室内環境
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23 巻, 3 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著論文
  • 高橋 奎, 中井 里史
    2020 年 23 巻 3 号 p. 221-229
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/01
    ジャーナル オープンアクセス
    化学物質過敏症に関しては, 臨床的また環境学的な研究は多々あるものの, 日常生活を送る中でのケアやサポートといった側面からの研究はほとんどおこなわれていない。本研究はこのような状況を考慮し, 患者のかかえる悩み等の現状, さらには身近にいて日常生活をサポートする家族との認識等の一致や違いを探り, 患者へのケアやサポートを行う際や, なんらかの改善が必要となる場合に役立ててもらうことを目的として, 化学物質過敏症患者とその家族を対象に調査票を用いた調査を行った。症状が出現する原因に関してはある程度の一致は認められたが, 日常生活で気をつけることに関しては, 患者と家族の考えに高い一致性が認められたものは必ずしも多くなかった。回収率が高くないこともあり, どの程度本研究で得られた結果を一般化できるかに課題があるが, 患者と家族の認識の一致性に関する基礎的情報をある程度得ることができた。しかし今後も, 基礎的な情報を得る努力を継続することが必要である。
  • 孫 旭, 山内 克也, 関根 嘉香, 鈴木 路子
    2020 年 23 巻 3 号 p. 231-239
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/01
    ジャーナル オープンアクセス
    環境教育は環境の基本的価値に関する共通理解を得るうえで重要な役割を果たし, 環境に対する「意識」は空気質の改善に向けた第一歩となる。本研究では, 筆者らは中国北部遼寧省瀋陽市においてスマートフォン空気質モニターを用いてPM2.5およびPM10の個人曝露濃度の測定を試み, 環境教育活動における観測データの作用と意義を引き出すことを目的とした。2019年11月19-20日にボランティアが本モニターを携行し, 瀋陽市内の室内環境を含む11の地点および経路においてPM2.5およびPM10濃度を測定した。ボランティアは人文科学系で科学技術には精通していないが, 本モニターを容易に操作することができ, 1秒間隔のPM2.5およびPM10濃度をリアルタイムに取得することができた。本観測で得られたデータは, 市民の環境意識の向上に資する建設的な意義を有することがわかった。すなわち, 観測データの考察により, 空気汚染状況に関する認識ギャップ, PM2.5およびPM10による汚染メカニズム, および本モニタリングの科学的背景に関する視点を提示できることがわかった。本モニターは携帯可能, 操作が容易, 表示が明瞭であり, 市民の環境教育における補助的教材として利用可能である。
短報
  • 安木 真世, 小村 泰浩, 石上 陽平
    2020 年 23 巻 3 号 p. 241-246
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/01
    ジャーナル オープンアクセス
    2019年に発生した新型コロナウイルス感染症は世界的大流行を引き起こした。本ウイルスに対するワクチンの実用化が待たれる中, 感染予防対策として環境中のウイルスの不活化技術や除去技術に注目が集まっている。静電霧化装置から発生するナノサイズの帯電微粒子水は様々な細菌を不活化することが報告されている。本研究では新型コロナウイルスに対する帯電微粒子水の効果を評価した。帯電微粒子水に曝露された新型コロナウイルスは時間経過とともに有意に不活化され, 3時間後の生残ウイルスは対照群と比較して1000分の1であった。以上の結果から, 帯電微粒子水は新型コロナウイルスの不活化に有効であることが明らかとなった。
総説
  • 加藤 信介
    2020 年 23 巻 3 号 p. 251-260
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/01
    ジャーナル フリー
    室内の換気設計には, “ 全般換気”と “ 局所換気”という概念がある。 “ 全般換気”は, 室内空気による汚染物質の運搬・輸送に関して, あまり注意を払わず, 汚染物質と室内空気のかき混ぜ能力(混合能力)に注意を払う。 “ 局所換気”は, 室内の空気の動き(室内気流)による汚染物質の運搬・輸送に大きな関心を払う。室内の空気の流れを数値流体力学(以後:CFD)で解析する場合, 前者に関しては, 混合能力不足により室内で生じる不均一性状の解析が目的となる。後者に関しては, 室内気流により意図した運搬・輸送性状が達成されているか否かを不均一性状とともに解析する。CFD解析, もっぱら後者の気流による運搬・輸送解析, すなわち, 局所換気の合理的な設計に, 最も威力を発揮する。
