, 田尻 香織, 本江 篤規, 毛利 誠
    セッションID: 212
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院では、神経内科を開設しており、訪問看護ステーションでは神経難病患者の訪問リハビリテーションを行う機会が多い。その中でも、特にパーキンソン病患者への訪問リハビリテーションに力を入れている。その際に患者や家族から介助量についての相談を受けることも多く、患者及び家族にそれぞれの介助状況についての調査を行うと、患者自身と家族との間に起居移動動作に対する認識に相違がみられることも少なくない。在宅生活では活動量が低下しやすくなるため、起居動作などを通して動作に必要な筋力等を維持していくことが重要となる。しかし、患者と家族の認識の違いによって「過介助」や「過少介助」を引き起こす弊害が生じる可能性が考えられる。そのため今回、適切な介助量のもと介助を行えるよう、患者及びその家族に対し起居移動動作能力に関する意識調査を行ったため、その結果をここに報告する。
    【対象】
     在宅生活を送られているパーキンソン病患者11名(ヤールのステージII~V)及びその家族(または介護者)
    【方法】
     患者とその家族それぞれに対して、寝返り・起き上がり・立ち上がり・歩行の4項目についてVisual Analogue Scale(以下VAS)にて評価を行った。「全く出来ない」を0ポイント、「簡単に出来る」を10ポイントとして評価を行い、家族が患者の動作能力を過小評価(家族のVAS+2以上)している割合と、過大評価(患者のVAS+2以上)している割合を調査した。
    【結果】
     寝返りは11組中3組(27%)に過小評価、2組(18%)に過大評価がみられた。起き上がりは11組中4組(36%)に過小評価、2組(18%)に過大評価がみられた。立ち上がりは11組中3組(27%)に過小評価、1組(9%)に過大評価がみられた。歩行は11組中2組(18%)に過小評価、2組(18%)に過大評価がみられた。
    【考察】
     今回、患者と家族の間で動作能力の認識に差がみられたのは、パーキンソン病の特徴である、日内変動やwearing‐off、すくみや無動(寡動)の影響により一日の中でも動作能力に差が生じるためと考えられる。脳血管疾患や整形疾患等は疼痛の有無や体調の変動により動作能力に差がみられることもあるが、ある一定のレベルでの介助量を定めることが出来る。しかし、パーキンソン病は上記の症状により一日の中でも状況に合わせて介助方法を変更する必要があり、その対応はとても難しい。そのため、一定の介助方法になりやすく、患者と家族の動作能力の認識に相違が生じてしまうと考えられる。
    【今後の課題】
     在宅で適切な介助を行えるよう、訪問理学療法士として求められることは、正確な患者の身体能力の評価や、日内変動の把握を行い、それを家族に理解してもらうこと、状況に合わせた家族への介助方法の指導を行うことであると考える。今回の調査を参考に、今後は、家族にも簡単に行える日内変動の把握方法を確立し、また、その時の介助量を数値化していけるよう検討を続けていく。
  • 訪問リハビリテーションのかかわりから
    西小野 美和
    セッションID: 213
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院は脳疾患専門の急性期病院である。急性期から回復期、訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)、通所リハビリテーションと在宅復帰へ向け切れ目のない支援を行っている。今回訪問リハスタッフとして加わり訪問リハ利用者と家族との関わりを通して重症者の在宅復帰に関して若干の知見を得たので報告する。
    【症例紹介】
     70代女性、X年12月脳塞栓症発症し重度左片麻痺となる。約5ヶ月の入院を経てX+1年5月当院回復期リハビリテーション病棟を経由して在宅復帰した。ブルンストロームステージ左上肢、手指、下肢ともに2、日常生活活動(以下ADL)はバーテルインデックス0点で認知症の夫と主介護者である娘の3人暮らし。
    【介入の目的】
     利用者のADL能力向上、福祉用具使用方法の確認と介護指導を目的に訪問リハ開始。
    【介入と経過】
     入院担当者が退院前訪問指導行いベッド固定式電動リフト、電動ギャッジアップベッド、リクライニング式車椅子を選定。福祉用具業者同席のもとリハビリテーション室でデモ機使用し主介護者へ繰り返しの指導と練習を行う。訪問リハ利用の依頼受け情報収集と同時に指導内容の統一を図るため練習に参加し福祉用具の操作方法を入院担当者と確認。食事、排泄は看護師が胃瘻の取り扱いとオムツ交換方法を指導。入浴はデイサービスで行うよう調整し退院。主介護者は積極的に指導を受けながらも在宅復帰への不安を抱えていた。翌日より訪問リハ開始、居住環境ではスペースが限られるため福祉用具が安全に使用できる配置となっているか使用状況を見て確認。用具使用のスペース、操作方法は獲得できていたが、安全面で移乗時の左下肢のポジショニングに再指導を必要とした。また屋外移動のため車椅子での動線を確保し手順を確認した。
    【結果と考察】
     介護者に負担なく安全な移乗動作を獲得したことで家族と利用者の希望である散歩に出掛けることができ、現在もショートステイを利用し介護負担の軽減を図りながら在宅生活を継続している。在宅復帰には家族の不安や負担が伴う。本利用者はADLの介助量が多く、夫も認知症で介助が必要であったため介護者の負担軽減と心理的な支援が重要であった。適切な福祉用具の選択と十分な練習ができたこと、入院担当者と訪問担当者が情報を共有し指導内容を統一できたこと、介護者の負担軽減を考慮したADLを獲得できたこと、入院から在宅への支援が切れ目なく調整できたことが介護不安軽減につながったと考える。
  • 左片麻痺を呈した主婦との出会い
    入口 晴香, 森 勉, 甲斐 裕介, 長田 真由美, 大垣 敏弘, 佐藤 孝臣
    セッションID: 214
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     左片麻痺を呈しながらも主婦として家事全般に取り組んでいる女性(以下、A氏)と出会った。A氏は高い能力を持ちながらも、生活や人生に対して悲観的であり、背景に「効率の良い家事ができていない。」という質に対する不満を抱いていることが伺えた。
     そこで、家事動作の質の向上を目標とした環境作りや心身機能の促進を行い、活動・参加の質の向上に繋げることができた。さらに、このことが希望を持って前向きに生きるきっかけとなり、様々なことに挑戦を始めるという良い循環を作ることができた。以下、経過をふまえ事例報告をする。
    【事例紹介】
     60代女性。H20.2脳梗塞を発症し左片麻痺を呈する。K病院、Y病院を経てH20.7自宅退院。要介護1の認定を受け、H20.9より当施設利用開始(2回/週)。夫・息子と3人暮らしの現役主婦。以前より多趣味で洋裁・踊りなどをしていた。地区の民生委員を務めるなど社会参加も活発であった。
    【利用開始時評価】
     BRS(Rt):下肢-上肢-手指:VI-VI-II。Mental:認知症なし。感情失禁あり。「誰とも会いたくない」「迷惑がかかる」と悲観的な思考・発言多い。移動は両側金属支柱付き短下肢装具・T-cane使用にて自立だが立位・歩行時の不安定さあり。5m歩行:23.59秒。3m折り返し歩行:24.59秒。立ち上がり10回:24.59秒。握力:右18.5kg。FIM:107/126点。
    【経過と変化】
     利用初期より意図的に、脳卒中後遺症を呈する主婦や障害受容の進んでいる利用者と過ごし意見交換、共感、叱咤激励を受けられるよう環境設定をした。そのような環境の中で、A氏は徐々に自己の障害と向き合い、希望を口にするようになった。同時に立位・歩行の安定性向上を目指した運動を取り入れ、まずは家事動作においての上肢の自由度向上に繋げることを目標とした。半年後、身体機能に関しては5m歩行:9.44秒。3m折り返し歩行:18.4秒。立ち上がり10回:10.63秒。握力:右25kg。と向上し、屋内移動が両側金属支柱付き短下肢装具使用での独歩自立となり、立位・歩行も安定した。上肢の自由度も増し家事における速度や効率が向上し、「皿洗いがしやすくなった。」「中腰で草取りをしている。」などの報告が聞かれた。更に現在、発症以前に行っていた洋裁、友人との散歩などを楽しまれている。また、「今後したいこと」として自らの生活をまとめた冊子作り、ミシンがけなどが挙げられている。
    【考察】
     今回A氏は、まず利用者との関わりで希望を持つきっかけができた。加えて、活動性の向上により、実際の家事場面において効率が上がったことを実感した。そして現在、生活の多岐に渡り工夫を凝らしながら前向きに取り組み、できることを増やしつつある。今後、A氏との出会いによってまた新たな希望が生まれていくことを期待している。A氏の生活の質の向上が、脳卒中片麻痺を呈する主婦の方々の希望となることがA氏の望みでもある。
  • 通所リハビリテーションでの関わり
    中島 知穂子
    セッションID: 215
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     脳出血後遺症によりADLの低下、コミュニケーション障害にてうつ状態の症例を担当した。他職種との連携、通所リハビリテーション(以下通所リハビリ)の関わりからコミュニケーションに自信が得られ、意欲の向上がみられたのでここに報告する。
    【症例紹介】
