室内環境
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23 巻, 2 号
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原著論文
  • 佐々木 直里
    2020 年 23 巻 2 号 p. 67-74
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    一般家庭7世帯を対象とし, 生ゴミ臭に寄与するにおい成分の探索を行った。 官能評価の結果, 生ゴミ臭を連想して最も臭気強度が高く感じたサンプルAは, GC/MSで分析した結果, 主成分はエタノールと酢酸エチルであった。 しかし, 一般的に両者は生ゴミ臭を連想する成分でないことから, におい嗅ぎGCにより探索したところ, GC/MS分析だけでは検出できていなかったジアセチル, 3-メチル-1-ブタノール, 酢酸, イソ酪酸を同定することができた。 サンプルA~Gについてこの4成分の含有量および閾希釈倍率を算出したところ, ジアセチル, 3-メチル-1-ブタノール, 酢酸が共通して存在し, これらの成分のうち最も閾希釈倍率が大きい成分はジアセチルであることがわかった。 この結果から, 生ゴミ臭に寄与する成分の一つはジアセチルであることが推定された。 サンプルA~Gに含まれるジアセチルのうち, 最も閾希釈倍率が大きいサンプルはDであったが, 官能評価の結果では臭気強度が高く感じた試料はAであった。 以上より, 生ゴミ臭はジアセチルを基盤として, その他の成分の共存が臭気強度に影響することが推定された。
  • 野口 実華子, 水島 亜樹, 山田(中嶋) 容子, 福田 祥子, 吉田 精作
    2020 年 23 巻 2 号 p. 75-87
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    ハウスダストのアセトン抽出物についてアセチルコリンエステラーゼ(AChE)に対する阻害活性を測定した。 AChE活性の測定は, ヨウ化アセチルチオコリンを基質として, 5,5'-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)による呈色反応を利用した。 ハウスダストは, 大阪周辺の一般家庭から, 2013年に8例, 2014年に8例, 2015年に15例, 2016年に20例を入手した。 酵素阻害活性を測定する試料は, アセトンを用いて超音波下でハウスダストから抽出し, アセトンを除去後にエタノールに溶解した。 酵素阻害活性の測定は, AChEとハウスダストのアセトン抽出物を石英セル内で混合し, リン酸緩衝液とDTNBを加えた後5分間放置し, 基質を加え, 1分おきに吸光度(412 nm)の増加を5分まで測定した。 試料の酵素阻害率は, エタノールをコントロールとして測定した場合の吸光度増加の速度を100とし, 試料における吸光度増加速度の割合として求めた。 ハウスダスト(2.5 mg相当)のアセトン抽出物はすべてAChEに対する阻害活性(阻害率7~96%)を示した。 また, 測定した8種類の有機リン系難燃剤(PFRs)標準品は, すべてAChE阻害活性を示した。 ハウスダスト中のPFRsを測定したところ, すべてのハウスダスト試料から数種類のPFRsが検出された。
  • 蘓原 滉稀, 関根 嘉香, 山本 匠, 佐藤 祥大, 中井 里史, 柳沢 幸雄
    2020 年 23 巻 2 号 p. 89-97
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    電子・加熱式たばこの市場規模は急速に拡大しており, 能動喫煙者のみならず過去に喫煙していた人や非喫煙者にも広がりつつある。 電子・加熱式たばこはデバイス・銘柄ともに多種多様であり, 主流煙中の化学成分の種類・量に関する情報は未だ十分ではない。 一方, たばこ製品の主流煙を採取する際の吸煙条件には, ISO, HCIおよびCORESTAで規定したそれぞれ異なる吸煙プロトコールがある。 しかしながら, 国内で流通する電子・加熱式たばこから発生する化学成分の種類・量に対して, これら吸煙プロトコールの影響を調べた報告はない。 そこで本研究では, 国内で流通する電子たばこ1デバイス, 加熱式たばこ2デバイスを対象に, 主流煙中カルボニル化合物の含有量に及ぼすこれら吸煙プロトコールの影響を検討した。 吸煙にはLinear Vaping Machine for E-Cigarettes, LM4Eを用い, カルボニル化合物の定量にはDNPH(2,4-dinitrophenyl hydrazine)含浸固相カートリッジ-高速液体クロマトグラフ法を用いた。 その結果, 電子たばこに関しては主流煙中カルボニル化合物の含有量に対して吸煙プロトコールの影響は見られなかったが, 加熱式たばこ2デバイスに関しては有意な影響が見られた。 加熱式たばこの場合, カルボニル化合物の発生にはグリセリンやプロピレングリコールの熱分解に加え, たばこ葉から抽出された画分が関与している可能性が考えられ, 主流煙の有害性を評価するには, 標準的な吸煙条件の確立が必要である。
総説
  • 篠原 直秀
    2020 年 23 巻 2 号 p. 99-106
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/01
    ジャーナル フリー
