失語症研究
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10 巻, 3 号
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原著
  • 永渕 正昭, 紀 朝栄, 笹生 俊一, 吉岡 豊
    1990 年 10 巻 3 号 p. 183-190
    発行日: 1990年
    公開日: 2006/07/06
    ジャーナル フリー
    日本語と中国語のbilingual aphasia の1例を紹介する。3歳で中国に渡り8歳まで日本語を話したが,終戦でその後中国に残留し,35歳で日本に帰国した男性が48歳で重度の運動失語になった。この失語回復を2年間観察したが,中国語の方が日本語より良好であった。そして言語機能は聴覚的理解と読解で回復はみられたが,発語と書字は実用的回復にいたらなかった。読解は漢字 (中国語) で可能になったが,「ひらがな」ではほとんど不可能であった。言語理解は乗物と飲食物に関するもので成績がよかったが,これは病前の趣味 (旅行) と職業 (中華料理店) が関係していると考えられた。これに関連して,二 (多) 国語使用者の失語回復について若干の考察を試みた。
  • —114例の文献例の検討—
    兼本 浩祐
    1990 年 10 巻 3 号 p. 191-197
    発行日: 1990年
    公開日: 2006/07/06
    ジャーナル フリー
    相貌失認が記載されている114例の文献例 (男性85例,女性29例) における原因疾患,視野欠損,神経心理学的随伴症状,解剖学的所見を検討し,相貌失認の性差に関して検討を加えた。この結果,脳梗塞を原因疾患として生じてくる相貌失認の頻度が男性において高い,未知相貌認知障害を随伴する症例は女性において多い,との2点が男女間で有意差のあった項目であり,更に有意差には到らなかったものの,右同名半盲と左同名半盲の差異は男性において後者が前者の6倍強であったのに対して女性では1.5倍でしかなかった。これらの結果から, Mazzuchi らが提示した相貌失認の男女差の発現機序の内,視覚連合野の脳梗塞に対する抵抗性が男女間で相違するという仮説及び女性においては相貌認知に関する半球間の機能局在がより緩やかではないかとする仮説の双方の機序が,相貌失認の性差の出現に寄与している可能性が示唆された。
  • 能登谷 晶子, 鈴木 重忠, 倉知 正佳, 木下 昭, 古川 仭
    1990 年 10 巻 3 号 p. 198-204
    発行日: 1990年
    公開日: 2006/07/06
    ジャーナル フリー
    頭部外傷により語聾を伴った重度感覚失語の1例に,発症2年から7年目まで言語治療を行いその成績を検討した。症例は発症時34歳,右利きの男性である。転落による脳挫傷で血腫除去術を受けた。CTでは左上中側頭回と中前頭回領域を中心とした低吸収域と水頭症を認めた。発症後2年目から3年目までは,読話を併用しての単語,音節の聞き取り練習を行った。その結果,読話を併用した単語の聴認は20%から85%まで改善した。聴覚だけによる聞き取りは0%から約40%に向上した。次に喚語困難の改善を目標に書字訓練を行った。その結果,喚語困難は7%から約90%へと著しい改善を示した。本例の経過から,自然治癒期間を過ぎたと思われる語聾であっても長期的には質的な改善を示す場合があることと,失語を伴った語聾でも訓練によって読話能力や喚語困難が改善する例のあることがわかった。以上より,症例によっては長期にわたる言語治療の必要性を強調した。
  • 前島 伸一郎, 駒井 則彦, 中井 三量, 兵谷 源八, 板倉 徹
    1990 年 10 巻 3 号 p. 205-209
    発行日: 1990年
    公開日: 2006/07/06
    ジャーナル フリー
