失語症研究
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15 巻, 4 号
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原著
  • 吉野 眞理子, 河村 満, 白野 明
    1995 年 15 巻 4 号 p. 291-298
    発行日: 1995年
    公開日: 2006/06/02
    ジャーナル フリー
    発語失行を伴わない “Broca失語” 症例を報告した。症例は41歳の右利き男性。脳梗塞による失語,右片麻痺で発症。MRI による病巣は Broca 野皮質下を含み後方に進展していたが,中心前回下部皮質は保たれていた。臨床症状は,発語失行を伴わないことを除いてボストン学派の定義による Broca 失語に一致した。「モーラ抽出能力検査」と「失語症2音節語検査」に表れた音韻論的レベルの障害も「失語症構文検査」における統語論的理解・産生障害も Jakobson (1963, 1966)の結合および継起性障害を示唆するものであり, Jakobson の言語学的分類では Broca 失語に相当した。後者は Broca 失語を「統語情報に関する言語能力の障害」としたBerndtら (1980) によるBroca失語の定義とも一致した。発語失行を伴わない Broca 失語症例の存在は,純粋発語失行症例の存在と合わせて,いわゆるBroca失語を構成する発話障害と言語学的レベルの障害との “二重乖離” を証明するものと考えられた。
  • 目黒 文, 大野 司, 相馬 芳明
    1995 年 15 巻 4 号 p. 299-305
    発行日: 1995年
    公開日: 2006/06/02
    ジャーナル フリー
    左下前頭回弁蓋部から中心回の萎縮により aphemia を呈した症例を報告した。症例は69歳の右利き男性で,7年ほど前から徐々に発話の流暢性が失われてきた。神経学的には言語障害のほかには右片麻痺などの異常を認めず,見当識や病識および礼節は保たれ,人格変化や社会的行動異常も認められなかった。 WAIS-R は VIQ 86, PIQ 101, TIQ 93 と正常であった。自発語は非流暢な努力性の発話で,一貫性のない音の歪みや音韻性錯語とプロソディー障害が顕著であるにもかかわらず,喚語は良好であった。 SLTA では聴理解と読解はほぼ正常,書字は文レベルで軽い障害が認められるにすぎない。本例は7年の長期にわたり知的機能がよく保たれているうえに軽度の非流暢型失語にとどまっており, Weintraub と Mesulam (1990)が提唱した原発性進行性失語 (PPA) の典型例と考えられる。
  • 黒田 喜寿, 黒田 理子, 高橋 克朗, 山田 弘幸, 為数 哲司, 宮崎 眞佐男
    1995 年 15 巻 4 号 p. 306-313
    発行日: 1995年
    公開日: 2006/06/02
    ジャーナル フリー
    重度失語症者2名に対して意思伝達能力の拡大を目的とした描画訓練を行った。症例1は具体名詞レベルの描画能力を獲得し,日常場面でもそれをある程度有効に用いることができたが,動作絵レベルの描画は獲得されなかった。症例1の動作絵の獲得困難は視空間的能力や視覚性記銘力の問題からは説明されず,その基底には複数の構成要素を統合する象徴機能の障害の存在が示唆された。症例2は動作絵の訓練による改善がみられ,その効果は非訓練項目へも般化したが,日常場面での描画はほとんどが具体名詞レベルのものに限られた。症例2の問題は,訓練場面で獲得された新しい伝達手段を,日常の自然な文脈の中において実際の伝達手段として認識して使用することの困難にあると考えられた。今後重度失語症者に対する描画訓練の可能性を追求するためには,描画のレベルに応じた患者の適応基準や日常場面における使用能力に焦点をあてた臨床研究の蓄積が必要と考えた。
  • 滝沢 透, 浅野 紀美子, 波多野 和夫, 濱中 淑彦, 森宗 勧
    1995 年 15 巻 4 号 p. 314-322
    発行日: 1995年
    公開日: 2006/06/02
    ジャーナル フリー
    われわれは朝鮮語・日本語常用者の失語症例4例 (Broca 失語1例,非定型的 Broca 失語ないし混合失語1例,ジャルゴン失語1例, Wernicke 失語1例) について,SLTA による評価結果を基に両国語についての失語症状と経過を比較し検討した。その結果,対象の4症例は,朝鮮語と日本語において質的に類似の失語症状を示し,同一の失語型を示していたと考えられた。また,回復においても,対象の4症例は,両国語において類似のパターンを示し, Paradis (1977, 1989)の分類に従えば,共同的回復 synergistic recoveryを示した。ただ,回復の程度としては,1症例だけは他の3例と異なり, synergistic differential recovery を示した。他の3例は synergistic parallelrecovery を示した。1症例が differential な回復を示した要因としては発症前の日本語の習熟度と日本語の言語訓練の影響があるのではないかと考察された。
  • 飛田 真理, 河村 満, 小松 隆行, 高橋 三津雄, 北野 邦孝
    1995 年 15 巻 4 号 p. 323-328
    発行日: 1995年
    公開日: 2006/06/02
    ジャーナル フリー
         症例は多発性硬化症 (以下MS) の40歳右利き女性で,右不全片麻痺,左手の観念運動性失行・交叉性視覚性運動失調,プロソディー異常を呈した。左手の観念運動性失行・交叉性視覚性運動失調は脳梁幹後半部が,構音障害は脳梁膝がそれぞれの責任病巣と考えられた。
        MS では失語,失行,失認などの高次大脳機能障害はほとんどみられない。ことに半球間離断症状はまれで,2症例の報告があるのみである。限局性の脳梁病変は,病理学的検討では大脳plaqueの4~20%,MRI では大脳限局性病巣の30%を占めるとされ,決して低頻度ではない。これは, MS における半球間離断症状は,一過性であるために脳血管障害と異なり見落とされている可能性を示唆しているものと思われる。
  • —助詞と動詞の結びつきを中心に—
    餅田 亜希子, 小嶋 知幸, 中野 洋, 加藤 正弘
    1995 年 15 巻 4 号 p. 329-337
    発行日: 1995年
    公開日: 2006/06/02
    ジャーナル フリー
    われわれは先に,失語症者の助詞選択のストラテジーについて主に名詞と助詞の結合率という観点から検討し,名詞と助詞との音韻的/意味的結合頻度,動詞からみた格助詞の意味役割,文理解の障害などが助詞選択のストラテジーに影響を与えているとの知見を得た (小嶋ら1995)。今回は同一の基礎資料をもとに,さらに助詞と動詞の結合という観点から検討した。対象 (慢性期失語症者40例),基礎資料 (正常者の話し言葉の計量言語データ),問題文および出題方法 (「名詞 (助詞) 動詞」の2文節文に5者択一で助詞を挿入する方式) は前回の報告と同一である。結果,助詞と動詞の結合率は,名詞と助詞の結合率とは異なり,2文節文における助詞選択の難易度に影響を与えていなかった。また,失語症者における助詞の運用の障害とその訓練法を考える上で,現実の発話現象をもとに算出した「助詞と他の品詞との結合率」という概念を導入することの意義について論じた。
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