室内環境
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22 巻, 2 号
総説
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総説
  • ―第1報―
    嵐谷 奎一, 松井 康人, 戸次加 奈江
    2019 年 22 巻 2 号 p. 127-136
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー
    モデルルーム(面積:20 m2, 容積:45 m3)において, 6種の異なる暖房器具(3種の石油系暖房器具, 都市ガス及びプロパンガスヒーター, 電気ストーブ)および喫煙により発生する汚染物質の計測を行った。換気条件は, 以下に示す4種類の方法により実施した。1: 換気操作を行わない(Fan off, Door closed), 2,3: ドアの開閉により換気を行う(Fan off, Door 45°-openまたはFan off, Door 10°-open), 4: 機械換気を行う(Fan on, Door closed)。なお, 暖房時間と喫煙時間は, いずれも3時間と設定した。これらの結果から, 電気ストーブを除く暖房器具の使用により, NOおよびNO2の発生が確認され, その濃度は機種により異なることが確認された。 また, CO, CO2およびホルムアルデヒドは, 電気ストーブを除く全ての暖房器具から発生することが確認され, 粉じんと多環芳香族炭化水素(PAH)は石油系暖房器具からの発生が認められた。一方で, 喫煙による影響を評価した結果からは, NO, COおよびCO2, ホルムアルデヒド, 粉じん, PAHの濃度の上昇が認められた。これらの汚染物質は, いずれも換気操作を行うことによって濃度の低減が確認され, 暖房器具の使用時や喫煙時には, 換気を行うことが室内汚染物質除去への対処策として効果を示すことが確認された。
原著論文
  • 川上 裕司, 小田 尚幸, 橋本 一浩, 神山 典子, 山崎 史, 福冨 友馬
    2019 年 22 巻 2 号 p. 137-144
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    近年,スエヒロタケ(Schizophyllum commune)などの担子菌(Basidiomycete)を原因とする深在性真菌症の症例が広く認知されるようになってきた。担子菌類は培地上で子実体を形成することは稀であり, 白色系のcolony(mycelium)を形成するだけで, 形態的特徴が乏しい。これまでの慣習として, 糸状性担子菌類(Filamentous Basidiomycetes)が分離された場合には「White filamentous fungi」または「Mycelia Sterilia」と便宜的に分類し, 詳細な同定検査対象から外すことが常であった。そのため, 室内環境における担子菌類の分布は明らかにされていない。筆者らは担子菌類の住宅内における浮遊実態を明らかにするために, 1都3県に所在する計20軒の一般住宅(寝室と隣接するベランダ)を対象として, 2016年の秋季から2017年夏季の4季に渡って浮遊真菌の調査を実施した。調査で分離された菌株は, ITS領域の遺伝子配列解析によって同定した。その結果, 合計17軒の寝室から, 秋季に29株, 冬季に7株, 春季に23株, 夏季に49株の白色糸状真菌(White filamentous fungi)を単離し, スエヒロタケをはじめとした4目7科20種の担子菌を同定した。最多分離菌種はアラゲカワラタケ(Trametes hirsuta)の38株であり, 次いでTrametes lactineaの12株だった。臨床上の重要菌種であるスエヒロタケは10株分離された。また, 担子菌は種類によって, 胞子の拡散時期に季節性があることが示唆された。本調査から, 一般住宅の室内空気中における担子菌類の浮遊実態の一端が明らかになった。
  • 青木 幸生, 小島 直也, 東海 明宏
    2019 年 22 巻 2 号 p. 145-157
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    室内環境におけるハウスダスト中の準揮発性有機化合物(SVOC)について, 有害性の観点から, その化学物質種や濃度に関して, 近年様々な調査が行われている。発生源としては, 製品に使用されている可塑剤や難燃剤に由来するものと考えられている。SVOCは蒸気圧が低く, 吸着性を有しているため, 空間中ではガス態だけではなく, 浮遊粒子やハウスダストに吸着した状態で存在している。そこで本研究では, 各態間の分配平衡を考慮した動態モデルを用いて, ハウスダスト中のSVOCの濃度推算を行った。また, オクタノール/空気分配係数(Koa)に着目し, 推算値と実測値の比較を行い, 推算精度やモデルの限界について評価した。可塑剤と臭素系難燃剤については, 各モデルの中央値でFactor1.78-13.1の安全側の推算値が得られ, 回帰直線の傾きも0.838-1.28と1に近似であった。マクロ的な視点から見た場合, LogKoaが10程度以上の物質については, 分配動態モデルで実用的に説明できる。一方, LogKoaが10程度以下の物質の推算値については, 2オーダー程度の危険側評価となり, 他の移行経路の影響やKoaの補正の必要性が示された。
  • 村田 真一郎, 関根 嘉香, 佛願 道男
    2019 年 22 巻 2 号 p. 159-166