     57歳女性。通所リハビリ開始半年前発症の脳出血右片麻痺(Br.Stage 右上肢II、手指II、下肢III)。重度のうつ状態。運動性失語、自発話みられず、主にジェスチャーやyes―noの手段を要する。退院1週間後より、通所リハビリ、訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)開始。
    【経過】
    1、評価、問題点の抽出を行った時期
     不慣れな環境に対し他者との関わりを避けてほとんど臥床していた。入院時リハビリテーション担当からの情報を得て、評価を行う。筋力低下、耐久力の低下がみられ、ADLは、食事、立ち上がり動作以外介助(FIM29点)を要する。
     また、家族、訪問リハビリ担当から症例の性格や自宅内での様子等の情報交換を行いながら症例と関わりをもった。その中でADLの低下や伝わらない事に対してうつ状態になっていることがわかった。
    2、安心した関係づくりの時期(7週目)
     yes-noをしっかり確認しながら、個別にコミュニケーションを図る。
    また、介護職員に症例の性格、不安な気持ち、コミュニケーション能力など心身機能の状態を伝える。
    まず主となる介護職員と作業療法士(以下OT)が一緒に排泄場面等のADLにて関わる。困った事、症例が伝えたいことをOTが代弁して介護職員に伝える。その後、介護職員とのコミュニケーションが円滑にとれていくなかで、OTの介入を減らす。
    3、他者と関わりをもつ時期(14週目)
     介護職員と連携して他利用者に症例のコミュニュケーション能力を伝え、理解を促し、他利用者との円滑な交流を促す。表情が明るくなり、発語がみられる。明るく笑う症例に対して、他利用者から声をかけられるようになった。友人もできて、症例から同じテーブルで過ごしたいとの要望がみられた。
    4、自主的に他者との関わりをもつ時期(36週目)
     書字やジェスチャーにて他利用者と積極的に交流をもち、利用者主催のお茶会に参加される。伝わらない時には症例自身が職員に援助を求めるようになった。ADLでは、排泄動作が見守りにて可能となる(FIM68点)。
    【結果及び考察】
     家族、訪問リハビリ等の早期から継続した情報交換により、うつ状態を引き起こす問題点を把握し、支援できたことがコミュニケーションに対しての自信になり、うつ軽減、ADL能力の向上につながった。
    症例と介護職の橋渡しの役割、他利用者との交流支援により、他者との関わりが可能になり、本来の症例らしさがでて、社会交流の第一歩となったのではないかと考える。
  • ~調理クラブを通して~
    上城 智美, 川本 愛一郎, 濱田 桂太朗, 神川 大輔, 増田 ゆい, 吉屋 光晴, 島田 美緒, 吉屋 素子
    セッションID: 216
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当社、運営の通所介護施設では、栄養士が調理クラブを実施している。通所介護施設での栄養士としての位置づけとして、単なる調理の指導だけではなく、自宅で作っている調理の仕方(動作)の把握、疾患との関連する食事の把握を目的としている。今回、調理クラブを通して栄養士と作業療法士(以下OT)の関わる必要性について、若干の知見が得られたので、ここに報告する。
    【対象者】
     本人による調理希望の意思のある方、又は自宅での調理が必要な方に対して、調理クラブへの参加の意思を確認し、参加の意思表示のあった方を対象とした。
    【活動内容】
     1クラブにつき月1回の調理クラブの実施。メニューは、調理実施の前週に栄養士とメンバー(4名)で、その時々の旬な物を使い、季節感を出す。野菜・肉・卵・魚等、バランスよく使うメニューを話し合いにて決める。材料費は、500円/月徴収する。OTは、メンバーの方の身体的評価を行ない、動作方法や道具の操作能力、認知面の注意すべき点について、栄養士に伝える。
    【結果および考察】
     通所介護施設の利用者の多くは、糖尿病や高血圧などの生活習慣病をもっている。それらの疾患は、栄養バランスなどの管理が大切であるが、毎日の食事は自宅で摂ることが多く、自己管理しなければならない。しかし栄養面について利用者は、十分な知識をもっていない。また利用者に食事状況を確認しても食事の摂取量について大まかに話すことが多い。しかし栄養士が調理クラブに関わることで、調理中に利用者の味付けや好みがわかり、また利用者同士の会話は、調理の話が多く自宅での食事状況やその人の食に対する考え方がみえてくる。調理クラブに栄養士が関わることで、栄養指導(塩分、糖分、脂肪又は低栄養)がその場で行え、また食事摂取の仕方についても、利用者から悩んでいることを聞くことで助言が行える。その結果、利用者がバランスのよい食事を摂っていない事がわかる。自分の好きな食品を食べることにより、体重増加が起こり、腰や膝への負担、血糖値の上昇などが起こる。また反対に量や質の少なさにより低栄養状態となりやすく、認知症の加速へとつながることも考えられる。OTとしては、利用者が調理クラブへ参加する前に、動作方法や道具の操作能力、認知機能面の評価を行い、それらに問題がある方には、動作方法の指導や道具の選択により調理が可能となっている。
     今回、調理という活動を通して栄養士とOTが連携することの意義が明確となった。また利用者主体で行っている調理クラブは、各利用者の生活背景(栄養の偏り、調理動作)の把握もでき、生活習慣病の重要な要素である、「食事」についても予防の観点から具体的・個別的な取り組みが可能となった。
     今後の課題として、各利用者の身体的変化に伴い各々に適した調理道具の選択、環境調整、そしてクラブ内での利用者同士の相互関係も図っていきたい。
  • 慢性疼痛に対して
    橋本 剛士
    セッションID: 217
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     線維筋痛症(以下FMS)とは、原因不明の全身的慢性疼痛疾患であり、全身に激しい痛みが起こる病気である。随伴症状として様々な症状が見られ、現在日本国内でも約200万人以上の患者がいるのではないかと疫学的に発表されている。明確な診断基準がなく、患者の多くは診断されるまでに何箇所も医療機関を周り続けることになる。その間、日常生活動作能力の低下をきたし、FMS患者及び介護者の精神的・肉体的負担が強いられてしまう。今回、線維筋痛症患者の訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)を提供させていただくにあたり身体認識の向上が疼痛コントロールに影響を及ぼしているのではないかと考えアプローチを行った。その結果、日常生活動作能力の向上が見られ、若干の知見を得たのでここに報告する。
    【症例紹介】
     40歳代。男性。昭和61年7月に交通事故にて頚椎捻挫、左三角筋部分断裂、左肩関節捻挫等受傷。その後、2度にわたり筋接合術、腱板部分接合術などの手術を行う。その後、平成20年2月29日より2回/週の頻度で訪問リハ開始。平成20年11月より若干の疼痛軽減により1回/週の頻度に変更。
    【初回評価】
     コミュニケーションは可能も短期記憶障害あり。全身疼痛見られ身体に対しての注意不良。また、身体を触れられることに対しての恐怖心から全身の筋緊張亢進。日常生活動作は一部介助~全介助レベル。
    【経過】
     訓練は閉眼での運動イメージを中心に構築していき、身体に対しての注意を向けていくことから始めた。しかし、全身疼痛の為、注意の持続が困難でまた、日常生活リズムも崩壊しており0~1回/1月程度の介入しか出来なかった。4ヶ月程経過し、服薬内容に変更が見られ若干の精神的安定が見られ始めた頃より1回/月程度身体に対して注意を向けていただけるようになるも、リハビリ後は「きつい」「疲れた」等の声が聞かれた。8ヶ月程経過した頃より、少しずつ自己身体に対しての運動イメージをもてるようになり「事故をして以来初めて腕の動かし方が分かった」と言われる。この頃より、精神的ストレスによる疼痛の日差変動は見られるものの、電動車椅子への移乗介助量の軽減や食卓で家族と共に食事をされるようになる。また、排便コントロールが悪く浣腸や摘便でコントロールを行っていたが、ほぼ毎日トイレに行かれるようになる。
    【考察】
     FMS発症の背景には身体的外傷や身体的過負荷、心理的ストレスなどが原因となり慢性疼痛に発展していくと考えられている。また、神経因性疼痛であり侵害受容器神経路の脊髄・脳レベルでの中枢性感作・過敏症の成立であるとも考えられている。Perfettiは「痛みは情報性の変質、情報間の不整合性によってもたらされると考えられる」と述べており、今回、誤った自己身体の認識が疼痛に大きく影響を及ぼしているのではないかと考え、アプローチを行った結果日常生活動作能力の向上がみられたのではないかと考える。  
  • 一 道伸, 武田 実, 鈴木 康一
    セッションID: 218
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回小指再接着後に伸展拘縮を呈した症例に対し2段階に分けて腱剥離術を施行し、その後療法を経験したので考察を加え報告する。
    【症例紹介】
     20歳代男性、家具作製業。機械鋸に左手を鋏み受傷、小指(基節部)不全切断し再接着術施行する。その後PIP関節の伸展拘縮残存したため、術後10ヵ月後に伸筋腱剥離術、側索解離術施行し、さらに2ヵ月おいて屈筋腱剥離術を施行した。術前の小指MP関節自動屈曲/伸展は50°/5°、他動60°/30°、PIP関節は0°で強直、DIP関節自動屈曲/伸展は0°/0°、他動30°/0°であった。
    【1回目手術(伸筋腱)と後療法】