    2020年の春時点で, 日本を含む世界中で新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)の感染が猛威を振るっており, 三密を避けることなど, より一層の感染対策が求められている。 本稿では, 室内環境における感染対策に関わる情報を収集・整理した。 感染者が呼吸・会話・咳・くしゃみなどをすると, ウィルスを含む飛沫が環境中に飛散する。 会話や咳で飛散する大きな粒子は, 多くの場合2 m以内に床面に沈着するが, 室内の気流によっては5 m程度飛散することもある。 また, 飛沫核などの小さな粒子は, 沈着せずに数時間もしくはそれ以上室内を漂う可能性がある。 室内空気中からウィルスが除去される経路としては, 床面や壁面への沈着, 換気による屋外への排出, ウィルスの不活化があるが, 無風の状態では10 μmを超えるサイズの粒子ではほぼ沈着で除去されるが, 数μm以下の粒子では換気と不活化の寄与が大きい。 室内を漂うエアロゾル上の新型コロナウィルスの不活化の半減期は1.1時間程度であり, 換気回数1回/hの場合よりも減衰への寄与は小さい。 日本の一般家屋の日常生活時の換気回数は, 春夏で1.2-1.7回/h, 秋冬で0.6回/h程度であり, 病室などで感染対策として取られる換気回数よりはるかに低い。 窓開け換気は室内濃度を低減させるのに非常に有効であるが, 屋外の風向や風速によっては十分な換気量が得られないケースもある。 空気清浄機については, コロナウィルスについての研究はないが, HEPAフィルター(High Efficiency Particulate Air Filter)を用いた場合には, ウィルスについても一定の効果が認められている。
解説
  • 室内環境微生物の諸問題の総括:測定法およびIPMによる対策
    橋本 一浩
    2020 年 23 巻 2 号 p. 107-118
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/01
    ジャーナル フリー
    シリーズ最終回となる本解説では, 室内微生物の測定法と汚染対策法について, 著者の測定事例や最新の知見, また2020年6月現在, 世界的なパンデミックに発展している新型コロナウイルスの話題を交えて紹介する。 室内微生物の測定法として, 培養法による浮遊微生物測定, 付着微生物測定およびハウスダストのカビ分析の手法を解説する。 さらに培養を伴わない迅速測定法や, 近年, 発展が著しい分子生物学的手法による網羅的菌叢解析も併せて紹介する。 また, 室内微生物汚染の対策法として, 浮遊微生物を低減する具体的な手法や, 一般家庭で使える代表的な殺菌剤の特徴について記述する。
  • 関根 嘉香, 蘓原 滉稀, 三澤 和洋
    2020 年 23 巻 2 号 p. 121-127
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/01
    ジャーナル フリー
    室内環境中の微粒子の発生機構には, 屋外からの侵入, 室内発生源からの発生, 床面等に沈降した粒子の再飛散がある。 大気中を浮遊する微粒子のヒトに対する健康影響は, 1990年代に報告された米国での疫学研究によって注目されるようになり, ヒトの死亡, 呼吸器系疾患, 循環器系疾患等との関連を示す多くの研究が報告されている。 一般に換気は室内空気汚染対策として重要であるが, 一方では大気中の微粒子を室内に取り込む経路となり, 微粒子曝露による健康リスクを高めてしまう可能性がある。 本稿では, 大気中微粒子の発生源, 粒径分布, 化学組成, 粒子形態について物理・化学的側面から概説し, さらに室内への侵入挙動について言及する。
総説
  • 東 賢一
    2020 年 23 巻 2 号 p. 129-139
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/01
    ジャーナル フリー
    1990年代に発表された米国の疫学研究以降, 微小粒子状物質(PM2.5)への曝露と循環器疾患等による死亡の関係が明らかとなり, 国際機関や各国で気中濃度の基準値が定められてきた。 そこで本報では, PM2.5の健康リスクについて, 近年の知見を踏まえて概説する。 世界保健機関(WHO)が2005年に年平均値10 μg/m3の空気質ガイドラインを公表して以降, PM2.5がヒトの健康に及ぼす影響は, このレベルより低濃度でも生じることが近年の疫学研究で明らかとなっており, その量反応関係は, 線形で閾値がみあたらないと考えられている。 今後, WHOと米国環境保護庁は, 低濃度域における近年の疫学的知見を踏まえて空気質ガイドラインと環境基準値を再検討する予定となっている。 WHOは2018年10月末にジュネーブで開催した「空気汚染と健康に関する世界初会合」において, 各国における速やかな取り組みを促しており, PM2.5への曝露で深刻で不可逆的な健康影響が生じることを鑑みた予防的な取り組みが必要である。
原著論文
  • 清水 一男, 野中 大輔, クリストフ ヤロスロフ, マリウス ブラジャン
    2020 年 23 巻 2 号 p. 141-150
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    静電気力による微粒子除去や輸送では, 電気集塵や多層交流電圧による電界カーテンを用いたものなどが, 実用化されてきている。 室内環境制御の観点では空調機器類内部に設けられた微粒子捕集用フィルタ表面に堆積した微粒子の清浄化が問題となってきている。 本研究ではプラズマアクチュエータと同様の構造である二対の電極と誘電体層からなるマイクロプラズマ電極を用いた。 全体の厚さが約100 μm程度であるためソーラーパネルやウエハなどの表面に埋め込むまたはデバイスをそのまま表面に張り付けることでコンタミネーションの除去が期待される。 本研究では上記特徴を持つマイクロプラズマ電極を用いて, 電極表面上の微粒子の除去を目的に実験的検討を行った結果を報告する。