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    室内空気中におけるアセトアルデヒドの発生源および発生機構については不明な点が多く, これまで明らかとなっていなかった発生源が次々と見出されている。一方で, 家庭用冷蔵庫内には食品由来のカルボニル化合物の存在が見いだされ, さらに冷蔵庫と設置空間との間には空気の交換が行われていることが報告されている。本研究では家庭用冷蔵庫内のアセトアルデヒド濃度の実態調査結果および冷蔵庫の漏気回数などをもとに, 冷蔵庫からの当該物質の発生が居住空間の室内濃度にどの程度寄与するのかをモンテカルロ法により検討した。その結果, 嗅覚閾値(2.7 g/m3)に対しては, 単身世帯を想定した設定条件では10%に満たない寄与率であったが, 一般世帯(二人以上で構成される世帯)を想定した推定条件では25%に相当し, 試行回数10,000回のうち, 嗅覚閾値を上回るケースが6.4%あった。一方で家庭用冷蔵庫由来のアセトアルデヒドは室内濃度指針値(48 g/m3)に対しては0.25~1.4%程度の寄与率に過ぎなかった。以上のことから, 家庭用冷蔵庫から発生するアセトアルデヒドのみでは室内の臭気や室内濃度指針値への寄与率は高いとは言えないものの, 冷蔵庫は生活と密接に関係しているため, 室内における他の発生源のように容易に撤去することができないという性質も持ち合わせている。したがって, 家庭用冷蔵庫が食品の保管場所のみならず, ガス状化学物質の発生源としての一面を有することにも着目すべきである。
  • 石坂 閣啓, 川嶋 文人, 森 彩乃, 濵田 典明
    2019 年 22 巻 2 号 p. 167-176
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    室内空気中の揮発性有機化合物(VOCs)測定において取扱いの容易なパッシブサンプラーに注目が集まっているが, 高沸点のVOCsへの適用例はまだまだ少ない。日本では新たに2-エチル-1-ヘキサノール, 2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート(以下, テキサノール), 2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレート(以下, TXIB)の室内濃度指針値への追加が検討されており, パッシブ法による測定方法の確立が望まれている。そのためには沸点の高いテキサノールとTXIBの精確なサンプリングレート(SR)の算出が課題である。本研究では, これらの高沸点VOCsのSR算出のための曝露試験方法を構築するため, 曝露チャンバー内での安定した曝露濃度の制御方法の検討を行った。その結果, 指針値濃度(案)の約10~200%の濃度範囲において新規指針値候補VOCsのSRが得られた。また曝露試験の再現性は高くそれぞれの条件で得られたSRの変動係数は10%程度と十分に低い値であった。プレハブ内での空気測定では, パッシブ法の定量値はアクティブ法と同等でありパッシブ法の有効性が明らかとなった。また検出感度も高く, 新規指針値候補VOCsの指針値濃度(案)の1/10程度の濃度も計測することが可能であるため, 今後の室内濃度管理に役立つ測定方法であると考えられた。
  • 小椋 正道, 阿部 敏子, 大島 利夫, 大楠 清文, 松木 秀明, 藤本 修平
    2019 年 22 巻 2 号 p. 177-184
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    高齢者介護施設が多剤耐性菌拡散に対して大きな役割を果たしているとする意見がある一方で, 高齢者介護施設での耐性菌分離及びそのリスクファクターを明らかにした報告はほとんど見当たらない。今回, 個室での生活を主とするユニット型の特別養護老人ホーム(施設A)において多剤耐性菌保菌の実態調査および対象者の属性から保菌リスク因子の解析を行った。同意の取れた利用者28名を対象に調査を行い, 10名(35.7%)から何らかの耐性菌が検出され, そのうちMethicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)の検出は1名(3.6%), Extended-Spectrum β-lactamase(ESBL)選択培地に発育したブドウ糖非発酵菌類の検出は2名(7.1%)であった。介護度4以上の利用者の保菌率(53.8%)は介護度3以下の利用者の保菌率(20.0%)よりも高率であったが, 統計的な有意差は認められなかった(p=0.06:chi-square test)。また, 日常生活介助の有無別による保菌率の比較では食事介助, 排泄介助, 移乗介助共に介助有の利用者の保菌率が高かったが, いずれも統計的な有意差は認めなかった。 今回の調査では有意差のあるリスク因子を見いだせなかったが, 今後, 対象施設・対象者数を増やし, さらに, 施設特性を考慮した調査を行う必要があると考えた。
技術資料
  • 松村 年郎, 生田 実香, 森田 孝節, 色摩 操, 西方 康好, 今中 努志, 山下 洋一
    2019 年 22 巻 2 号 p. 185-190
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー
    本研究では室内空気中のアクリルアミドの測定法について検討した。本法では室内空気中のガス状アクリルアミドを活性炭サンプラーに捕集し, メタノールで抽出後, GC/MSで測定する方法である。本報告では, 抽出方法, 捕集率, 再現性, 保存安定性, その他, 基礎的検討を行った。その結果, 抽出法は超音波抽出法を選定し, 抽出時間は10分, 捕集率はサンプラー1本で95%以上であった。繰り返し精度は相対標準偏差で4.6%, 定量下限値は11.9 ng/m3(1 L/min x 24 hours, 1440 L sampling), サンプラー中のアクリルアミドの保存安定性は室温で10日間は安定であった。本法を用いて室内空気中のアクリルアミドの測定を行った。その結果, 一般の住宅内では検出されなかった。一方, 室内で蚊取り線香使用時に23 ng/m3, 置き煙草状況下で116-6133 ng/m3の範囲で検出された。
