失語症研究
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20 巻, 3 号
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シンポジウム
  • 藤田 郁代, 相馬 芳明
    2000 年 20 巻 3 号 p. 181-183
    発行日: 2000年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
  • 萩原 裕子
    2000 年 20 巻 3 号 p. 184-193
    発行日: 2000年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    人間言語には,個々の言語にみられる表面的な違いの背後に,文の骨組みを形成する階層構造が普遍的に存在する (Chomsky 1993,1995) 。本稿では「生成文法」で仮定されている階層構造に基づいて,失文法失語のデータを分析した。Hagiwara (1995) で示した「低位にある要素ほど保持され高位の要素は失われやすい」という一般化は,その後,構造の異なるさまざまな言語 (たとえば,ヘブライ語,アラビア語,オランダ語,フランス語など) で検証され,そのいずれもが仮説を支持する証拠を報告している。さらに,Hagiwara (1995) がこの現象の根拠として提案した「失文法における経済性の原理」は,その後に提案された類種の仮説よりもその適用範囲と妥当性という点で説明力が高いことを示した。最後に,言語理論に基づいたアプローチによる文法障害の評価とその治療法への応用について検討した。
  • 乾 敏郎
    2000 年 20 巻 3 号 p. 194-201
    発行日: 2000年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    本論文では,まず文理解課題と動作の系列予測課題に関するfMRI実験を紹介した。続いて,これらの実験結果と多くのイメージング研究で得られている知見を基礎にして,構文処理における前頭—頭頂ループの役割について考察を行った。その結果,中心前回と下頭頂葉のループにより,手や構音のイメージ生成・操作が実現されることが示唆された。文を処理するときには,ブローカ野と縁上回の間の情報交換により構音情報が生成され,これに基づき,ブローカ野および中前頭回に蓄えられた構文的知識と,45野と側頭葉との相互作用により生成された意味情報が統合される。さらに,前頭葉背外側部,補足運動野と頭頂間溝,下頭頂葉の相互作用により,イメージの生成・操作がなされるものと考えられた。さらにわれわれが提案した「運動系列予測学習仮説」によって,このモデルがより広い枠組みでとらえられることを示した。
  • 滝沢 透
    2000 年 20 巻 3 号 p. 202-210
    発行日: 2000年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    統語論的失文法の発現には動詞の障害が大きくかかわり,動詞は文構成のキーワードである可能性が高いと考えられたので,動詞に焦点を当てた2種類の言語訓練を統語論的失文法患者2人 (AK と AH) に実施した。1つは動詞の単独訓練であり,動詞の中核的な意味の理解と音韻的形態の回収を目標にした。もう1つはマッピングセラピィであり,動詞を基準に構成される意味役割の同定とそれらの統語構造へのマッピングを行う方法である。その結果,AK は2種類の訓練であまり改善を示さなかった。これは AK の失語症状が全般的に重篤であることに主に起因すると考えられた。AH は動詞の単独訓練で著しい改善を示し,動詞の産生と動詞を含む文の産生が良好になった。マッピングセラピィにおいても,動詞の単独訓練ほどではないが,改善を示し,文の産生が増加していた。AH の改善は自然治癒や言語機能の全般的活性化ではなく訓練によって生じたものと考察された。
  • 横山 絵里子, 長田 乾
    2000 年 20 巻 3 号 p. 211-221
    発行日: 2000年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    Positron emission tomography (PET) による脳血流賦活測定で用いられる動詞生成課題は,視覚的・聴覚的に呈示された名詞と意味的に関連する動詞を想起させる課題で,安静閉眼や復唱などのコントロール課題と比較して,課題間のCBFの差分画像を統計的に解析して賦活領域を検出する。動詞生成と安静との比較では,刺激入力,聴覚・視覚的解析,入力系の辞書的処理,意味処理,語想起,出力系の辞書的処理過程や記憶などの中枢処理系全般に関与する領域が観察される。右利きの健常人を対象とした欧米や日本の研究では,左下前頭回,左前頭前野,左上・中側頭回,左島回,両側補足運動野,両側帯状回,両側眼窩回,両側小脳半球,小脳虫部,脳幹などの賦活を認めた。左上・中側頭回や左下前頭回は従来の臨床病理学的研究から古典的言語領域とされており,多くの言語圏において動詞生成にかかわる重要な領域であると考えられる。さらに動詞生成には,古典的言語領域以外の左大脳半球領域や,補足運動野,帯状回,小脳半球,脳幹などの領域も広範囲にかかわる可能性が示唆された。
セミナー
  • 辰巳 格
    2000 年 20 巻 3 号 p. 222-233