     手術は中央索と側索の間を両側とも切離。更に中央索、側索と基節骨との間の癒着を剥離した。剥離後のMP・PIP・DIP関節の他動屈曲可動域は80°・85°・80°であった。後療法は術翌日より積極的に他動運動を行い可動域の確保に努めた。
    【2回目(屈筋腱)手術と後療法】
     小指深指屈筋腱腱鞘はA2・C1・A3pulleyにかけて高度に瘢痕化していたため全切除し、A1pulleyの近位とA4pulleyより遠位の腱鞘は残して屈筋腱との癒着を全周性に剥離した。術中のMP・PIP・DIP関節の腱最大牽引時の屈曲可動域は70°・80°・70°程度であった。後療法は術翌日より自他動運動を行い、患手挙上の徹底と1時間に10回holding運動、MP・IP関節伸展0°までの剥離腱のストレッチを行った。2週目より徐々にADLでの使用を許可したが、屈曲可動域の向上に伴いPIP関節の自動伸展不足(以下ext. lag)も増強してきたため、日中、夜間はPIP関節伸展装具を装着し、積極的な運動は控えADLでの使用のみ許可した。その後、仕事など段階的に患指の使用を許可していった。
    【結果】
     術後10週の小指MP・PIP・DIP関節自動屈曲/伸展は、65°/15°・72°/-25°・80°/-25°であり、日本手の外科学会%TAMでは対側比68%であった。ADL上の支障はない。
    【考察】
     手指の伸筋腱、屈筋腱両者の癒着による関節拘縮を認める症例に対し、一期的に手術を行うと術後に手指の腫脹、疼痛が高度となり、結果として後療法が上手く進まず良好な成績が得られないことがしばしばある。今回手術を2段階に分けて行うことで、患指の疼痛、腫脹ともに軽度に抑えることができ、結果として良好な可動域を獲得できた。しかし、このような術後の症例は、屈曲可動域向上に伴いPIP関節のext.lagも増強してくる傾向にある。本症例においても同様なことがいえ、屈曲可動域を十分に獲得し、かつext. lag をより最小限にとどめるためには、状況に応じたスプリント療法や段階的に患指の使用をすすめていくなどの対応が必要であると思われる。
  • 下門 範子, 戸羽 直樹
    セッションID: 219
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     慢性関節リウマチ(以下RA)の手関節病変では、背側脱臼した尺骨頭によって伸筋腱が第4コンパートメント内で小指より順に断裂する事が散見される。手術では隣接する伸筋腱に端側縫合されるか、または橋渡し腱移植術にて再建される。日常生活動作(以下ADL)能力の拡大を図るには、再建術とともに術後セラピィが重要である。今回、手指伸筋腱皮下断裂修復後の早期運動療法を経験したので結果を報告する。
    【症例と術中所見】
     70歳代、女性。6年前より右手関節部痛あり。環・小指の伸展障害あり近医受診し、当院紹介入院となる。手術ではまずSauve-Kapandji法による手関節形成術を施行した。次に伸筋腱は環指・小指が完全断裂、中指も部分断裂していたため、それぞれの伸筋腱において小指を環指へ、環指を中指へ端側縫合し、また中指の部分断裂部位には同側の長掌筋腱を採取して縫合し、補強を行った。
    【術後セラピィと経過】
     術後翌日に手関節はリストサポーターにより固定し、手指は尺側指から順に橈側隣接指にoverlapさせた肢位でテーピング固定する減張位とした。早期運動はセラピスト操作下にて、手関節中間位で手指他動伸展位を保持するholding運動と手関節30度背屈位での手指自動屈曲運動を行った。術後3週でテーピングを除去して手指の自動屈曲・伸展運動開始した。術後6週まで夜間静的スプリント(手関節中間位・手指伸展位)を装着させ、その後は原疾患であるRAに対する指導を行いながらADLでの患肢の使用を徐々に進めていった。
    【結果】
     術後12週時の%TAMは中指89.8%、環指71.3%、小指96.4%であった。TAF時のMP関節屈曲は、中指84°、環指92°、小指76°であった。TAE時のMP関節伸展は、中指-18°、環指-16°、小指-6°。握力は健側比100%であった。
    【考察】
     減張位早期運動療法は、断裂した伸筋腱を橈側隣接指の伸筋腱に縫合する腱移行術後、患指を尺側指より順にoverlapさせた指位でテーピング固定することで、腱縫合部に負担をかけない状態で自動運動を行う方法である。しかし、本症例は動作筋である中指の伸筋腱も部分断裂しており、長掌筋腱で補強されたものの通常の運動方法では中指の伸筋腱への負荷が大きすぎると考えた。そのため自動伸展運動は、手関節中間位にて手指他動伸展位を保持するholding運動とし、近位方向への腱滑走を促した。今回の結果ADL動作において十分な手指の可動域と握力は獲得されたが、小指のMP関節の屈曲は他指に比較して制限が認められた。減張位早期運動療法のテーピング固定下では小指の屈曲可動域獲得は不利な状況にあるため、今後は小指MP関節屈曲可動域の改善の工夫が必要と考えられた。
  • 武田 実, 一 道伸, 鈴木 康一
    セッションID: 220
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     近年、強固な内固定材料の開発により基節骨骨折例においても術後翌日からの早期運動療法が可能となった。今回、開放性骨幹部骨折例に対する早期運動療法を経験したので、若干の考察を加えて報告する。
    【症例紹介】
     60歳代、男性、農業。ダンプの荷台のリアゲートを閉める際にはさまれ受傷。当院受診し左環指基節骨骨幹部開放骨折の診断を受け、手術目的で入院。プロファイルコンボのM/L のT型6穴プレート(背側より伸筋腱を縦切し設置)にて骨接合術施行。
    【術後セラピィ】
     術後翌日より単関節毎の軽度他動関節可動域訓練、MP関節屈曲・伸展位でのIP関節屈伸を自・他動運動10回、MP、PIP関節blocking を午前・午後各1回。術後1週より日中アルフェンスシーネ除去となる。除々にPIP関節屈曲拘縮が増悪してきた為、術後4週よりPIP関節伸展用動的スプリント装着30分を1日6回実施。
    【結果】
     術後翌日の環指の可動域はMP・PIP・DIP関節の自動屈曲/伸展は80/15・80/-24・54/-5、PIP他動伸展は-10度であった。術後6週ではMP・PIP・DIP関節の自動屈曲/伸展は80/15・100/-32・60/-5、PIP他動伸展は-10度であった。受傷前より環指PIP関節-10度位の屈曲拘縮が若干存在していた。退院後は仕事復帰されている。
    【考察】
     基節骨骨折は、掌側凸変形を起こし易く、PIP、DIP関節の可動域制限が生じ易い。本症例においては、強固な内固定術が施行されたため、可能な限り再転位が予防でき、愛護的な早期運動によって可動域制限の発生を予防できたと考えている。しかし、可動域は十分ではなく、特にPIP関節においては自動伸展不足が残存した。そのため仕事復帰はされているが、仕事および日常生活上の手の使い難さは残ったと思われる。基節骨骨折例におけるPIP、DIP関節の可動域制限の原因は各関節を構成する軟部組織による拘縮と基節骨周囲に存在する屈筋腱、伸筋腱(指背腱膜)の骨折部での癒着による拘縮がほとんどである。その中でPIP関節の自動伸展不足は伸筋腱の癒着が原因であり、今回のような運動方法では基節骨に広く膜状に接する指背腱膜の癒着は予防し難いと考えられた。今後は解剖学的特徴、手術襲侵部での癒着を加味して、伸展スプリントの早期導入、伸展運動の割合の増加などを検討し、実践していきたい。
  • 田崎 和幸, 野中 信宏, 山田 玄太, 坂本 竜弥, 油井 栄樹, 貝田 英二, 宮崎 洋一
    セッションID: 221
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     強固な腱縫合法の開発により屈筋腱断裂例に対して術後早期から自動屈曲を行う早期自動運動療法が始められ,諸家の報告の如くその治療成績は向上した.しかし,術後早期からそれまで禁忌とされていた自動運動を行うことは,再断裂などの危険因子はより多くなるとともに発生する可能性が高くなったことも事実である.今回,当院の症例にて再断裂例と成績不良例について検討したので報告する.
    【対象】
     屈筋腱断裂後に強固な吉津法にて縫合され,早期自動運動療法を行ったZone1,2損傷の19例20指を調査した.再断裂した2例2指とStricklandの評価基準で優でなかった3例3指のうち,受傷前から陳旧性mallet fingerによるswan neck変形を呈していた1例1指を除外した4例4指を症例の同意のもと対象とした.全例損傷部位がZone2の男性で,年齢は46~61歳(平均52.2歳)あった.
    【経過】
    <症例1>ノミにて右小指受傷.術後2.5週の休日に禁忌事項として指導していた他動伸展運動を行い再断裂した.断裂腱を再縫合して早期自動運動療法を行ったが,術後6週のStricklandの評価では不可で,その後来院しなかった.
    <症例2>包丁にて右示指受傷.術後9.5週の休日に禁忌事項として指導していた草むしりを行い再断裂した.断裂腱再縫合後3週間固定法にて運動を行った.Stricklandの評価では再断裂前・後ともに優であった.
    <症例3>ナイフにて左示指受傷.早期自動運動療法は順調であったが,術後10日目にinfectionにてOT中止し,病巣廓清術が施行された.術後4週でOT再開したが,術後7週のStricklandの評価では不可で,その後来院しなかった.
    <症例4>電動鋸にて左示指受傷.経験の浅いセラピストが担当したためか,獲得可動域が不十分で腱剥離術を施行した.Stricklandの評価では腱剥離術前・後ともに可であった.
