失語症研究
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22 巻, 2 号
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会長講演
シンポジウム
  • 小枝 達也
    2002 年 22 巻 2 号 p. 108-113
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/24
    ジャーナル フリー
       小児の言語障害は,発達性の障害から後天性の障害まで多岐にわたっている。器質的な脳損傷小児例では,これまで考えられていたよりも成人の失語症に類似する症状を呈するという発表には賛意を表するが,高度の脳波異常を呈する小児では,言語症状以外の高次脳機能障害も出現しうることを追加したい。
       言語性意味理解障害を呈する発達障害児を,疾患としてどのように位置づけするのか,アスペルガー症候群との異同を含めた議論については,その答えを症例の蓄積と長期的な追跡観察に期待したい。
       dyslexiaの発生機序については,phonological awarenessの障害以外に,視覚情報処理過程にも問題があるという発表は,全面的に支持したい。症例によって両者の比重に差があることを踏まえた治療法の体系化が必要であろう。
       学習障害の教育的判断と対処の試みが全国的に進行していることは,歓迎すべきであり,これをきっかけとして,発達障害児全般に対する個別教育計画の作成が,言語聴覚士などの支援を得ながら進展することが期待される。
  • 進藤 美津子
    2002 年 22 巻 2 号 p. 114-121
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/24
    ジャーナル フリー
    小児の後天性高次脳機能障害によるコミュニケーション障害として,後天性小児失語症 (以下,小児失語症) および,両側聴皮質損傷による聴覚失認,Landau-Kleffner症候群 (LKS) による聴覚失認を取り上げる。従来より小児失語症は,成人の失語症と比べて予後が良好であるといわれてきた。しかし最近では,小児失語症の臨床像は成人のそれと類似していることが報告されており,失語症児の認知過程や言語面・学習面のつまずきが新たに注目されるようになった。両側聴皮質損傷による聴覚失認では聴覚認知の発達が困難なため,身振りや手話・指文字などのサイン言語や文字など視覚を介しての学習が必要となる。LKSでは3~8歳までの発症が8割を占め,通常は聴覚的理解障害で始まり,しだいに言語表出の障害が進行する。数年の経過で言語症状や聴覚理解は改善の傾向がみられるなどが特徴である。いずれにしても小児では長期経過をみながらの学習指導が必要である。
  • 春原 則子, 宇野 彰, 金子 真人, 加我 牧子, 松田 博史
    2002 年 22 巻 2 号 p. 122-129
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/24
    ジャーナル フリー
       言語性の意味理解力障害を認める小児の臨床像について検討した。言語性意味理解力障害が疑われた15名を対象に,各種神経心理学的検査とSPECTによる局所脳血流量の測定を行った。その結果,神経心理学的検査では言語性の課題において同年齢の健常児に比して低得点であった。また,非言語性の意味理解は可能であったが,言語性の意味理解力に障害を認めた。意味理解力障害は聴覚的過程,視覚的過程のいずれにも生じていた。復唱や音読といった音韻処理課題は良好であっても意味理解力が低下していたことから,音韻処理能力と意味処理能力に乖離があると考えられた。
       各症例に共通した局所脳血流量の低下部位は左大脳半球側頭葉だった。左側頭葉損傷による成人失語症例においても言語性の意味理解力障害が生じることが知られており,後天性の損傷例の病巣と類似した部位の機能低下によって言語性の意味理解力障害が出現していることが示唆された。
  • 宇野 彰, 金子 真人, 春原 則子, 松田 博史, 加藤 元一郎, 笠原 麻里
    2002 年 22 巻 2 号 p. 130-136
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/24
    ジャーナル フリー
