室内環境
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最新号
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原著論文
  • 吉田 俊明, 味村 真弓, 左近 直美
    2024 年 27 巻 1 号 p. 9-22
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
     2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート (TMPD-MB:代表的商品名 テキサノール) および2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレート (TMPD-DB:同 TXIB) は,それぞれ,主に水性塗料や水性接着剤の造膜助剤および可塑剤として使用され,厚生労働省により室内空気中濃度の指針値の策定が検討されている化学物質である。国内外においてこれら化学物質とシックハウス症候群やアレルギー性疾患との関連性が報告されている。住民における健康被害を防止するためには,一般生活環境下での摂取量に関する知見は非常に重要であるが,その実態はほとんど把握されていない。
     本研究では,成人よりも化学物質に対して脆弱である子ども (132名,6~15歳) を対象として,これらの尿中代謝物量から,一日中在宅したと想定した際のTMPD-MBまたはTMPD-DBとしての摂取量を算出した。代謝物は対象者のすべての尿から検出され,これらの化学物質による体内汚染が我国の子どもに広範囲に及んでいることが示唆された。これらの体重あたり一日摂取量は概ね1 μg/kg,最高では10 μg/kg程度であり,在宅中のp-ジクロロベンゼン,ナフタレンおよび数種のフタル酸エステル類の一日摂取量と同レベルであると推定された。
     本研究の成果は,住民におけるこれら化学物質の健康被害を防止するための更なる曝露影響評価研究や行政的施策において,有用な資料として活用できるものと考えられる。
  • 青木 幸生, 青木 菜々子, 東海 明宏, 中久保 豊彦, 伊藤 理彩
    2024 年 27 巻 1 号 p. 23-42
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
     子供は,身体機能が未成熟であるため,化学物質暴露の事故等による被害が大人よりも大きくなる可能性がある。本研究では,子供の室内化学物質暴露に関わる事故について,国内の主要な製品事故データベースを用いて事故情報を抽出し,全米傷害調査電子システムコードを用いた分類を試みた。その結果,損傷部位は,頭頚部の割合が19歳以下で33.8%と高いことがわかった。傷害の種類では,皮膚炎に化学熱傷を合せた皮膚障害が最も多く,19歳以下で61.1%であった。また,事故の多い製品分野は,化粧品・薬品,建築・家具,玩具であることがわかった。一方,抽出した製品コードに対する0-19歳の中毒,皮膚炎,化学熱傷の事故発生確率は,概ね1E-6-1E-5 (incidence / population / year) 台であった。また,そのリスク期待値は,1E-11-1E-10 (lost-years per person / year) 台であり,診断・製品コード間で大きな差異はみられなかった。各年齢層の比較では,全年齢に比較して,中毒における玩具や布地処理製品に関わるコードの1-4歳の事故発生率は15倍および9倍,リスク期待値は6倍および3倍高く,高リスクな年齢層および診断・製品コードであることがわかった。
  • 坂田 侑紀奈, 仁科 彰, 森田 洋
    2024 年 27 巻 1 号 p. 43-52
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
     親水性領域(メタクリル酸ジメチルアミノエチル,DAM)と疎水性領域(メタクリル酸エチル,EMA)を併せ持った両親媒性ポリマーに着目をし,このなかでも疎水性を向上させた親水性:疎水性比が60:40の機能性ポリマーを新たに合成し,Aspergillus brasiliensisCladosporium cladosporioidesFusarium oxysporumに対する抗カビ効果の検討を行った。菌糸体成長阻害試験においては,全てのカビに対して低濃度で高い効果を発揮しており,A. brasiliensisに対する最小発育阻止濃度(MIC)および最小殺真菌濃度(MFC)はいずれも1.25 wt%という結果が得られ,本ポリマーは殺カビ的に効果を示すことが明らかとなった。またポリマー添加による菌糸成長への影響をスライド培養で観察した結果,分生子頭およびセプタの形成阻害が認められ,更にはエルゴステロール量の増加を示した。よってエルゴステロールの過剰合成あるいは過剰蓄積から,菌糸伸長阻害および分生子形成阻害を引き起こしていることが推察された。以上より,本ポリマーはエルゴステロール阻害剤ではない,新たな作用機序を有する可能性があり,室内環境に応用可能な新たな抗カビ剤としての利用可能性が高まった。
短報
  • 吉野 秀吉, 小川 正之, 依田 ひろみ, 高村 岳樹
    2024 年 27 巻 1 号 p. 53-61
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
     マスクや捕集材によるバクテリオファージの透過率および捕集率を測定できる独自の試験装置を開発した。この試験装置を用いて市販の代表的なマスク3種について透過率を測定した。厚めの不織布を薄い不織布2枚で挟んだ3層の不織布製マスクの透過率は,10%と比較的低かった。N95 (Particulate Respirator)マスクは,まったくバクテリオファージを透過しなかった。また,通気性がよいダブルガーゼを9枚重ねたガーゼ製マスクの透過率は56%と高かったことから透過抑制は不十分であった。これらのマスクは,いずれも通気性が悪く呼吸に支障をきたした。そこで,通気性が期待され,バクテリオファージを捕集できる活性炭等の探索を行うこととした。捕集率測定の結果,細孔径や粒子径が異なる4種類の活性炭の内の微粉末炭と5種類(杉,松,楢,マングローブ,竹)の木材を燃料用に炭化した木炭を粉砕した杉,松,楢の粉砕木炭(粒子径0.1~0.3 mm)に高い捕集率が認められた。さらに,粉砕木炭の細孔や細孔容積,比表面積および走査電子顕微鏡(SEM)写真の表面構造から捕集率を高くする要因は,細孔容積や比表面積が大きく,複雑な表面構造にあると推定された。特に粉砕杉木炭は,嵩密度が小さいため,少量での高い捕集率や,充填厚さ,5 mmでの長時間の捕集効果も認められた。また,実用化に当たって,杉は国内に大量に存在し,その木炭は柔らかくて粉砕し易いなどの利点もあるので,マスクへの適用可能性が高い。
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