    【考察】
     現在,早期自動運動療法は修復した腱に必発する癒着を最小限に予防する最も効果的な方法と言える.しかし,冒頭でも述べたように術後早期からの運動は多くの危険因子を含んでいる.今回少ない対象であるため多くは提言できないが,今後の課題として休日中の管理,infection,知識・技術の習得が挙げられた.まず,再断裂においては休日前に徹底した禁忌事項,患手管理の再指導を行う必要があると考えられた.infectionに関しては原因を特定できないが,早期運動中は創が離開し易いため密に縫合してもらう.また,創傷が治癒するまで期間は担当医との連絡を密にして創部の清潔を保つことが大切であろう.最後に知識・技術の習得であるが,養成校にて腱損傷の早期自動運動療法に対する詳細な教育が行われていない現在,卒後に腱損傷における基礎・応用知識および早期自動運動療法に関する技術を習得することが重要と考えられた.
  • 山田 玄太, 田崎 和幸, 野中 信宏, 坂本 竜弥, 油井 栄樹, 貝田 英二, 宮崎 洋一
    セッションID: 222
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     母指CM関節症は、手術療法を行うことによって術前に問題とされる母指使用時の疼痛緩和は期待できる。しかし、術後は長母指伸筋腱(以下EPL)・短母指伸筋腱(以下EPB)の癒着や母指MP関節伸展拘縮が発生し、二次的な機能障害を起こすことがある。これに対し我々は、術後早期より母指MP関節の屈曲運動とEPL・EPBの滑走運動を行い、術後予測される拘縮を予防したので報告する。
    【対象・術式】
     全例において本報告での同意を得た。対象は、平成18年から20年の間に母指CM関節症にて第1中手骨楔状骨切り術もしくはCM関節固定術を施行し、セラピィを終了した17例20指である。全例女性、手術時年齢は平均63.5歳、手術手は利き手8例、非利き手6例、両手3例であった。Eatonの分類でstage2の5指は、第1中手骨楔状骨切り術を施行し、stage3の9指stage4の6指はCM関節固定術を施行した。
    【方法】
     まず術後翌日に骨切り術を施行した5指は母指CM・MP関節の固定装具、関節固定術を施行した15指は手関節から母指MP関節までの固定装具を作製した。また、浮腫の軽減を目的とした示指から小指の自動運動と患手挙上を徹底させた。母指の運動も術後翌日からを原則とし、セラピストが母指中手骨を掌背側から把持し骨接合部への負荷を減少させて以下の運動を行った。1.MP関節単独の他動屈曲運動、2.EPL・EPBを遠位滑走させる目的でMP・IP関節の同時他動屈曲運動、3.EPL・EPBを近位滑走させる目的でMP・IP関節の軽い自動伸展運動。その後は骨の癒合状態により装具除去時期やADLでの使用を判断した。
    【結果】
     全対象指の訓練終了時もしくは抜線時の%TAMは、平均95.1で90以上が14指であった。また、その際のMP関節単独での屈曲可動域の対側との差は、15度以下が17指、15度以上が3指であった。15度以下の17指は術後早期からセラピィが導入でき、15度以上の3指は早期退院や銅線刺入部での疼痛などの理由から、術後早期からのセラピィ導入が困難であった。この3指は全てMP関節の授動術を追加している。全例骨癒合を得られ、CM関節の疼痛は緩和している。
    【考察】
     解剖学上EPL・EPBは母指中手骨の背側を走行しており、骨切り術や関節固定術後は腱癒着が必発する。特にEPBは手術創下に存在するため強固の癒着を起こし、MP関節の伸展拘縮を誘発すると考えている。これらに対し術後早期から運動する我々の方法は、骨癒合やCM関節の疼痛緩和を阻害することなく、予測される拘縮を予防でき、有効な運動方法だと考えられた。しかし、MP関節の伸展拘縮が生じ授動術を追加した3指も存在した。特にCM関節固定術例においては、MP関節の伸展拘縮は示指から小指までの対立動作が不十分となり二次的な機能障害をきたし易い、今後はMP関節屈曲位でのスプリント固定などの検討が必要と考えられた。
  • 末盛 康弘, 山下 導人, 田嶋 裕作, 園田 昭彦
    セッションID: 223
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     橈骨遠位端骨折の機能的予後予測にX線所見による評価が有用であるとされている。今回、観血的治療を施行された症例を対象に機能予後との関係因子を比較検討した。
    【対象】
     H20年4月からH21年4月までに当院で橈骨遠位端骨折の観血的治療を行った症例10例(男性2例・女性8例)、平均年齢71歳。右7関節・左4関節、利き手6例・非利き手3例・両側手1例で、plate固定9例・創外固定1例。経過観察期間は平均8.5ヶ月。又、今回、比較対象を健常群10例、平均70.8歳とした。
    【方法】
     ROM、握力計測、DASHを用いた。又、X線所見において最終評価時のdorsal tilt、radial shortening、radial deviationを計測し、危険率5%未満にて比較検定した。尚、全ての対象者よりインフォームドコンセントを得た後に実施した。
    【結果】
    1)ROM 単位:度
    骨折群 背屈:48.6、掌屈:45.9、橈屈:15.0、尺屈:26.8、回外:62.3、回内:54.5
    健常群 背屈:80.9、掌屈:78.6、橈屈:30.0、尺屈:54.5、回外:101.4、回内:92.7
    すべてのROMにおいて有意に低下。(p<0.01)
    2)X線所見
    dorsal tilt:4.3mm、(背屈:r=-0.25、掌屈:r=-0.17)、
    radial shortening:-0.4mm、( 背屈:r=0.28、掌屈:r=0.21、橈屈:r=0.15、尺屈:r=0.67)
    radial deviation:0.26mm、(背屈:r=-0.06、掌屈:r=-0.18)
    相関なし。
    3)握力
    骨折群握力:12.8kg、健常群握力:20.7kg、有意に低下。(p<0.01)
    4)DASH 平均:17.6点 相関なし。
    【考察】
     橈骨遠位端骨折後のX線所見は関節の変形を把握するうえで重要である。特にDorsal tiltは機能的予後に影響があるとされている。しかし、今回の健常群との比較において手関節ROMと握力で有意に低下が認められるも、X線所見とROMとの間に相関性は認められなかった。運動学的に手根中央関節による代償運動の影響が大きいと考える。又、ROM制限、握力低下においては対象者の年齢を考慮すると今回の評価期間が短く、回復が充分でなかった事が考えられる。さらに、DASH項目の中で、「きつめのまたは新しいビンのふたを開ける」、「重いドアを開ける」などの筋力を要する動作が困難傾向であった。要因については背屈・尺屈・回外などのROM制限や握力低下によるものと考える。それ以外の動作は、比較的良好な結果であった。一般にDorsal tilt10°以内の手関節屈曲の予後は良好であるとされている。今回の症例においてもDorsal tilt10°以内にてADL障害は軽度と考える。しかし、手関節におけるdorsal tiltの増大、radial shorteningはpower grasp障害に繋がる事が予測される。今後、手関節の予後について、さらに検討したいと考える。
  • 井川 有里, 秀島 聖尚, 石本 健, 小松 智, 平川 信洋, 峯 博子, 鶴田 敏幸
    セッションID: 224
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院では橈骨遠位端骨折術後の症例に対して,術後3・6・12ヵ月の時点で評価を実施している.これは術後の経過とその特徴を把握し,臨床における患者へのフィードバックに活用するためである.また,橈骨遠位端骨折術後の短期的な治療成績の報告は多くあるが長期的な報告は少ない.そこで今回,術後の経時的な治療成績を調査し,得られたデータを基に日常生活の進行状況を含め検討したのでここに報告する.
    【対象】
     平成18年10月から平成20年11月までの期間に,当院で掌側ロッキングプレートによる骨接合術を施行した43例のうち,評価可能であった27例27手.内訳は術後3ヵ月27例27手(平均年齢65.9歳),術後6ヵ月24例24手(平均年齢64.0歳),術後12ヵ月10例10手(平均年齢58.7歳)である.
    【方法】
     術後3・6・12ヵ月の時点で疼痛評価(Visual analog scale;VAS),手関節・前腕の自動関節可動域(日整会),前腕中間位・回内位・回外位での握力測定(酒井医療社製デジタル握力計),上肢障害評価として日手会版DASH(以下DASH)の機能/症状を実施した.そして可動域,握力の健側比平均値とVAS,DASH合計点の平均値を求めた.更にDASHに関しては,詳細な分析を行うために各質問の平均値を算出し,術後3・6・12ヵ月で比較した.データ分析には分散分析(p<0.05)を用いた.
    【結果】
     今回の調査では,全項目において術後経過が進むにつれ改善がみられた.術後3から6ヵ月(以下前半期)にかけて,疼痛が 1.8点から0.8点,橈屈が70.1%から96.3%,回外が89.1%から95.1%とより改善していた.中でも橈屈は有意に高い値を示した.また,術後6から12ヵ月(以下後半期)においては,回内が90.4%から94.8%,回外位握力が75.5%から87.3%に改善し,握力は有意に高い値を示した.DASHの内容に関しては「鍵を回す,重い物を運ぶ,レクリエーション活動をする,障害により仕事・日常生活に制限があったか,腕・肩・手に痛みがある」という項目で有意に低い値を示した.
