災害時には, 住環境の温度・湿度がコントロール不能に陥る, または清掃が行き届かない等住環境衛生に問題が生じやすいことから, 真菌の異常発育の状態に陥りやすい。2011年3月11日に発生した東日本大震災では, 被害規模が甚大かつ広範囲に及んだこと, 津波被害が顕著だったこと, 特徴的な原子力発電所事故が発生したこと等から, 避難施設, 仮設住宅, 津波浸水家屋, 原発周辺警戒区域内の居住者不在の家屋について, 室内環境の真菌汚染程度の悪化が懸念された。著者らは, 2011年から2014年にかけて, 様々な微生物学的調査を行った。その結果, それぞれの住環境において, 重篤な真菌汚染が発生していたことが明らかとなった。さらに, 一部住環境では, 呼吸器アレルギー疾患や住環境の真菌毒汚染による健康リスクがあることが示唆された。 大規模災害時の住環境は, 質的・量的に真菌叢が変化しやすい環境であることを認識し, 衛生状態に留意しなくてはならない。本解説では, 東日本大震災被災地の複数タイプの住環境を取り上げ, それらの真菌汚染の実態とそこからもたらされる居住者の具体的な健康リスク, および真菌汚染対策に関して, これまで得られている知見について紹介したい。
抄録全体を表示