低温高圧型変成帯に発達する蛇紋岩メランジは、しばしば周囲の変成岩より高圧の変成条件を持つ構造岩塊を含む。そうした構造岩塊は、蛇紋岩の上昇時に捕獲されたものと考えられ、沈み込み帯深部で起きる諸現象の痕跡を保持している可能性がある。本研究では、西彼杵変成岩類の蛇紋岩メランジに構造岩塊として含まれるヒスイ輝石岩の成因解明を試みた。
西彼杵変成岩類は、西南日本西端に位置する白亜紀後期の低温高圧型変成帯で、主に緑簾石青色片岩亜相の片岩類と蛇紋岩メランジからなる。Shigeno et al. (2005)は、蛇紋岩メランジから石英を含むヒスイ輝石岩を報告し、その変成条件を>1.3 GPa、>400℃と見積もった。これは、西彼杵変成岩類で最も高圧の変成条件である。
ヒスイ輝石岩は、ヒスイ輝石中の包有物およびマトリックス鉱物としてジルコンを含む。ジルコン自身は、包有物として曹長石、白雲母、石英を含む。ジルコンは内部構造により、化学的に均質なもの(H-type)、振動累帯構造を持つもの(Z-type)、割れ目に沿った変質を示すもの(A-type)に分類される。H-typeジルコンとZ-typeジルコンのコアは、比較的高いTh/U比(0.5-1.0)と古い
238U-
206Pb年代(126 Ma)を示す。Z-typeジルコンのリムとA-typeジルコンは、低いTh/U比(0.5未満)と若い
238U-
206Pb年代(それぞれ80-90 Maとca. 100 Ma)を示す。Z-typeジルコンのリムの
238U-
206Pb年代は、ヒスイ輝石岩の
40Ar/
39Ar年代(80-90 Ma, Mori et al., 2007)や片岩類のK-Ar年代(65-85 Ma, Hattori & Shibata, 1982)と一致する。以上の事実は、ヒスイ輝石岩の原岩が珪長質火成岩だったことを示す。H-typeジルコンとZ-typeジルコンのコアは珪長質マグマから晶出したもの、Z-typeジルコンのリムとA-typeジルコンは、それぞれ変成作用時のオーバーグロースおよび熱水変質を表すと解釈される。H-typeジルコンとZ-typeジルコンのコアのTi含有量から推定した晶出温度(約750℃)は、この解釈と調和的である。さらに、H-typeジルコンとZ-typeジルコンのコアのREEパターンは、それらを晶出した珪長質マグマがLREEに富み、Eu異常を持たなかったこと示す。このことから、ヒスイ輝石岩の起源はスラブ融解で生成されたTTG質マグマだった可能性がある。
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