    【考察】
     今回特徴的であったのは,橈屈が他の運動方向に比べ前半期により改善し,回外が早期に改善していることであった.これは手術により方形回内筋を切離するため,疼痛や回内筋力低下により回内よりも回外の改善が早期に生じたと考える.また回外運動には長母指伸筋や橈側手根伸筋が働くため,回外の改善が橈屈運動を助長し,今回の結果に至ったのではないかと考える.
     日常生活については術後3ヵ月の時点で,筋力や可動域を必要とする動作,前腕運動を伴う動作,衝撃のかかる動作が困難であった.これは後半期で回外位握力が有意に高い値を示していたことから,回内筋力の向上が考えられ,その改善により手関節の安定性が向上し,それらの動作が改善したものと考える.
  • 木村 悠人
    セッションID: 225
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     深部静脈血栓症(以下、DVT)の予防として下肢自動運動や他動的予防法(間欠的空気圧迫法など)が実施されているが、整形外科術後のDVT発症はよく経験する。ガイドラインや先行研究において、最も予防効果があるとされているのは早期離床及び下肢運動であるが、運動の方法(回数、頻度など)が不明確であり、術後の疼痛のために十分に行われていないのが現状である。また他動的予防法に関しても、統一した見解がみられていない。
     そこで本研究では、最も効果的といわれている足関節自動底背屈運動(以下、運動)による静脈血流速度の経時的変化を追い、血流速度増加の持続時間を調べるとともにDVT予防法を検討することを目的とした。
    【方法】
     対象は健常男性3名の右下肢3肢。ProSound SSD-5500(アロカ社)を用いて、安静時、運動直後、運動後より3分毎の大腿静脈血流速度を測定した。被験者はベッド上仰臥位とし、実験中は不必要な会話を禁止とした。運動は、最大可動域での足関節底背屈を1回として連続50回、50回/分の速さで1セットのみ行った。
    【結果】
    1.被験者A
     血流速度(単位:cm/s)は、安静時:10.0、運動直後:20.9、運動3分後:18.8、6分:16.1、9分:12.8、12分:11.4、15分:11.6、18分:9.3、21分:10.1となり、運動により著明な上昇を認め、その後徐々に低下し、約10~20分後には安静時と変わらない値に安定した。
    2.被験者B
     血流速度は、安静時:6.4、運動直後:14.3、運動3分後:11.7、6分:9.2、9分:7.2、12分:7.2、15分:7.3、18分:7.7、21分:6.5となり、同様に約10~20分後には安定した。
    3.被験者C
     血流速度は、安静時:9.1、運動直後:25.8、運動3分後:23.4、6分:20.0、9分:19.4、12分:16.3、15分:12.8、18分:10.5、21分:9.7、24分:8.9となり、約20分後には安定した。
    【考察】
     本研究の結果から、運動は著明に大腿静脈血流速度を増加させることがわかった。そして持続時間は、50回の運動で約10~20分程度であることが示唆された。
     運動により、有意に血流速度が上昇することは、多数の先行研究において既に述べられており、DVT予防に有効であることは明確であったが、今回の研究からはその持続時間は比較的短く、自動運動は頻回に実施する必要があると思われた。しかし、下肢術後の高齢患者には積極的な運動は困難であり、睡眠中は不可能である。従って、DVT予防に運動のみでは不十分であり、他動的予防法の併用も必要と考えられた。また下肢術後は、姿勢不良や脱水など、不動以外の血栓形成の要因も関与しており、それら血流速度を低下させる因子の除去も重要と考えているため、今後さらなる検討が必要である。
  • ~ 現状と問題点 ~
    永野 幸四郎, 柚木 純二
    セッションID: 226
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回、当院における急性大動脈解離スタンフォードA型の、術後心大血管疾患リハビリテーション(心リハ)進行状況の現状把握と、退院後の電話アンケートによる生活習慣状況の調査から問題点を明らかにした。
    【対象】
     平成19年10月から平成21年3月までに、緊急大血管手術を施行された急性大動脈解離スタンフォードA型の10例。内訳は、上行置換8例。弓部置換2例。性別は男性5例。女性5例。平均年齢57±15歳である。既往歴は、高血圧9例。脳梗塞4例。周術期因子として、手術時間平均348±60.5分。
    【方法】
     大血管術後心リハ進行状況をカルテによる後方視的調査にて行い、電話アンケートによる生活習慣調査として、運動習慣、飲酒、喫煙、バイタルチェック、社会参加の現状調査を行った。
    【結果】
     術後抜管時間平均77±46時間、ICU退室平均7.2±3.3日、端座位平均6.3±3.1日、初歩行平均11±6日、200m歩行平均18±10.1日、500m歩行平均23.6±14.6日、在院日数平均51.3±16.2日。再入院は1例で心不全による入院であったが、現在、全例在宅での日常生活可能であった。アンケート調査では、運動習慣として、散歩や軽い体操を行っているが4/10例。行っていないが6/10例で、6例中3例が仕事復帰により行わなくなったとの回答であった。飲酒は缶ビール1本程度が3/10例。喫煙は10本/日という回答が1/10例。バイタルチェックは毎日行っているという回答が3/10例。時々行っているが4/10例。行っていないが3/10例という結果であった。
    【まとめ】
     術後心リハ介入状況として、医師の指示の下に合併症を発生させることなく、ADL向上を行うことが可能であった。しかし、ADL向上の期間と在院日数に大きな差が生じていた。在院日数が長期化している原因として、急性大動脈解離発症時の突然の強い胸痛と、術後の長期挿管による精神的苦痛等の再発への恐怖心が考えられる。更に、大血管術後は身体障害者に認定されず、ADLは自立している状況から介護保険認定も除外され、退院後の生活に大きな不安を抱えている事が原因と考えられる。2006年改定の循環器病の診断と治療に関するガイドラインにおいて、急性大動脈解離リハでは社会(職場)復帰し、日常生活を行う時期をPhaseIIIと位置づけ、収縮期血圧のコントロール目標値として、安静時130mmHg未満、最大活動時でも150mmHg未満とした生活活動を指導するとしている。アンケート結果から、運動習慣、生活習慣は過半数が実施されていないのが現状であり、入院期間中の患者様、患者家族様への指導が必要であると考える。退院へ向けてのチームアプローチと生活療法という視点から、退院後フォローの確立を行っていきたいと考える。
  • -理学療法士介入の影響と現在の問題点-
    十時 浩二
    セッションID: 227
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     当院では10日間(試験外泊2日を含む)の糖尿病教育入院を実施しており、2008年より糖尿病患者を対象に理学療法士が運動療法に関する講義を行っている。今回、講義前後での身体活動量(=歩数)の変化と講義の内容が患者に理解されているかを調査し、現在の問題点について検討したので報告する。
    【対象】
     対象は、2009年1月~3月までの間に、当院の糖尿病教室に参加した患者10名のうち運動療法が可能であった2型糖尿病患者7名(男性2名、女性5名)で、平均年齢は62.6歳であった。合併症は、網膜症4名・神経症1名・腎症2名であった。また、教育入院中に糖尿病性腎症III期bであることが判明した患者2名はADL維持程度の運動が処方され、調査の対象とした。
    【方法】
     糖尿病教育入院時に歩数計(スズケン社製ライフコーダEX)を配布し、使用目的の説明と装着方法の指導を行った。入院4日目に糖尿病の運動療法について講義を行い、講義前後の歩数を比較した。講義の内容は、一般の運動療法(種類・強度・継続時間・頻度・実施時間)に加え、各患者の合併症や症状に対応した講義を行った。また、歩数計回収後のデータから歩行した時間帯を調査した。食後2時間以内の歩行の割合を講義前後で比較し、これを運動療法の講義の理解度とした。
    【結果】
     歩数の平均は、講義前3627歩から講義後3984歩と10%増加した。入院期間中の歩数と外泊時の歩数を比較すると3389歩から4590歩へと35%増加した。
     時間帯に関しては、食後2時間以内の割合は、講義前は32.3%であったのに対し、講義後は62.7%へと増加がみられた。
    【考察】
     講義前後の歩数の増加はそれほど認められなかった。これは、講義後に具体的な歩行時間や歩数を提示しなかったことが原因と考えられる。講義後に講義前のデータを踏まえた個別の目標設定や合併症患者には症状に合わせた運動処方が必要であると考える。また、教育入院中は検査や講義などが多いため、歩行の時間を設けるなどパスの見直しも必要である。
     食後2時間以内に歩行を行う割合が増加したことは、糖尿病の運動療法に関しての理解が図れ、実践できたのではないかと考える。しかし、時間帯以外の講義の内容が十分に理解できているかはわからないため、講義の内容を再考するためにもアンケートやテスト形式にて理解度をチェックする必要があると考える。
    【まとめ】
     今回、明らかになった問題点は早急に改善し、運動継続という最大の課題に取り組む必要があると考える。
  • 山崎 俊一, 野田 喜寛, 嶋田 誠治, 宮川 幸大, 大本 里美, 愛甲 純也
    セッションID: 228