    混合型超皮質性失語を呈した1例を報告し,局所脳血流からみた責任病巣と発現機序について考察した。症例は28歳の右利き男性で意識障害にて発症した。脳動静脈奇形の破裂による左頭頂後頭葉皮質下出血の診断で緊急手術を施行した。3週後には意識は清明となり,右同名半盲と失語症を認めた。言語学的には自発話に乏しく,発話は非流暢で呼称や語の想起は著しく障害をうけていた。しかし復唱は良好で,5~6語の短文でも可能であった。またしばしば反響言語を認めた。言語の聴覚的理解や文字の視覚的理解はともに単語レベルで障害をうけ,書字は全く不可能であった。CTでは左頭頂後頭葉に病巣を認め, Xe-enhanced CT では左大脳半球全体に血流低下を認めたが,言語野周囲の血流は比較的保たれていた。このことから本症例は言語野が周辺の大脳皮質から孤立した状態であると推察された。
  • 萩生 正彦, 志村 羊子, 坂本 信子, 野中 弘
    1990 年 10 巻 3 号 p. 210-216
    発行日: 1990年
    公開日: 2006/07/06
    ジャーナル フリー
    大脳半球損傷が情緒的な顔の表情の認知にどのような影響を与えるかを調べるために,(1) 健常群,左半球損傷群,右半球損傷群を対象に,情緒的な顔の表情の識別課題と無意味図形の識別課題,(2) 右半球損傷群を対象に,情緒的な顔の表情の理解課題とネーミング課題,(3) 病棟スタッフを対象に,右半球損傷者の日常のコミュニケーションにおける情緒的なメッセージの受容に関する聞き取り調査を実施した。これらの結果,(1) 表情の識別課題では右半球損傷群は左半球損傷群に有意に劣り,(2) 右半球損傷者の中には表情の識別・理解・ネーミングのいずれの課題にも困難を示す者がみとめられ,(3) 顔の表情の識別課題に困難をきたした右半球損傷者は,情緒的メッセージの受容が不良であることが示された。このような結果から,右半球損傷が情緒的な顔の表情の認知障害を引き起こし,特異なコミュニケーション障害をまねく可能性があると考えられた。
  • 渡辺 象, 上嶋 権兵衛, 鈴木 美智代, 大塚 照子, 中野 清剛
    1990 年 10 巻 3 号 p. 217-223
    発行日: 1990年
    公開日: 2006/07/06
    ジャーナル フリー
    多国語習得者の失語症の一例を報告した。症例は68歳,女性。9歳より26歳までシンガポールで生活したため英語が堪能となった。 58歳まで貿易会社に勤め,その後自宅で学生に英語を教えており英語を使用する機会は多かったが日常会話は日本語であった。 69歳時,脳梗塞により失語症となった。発症当初,発語は全く認められなかったが,回復するに従って英語が日本語よりも良好な結果を示した。多国語習得者の失語症については,欧米では多くの報告があり,その回復の過程において母国語から回復するというRibotの説,日常語が良好とするPitreの説,感情的要因を重視するMinkowskiの説が有名であるが本例ではこのいずれにも当てはまらず,母国語でもなく日常語でもなく特に感情的要因が強かったとも考えられない英語の方が良好な回復を示し,日本語の失語症と欧米の失語症とは回復の過程において異なる要因が存在する可能性があると考えられた。
  • 大塚 顕, 林 耕司, 佐藤 恵美
    1990 年 10 巻 3 号 p. 224-233
    発行日: 1990年
    公開日: 2006/07/06
    ジャーナル フリー
    著者が経験した大脳半球神経膠腔および髄膜腫107例のうち剔出手術を行った97例について術前,術後の神経心理学的症状の消長について検討した。神経心理学的評価の結果は 1) 左前頭葉腫瘍では術後周囲の浮腫が消退した事により失語症状などが改善した例が多くみられた。しかし半数例は不変であった。これらは腫瘍が直接言語野に及んでいたものが多かった。 2) 左側頭葉腫瘍では,術後悪化した例が多く,特に書字障害をのこした例が注目された。 3) 一方右半球腫瘍では術前に症状のみられなかった例が多いが,特に側頭葉例では悪化した例が注目された。 4) 両側前頭葉,特に脳梁に及ぶ腫瘍では手術も不充分に終っており,術後改善した例はなかった。 5) 以上のことなどから腫瘍剔出に際しては,特に言語野に及んでいるもの,側頭葉腫瘍に対しては手術の適応や剔出の範囲に関して慎重な考慮が必要であると思われた。
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