土砂の変異原活性の簡易測定法, 特に試料調製法に検討を加え, 得られた手法を用いて東京都の各地より採取した土砂の変異原性を測定した。また, 同一試料についてBaPの含量も測定した。
土砂は, 1982年の春, 東京都の各地の道路近傍51ケ所 (工業地区;17, 商業地区;9, 住宅地区;25) から採取し, 60メッシュのふるいにかけ, 土砂試料とした。この土砂試料に含まれるタール状物質を, エタノール・ベンゼン (1: 3, v/v) を用いて超音波抽出法によって抽出し, 減圧濃縮・乾固して得た。この乾固物を少量のエチルエーテルで溶解し, 更に一定量のDMSOを加えて掩拝した後, 減圧でエチルエーテルを留去してDMSO溶液を得た。
変異原性試験は, DMSO溶液に対してサルモネラ菌TA100, TA98両菌株を用い, S-9mix添加, 無添加条件下でプレインキュベーション法によって行った。BaP含量は, 同様の方法を用いて調製したタール状物質を用いて二層一次元薄層クロマトグラフィー・分光けい光光度法により定量を行った。
その結果, 採取した土砂試料のうち, 変異原性が陽性と判定されたものは, TA100株では, S-9mix添加条件下で51試料中25試料であったのに対して, S-9mix無添加条件下では陽性例は認められなかった。また, TA98菌株ではS-9mix添加条件下で51試料中46試料, S-9mix無添加条件下で51試料中44試料が陽性を示した。更に, TA100, TA98両菌株のいずれかに陽性の変異原性を示したものは51試料中49試料であった。また, 採取地区別の変異原比活性は有意の差は認められなかった。
BaPの含量は, 土砂単位重量当り191~282ng/gであったが, 採取地区別の有意差は認められなかった。また, タール状物質単位重量当たりのBaP含量と変異原性の間には有意の相関がみとめられた。この相関は, 特にS-9mix添加条件下で明瞭であった。
これらの結果から, 東京都の土砂には, 自動車排出ガスを含む化石燃料の不完全燃焼による変異原性物質が含まれていることが強く示唆された。
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