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院CCUでは循環器疾患を呈した症例の超急性期の集中治療を行っている。症例の中には治療によって血行動態が安定し、それに合わせて早期離床やリハビリテーション(以下リハ)が開始できた症例ばかりでなく、血行動態が不安定で長期臥床を余儀なくされる症例、中には原疾患の治療を最優先しているが故にリハ介入のタイミングを逃し、廃用症候群を呈する症例もあり、今回超急性期からのリハ介入により廃用症候群を予防する取組みを行った。前年度と比較して、CCUからのリハ介入症例数、リハ介入時期に一応の知見が得られたので以下に報告する。
    【方法】
     2007年からCCU入室症例のリハ介入症例数、リハ介入時期を調査して現状を把握した。2008年よりCCU担当理学療法士がCCU全症例の中でリハ介入症例一覧を表でまとめリハ介入していない症例を明確にし、医師・看護師と共に積極的にリハ介入を実施した。そしてリハ処方後は医師・看護師とカンファレンスを行い、リスク管理とリハビリ目標を共同して設定する。その取り組みによるリハ介入症例数、リハ開始時期への影響を研究する。
    【結果】
     2007年(3月~12月)のCCU入室症例のリハ介入症例数は74例(男性42例、女性32例:平均年齢75.0±12.8歳)、入院日からリハ介入までの日数は11.4±11.4日であった。それに対して取り組み後の2008年(3月~12月)のリハ介入症例数は105例(男性54例、女性51例:平均年齢78.1±9.9歳)と31例増加、入院日からリハ介入するまでの日数は7.3±5.7日との結果で有意差を認めた(P>0.05)。統計学的処理はMann-WhitneyのU検定を用い、危険率5%未満を有意とした。
    【結語】
     CCU入室症例で血行動態が安定しておらず、疾患コントロール不良な早期の状態からリハ介入を行うことはリスクが高い。そのような患者に対してリハを実施する際には、医師・看護師と十分なカンファレンスを行い、リスク管理を明確にすることが重要である。リハ介入症例数を増加させ、入院から早期介入が可能となったのは、CCUリハカンファレンスを積み重ねていくことで、医師・看護師のリハへの関心が高まったことも要因として考えられる。今回理学療法士より積極的にリハ介入を実施し、廃用症候群予防に取り組むことで、介入症例数が増加し、CCUにおけるチームアプローチが実現した。理学療法士が目の前にいる患者に対して何ができるのかを考え、アプローチする姿勢は、一医療従事者として重要不可欠であると考える。
  • 村上 恵子
    セッションID: 229
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院では現在、糖尿病教育入院、血糖コントロール入院のクリニカルパスの運用を行っている。糖尿病教室を含め、リハビリテーション科としては、運動指導に関っている。
     今回、今までの生活習慣病における関りと、実際の運動指導について報告する。
    【経過】
     当院では、平成16年5月生活習慣病外来が、開始となった。理学療法士は、運動指導の担当となる。検査データ、生活習慣、体力を考慮した上で運動メニューを作成し、患者と話し合いながらの施行となる。また、関連スタッフと月1回生活習慣病カンファレンスを行い、情報の共有を図った。
     運動指導にあたり、各種診療ガイドラインに基づき、適切な指導を行う為、評価表を作成した。また、指導を行う上で説明を円滑に行う為、生活習慣病の運動に関しての冊子も作成した。
     平成16年6月より、糖尿病教室が開始となり、運動指導枠の担当となる。以降月に1回の開催となる。教室の為、関連スタッフと協力し、「糖尿病教室テキスト」を作成した。
     平成19年3月、糖尿病教育入院、血糖コントロール入院のクリニカルパスの運用が開始され、それに伴い6月下旬よりカンファレンスが開催される。運動指導担当として参加している。
    【運動指導の実際】
     運動処方は、情報の収集、メディカルチェック、運動負荷試験、体力(最大酸素摂取量等)測定後、運動処方が決定される。
     運動強度において、最大酸素摂取量推定値や心拍数、自覚的運動強度(RPE)を用い、総合的に指導、モニタリングを行った。
     実際の指導においては、ガイドラインの内容からも疾病により大きな差はなく、最大酸素摂取量50%程度の中等度の強度で行った。
     生活習慣病外来開始当初、リハビリテーション室のエルゴメータにて、最大酸素摂取量を推定した。その後、糖尿病教育入院、血糖コントロール入院においては、運動負荷試験が施行される為、結果のレポートを基に指導することとした。
    【まとめと今後の取り組み】
     今までの、リハビリテーション科としての生活習慣病における関りを述べた。
     運動指導の実際について述べた。
     スタッフにより、指導にばらつきがあるため、評価・指導の統一のため、手順等シート作成を今後検討している。
  • 黒山 荘太, 横溝 由史, 小柳 靖裕, 池永 千寿子
    セッションID: 230
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     地域糖尿病療養指導士制度は1996年に日本で最初に北九州地区で活動を開始した。2008年4月現在北九州糖尿病療養指導士(北九州Local Certified Diabetes Educator以下北九州LCDE)は看護師169名、管理栄養士82名、臨床検査技師30名、薬剤師25名であるが、理学療法士(以下PT)は8名に留まっており、運動療法を専門的に行えるPTの糖尿病療養指導への参画が少ないのが現状である。筆者は2007年に北九州LCDEの資格を取得し、北九州地区の糖尿病療養指導行事の1つである、第11回北九州糖尿病ウォークラリー大会に参加し、PTが糖尿病療養指導行事に参加する意義について検討したので報告する。
    【ウォークラリー概要】
     北九州地区の糖尿病治療中の患者さんとその家族が対象であり、4~5名を1チームとし46チーム(一般参加186名)がウォークラリーに参加した。医師1名、北九州LCDE86名(看護師46名、管理栄養士23名、臨床検査技師9名、薬剤師6名、PT2名)で大会サポートを行った。
    【PT活動内容】
    1.姿勢、歩行の講義
     今回のテーマは「姿勢を正しくして歩きましょう」であった。運営会議にて他スタッフに姿勢、歩行指導におけるチェックポイントについて講義し、知識の共有化を図った。
    2.準備運動、整理運動の実施
     第10回までは、健康運動指導士の資格を持つ看護師が担当していたが、今回よりPTが担当するようになった。準備・整理運動の必要性、注意点、方法を詳細に説明しながら、年配者にも配慮して座ったままで行える準備運動、整理運動を行った。
    3.ウォークラリー中の歩行指導
     約2kmのコースに2箇所、姿勢を正しくして歩く場所を設け、各箇所にPT1名、看護師1名で参加者全員の指導を行った。歩行指導は、1グループに対して1分程度しか実施出来なかった。PT以外の歩行指導スタッフには、事前にチェックポイントの講義を行った。
    【まとめ】
     他職種スタッフより、「姿勢、歩行指導におけるチェックポイントを理解することができ、今後運動指導に活用できる」との言葉が聞かれた。
     参加者から姿勢、歩行指導をもっと時間をかけて行って欲しい、姿勢、歩行以外の個別指導も行って欲しいという要望が多数あった。参加者の運動に対する関心は高いことが伺えたが、マンパワーが不足していたため要望に答えることは出来なかった。
     今回アンケート調査等の定量的評価を行っていないため、データとしては出せなかったが、参加者、他スタッフからの運動指導に対する要望が数多くあったことより、このような行事にPTが参加する意義と必要性を感じた。
  • 大重 匡, 高森 明久, 西 宏晃, 田中 信行
    セッションID: 231
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     手浴による部分浴の温熱効果を促進するための方法として、昨年は市販の炭酸入浴剤の使用が、単純泉より有意に深部体温を上昇させることが認められた。今回は、市販の炭酸入浴剤に手指の屈伸を加えてみることで、さらなる温熱効果が得られるかについて検討した。
    【対象】
     対象は、健常若年男性12名(平均年齢22.8±2.9歳)である。
    【方法】
     手浴は、室温を19℃に設定した部屋にて、充分な安静座位後に41℃の右手浴を20分間施行し、その後30分間の保温状態を観察した。手浴の方法は3種類とした。1つは単純泉浴、2つ目は市販の炭酸泉入浴剤を使用した炭酸泉浴、3つ目は炭酸泉浴中に手指の自動屈伸(60回/分)させた屈伸炭酸泉浴である。なお、3種の手浴はランダムに日を変えて施行した。また、コントロール群として手浴なしの手指屈伸も行わせた。
     測定項目は、脈拍数、血圧、右上腕の皮膚血流量、舌下温(深部温)、表在温(額、頚部、左上腕、腹部、左大腿、左足背、左足趾)、Borgの主観的作業強度を温感に改変して測定した。測定は手浴前と手浴20経過時、手浴後30min経過時に行った。
     統計処理は、一元配置分散分析を行い、有意差を認めた場合に多重比較を行った。
     本研究は、本学の倫理審査の承認を得て行った。
    【結果】
     深部温は、一元配置分散分析で有意差(P<0.05)を認め、多重比較で屈伸炭酸泉浴が0.52℃上昇し、次いで炭酸泉浴が0.4℃、単純泉浴が0.27℃、手指屈伸は0.16℃となり、手浴における多重比較では炭酸泉浴と単純泉浴に有意差(P<0.05)を認めた。皮膚血流量でも一元配置分散分析で有意差(P<0.05)を認め、屈伸炭酸泉浴と手指屈伸が炭酸泉浴と単純泉浴より有意に増加した(P<0.05)。また脈拍数でも一元配置分散分析で有意差(P<0.05)を認め、最も増加した屈伸炭酸泉浴と最も変化が少なかった手指屈伸の比較で有意差を認めた(P<0.05)。