解説
  • 建物のコンクリート壁面におけるカビ汚染と対策
    齊藤 智
    2019 年 22 巻 2 号 p. 191-199
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー
    建物の屋内や半屋内のコンクリート壁面の真菌の調査を行った。半屋内の地下駐車場の壁面では, Cladosporium属が最も高頻度に検出され, Devriesia属と同定された非常に生育の遅い真菌も検出された。夏季に結露が生じて高湿度環境になりやすいコンクリート壁面では, Aspergillus属, Engyodontium属が優占種として検出されることがあった。Cladosporium属の繁殖が確認されたコンクリート壁面で, その胞子の飛散性を調べたところ, ちょっとした風(風速2~3 m/s)では飛散せず, 水の散布や物理的にこする事象によって飛散が確認された。コンクリート壁面の付着真菌数は, 壁面表面温度と気温の差が大きくなる夏に増えることが明らかになった。洗浄による付着真菌の除去では, 水での洗浄よりも, アルコールや次亜塩素酸系洗剤を使った洗浄の方が除菌効果が高く, また効果が長続きした。 防カビ剤による付着真菌の防カビ効果では, 処理後3年経っても効果が認められる防カビ剤があったが, 6年経過すると, その効果が薄れてくることが確認された。
総説
  • 東 賢一
    2019 年 22 巻 2 号 p. 203-208
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー
    化学物質過敏症において, どのような宿主要因, 外部環境要因, 行動に関わる要因が発症や症状の増悪に関与しているかを把握することは, 化学物質過敏症の予防において重要であり, 筆者は脳機能イメージングを用いた臨床研究やアンケートによる疫学研究を行ってこれらの要因を調査してきた。脳機能イメージング研究からは, 臭い負荷時の前頭前皮質領域における活性化状況から, 外的ストレスに対する刺激の認識や記憶と大脳辺縁系を介した作用機序が関与している可能性が考えられた。 また, 5年にわたる追跡研究からは, イライラ感, 疲労感, 不安感, 抑うつ感などの悪化した心身の状態が, 化学物質に対する感受性を増悪させる強い要因になること, 適度な運動や規則正しい生活が化学物質高感受性の改善に寄与することなどを示唆してきた。外的環境要因については, 化学物質過敏症の発症のきっかけとなった曝露イベントが化学物質過敏症患者によって異なり, 特に曝露イベント時の曝露濃度に関する知見が乏しいことなどから, 対応策の検討が困難となっている。 しかしながら, 化学物質の有害性に関する既存の科学的知見をもとに, 大多数の人たちが健康への有害な影響を受けないであろうと判断される健康リスクレベルを評価し, 私たちを取り巻く外的環境に対する指針値や基準値を策定していくことは, 化学物質過敏症の発症に対する1つの重要な予防策になると考えられる。
解説
  • 宮田 英威
    2019 年 22 巻 2 号 p. 209-215
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー
    モバイル通信,無線LANなどが近年急速に普及している。一方で電磁場に起因すると思われる多種多様な症状(電磁過敏症)を訴える患者の数が増えており,両者に関係があるのではないかと考えられている。このような背景の下,国際非電離放射線防護委員会(International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection; ICNIRP)は電磁場の安全性に関するガイドラインを設けている。しかしそこで示されている電磁場強度のレファレンスレベルは,物理学的・生理学的に確立した電磁波と生体との相互作用に基づいて設定され,電磁過敏症がみられるとされる電磁場の強さにくらべて3桁あまり高い。現状ではヒトがレファレンスレベルを下回るような弱い磁場を感じることはあり得ないとする見方が支配的であるため,この設定に疑問が呈されることはない。しかし一方では,細菌,鳥類,爬虫類,魚類など,意外と多くの生物種がレファレンスレベルより弱い地磁気を移動方向の制御に利用していることが解明されつつある。本解説では前半で電磁場の規制値に関してふれ,後半で研究の進んでいる走磁性細菌と伝書バトの地磁気感受性に触れる。さらに,マイクロテスラ未満の微弱な電磁場でも生体に影響するという,物理学分野で最近提案された理論の一端を紹介し,電磁過敏症との関連を議論する。
  • 加藤 貴彦
    2019 年 22 巻 2 号 p. 217-223
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー
    化学物質過敏症は, 環境不耐症ともいわれ, 低濃度の化学物質に曝露に関係した多臓器にわたる非特異的な症状をもつ病態として定義されている。本論文では, 産業衛生における化学物質過敏症の現状に関し, 1) 最近12年間の3社における質問紙(Quick Environment Exposure Sensitivity Inventory (QEESI))を用いた化学物質過敏症の頻度推移 2) 化学物質に関する法律と労働災害の認定 3) 労働現場で発生した化学物質過敏症に関する裁判判例 の3点について解説した。
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