室内環境
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26 巻, 1 号
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原著論文
  • 船水 純那, 五老 祐大, 徳村 雅弘, 山田 建太, 牧野 正和
    2023 年 26 巻 1 号 p. 3-14
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    有機リン殺虫剤クロルピリホス(CPF)の脱塩素化体に注目し,一部の脱塩素化体を合成するとともに,アセチルコリンエステラーゼ50%阻害濃度(IC50)を測定した。ガランタミンのIC50Galを基準に相対活性値を算出した結果,CPFoxon; 3.16,3,5Cl-CPFoxon; 1.84,6Cl-CPFoxon; 1.04,NonCl-CPFoxon; 1.93,CPF; -0.39となり,脱塩素化にともない活性は低下傾向にあるが,ガランタミンよりも強いことが分かった。また,ドッキング計算から,この低下が基質反応部位と分子内リン原子との距離と関連していることが示唆された。次に,不可逆的な阻害能を評価する指標,神経毒性係数(NIF)を新たに定義した。これを算出した結果,CPFoxon; 4.6,3,5Cl-CPFoxon; 3.2,6Cl-CPFoxon; 2.0,NonCl-CPFoxon; 2.5,CPF; 1.2となり,測定したすべての脱塩素化体およびCPFにおいて,相対活性値と比較して顕著に増大することが分かった。不可逆的阻害能は,CPFoxonだけでなくCPFの長期的な神経毒性と関連すると考えられるため,神経毒性リスクをより高度に評価するうえで,NIFは有用な指標と見做せることがわかった。
  • 飛田 幸祐, 林 琴美, 好田 年成, 中島 淳, 森田 洋司, 森田 洋
    2023 年 26 巻 1 号 p. 15-27
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    ヒトの衣生活において,衛生に対する意識が高まる中で,洗濯は衣類の汚れを除去する重要な役割を持つ。様々な機能を有する洗濯洗剤が広く市販されているが,近年,微生物汚染を除去する洗濯洗剤の需要が高まっている。こうした背景には部屋干し衣類から発生する悪臭が挙げられる。悪臭の発生に関与する代表的な微生物がMoraxella osloensisなどの皮膚常在菌である。これら細菌が,繊維に付着した発汗物や,油腺より分泌される中性脂質を栄養源とし増殖する結果,悪臭が発生する。この問題の解決策として高い洗浄力を有し,且つ,ヒトにとって有害な微生物の除去機能を有する洗濯洗剤が必要とされる。本研究では,先行研究によってM. osloensisに対して有効的な効果を示した分岐型脂肪酸塩:2-ヘキシルデカン酸カリウム(isoC16K)に着目した。isoC16Kの除菌効果は洗剤・石けん公正取引協議会の定める除菌活性試験方法を参考に評価を行った。この手法の試供菌株がE. coliS. aureusであり,isoC16Kを0.4%で使用することで,両菌株の生菌数を3 log以上,除菌することが明らかとなった。また,ヒトが着用した衣類に付着した細菌に対して除菌活性を測定した試験では,0.4%で3 log以上の生菌を除去することが明らかとなった。最終的に実施した,E. coliに対して除菌の基準を満たす最小濃度を探索した結果,0.1%で2 logの生菌を除去する機能を有することが明らかとなり,isoC16Kは新たな除菌液体洗濯洗剤の開発に貢献できることが期待される。
総説
  • 伊藤 光平
    2023 年 26 巻 1 号 p. 29-42
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/01
    ジャーナル フリー
    ヒトは用途に応じて複数の建造環境を使い分けながら1日の大半を建造環境内で過ごしている。近年,「建造環境の微生物叢 (MoBE)」の網羅的な解明が進んでいる。建造環境では,屋外環境などの一部やヒト自体が微生物の供給源となり多様な微生物が持ち込まれ,独自の微生物生態系が構築されている。その動態は,季節などの自然要因のみならず,換気,建材,設計手法などの人的要因によっても変化する。本論文では初めに,ヒト,環境,微生物における相互作用や関係によって生じるMoBEの構成要因を説明する。次に,建造環境における薬剤耐性菌の発生プロセスと感染症拡大につながるリスク要因を評価する。さらに,都市化に伴いヒトが多様な微生物に曝露する機会が減少することによって生じる免疫発達への影響など,MoBEが与えるヒトの健康への影響についても議論する。以上の通りMoBEの重要性が明らかになりつつある一方で, 複雑性の高いMoBEから一貫した特徴を検出するためには解決すべき課題が多くある。MoBEの複雑性が高いのは,微生物の発生源が無数に存在し,同時にヒトの活動,建築設計や屋外の土地利用など多様なパラメータが存在するからである。さらに,MoBEを解明するための生物学的実験・解析手法にはいくつかの技術的な制限がある。MoBEを人為的に管理することで健康,快適性,生産性等を向上させるためには,さらなる研究が必要である。
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