    【考察】
     深部温で最も変化が大きかったのは、屈伸炭酸泉浴であった。この結果は前回の第30回九州理学療法士・作業療法士合同学会で報告した炭酸浴の効果より大きい結果となった。上腕部の皮膚血流量では手指屈伸のみが炭酸泉浴と単純泉浴より有意に増加した。以上により、加温効果のある炭酸泉による手浴で温められた表在血が手指屈伸運動で、全身に多く循環された結果、屈伸炭酸泉浴の深部温変化が大きくなったと考える。さらに、心拍数の変化では手指屈伸が最も少なかったことから、手指屈伸の運動負荷強度は非常に小さいと推測される。このことから手軽におこなう手指屈伸であっても温浴効果には大きな役割を持つことが期待できる。
    【まとめ】
     健常若年男性に対する手浴で、単純泉浴と炭酸泉浴と手指屈伸を伴う炭酸泉浴を行った。結果、手指屈伸を伴う炭酸泉浴が最も深部温を上昇させた。
  • 金城 和雅, 嶋田 良, 熊谷 和典, 山川 信人, 北村 佳苗, 矢野 俊恵
    セッションID: 232
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     股関節疾患に対する作業療法は近年、様々な学会等でも発表されるようになり、下肢整形外科疾患に対する作業療法も確立していかなければならない時期を迎えている。
     今回、当院作業療法(以下OT)での統一した介入方法を検討する目的で、股関節疾患症例に対しての調査を行った為、若干の考察を加えてここに報告する。
    【対象・方法】
     平成20年8月~1月中旬までに当院より退院した股関節疾患患者33名(男性5名、女性28名)を対象とした。年齢は66歳~95歳(平均79.5歳±6.5)であった。
     対象患者の疾患・術式・OT初期評価・最終評価でのBI・認知機能評価の有無と点数・転帰・在院日数・合併症の有無を調査した。
    【結果】
    疾患:大腿骨頸部骨折28名、変形性股関節症5名。
    術式:THA15名、BHA2名、γネイル11名、CCS 5名。
    BI:入院時平均54.5点±17.6、退院時平均73.6点±19.6。
    合併症(重複あり):パーキンソン病・症候群5名、脳梗塞3名、精神疾患3名、RA2名、認知症18名(認知症診断あり11名、HDS-R21点以下7名。以下この群を認知症とする)。
    認知機能検査:初回のみ実施群10名(認知症5名、非認知症5名)複数回実施群14名(認知症8名、非認知症6名)、未検査群9名(認知症5名、非認知症4名)。
    転帰:自宅25名(認知症42.3%)、施設8名。
    在宅復帰率:75.8%。在院日数:50.12±18.7日(在宅復帰46.6日、施設60.0日)。在宅復帰者における家屋調査実施率64%。
    各疾患でのBIについては、統計学的有意差は認められなかった。
    【考察】
     転帰では自宅復帰率が75%と、予想より高い結果となった。これは、認知症を合併しておりADLが自立困難な症例でも、家族の協力により在宅生活が支えられている現状を示している。在宅生活へと繋げる上で必要な家屋調査に関しては、60%台の実施率に留まった。実施しなかった理由としては必要性のなかった症例や、前回入院時に実施済みの症例もおり、必要に応じて家屋調査を実施しているという現状である。
     当院での認知機能検査の有無は、担当に委ねられている。未検査の群では、失語症やパーキンソン病等の合併症により検査困難な症例や、ADL上問題無いと判断した症例等であった。観察も含めた正確な認知機能評価をOTR間で統一したり、家族や他職種にも認知機能の特徴・対処法が理解し易いパンフレットを作製する等の指導的役割が求められているのではないだろうか。また、家屋調査に基づく住環境のアドバイスを家族だけでなくケアマネ等他職種にも情報提供し、在宅サービスを検討してもらうことも必要である。これらの指導・助言により、家族の協力と理解を得ることができ、入院を長期化せずに早期退院を促進する事に繋がるのではないかと考える。
  • 大倉 あすか
    セッションID: 233
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     今回,当施設では認知症高齢者へのアプローチとして学習トレーニングに注目した.この分野の第1人者である川島隆太先生は「音読や単純計算などの学習は認知発達障害を持つ人たちの前頭葉を活性化し,コミュニケーションの能力や身辺自立の能力改善が期待できる」と述べられている.そこで,認知症高齢者の認知症症状の改善,進行緩和を目的に,学習トレーニングを実施し効果判定を行うことにした.
    【対象】
     認知症短期集中リハビリを実施している4名(女性4名).平均年齢84.3歳(83歳~85歳).MMSEは認知症短期集中リハビリの対象である15点以上25点以下であり,平均21.5点(21点~23点)である.
    【方法】
     期間は認知症短期集中リハビリの枠組みである週3回,1回20分以上で実施.時間は定時に実施するも,個人により差があり実施時間は20分~40分のばらつきがあった.新規入所から3ヶ月間実施し,平均34回(31回~36回)実施した.内容は川島先生の推奨する学習トレーニング(計算,読み,書き)を実施し,材料は川島先生の著書を使用した.開始時は挨拶や日付確認を行い,実施中も季節の話や今日の出来事などを話し,コミュニケーションを多く取るように心がけた.学習トレーニングによる認知症高齢者の変化を,MMSEと御家族からの聞き取り調査にて調べることにした.本研究は,すべての対象者や御家族へ研究の目的や個人情報の保護について説明を行い,同意を得てから実施した.
    【結果】
     MMSEで減点1名(-2点),改善3名(平均+5.3点),変化なし0名だった.御家族からの聞き取り調査を行い,意欲の向上が著明にみられ,興味や関心の拡大等も観られた.
    【考察】
     認知面に改善が観られた3名は平均+5.3点と大きく改善が観られた.また,意欲や関心の向上や,悲観的な発言の減少が観られ,介護職より施設内レクリエーションへの参加や,食堂での他入所者との会話も増加したとの意見もあった.御家族への聞き取り調査では「帰宅欲求がなくなり落ち付いて施設の生活を送れるようになった」「家族を気遣う言葉が多く聞かれるようになった」との変化が現れた.他者とのコミュニケーション,感情,ADLの自立,人格などは前頭前野がコントロールしており,学習トレーニングにより前頭前野が活性化され,このような効果を得ることが出来たと考えられる.この結果から,学習トレーニングは目的や意識付けを行いやすく,学力の向上だけではなく前頭前野機能(人間らしさ)の維持・改善に期待できるという川島先生の考えに同意できる.また,今回は短期集中リハビリとして運動療法を並行して実施していたため,身体機能面の向上もみられた.今後は学習トレーニングや運動だけでなく,創作活動なども取り入れて本人の満足度や生きがい,QOLの向上につなげていきたいと思う.
  • チルトテーブルを利用して
    石井 徳久, 山崎 剛
    セッションID: 234
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     私が勤務する病院は、終末期に近い療養型施設である。患者の大半は、寝たきりで坐位や立位は不可能な状態である。この様な環境の中において、自力排便の能力のある患者は極まれである。その中で、理学療法士として排便の改善を目指した経過を報告する機会を得た。
    【対象】
     対象の条件は、意思疎通が不可能で、下剤を定期的に服用しているにも関わらず月に平均10~11回浣腸をしている患者で、坐位保持が不可能な患者を選んだ。昭和12年生まれ72歳女性。全盲、聾唖、多発性脳梗塞後遺症、肝硬変、狭心症、精神発達遅滞、可動域は全て正常である。
    【方法】
     期間は、プログラムを実行した平成20年9月1日から10月31日までと、しなかった平成20年7月1日から8月31日までの2ヶ月の浣腸の回数と、熱発回数を比較した。また開始前後の血圧と下腿の酸素飽和度を測り比較した。理学療法プログラムは、チルトテーブルで70度の角度で立位をとり、15分間腹部マッサージを行って10回試行した。当日に排便があったか調査した。再現性を期する為、午後14時前後に実施した。
    【結果】
     平成20年浣腸数は9月6回、10月3回。熱発日数は9月無し、10月1回。浣腸数は7月9回、8月9回、熱発日数は7月5日、8月は4日であった。そして、その日の夕食までに便が出たのが3回、夜勤帯に出たのが2回であった。最高血圧は開始前127.1mmHgが、終了時118.7mmHgになり優位に差が認められた。最低血圧は開始前79.6mmHg、が終了時73.6mmHgになり優位に差が認められた。下腿の酸素飽和度は、開始前94.5%が終了時に97.1%になり、優位に差が認められた。
    【考察】
     結果より、チルトテーブルによる腹部マッサージが、排便能力の向上に繋がり、浣腸の数の減少につながったと考える。この浣腸の解消は、本人のADL向上はもちろん、病院にとってみれば経費の節減であり、看護・介護の現場においては、人的コストの削減といった様に、三者にメリットを生み出した。一概に浣腸の数の減少と自然排便、加えてチルトテーブルの効果として、熱発日数が減少したと断言できないが、少なくとも胃腸を中心とした消化器系は良好になったと考える。チルトテーブルによって立位を取る事により、直腸の角度がほぼ垂直になるという解剖学的肢位に重力の物理的作用が相まって、更に排便の促通を促したと考える。
     また、下腿の血流量の増加は、当然下半身への血流量の増加に繋がりひいては、全身血流量の増加は脳への血流量の増加につながると考える。