解説
  • 永吉 健太郎
    2020 年 23 巻 2 号 p. 151-160
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/01
    ジャーナル フリー
    居住空間の空気質改善に家庭用空気清浄機が利用されている。 集じん, 脱臭, 除菌などの機能の中心となるのが空気中に浮遊している微粒子の除去技術である。 販売されている機器の大半はフィルタろ過式である。 ろ過の捕集機構は, 慣性力, さえぎり, 拡散力, 重力, 静電気力の作用によって行われる。 慣性力などの機械的捕集は大粒径に, 静電気捕集は小粒径に有利である。 家庭用空気清浄機では圧損を低くしながら微小粒子を捕集するため, あらかじめ繊維を帯電させたエレクトレットフィルタが用いられている。 しかし繊維の帯電は燃焼生成粒子などを捕集した場合に消失してしまう。 これを持続させるために繊維表面の改質や, 摩擦による再帯電などの改善が試みられている。 一方で電力供給により静電気力を発生させる電気集じん技術がある。 室内空気を循環させて清浄化する場合には処理風量が性能に大きく影響するため, 送風抵抗の少ない電気集じん装置は, この点で有利である。 電気集じんは放電による電力消費とオゾン発生というフィルタにない側面があり, これらを改善するために誘導帯電やグラディエント力による荷電方式, 被覆接地電極の絶縁破壊で発生させる高密度パルスイオン荷電方式などが研究されている。 本稿では微粒子除去技術の全体像を概観したうえで, 電気集じん技術の概要および研究動向について述べる。
  • 福嶋 信彦, 佐藤 佳宏
    2020 年 23 巻 2 号 p. 161-169
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/01
    ジャーナル フリー
    室内環境の粒子状物質は, 一般に粒子径に依存する物理量に基づいて測定が行われる。 本稿では, 最初に大気や室内環境濃度の測定に用いられる質量濃度の測定法について, 標準測定法とされるフィルター秤量法と, 測定現場で利用可能な簡易測定法について述べる。 次に, 空気清浄度の評価に用いられる代表的な個数濃度の測定法について紹介し, さらに粒子を大きさや重さの区分別に分ける分級法として, 粒子の電気移動度と慣性力を利用した分級原理と測定法について解説を行う。 最後に今後の展望としてIoT技術との融合による新たな測定の可能性について触れる。
  • 鍵 直樹
    2020 年 23 巻 2 号 p. 171-179
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/01
    ジャーナル フリー
    建築物及び住宅などの一般空間における浮遊粉じんについては, オフィスビルなどの建築物では従来のたばこ煙によるもの, 住宅においては燃焼器具や調理など発生源は多岐にわたる。 室内における浮遊粉じんの基準値は, 建築物衛生法により建築物環境衛生管理基準として, 0.15 mg/m3以下とすることが定められているが, 他の法律等において空気環境に関する基準値はない。 また, 住宅については特に規制はない。 一方, 室内環境において究極に清浄な空間として, 半導体や液晶パネル, 医薬品や食品を製造するクリーンルームがあり, 粒子濃度により表現される清浄度クラスが規定されている。 そこで本報告では, 一般室内及びクリーンルームにおける浮遊微粒子に関する室内空気汚染及び研究動向について概説するものである。 まず, 海外のレビュー論文を元に一般室内における過去から現在までの室内空気汚染の変遷より, 粒子状物質など室内の分煙・禁煙により室内濃度レベルが低減していることを述べた。 さらに, 室内環境におけるPM2.5について, 既往研究における室内発生源と実測調査より概要を示した。 建築物内の室内浮遊粒子の粒径別質量濃度の状況は, 粒径0.2-0.3 μmと4 μmにピークを有する二峰型となっていること, 住宅室内においては調理によりガス調理器, オーブントースターの利用でPM2.5及び粒径30-50 nmの超微粒子の発生が認められたことを述べた。 また, クリーンルームにおける浮遊微粒子の清浄度の考え方についても述べた。
  • 長門 研吉
    2020 年 23 巻 2 号 p. 181-189
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/01
    ジャーナル フリー
    大気中に存在する気相イオン(大気イオン)の挙動は大気中のエアロゾル粒子との相互作用に大きな影響を受けている。 電離によって生成した正・負のイオンはイオン同士の再結合やエアロゾル粒子への付着によって失われていく。 微粒子濃度がある程度以上の環境ではイオンの消滅はエアロゾル粒子への付着が支配的になり, 大気イオンの濃度や寿命はエアロゾル濃度によって決まる。 大気イオンは生成から消滅するまでの間に空気中の成分との反応によってその化学組成を変化させていく。 このような大気イオンはそれらを核とした粒子生成を誘発する場合もある。 本稿では大気環境におけるイオンと微粒子の相互作用について解説し, 室内環境でのイオンの挙動や性状について考慮すべき点についても触れる。
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