    発達性読み書き障害について神経心理学的および認知神経心理学的検討を行った。はじめに, 読み書き検査を作成し健常児童の基準値を算出した。次に, 検査結果に基づいて 22名の発達性読み書き障害児を抽出し対象者とした。7~12歳までの男児 20名と女児 2名である。WISC-III, もしくは WISC-Rでの平均IQは 103.0, 言語性IQ 103.1, 動作性IQ 102.4であった。パトラック法による SPECTでは, 左側頭頭頂葉領域で右の同部位に比べて 10%以上の局所脳血流量の低下が認められた。音韻情報処理過程と視覚情報処理過程に関する検査を実施した結果, 双方の処理過程に問題が認められた児童が多かった。以上より, 発達性読み書き障害は局所大脳機能低下を背景とする高次神経機能障害であると思われ, 音韻情報処理過程の障害だけでなく, 少なくとも視覚情報処理過程にも障害を有することが多いと思われた。
  • 花熊 曉
    2002 年 22 巻 2 号 p. 137-142
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/24
    ジャーナル フリー
    学校教育現場では,今ようやく学習障害 (LD) 児の存在が認知され,教育的な支援が本格的に始まったところである。学校教育におけるLD教育の実践は,従来の「通常の教育」と「障害児教育」の枠組みを超えた「特別支援教育」の理念に基づくもので,これまでの学校教育システムを大きく変える可能性を持っている。現在,全国の都道府県・政令指定都市では,1999年の「学習障害児に対する指導について」の報告に示された指導モデルを実践する試みが行われ,LD児への組織的な支援が現実のものになろうとしている。わが国の学校教育の中にLD教育を定着させ,効果的な教育支援を実現していくためには,(1)LD児の発達特性に応じた個別教育計画の作成,(2)学習のつまずきに応じた指導方法の確立,(3)LD専門指導者の養成,(4)教育と医療の連携,が必要である。また,LDに特徴的な「聞く・話す・読む・書く」の問題については,言語の専門家である言語聴覚士と学校との連携が求められる。
原著
  • 東川 麻里, 波多野 和夫
    2002 年 22 巻 2 号 p. 143-152
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/24
    ジャーナル フリー
    標準失語症検査 (SLTA) による評価を受けた 195例の失語症言語治療例について, その改善値の因子分析を行った。 改善値は, 第1回 (治療開始時) SLTAと第2回 (治療後または治療中) SLTAの下位テスト得点の差と定義した。 したがって 26個の多変量データである。 その結果として7個の改善因子が抽出された。 第1改善因子は, 「非変換的」言語産生と複雑な言語情報処理の改善因子と解釈され, 言語治療による失語の本質的改善の体現として, 「中核的改善因子」という意味づけが可能であった。 これに対し第2~7改善因子は, 入出力の変換 (復唱など) や理解 (聴理解と読解) の改善因子として, より道具的・様態的性質が濃厚であった。 中核的改善因子と, 主要な患者要因 (年齢,教育歴,経過,失語重篤度など) や総合改善得点との相互の相関を検討し, 先行研究との比較のうえで, この中核的改善因子の失語治療における重要性を論じた。
  • 谷 哲夫, 天田 稔, 清水 倫子, 飯塚 優子, 荒木 吏江子
    2002 年 22 巻 2 号 p. 153-163
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/24
    ジャーナル フリー
    失語症を伴わない Foreign Accent Syndrome (以下FAS) の 1症例を経験した。 本例は 54歳の左利き女性で, 左半球の被殻から放線冠に梗塞巣がみられた。 本例には構音障害とプロソディーの異常が観察されており, これらが組み合わされて外国語の印象を与えると考えられた。 本稿では, FASが失語や発語失行, あるいは構音障害などの回復過程で生じる症状なのか, それともこれらの障害とは異なる独立した症候群なのかを明らかにするために, 非言語的な構音器官連続運動検査を実施した。 その結果,発語失行例に観察された錯行為は本例と麻痺性構音障害例には観察されなかった。 複雑連続運動では麻痺性構音障害例に比して有意に運動回数が低下した。 また本例は運動課題別の運動回数の変動が大きかった。 したがってFASの要因の 1つが, 構音に至る前段階の運動障害である可能性を示唆した。 本例の場合, 非言語的構音器官運動の編成パターンの違いによって著しく偏った運動麻痺に類似する障害の存在が示唆された。
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