     本人の意思疎通が出来ない為、御家族の諒承の下、それを理学療法士が実践したこの事例において、寝たきり状態の患者であっても、理学療法士の介入によって、排泄の改善が可能であると考える。また、一般的なチルトテーブルが、排便の改善に繋がる効果があるならば、排便障害の患者に多職種によるケアが可能であると考える。
    【まとめ】
     1.浣腸の数が減少した
     2.熱発日数が減少した
     3.足指の血流量が増加した
  • 一症例を通して
    古賀 恵一郎, 品川 梨絵, 井手 絵理子, 白石 美幸, 清永 陽子, 森 里美
    セッションID: 235
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当病院・施設のリハビリテーション対象患者の多くは維持期高齢者で、車椅子使用割合が大きく、日常生活上主な移動手段となっている。維持期では身体機能の大幅な改善は困難で、環境改善の必要がある。そこで今回、車椅子駆動が困難な症例に対し、シーティングを検討し実施することで車椅子駆動改善を試みたのでここに報告する。
    【症例紹介】
     80代、女性、パーキンソン病(Yahrの分類4)。指示理解は問題なし。座位能力分類では2-座位に問題ありに該当。本人私物の標準型車椅子を使用。自室から食堂までの移動の際に時間の経過に伴う姿勢の崩れが著明で、途中駆動困難となる。
    【方法】
     症例の車椅子駆動を困難にしている最大の要因は、過度の体幹前屈・左回旋による上肢の操作性の低下と考え、体幹の動きを制御することによる車椅子駆動改善を目的とした。そこで、体幹の動きを考慮し、幅4.5cmの伸縮性のベルト(以下、ベルト)を用い、以下の3方法にて比較検討した。
    1)標準型車椅子のみ
    2)両腋窩下よりベルトで体幹と車椅子を固定
    3)両肩部に回したベルトを車椅子後面で交差させ、体幹と車椅子を固定
     同一日に、1)から3)の順番で自室から食堂まで(40m・右カーブ2回・左カーブ1回・廊下幅2.5m)を到達目標とし、駆動方法は全て両手駆動にて行った。
    【結果】
     1)では、約9mで衝突あり、自己にて修正困難で食堂まで到達不可。駆動中に両肩、腰部に疼痛訴えあり。
     2)では、約16mで衝突あり、自己にて修正困難で食堂まで到達不可。駆動中の疼痛は1)と変化なし。ベルトによる胸部圧迫感の訴えあり。自己にてベルトを外すこと不可。
     3)では、約26mで衝突あるも、自己にて修正可能で食堂まで約11分30秒で到達可能。駆動中の疼痛訴えなし。ベルトによる圧迫感訴えなし。自己にてベルトを外すこと可能。
    【考察】
     結果より、1)2)では障害物への衝突及び自己修正困難で食堂まで到達できなかった。理由として、1)は時間の経過に伴う過度の体幹前屈・左回旋による上肢の操作性低下が考えられ、2)においては1)に比べ、駆動中の体幹の前屈は減少されたものの左回旋は抑制できず、上肢の操作性が低下したと考えられる。3)においては、1)2)のような時間の経過に伴う体幹の崩れがなく、終始体幹が起き上がることで肩と車軸が一直線上になり理想的な駆動姿勢に近づけたこと、更に肩甲帯の可動性も生まれ上肢の操作性が向上し、衝突後の修正が可能で食堂まで到達できたと考えられる。
    【まとめ】
     今回、シーティングにより車椅子駆動改善を経験した。しかし、衝突回避や駆動速度の改善等の課題が残った。今後更なるシーティングの検討と共にルートや部屋の位置等、環境調整の検討が必要である。
  • ~“足抜き”の有効性を探る~
    落合 敏彦, 前田 文子, 金子 茂稔
    セッションID: 236
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     ベッドの背上げによる、被介助者への加圧、剪断力の発生は褥創リスクである。リスク管理として、背上げ後に上半身をベッドの接触面から離す背抜きが有効な手段として認識されている。それに対し、下半身に関するリスク回避手段は確立されていない現状にある。今回、背上げ後の下肢の介助挙上を“足抜き”と定義し、その有効性を検討した。
    【方法】
     被験者は健常成人30名。肢位はベッドの屈曲点と上前腸骨棘を合わせた仰臥位とした。
     1:背上げ前(0度)、背上げ後(75度)、背抜き後、足抜き後、背下げ後のポイントで、頭・足部のずれ(距離)と足関節角度、踵部圧力を測定した。ずれは背上げ前を基準とし、ずれ上がりをプラス、ずれ下がりをマイナスとした。角度はゴニオメーターを使用し底屈をプラスとし、圧力は体圧測定器セロ(株式会社ケープ)を使用し測定した。2:被験者に、背上げでずれや圧迫感をどの部位に感じたか、背・足抜きにより快適さを感じるようになったか、アンケートを実施した。統計学的分析はt検定を用い、背上げ後と背・足抜き後で比較した。有意水準は5%未満とした。
    【結果】
     1:ずれは、背上げ後で頭部3.2±1.1cm、足部-8.7±1.2cmであった。背・足抜き後で頭部3.5±1.6cm、足部-10.6±1.4cmであった。足部にのみ、背上げ後と背・足抜き後の間に有意差が認められた(p<0.001)。足関節角度は背上げ前32.9±9.7°、背上げ後44.5±9.3°、背抜き後42.1±9.6°、足抜き後32.2±9.0°であり、背上げ後と背・足抜き後の間に有意差が認められた(p<0.001)。踵部圧力は背上げ前48.80±16.83mmHg、背上げ後52.70±19.34 mmHg、背抜き後51.78±18.38 mmHg、足抜き後50.42±16.18 mmHgであり、背上げ後と背・足抜き後の間に有意差は認められなかった。2:背上げによりずれ・圧迫感を感じたのは93%、上半身は圧迫感を、下半身はずれを感じる傾向があった。背・足抜きにより快適さを感じたのは、背抜きが97%に対し、足抜きは60%であった。
    【考察】
     本研究で、背上げにより足関節はずれ下がりと底屈を強いられていることが分かった。つまり踵部には、背上げによるずれや摩擦により剪断応力を受けていることが推測された。また、背上げ後と背・足抜き後の間には、踵部圧力において有意差は認められなかったが、足部のずれと足関節角度には有意差が認められた。このことは、背・足抜きが背上げによる足部のずれや摩擦を取り除くことができることを示した。しかし、背抜きに比べ足抜きは快適さを感じにくい傾向にあり、被介助者が足抜きの必要性を感じない場合があることも考えられる。また、下肢には布団がかけられていることが多く、介助者も見逃しやすい環境にあると言える。背上げ動作では、背抜き同様足抜きも有効であるということを念頭に置き、ケアに取り入れていく必要がある。
  • 藤田 幸志郎, 副島 夏希, 立石 修康
    セッションID: 237
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     車椅子使用者にとって、20mmの段差でさえ乗り越えるには困難な場合がある。そこで今回、車椅子で段差を乗り越える際、キャスターを片輪ずつ乗り越え(以下、片輪乗り越え)る方が、キャスターを両輪で乗り越え(以下、両輪乗り越え)る場合に比べ、段差乗り越え駆動力が軽減すると仮説を立て、本研究に取り組んだ。
    【対象】
     学生27名(男性12名、女性15名、平均年齢21.9±1.3歳)、デイケアやデイサービス、老人保健施設の利用者61名(男性26名、女性35名、平均年齢77.4±11.8歳)であり、同意は得ている。
    【実験と結果】
     実験は1)重心位置、2)段差乗り越えに必要な駆動力(kg)、3)被験者の段差乗り越え能力(mm)を測定した。2)と3)は片輪乗り越え群と両輪乗り越え群間でそれぞれ比較した。片輪乗り越えでの段差は、2)は左側のキャスターに、3)では健側または利き手側のキャスターに設置した。
     1)実験器具を作製し、学生が車椅子乗車時の重心位置を測定した。キャスター中心から26.1cm、後輪中心から16.9cmの地点に位置した。
     2)実験1)で求めた車椅子の重心位置に60kgの砂嚢を載せ、体重60kgの方が姿勢保持している実験環境を設定した。学生が車椅子の対面に位置し、キャスターが10mmの段差を乗り越えるまで、作成した実験器具で車椅子を引くよう指示した。段差乗り越えに必要な駆動力は、片輪乗り越え群で左2.4±0.5kg・右1.6±0.3kgの合計4.0±0.6kgが要求され、両輪乗り越え群の左3.4±0.3 kg・右3.3±0.4kgの合計6.7±0.6kgに比べ40.3%軽減した(P<0.05)。左右比は片輪乗り越え群3:2、両輪乗り越え群1:1だった。
     3)施設利用者に車椅子に乗り、アルミ板で作成した2mm-25mmの段差を乗り越えるよう指示した。実験器具の計測限界値である25mmの段差を容易に乗り越えた、被験者18名分のデータは除外した。段差乗り越え能力は片輪乗り越え群16.7±4.2mmで、両輪乗り越え群の11.9±5.2mmに比べ40.2%増加した(P<0.05)。
    【考察】
     本研究より、車椅子のキャスターで片輪ずつ段差を乗り越える方が、駆動力は軽減することが分かった。しかし、片輪乗り越えは3:2の比率でハンドリムを操作しなければ推進方向に進まず、不必要な回旋が起こるのではないかと疑問が生ずる。施設利用者は高齢で、運動性失語や認知症疑いの方も含まれていたが、全員が段差を乗り越え、推進方向へ進むことができた。日常生活場面で段差を乗り越える際、健側または利き手側のキャスターを先に段差に当て、段差に対し斜めから乗り越えることで同程度の効果があると考える。
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