事務所ビルでは,建築物衛生法により室内CO
2濃度1000 ppmを基準として室内空気質の管理がなされている。しかし近年,厚生労働省が定めた室内濃度指針値物質以外の未規制のVOCによる室内空気汚染が問題となり,TVOCによる管理が重要視されている。一方,事務所ビルにおける省エネルギーは喫緊の課題であり,外気導入量の制御による冷暖房の負荷の低減が有効な対策とされている。本研究では,CO
2とTVOC濃度を指標とした空調制御による省エネルギーの可能性を検証するため,執務者が不在の既存のオフィス空間においてCO
2を定常発生させ,空調制御に伴うCO
2とTVOC濃度変化を検証する模擬実験と,実際に稼働している既築ビルの執務中におけるCO
2とTVOC濃度の長期測定を行った。その結果,模擬実験では,外気導入量を低減すると室内CO
2濃度が理論通り上昇するのに対し,給気風量を低減するとCO
2濃度に分布が生じることがわかった。また,執務中の長期測定では,CO
2濃度とTVOC濃度の変化は異なる傾向を示したため,これら2つの指標によって室内空気質を管理することの必要性が明らかとなった。そこで,管理基準をCO
21000 ppm,TVOC400 μg/m
3として空調を制御した場合の外気導入量を推算したところ,現行の設定値に対し43%削減可能と求められた。今回の結果を考慮すれば,VOC発生の少ない既築ビルでは,CO
2とTVOCの濃度をモニタリングすることで外気導入量の抑制が可能な場合があり,省エネルギーに寄与できると考えられる。
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