1. 著者の1人が、曩に少量の酸化タロムを添加してポルトランドセメントを試製したる結果を追究する目的を以て、3CaO+SiO
2に0.5-3%のCr
2O
3又は比較のためAl
2O
3を加へ、之を1530°Cにて2時間加熱して珪酸石灰鹽を合成し、得たる試料につきて定量分析、耐壓力試驗及鏡檢を行ひ、是等添加物が合成物の化學組成、強度及微構造に與ふる影響を比較したり。但しAl
2O
3には3倍分子、Cr
2O
3には4倍分子のCaOを別に添加せり。
2. アルミナを添加せる場合には、其量0.5%位にては遊離石灰含有量は變らず、3CaO・SiO
2生成量は少しく減少するも、1%を超ゆるときは急に遊離石灰を減じ、3CaO・SiO
2生成量は増せり。
3. 酸化クロムは幾分遊離石灰を減ぜり。而して0.5-3.0%の範圍内に於ては添加量の増すに從ひて遊離石灰を増したり。3CaO・SiO
2の生成量は0.5%にては著しく増し、3.0%にては著しく減じたり。
4. Al
2O
3の添加は28日強度を幾分増加し、Cr
2O
3の添加は、3-28日強度を甚しく増加せり。Cr
2O
3の添加量の大なるときは3日強度極めて大なるも其増進率は添加量の小なるときに比して著しく小なり。
5. 以上の結果は、ポルトランドセメントの主成分たる3CaO・SiO
2が初期の硬化を司ると云ふ學説と善く一致せず。
6. 鏡檢の結果により考ふるに、Cr
2O
3は3CaO・SiO
2と固溶體を造りて強度を生ずるが如し。
終りに著者は各實驗を通じて懇切に援助せられたる山内俊吉氏並に鏡檢を指導せられたる末野悌六氏に對して滿腔の感謝を捧ぐ。
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