    発行日: 2000年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    最近,単語の読みに関してニューラル・ネットワークが注目を浴びている。この小論では,単語の読みに関する主要なモデルのうち,先行モデルである2重経路モデルの簡単な歴史を述べたあと,単一経路 (すなわちニューラル・ネットワーク) モデルについて解説する。ニューラル・ネットワークは構造が簡単な割には情報処理能力が高く,直感からは想像しにくい振る舞いをする。また,欧米語より複雑な文字体系を持つ日本語の仮名語,漢字語の両方を読むネットワークを構築した研究によれば,そのネットワークが仮名語・漢字語を読めること,損傷を与えると部位に応じて音韻性失読や表層性失読が現れることもわかってきた。さらに,2重経路・単一経路モデルの対立点は,経路の数にではなく,「規則/辞書」対「一貫性」 (consistency) にあることを示す。この対立は,読みにとどまらず,書き取り,動詞の活用 (規則動詞vs.不規則動詞) ,さらには Chomsky の牙城,文処理にまで及んでおり,今後の展開が楽しみである。
  • 奥平 奈保子, 物井 寿子
    2000 年 20 巻 3 号 p. 234-243
    発行日: 2000年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
        日本音声言語医学会言語委員会失語症小委員会では1993年から「失語症語彙検査」の開発に着手し,現在までに中核部分の諸検査 : 語彙判断検査,名詞・動詞検査,類義語判断検査,意味カテゴリー別名詞検査を作成した。本検査の目的は,脳損傷患者の単語の表出・理解機能を多面的に評価し,言語病理学的診断と治療に役立てることにある。本検査の概要ならびに50名の健常者に実施した結果についてはすでに報告した (藤田ら 2000)。
        本論では,本検査を用い,失語症患者の語彙障害の解析を行った。その結果, (1) 単語処理における音韻・文字・意味など各処理機能の乖離, (2) 名詞の意味カテゴリーによる特異性, (3) 品詞による特異性,などが検出された。本検査は,失語症患者の語彙障害の特徴や障害構造を解析するための手段となり,また,治療プログラムの作成・治療効果の測定などにおいても,有用な情報を提供すると考えられた。
  • 川島 隆太
    2000 年 20 巻 3 号 p. 244-250
    発行日: 2000年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    ヒトの脳機能を非侵襲的に測定できる脳イメージング研究は,近年,認知心理研究のための研究手法としてさまざまな知見を与えてきている。しかし,それぞれの脳イメージングのモダリティには長所・短所があり,これらの特色を充分に把握して認知心理学的パラダイム作成を行う必要がある。最近われわれは,ポジトロンCTと脳磁図の2つのモダリティを組み合わせることによって,認知活動に伴う脳活動の時空間パターンを明らかにする試みを開始したので,その研究の一端を本稿で紹介する。またイメージングを用いた言語認知研究の中から,擬音の脳内処理機構につき考察する。
原著
  • 目黒 祐子, 藤井 俊勝, 月浦 崇, 山鳥 重, 大竹 浩也, 大塚 祐司, 遠藤 佳子
    2000 年 20 巻 3 号 p. 251-259
    発行日: 2000年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    一般に言語性短期記憶は音韻情報の保持容量を指標としているが,言語情報は通常,意味と結びついているはずである。そこで単語レベルについては音韻の短期記憶 (音韻性ループ) に加えて意味の短期記憶 (意味性短期貯蔵庫) を仮定した。標準失語症検査の単語レベル課題の成績がほぼ同じ2症例に,単語系列を聴覚的および視覚的に提示し,口頭反応 (音韻情報保持) と線画指示 (意味情報保持) の成績を比較した。前頭葉損傷の症例1は刺激を聴覚提示した場合には指示スパンが低下しており,視覚提示した場合には聴覚提示に比べて明らかに成績が低下していた。一方,側頭-頭頂葉損傷の症例2では課題により成績に差を認めなかった。すなわち,症例1では複数情報が継時的に入力された場合,音韻情報と意味情報の保持に乖離を認め,さらには視覚情報から音韻情報への変換過程にも障害が見られた。しかし症例2では音韻性短期貯蔵庫の容量が削減していても意味情報として保持可能であることが明らかとなった。
  • 谷 哲夫, 清水 倫子, 赤根 良, 天田 稔, 中川 勝豊
    2000 年 20 巻 3 号 p. 260-267
    発行日: 2000年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
        46歳,右利きの女性。脳出血後より,左手の失書,右手の病的把握反射,右手の物品の強迫的使用行為,左手優位の両手の観念運動失行が出現した。頭部MRI検査では,左側の前頭葉内側面から前部帯状回の一部および脳梁体~膨大部に及ぶ病変を認めた。
        本例では,病的把握反射が補足運動野の損傷なしに出現した点が注目された。物品の強迫的使用行為は本例の意志に反して “物品を使用したい” という強迫的な意図が発生することにより惹起された。
        われわれは前補足運動野の損傷を重視し,前補足運動野を介する神経経路,特に視床~運動野間の神経結合の途絶が病的把握反射および物品の強迫的使用行為に関与すると考察した。
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