解説
  • 酒井 孝司
    2020 年 23 巻 3 号 p. 261-271
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/01
    ジャーナル フリー
    現在, 建築分野では, 利便性の高いCFDソフトの開発が進んだことに伴って, 従来の研究者・設備技術者だけでなく, 意匠設計者も設計へ活用するようになってきている。筆者らは, 空気調和・衛生工学会における学術委員会活動において, CFD技術の適正な普及を促進することを目的に, 適切な解析を実施するための情報を整理し, 初学者向けのガイドブックを発刊している。本稿では, これらの委員会活動に基づき, 建築分野で活用が進むCFD技術について, これまでの発展の経緯と研究動向, 将来の展望について概説する。
  • 白石 靖幸
    2020 年 23 巻 3 号 p. 273-278
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/01
    ジャーナル フリー
    設計・運用段階において空調のエネルギー消費を増大させる要因として制御上の問題が挙げられ各種空調方式に適した制御手法を用いることで改善される可能性があるが, 実運用においては古典制御が広く用いられているのが現状である。このため, 古典制御に代わる新たな制御手法として, 現代制御手法の一つであるモデル予測制御(MPC)を用いた空調システムの制御手法の確立が期待されている。そこで, 本研究ではCFD, 空調システム, MPCの連成解析により精緻な室内環境解析に関するケーススタディを実施し, MPCの有効性を示すことを目的としている。本報では, 制御手法や連成解析手法の概要を示すと共に空調システムの一例としてVAVシステムを対象にCFDと制御コントローラを連成した空調性能シミュレータを作成し, PIDとMPCの2つの制御手法に関するケーススタディを実施した。PID制御との比較により, 特に空調立ち上がり時や負荷変動時においてMPCでは制御性能が向上しており, 空調制御におけるMPCの有効性を確認した。MPCの予測モデルとして, CFD単体解析を用いて作成したステップ応答モデルを使用したが, 同モデルをMPCの制御則に組み込むことで, センサ温度だけでなく執務空間も概ね設定温度となることを確認した。
原著論文
  • 池谷 直樹
    2020 年 23 巻 3 号 p. 279-291
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本論では, 都市建物群を想定した単純建物群内に位置する建物を対象として実施された室内外気流の数値流体解析データベースを分析し, 複雑な屋外気流が通風時の室内気流の時間平均分布や時間変動に与える影響について考察した。 屋外建物群の配列方法として二条件, 開口方向として二条件を組み合わせた四条件を対象として, 周辺建物の配列状況と開口位置の影響について分析し, 以下の結論を得た。 建物群の配列条件は, 屋外周辺の時間平均気流分布に大きな影響を与えるが, 換気建物の開口位置の違いは, 屋外気流へほとんど影響しない。一方, 開口位置の違いが室内の時間平均気流分布に及ぼす影響は大きい。また, 室内気流には高周波の変動はほとんど見られないもの, 建物スケールの数倍となる比較的ゆっくりした屋外変動が室内気流変動にも影響することで, 室内気流と屋外気流の時間変動の間に大きな相関が観られる。さらに, 壁面差圧に基づく推定換気量に比べて, 実際に開口を通過する換気量は過小となる。加えて, 開口部の平均風速がない開口条件においても, 開口部での気流の流入出による非定常換気が生じる。以上のことから, 都市建物群内に存在する建物の換気量推定における周辺気流場の時空間変動を考慮することの重要性が明らかとなった。
解説
  • 桃井 良尚
    2020 年 23 巻 3 号 p. 293-301
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/01
    ジャーナル フリー
    建築設備において, CFD解析は設計・施工・運用の各段階で室内の温熱環境・空気環境を予測する手法として非常に有効な手段であり, VR・MR等の可視化技術との親和性から実務的にもその利用範囲は広がりつつある。しかし, 複雑形状を有する吹出口からの空調吹出気流を正確に再現することは, 実務レベルでは計算時間や作業量の観点から困難である。そのため, これまで気流性状の予測精度を担保しつつ計算負荷を軽減することのできる吹出気流のCFDモデリングに関する研究が数多く報告されている。本報では, 吹出気流のCFDモデリング手法について概説するとともに, 筆者らが取り組んでいる研究内容の一部を報告する。
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